「相談……ですか?」
「あぁ、それも重要な相談だ。ガリバー末っ子のお前にしか頼めない」
突如、治療院に襲来したガリバー兄弟。特に病気や怪我と言ったことはないらしく、アクスにひたすら『相談にのって欲しい』と頼んでくる。
いつの間にか末っ子扱いなのが疑問に残るものの、【フレイヤ・ファミリア】はアクスにとってお得意様の1つ。それに怒らせると何をされるか分からないという理由から話を聞く素振りだけでも見せた方が良いとソファに深く座り直した彼に、アルフリッグは用件を話し出す。
「実はな……。フレイヤ様の日に贈るプレゼントに迷ってるんだ」
「あぁ、主神に感謝をする日のあれですか」
主神の日。それは暇でファミリア内ではあまり敬われていない神々が戯れで作り出した行事で、日頃ステイタスの更新などで世話になっている主神に眷属が感謝や贈り物をする行事である。
普段ファミリア内のことを見て眷属たちを陰ながら支えている神には特大の感謝と贈り物がされ、普段から何もしない上にファミリアの運営資金に手を出して歓楽街に繰り出すような神には必要最低限の感謝と鬱憤が溜まった贈り物がされるという、某チョコレートの聖戦のような惨状になりつつあるが──まぁ、ここで置いておこう。
「後、少し前にフレイヤ様のご機嫌を損ねさせてしまったんだ。そのお詫びの品も兼ねて……な」
「もう語尾でキャラを差別化はこりごりだ……ピョン」
「ベーリング、とりあえず後で処刑な」
「くそぉ、誰だよ。兎縛りなんて考えたのは」
『お前だよ、愚兄』
「なんでこんな時だけ息ピッタリなんだよ! お前らだってノリノリだっただろ!」
ああ言えばこう言う……はこんな状況のことを言うのだろうか。目の前の寸劇を呆然と眺めていたアクスは、とりあえずどんなことを仕出かしてしまったのか確認する。
その後、ガリバー兄弟は涙ながらに訴えるが、まぁ──酷かった。
とある日、アルフリッグがキャラの差別化を図りたいという妄言を宣ったらしい。実際に『外見も声も似たり寄ったりで誰が誰だか分かんねぇよ、全員等しく
そして、真っ先にグレールが熱血クソ野郎キャラを演じ、続いてアルフリッグが鬼畜ホワイトエルフよろしくどこからともなく伊達眼鏡を取り出すが、どれもピンと来なかった。
そもそもガリバー兄弟は敬愛するフレイヤのために存在しなければならないため、この変化はフレイヤが気に入らなければ意味がない。
そこで最近のブームである『兎』に焦点を当て、『ピョン』だの『ウサ』だの『ミミィ』だのと傍から聞いてたら眩暈のする語尾が作られていったとか。
挙句の果てには『ウサウサ』というパクリまで出てくる始末であったが、すっかり語尾で差別化を図れたと勘違いしてしまったガリバー兄弟はその愚かな考えを顧みることなくフレイヤに突撃。返ってきた言葉が『誰が何を言っているか分からないし、誰が誰だか分からないわ。あと、ちょっと"うざい"』だった。
極限まで研がれたナイフのごとき言葉に4兄弟の屍が晒されたことは言うこともない。
「……とまぁ、こんな状態なんだ。俺たちとしてはお詫びも込めた品だから、被らせたくもなければ特別感を演出したい」
粗方事情を話し終えたアルフリッグだが、見るからに元気をなくしている。ベーリングたちも目に見えて落ち込んでいるため、フレイヤから拒絶されたという精神的ダメージは未だ癒えていないことが伺えた。
「アルフリッグさんたちはフレイヤ様の矛ではないのですか? 他人にどう思われようともフレイヤ様が認識できるのであれば、むしろ不要でしたね。ちなみに僕は分かりますよ」
「それをあの場で言ってほしかったよ、アクス」
「むしろ、今から来てくれ」
とてつもなくおかしな会話が聞こえるが、具体的には『機嫌を損ねてしまったフレイヤに、お詫びとしてプレゼントを贈りたい。ただ、良い案が思い浮かばないから助けてくれ』と理解したアクスは今の露店や南西にある交易所の店を思い返しながら話を戻す。
「フレイヤ様に贈り物ということは……最高級品ですよね?」
「当たり前だろ?」
「むしろ、最高級品以外はあり得ないからな」
アクスの質問にドヴァリンとグレールが呆れながら答える。その空気に幾度となくアミッドや諸々から『アクスは良い子なんですから、空気ぐらいは読んで動いてください』と叱られた経験を持つアクスはとある大和竜胆の墓の前に供えようとした
「そもそも、なぜこんな重要なことを僕に相談しに来るんですか? 皆さんで考えれば済む話では?」
「迷ってるって言っただろ? かなり案を出したが、どれも似たり寄ったりなんだ」
「よくよく考えたら数年前に贈った……ってこともあったな」
「贈り物のダブりなんて許されることじゃない」
『それな!』
毎度おなじみ変な連携を見せるガリバー兄弟。暗に『こっちに面倒ごと持ってくるんじゃない』と言いたかったが、どうやら本格的に巻き込む腹積もりらしい。
しかし、既に4人である程度考えたとなればアクスにも碌な案がない。【ディアンケヒト・ファミリア】でたまに行われる実行出来るか否かは考えず、手あたり次第に案を書いていく手法を用いて贈ってなさそうな系統を調べてみたものの、不発に終わる。
「食べ物とか、酒みたいな飲み物は贈ってからなぁ」
「割と今更だけど、4人でそれぞれ別の物を贈るとか馬鹿みたいだな」
「グレール、お前が言うな。贈り物を確認する俺の身にもなってみろ」
「そうは言うが、アルフリッグ。お前が当日まで隠した挙句に被ったことは忘れてないからな」
兄弟には兄弟の悩みもあるのだろうが、険悪な空気は止めて欲しい。必死に考えている横で言い合いを始めるガリバー兄弟への文句を胸中で叫んでいたアクスであったが、天啓が舞い降りて来る。
「皆さん、元々は細工職人の方でしたよね?」
「あまり思い出したくはないがな」
「それがどうした?」
「ご自身たちで作れば良いじゃないですか。フレイヤ様に合うアクセサリーを」
アクスの言葉に全員の目から鱗が落ちていく。
たしかにそうだ。気に入るものが無ければ自分で作れば良い。奇しくも自分たちにはそれが出来る能力──いや、
あの時のドワーフに無理矢理作らされた時とは違い、正真正銘
「それぞれの部位で担当するのはどうですか?」
「採用。僕、ネックレス作る」
「ズルいぞ、ベーリング。僕は指輪だ」
「指輪に合う腕輪も良いな。グレール、後で打ち合わせさせろ」
「イヤリング……。あまり華美にはさせないで寄り添わせるべきかな」
元とはいえ飯の種にしていたことというだけあり、次々と意見が出てくる。
結局、アルフリッグがイヤリング。ドヴァリンは腕輪。ベーリングがネックレス。グレールが指輪という担当でフレイヤに合う装飾品を作ることとなった。
実りある相談が出来たことに感謝をしながら満足げに帰っていく4人。身体は小さい癖に色々影響力がデカい冒険者ということで紅茶のお代わりを持って来た団員がアクスに何があったのか問いかけると、彼は小さく『嵐が通り過ぎた』と呟いたとか。
***
ヘスティアが攫われてから数日が経過した。1人オラリオに戻ってきたアスフィの情報により、ヘスティアの奪還には成功したことが報告される。
ただ、崖から転落したヘスティアを助けるためにベルが濁流に呑まれてしまい、それをアイズが追いかけて行ったことで3名が行方が分からなくなったそうだ。
それでも後に残った疲弊状態であるラキア本隊は見過ごせないと、フィンはヘスティアたちの捜索と救助ではなく『主神アレスを含めたラキア軍本隊の捕縛』に乗り出す。曰く、『ベル・クラネルはともかくアイズは死なないだろう』ということらしい。
ベルの命に対してドライ過ぎではないだろうかとは思うものの、なんでもアイズについていったのは彼の意思のため、冒険者の常識である自己責任を思えばこの対応は仕方ないのかもしれない。
「このぐらいね。今、ラウルたちを中心に編成作業に追われてるわ」
「ティオネ様、報告ありがとうございます。何分、うちは情勢に疎くて……」
「【ディアンケヒト・ファミリア】は積極的に情報収集してないんだから仕方ないわよ」
ティオネが一息つくと、付いてきたレフィーヤたちと一緒に供された紅茶に口を付ける。
それでも、情勢に疎い【ディアンケヒト・ファミリア】にとってはありがたい情報には変わりない。アミッドが改めて礼を言うと、今度はティオナが会話に混ざってきた。
「そういえばアミッドー。【イシュタル・ファミリア】の皆に使っちゃったから、もう1度秘薬って作り直しでしょ? どれぐらいかかる?」
「具体的な日付は申し上げにくいですが、この分だと遠くない内に規定量は調合できるかと」
手順の確立と分担化によって
残念ながら増血剤や食生活の改善をもってしてもレア中のレア素材である『アミッドの血』の関係で1日に製造できる本数が限定されてしまうが、それを加味しても遠くない未来に必要本数に届くと彼女は確信をもって報告する。
「あんたがそう言うなら間違いはないわね。運搬は引き続いてあのクソボケ……アクスに少しずつ運んでもらって」
「承知しました。ところで、そちらの編成はどうなるのでしょうか? うちはマルタとベルナデットと共に私が出ますが」
アミッドのいう編成とは、クノッソスを攻略するメンバーのことだ。
いくら増産しようとも、秘薬には限りがある。そのため、参加人数を絞りつつも効果的に運用しなければならないので、直接的な戦闘力の無い【ディアンケヒト・ファミリア】のほとんどは秘薬を無駄に消費する存在でしかない。
ゆえにアミッドは自分を含めた少数精鋭の形を取った。贅沢を言えばファミリアで唯一壁役をこなせるクライブを連れて行きたかったが、
「ラキアのことが片付いてないから、まだ決め切れてないわね。私たちは確定だけど、
「ディオニュソス様はやる気十分という感じでしたけど……」
「そう言うなら【ヘルメス・ファミリア】も一応同盟だよね?」
【ロキ・ファミリア】は当然として、後はどのファミリアが参加するのか。各メンバーのレベルや実力はどんなものなのか。不確定要素が多すぎるため、規定量だけでは賄いきれないことを心配し出したアミッドが『取り急ぎ調合してきます』と席を立とうとする。
「ちょっと、落ち着きなさいな。そんなに焦ってもあんたの血が無かったら駄目なんでしょ?」
「ですが……」
「今日の分作ったのならもう終わり。焦っても良いことないわよ」
宥められるがままに椅子に座り直したアミッド。年下に諭されるなど情けなく思ったものの、確かに気を急いていた自覚もあったと反省した。
すると、先ほどまで無言だったレフィーヤが手を上げながらアミッドの言った編成について疑問を口にする。
「ところで、アクス君は参加しないんですか?」
「あ、それ思ったー。もしかして、ラキアからなんかされて寝込んでるとか?」
「いえ、本人はすこぶる快調かと。今日も元気に往診に行ってましたし……私と目を合わせませんけど」
「あー、多分アクスがなにかやらかしたのね」
なにやら言い淀みながら落ち込むアミッドに全員が首を傾げるものの、後々攻略予定のクノッソスにおいてはアクスの存在は必要不可欠と言って良い。彼女もそれを分かっているらしいが、かなり思いつめた様子で俯いていた。
たしかにアクスは【ロキ・ファミリア】の遠征について行ってからというもの、成長という階段を何段も飛ばしたような勢いで育っている。
それらの成長は団長としてももちろんだが、姉としても誇らしく思う。きっと、クノッソスの攻略においても役に立つだろうし、周囲もアクスの活躍を期待していることは容易に想像できる。
だが、それは団長としての思い。個人の──アミッド・テアサナーレという
いささか酒臭い状況だったが、アルコールによってまろび出たあの思いはまさしく彼女の秘められた本心だった。
──愛しているからこそ、健やかに育って欲しい。
──愛しているからこそ、出迎えて欲しい。
──愛しているからこそ、危険な目に合って欲しくない。
冒険者として失格と誹られ、ファミリアを治める長として不十分だと注意され、同盟相手としては不適格と言われても仕方がない。
それでも、あの子を──アクス・フローレンスを【ロキ・ファミリア】の団員でさえも命を落とした戦場に連れて行くことは
「たしか、アクスは耐異常の発展アビリティはなかったはず……」
「アミッド?」
「軽い毒と患者鎮圧用の鎖で……後は……ディアンケヒト様にも助力を……」
「アミッド!」
「ふぁっ!? はい!」
思考の海から無理矢理引き上げられたアミッドが顔を上げると、そこにはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべるティオネや期待の籠った表情のティオナ。それと顔を真っ赤にさせながらアミッドから顔を背けるレフィーヤの姿があった。
「あの……どうしました?」
「どうしたもこうしたもないわよ。あんた、さっきから色々駄々洩れよ?」
「それはどういう…………っ!」
最初こそティオネの言っている『駄々洩れ』の意味を全く理解できなかったが、かなりの時間を要することでアミッドはようやく理解する。そして、理解した途端に彼女は一気に頬を赤らめさせ、その場で叫びそうになった口元を自身の手で必死に抑えるというトンチキな行動をし出した。
ただ、ここでアミッドの中に欠片ほど残っていた理性が『まだ慌てるような時間ではない』と、『どこからどこまで聞かれていたかによる』といった具合に冷静さを取り戻そうと縋るように疑問を投げかけた。
「つかぬことをお伺いしますが、どこから聞こえていましたか?」
「"好きだから、あの子にはこれからも健やかに育って欲しい"ってところかなー。流れ的にアクスのことだよね?」
「"好きだから、あの子は連れて行けない"って言ってたわね。……本当にアミッド、変わったわね」
「"好きだから、ここで出迎えて欲しいって"……その……。が、頑張ってください」
終わった。何がとはあえて言わないが、終わってしまった。
目の前で
たしか極東には人の噂は75日もあれば完全に鎮火すると聞くが、それは具体的に後何秒待てば良いのだろうかと現実逃避をしていた彼女にティオネからの助力が入った。
「ティオナ、アミッドが困ってるからその辺りにしておきなさい」
「えー、だってさー」
「アミッドだってあんまり色恋沙汰を経験しなかったのよ? それがいきなり自覚したら混乱もするわよ」
ひょっとしてそれはギャグで言っているのだろうか。アミッドがここまで心をかき乱した発端であるティオネの言葉に『どの口が』と物申したくなった彼女だが、一応助け舟を出してもらっていることから必死に黙っていた。
しかし、どうやらその認識が間違っていたらしい。席を立ったティオネが応接室の扉を開け、ちょうど紅茶のお代わりを持って来ていた団員から盆を奪ってから1言2言ほど話してから扉を閉めた。
「あの……?」
「こういうことはじっくり聞き出さないともったいないわよ。さぁ、ちゃんと話してもらいましょうか?」
どうやら助け船ではなく、後ろから狙い撃つためだったみたいだ。
3人寄れば姦しいとはよく言ったもので、道化師の眷属たちによってアミッドの内に秘めていた何もかもが赤裸々に暴かれていった。
***
アミッドが辱めを受けている一方、アクスはというと──。
「アクス、世話になった」
「フレイヤ様もお喜びになった。感謝する」
「より美しくなられたフレイヤ様に目を焼かれそうになったがな」
「これで僕たちの株も持ち直したわけ……ウサウサ」
『愚兄、お前いい加減にしろよ』
少し前に壊滅的な被害にあった小人の隠れ家亭にて、茶を飲みながらもガリバー兄弟は次々とアクスに礼を言う。どうやらアクス発案の兄弟でそれぞれ別の装飾品を作ってフレイヤにプレゼントをするという作戦は功を奏し、すっかり機嫌が良くなった彼女はすっかりそれらを付けて神々にそれとなく自慢するのに夢中になっているらしい。
未だ兎の呪いが発症しているアルフリッグを店が壊れない程度にボコした後、ベーリングが小さな箱をアクスに手渡してくる。
「それでだな。世話になったのに何も返さないのは僕たちの沽券に関わる。特に今回は本当に困ってたんだ、受け取って欲しい」
「いえ、僕は横から口を出しただけですよ。クエストではないので、報酬は受け取れません」
たしかに高レベルの冒険者であるガリバー兄弟の持って来る物品ということで中々興味をそそるが、あくまでこれは相談事。横から口を出した程度のことで報酬を受け取るのは烏滸がましい。
ただ、それは自己肯定感が限りなく低く、冒険者としての自覚が薄いアクスの意見。ガリバー兄弟はその態度に涙した。
「あの
『分かるわー』
なにやら変な会話を展開しながら押し付ける形で箱を渡されたアクスが箱を開けると、中には美しい紅い角のような宝石が取り付けられたネックレスが鎮座していた。宝石にしては中々大きく、魔力を帯びていることからダンジョン産であることは確実。しかし、こんな大きくて綺麗な宝石を角のようにカットするのは中々勇気がいることだ。
「思いきりましたね。知識はないですが、カットとか大変だったでしょう?」
「なにを言ってるんだ? これは"カーバンクルの秘晶"だぞ?」
「…………いや、なんて物をポンと渡そうとしてるんですか」
カーバンクル。上位魔導士と同等の優れた魔力を持ち、自らの額の秘晶を媒介にして魔力壁を作るモンスターである。
その撃破率の少なさから『秘獣』と呼ばれており、そのドロップアイテムの価値は非常に厄介な手順を踏むことでようやく手に入ることで有名な『ヴィーヴルの涙』に引けを取らないのだとか。
そんな超が何度も付くドロップアイテムを用いた装飾品をポンと渡す神経を疑うが、彼らにとってそれは『気に食わない代物だから仕方がない』だそうだ。
「俺たちが持っていても良いが、使い道がないからな。やるよ」
「あぁ、フレイヤ様の笑顔が見れただけで満足だ」
「聞いて驚け、それ作るために俺たちの3か月分の稼ぎが吹っ飛んだ」
「それだけ性能を突き詰めたからな。……ほんと、見た目が」
『言うなよ、ベーリング』
よくよく話を聞くと、なんでもこれは念じるだけでカーバンクルの特性である魔力壁を前方に投射できるらしい。1回使えば再使用に数分は必要だが、彼らの3か月分の稼ぎを吹き飛ばすぐらいの素材と外部の者に協力を仰いだ
これはひとえに何かと
彼らも後悔していることは傍目から分かっているため、『それなら作らなければ良かったじゃないですか』と傷口に塩を塗り込むような真似をせずにアクスは大人しく受け取る。案外素直に受け取ってくれた彼に、ガリバー兄弟は『助かる』と言いつつ洗礼の時間が迫っているということで店から出て行った。
呼び出した者たちが居なくなったことでアクスも治療院へ帰ってくるが、この超絶高額な装飾品の処遇についてどうしようかと考える。とりあえず貰い物だから大切に保管しておくことに決めていると、なにやらティーポットをのせた盆を持って応接室の前をうろうろしている最近入ってきたばかりの新人が居た。
「どうしたのー?」
「あ、アクス君。一応、団長たちにお茶のお代わりを持って来たんだけど……。
なるほど、ティオネが来ているということはクノッソスや
ならば、
「──で、あいつとはどこまで進んだの」
「えっと……その……たまに抱きしめながら寝てます」
「アミッドもやることやってるんだねー」
「ティオナさん、意味違ってるような……」
とてつもない美女たちが姦しくお話ししている光景に充てられた新人が扉の外で倒れる音を聞きながら、アクスは彼女たちに『お茶でーす』と言ってティーポットを入れ替える。すっかり夢中で話をしていたためか、それともアクスが居ることがすっかり不通となってしまったのかは定かではないが、平然と『ありがと』と礼を言ったティオネは突如として沸いた不信感に従って数秒間黙り──。
「……あれ、なんであんた居るの?」
「ここ、僕の家なんで」
「なっななな、なんで居むぐぅ!」
「アミッド、流石にそれ以上はアクスが可哀想だよ」
ティオネの疑問にアクスは見当違いの回答をし、いきなりアクスが居たことに慌てたアミッドが『なんで居るのですか』とアクスが聞けば勘違いして家出不可避なことを言いそうになったところをティオナが抑える。
レフィーヤはレフィーヤでそんな彼女たちの収拾がつかない様子を見ながらオロオロし、『アイズさん、助けてください』とおそらくこの場では一切役に立たないだろう存在に助けを求めていた。
そうこうしている内にようやく混乱が収拾し、お茶のお代わりを持って来たことや具体的に何を話しているのかは分かっていないことをアクスから聞いた4人は安堵の息を漏らす。
「アクス君、ちゃんとノックの返事をしてから開けないと駄目だよ?」
「はーい」
「……アミッドさん、こんな弟欲しいので連れて行って良いですか?」
「
素直な年下というオラリオでは珍しい部類に入る存在に本気3割ぐらい冗談をぽろっと言ってしまったことでアミッドの怒りを買うレフィーヤはさておき、ティオネとティオナはアクスにクノッソス攻略のメンバーにアクス本人が着いていきたいかを確認する。
それもこれも
「お姉ちゃんが行くなら行くよ。お姉ちゃんは大事な人だから」
「おー、流石は男の子」
「団長がこんなこと言ってくれたら、私もバッチ来いなんだけどねぇ……。とりあえず、分かったわ。団長にはアクスも参加することは伝えておくから」
『大事な人』の意味をはき違えている気はするが、クノッソスには着いてくることは分かったティオネは未だアミッドに詰められているレフィーヤに帰ろうと声をかける。『
「アクス君。その箱の中に入ってるの……、なんですか?」
「アルフリッグさんたちに呼び出された時にもらった首飾りー」
「【フレイヤ・ファミリア】からって……。危険な物じゃないでしょうね?」
箱を開けた途端に流れてくる魔力の気配に、ティオネは呪いが込められた品物の類かと訝しむ。呪いの種類なんぞ多岐に渡るため、それとなく『魅了』が掛かっているのではないかと心配する彼女を他所にアクスが首飾りを付けると強く念じた。
「あ、出来た」
「これは……障壁ですか?」
「わぁー、かたーい。
「その宝石、どこかで見たような……」
アクスの目の前に生じた背の高いヒューマンを1人覆い隠せるぐらいの障壁が顕現する。興味津々でティオナが強めに障壁を叩くが、ビクともしない様子を見るにかなり強固な障壁なのだろう。
第1級冒険者から見ても申し分ないアクセサリーだと分かるが、何がどうなってアクスがこれを手にしたかが分からない。ただ、皆が皆『【フレイヤ・ファミリア】が関与している』という弩級の事前情報により、詳しく聞くことを躊躇った。
すると、満足げにネックレスを外したアクスは何を思ったのか、いきなりアミッドに抱き着く。突然の愛情表現にアミッドとティオナとレフィーヤが目を丸くさせるものの、彼は事も無さげにアミッドの細い首にネックレスを付けてあげる。
「お姉ちゃん、あげるー」
「いえ、その……。嬉しいんですが、高価な物なのでしょう?」
「(アルフリッグさんたちの)お給料の3か月分だよ」
「さんっ!?」
「お姉ちゃんは(ファミリアの団長という)大切な人だから」
「たいせっ!」
圧倒的に言葉が足りないし、傍から聞くと色々なことが進んでしまう言葉の数々。もはやわざとかという類だが、本人は相変わらず何を考えているか分からない笑みを浮かべながら
そんな彼の言動の数々から、言葉足らずで両者の認識が食い違っていることに気付いたティオネが先日と同様に『期待を落とすクソボケがぁーっ!』と制裁を加えるまであと数秒──。
最近じゃ、給料3か月分は古いらしい。うせやん…。
ガリバー兄弟
語尾については原作の小話(掌編集)参照。
アクセサリーについては1度やってみたかった。4兄弟だから身体全体のバランスを考えた装飾品で売って行けば儲かるんじゃね?
カーバンクルのネックレス
放浪癖のフレイヤを心配して作ったネックレス。前方に障壁を展開する超高額なアクセサリーだが、その性能から1番大事な人ということでアクスがアミッドにあげた。
アミッド
墓穴を掘り、辱められ、最後に飼い犬がポメポメしながらも自分の身を案じてくれたことで思考回路がショート寸前な模様。今すぐ会いたい? すぐそこに居るじゃないか。
アクス
安定のクソボケ。
(ファミリアにとって)1番大事な存在だから--それはそう。