ふむ…、要塞アクス人気だなぁ。
夕方頃。治療院の扉から多少の荷物を持ったアクスが出てくる。
「アクス君、ちゃんと挨拶するのよ」
「土産もちゃんと渡すんだぞ。冒険者ならまず外れねぇから安心しろ」
「あちらの迷惑になるので、夕食を聞かれたら"食べてきた"と言うんですよ」
扉の前で勢ぞろいしていたアミッド含めた団員たちが、まるで機関銃のようにアクスへ色々言ってくる
アクス・フローレンス12歳。この歳になるまで友達のところに泊りに言った経験は一切ない。そのため、こうして口々に注意点を述べられているわけだが、挨拶は当然として何がどう迷惑なのか一切理解出来ずにいた。
「お前たち、そのあたりにしろ。あのバイトしまくっている
『あんたが1番失礼だよ!』
異口同音のツッコみが背中から聞こえるが、そろそろ出発しないと暗くなるためにアクスは『イテキマース』と治療院を後にする。そのままメインストリートに沿って歩き、彼は再び【ヘスティア・ファミリア】の
「ごめんくださーい」
「はーい。あら、アクス様。お待ちしておりました」
春姫に出迎えられたアクスは、彼女に先導される形で館のリビングへと入っていく。そこには昼頃には居なかったヴェルフとリリルカが座っており、一同が揃ってアクスの方を見た。
「おう、来たか。喋るモンスターについて教えてくれるって話だったよな」
「ほんっとーに神父様は色々知ってますね。どこか後ろ暗い組織にでも……神父様の性格的にあり得ないですね」
快活に笑うヴェルフに何か失礼なことを言おうとして止めるリリルカ。いつもながらの2人を前にしたアクスは遠慮なくソファに座ると、彼はいきなりヴェルフに鍛冶道具──特に武器などを研磨するための道具を持って来てもらうように頼んだ。
いきなりの注文にヴェルフとリリルカが不思議そうにしていたため、アクスは昼頃にベルに起こったことを話し出す。
「昼頃、ウィーネ様の爪がベル様に当たって怪我をしたんですよ。つきましては、そういう教育。もしくは爪を切るなどの対応をした方が良いかと思いまして」
「なるほどな。ちょっと待ってろ、やすりと鋏を持って来る」
そう言ってヴェルフが鍛冶場へ行き、すぐさま砥石などの研磨道具を主とした品々を持って来る。そのままアクスはウィーネを呼び、ソファに座らせた彼女の片手を優しく握った。
「爪を伸ばすのも美しい女性になる秘訣ですが、伸ばし過ぎるとケガをします。なので……、手入れをしましょう」
「ていれ?」
「すげぇよ、この子。さらっとウィーネ君を口説いてるぜ」
「タケミカヅチ様……、アクス殿に何を……」
後ろがやや煩いが、アクスはウィーネの爪を指の先端と同じになるぐらいまで切る。鍛冶師に渡せば強力な武器になる竜種の爪なので、途中からヴェルフに代わってもらう形で何とか切断を終える。
切断を終えたら、次は研磨だ。理想は指先に沿うような綺麗なカーブが描けていること。間違っても尖った部分があればモンスターの膂力で必ず怪我人が出るということで、ヴェルフは時折アクスにチェックを入れてもらいながら全ての指の爪を丸くする。
「ベル、痛くない?」
「うん、痛くないよ。綺麗になったね」
「ぐぬぬ……ヴェルフ様! リリにも爪切りお願いします!」
「ヴェルフくーん! 僕も僕もやっておくれよぉ! ベル君に綺麗って言って欲しいんだよぉ!」
「あんたらは自分でやれよ!」
ベルの寵愛を受けようと卑しい女神と卑しいパルゥムの声を聞きつつ、アクスはこの騒動の中で我関せずのスタイルを保っている命に『つまらない物ですが』と団員に選んでもらったお土産を渡す。まさか手土産まで持参してくるとは思わなかった彼女は少々狼狽えたものの、失礼なことを重々承知して確認を兼ねて箱を開ける。
「ぽ、
「ちょっ、それおまけで
「おいおいおい、神父君! 良いのかい? 良いんだね!?」
滅多に見ない高級品にファミリアの財布を握っているリリルカと絶賛借金大魔王のヘスティアがアクスに食って掛かる。
ただ、1つ言っておかなければならないのは『彼自身が率先して土産を選んだわけではない』ということだ。『冒険者にとって実用的な物こそが喜ばれるだろ』という主に男性団員で構成された派閥と『美味しい物とか甘い物で良い』というスイーツ大好き女性団員の派閥が喧々諤々と話し合うことでようやく決まった品物なのだ。
なお、『面倒くさいから
そんな数々の思いや意見をバチバチに戦わせた末に決まったことなど露知らず。降って湧いた高級品にヒャッホイと小躍りしている1人と1柱を見ていたアクスに春姫がおずおずと夕食の有無を尋ねてきた。
「あ、アクス様。お食事は如何しましょうか?」
「お茶だけで結構です。食べてきました」
どことなくスマートな受け答えをするアクスだが、もちろんこれも予め団員たちから言われたことだ。
お泊りをする以上は夕食などは必要不可欠。しかし、食事を1人前準備するのも作る側としては大変である。
特に昨日の今日ではなく、
「神父君、君の本当の所属はどこなんだい? 絶対ディアンのところじゃないだろ」
「【ディアンケヒト・ファミリア】ですが、なにか?」
「嘘つけい! あの守銭奴のところから、こんなお気遣いの紳士が産まれるかぁ! 君はあれだろ? ミアハとか、タケとか……。アストレアとか、アルテミスの眷属だろ!?」
よくもまぁ善神ばかりを器用にリストアップするものだ。がなり立てるヘスティアを前にそう思いつつ、『本当なんだけどなぁ』と頭を搔く。
しかし、彼が【ディアンケヒト・ファミリア】所属かは置いておくとして、アクスは12歳の子供。そんな子に夕食を出さずにお茶だけで放置するのを良しとするほどヘスティアは冷徹ではない。
「でもね、こんな小っちゃい子にお茶だけ出して僕たちは夕飯を食べろって? 冗談きついよ、神父君」
「そうですねえ。リリより小さい子供が遠慮するものじゃないです。ほら、行きますよ」
そう言って先ほどまでの嫌しかムーブや
***
その後、借金漬けのファミリアにしては贅沢な食事をいただき、これまた木材を贅沢に使用した風呂を堪能したアクスはベルとウィーネ以外をリビングへ集める。本当は団長である彼も参加させたいところだったが、ウィーネがお眠なことに加えて彼女本人が話し合いを盗み聞きしてショックを受けて脱走──という神々がよく言う『お約束』をさせないための致し方なくベルにはウィーネの監視役として寝室に行ってもらった。
「それで、神父様。まずは喋るモンスターについて話してもらえますか?」
「はい。ですが、皆さんと同じで僕も1回しか遭遇していません」
そう言ったアクスは、治療院からここに来るまでに
レットたちの種族や出会った場所。後は偶発的な出会いで先じて伝えた通り、
情報としては心もとないかもしれないが、それ以上──特に『
「ゴブリンにアルミラージ……。序盤だが、中層のモンスターも居るなんてな」
「ただ、同族以外と行動を共にするのは収穫です。もしかしたら、そういった境遇同士で集まっている可能性も出てきました」
モンスターの種族や出現階層を思い出すヴェルフに対し、リリルカはアクスの少ない情報から即座に『コミュニティ』の可能性を導き出す。このまま情報を出し続けるとまずいと判断したアクスは、ひとまず喋るモンスターについての話からウィーネの処遇について話を切り替えることにした。
「そこら辺も踏まえて、ウィーネ様にはダンジョンに帰ってもらう。もしくはテイムモンスターとして【ヘスティア・ファミリア】の持ち物とする。……最後の手段で殺してしまう。この3つになります」
「いやいやいや、神父君。流石に最後は穏やかじゃないよ!」
「ですが、神父様の言うことは尤もです。リリはダンジョンに帰す案を練りつつも、最後の手段を推します」
未だウィーネという
しかし、そんなかなり譲歩した意見でも【ヘスティア・ファミリア】にとっては少数側の意見となってしまう。『もっと良い案はないのかい?』と聞いて来るヘスティアを他所に、春姫が手を上げた。
「あの、テイムモンスターというのはどういうことでしょうか?」
「ウィーネ様を調教し、完全に言うことを聞かせた状態にするんです」
「ちょっ!?」
過去に【ガネーシャ・ファミリア】のデンチやハシャーナなどから聞いたことがあるテイムの概要を説明すると、春姫が顔を真っ赤にさせながら倒れてしまった。何か持病でもあるのかと急いで彼女を解放しようとするが、命が『いつものことなので気にしないでください』とそれを制する。
「分かりました。酷くなるようでしたら【ディアンケヒト・ファミリア】へお願いします」
「春姫君も春姫君だけど、神父君も相当だよね」
「おそらく聖女様も苦労なされているかと」
どうしてそこにアミッドの名前が出てくるのだろうか。確かにディアンケヒトや患者の我儘などで苦労はしているだろうが、今は関係なさそうな話をしている2人に首を傾げつつも、アクスはテイムモンスターにするための道を聞きかじりレベルで披露していく。
テイマーという業種は冒険者全体を比較すると数が少ない。大抵は【ガネーシャ・ファミリア】に所属しており、『ダンジョン攻略に役立つため』という建前でテイムを行ったモンスターをシャクティ含めた精鋭たちを用いて地上へ持って帰り、かのファミリアの地下で飼育するのが主な業務となっている。
ゆえに個人の戦闘力はもちろんだが、モンスターの知識も必要不可欠。魔石を食らったと思われるモンスタ──-俗にいう『強化種』の知識も精通していなければならないし、なによりモンスター関係であれば十八番といえる【ガネーシャ・ファミリア】とオラリオを統括するギルドの認可でもって初めてテイマーと名乗れるのだ。
なお、もはや国家資格のような厳しい選考を潜り抜けて認可を受けたテイマーは漏れなく、【ガネーシャ・ファミリア】。その他はもっぱら実力が見合っていないモンスターを支配下に置き、完全にモンスターを制御下におけない危険性を孕んだ言わば『もぐり』である。
「大変なのですね……」
「ハシャーナさんの受け売りですが、リリルカ様。"キラーアント"をテイムした場合に注意すべきことはなんでしょうか"?」
「身の危険だと感じさせないことでしょうか? キラーアントは危険を感じるとフェロモンを発するので、移送には神経を使うかと」
「それが"初歩の初歩"らしいです」
ギルドで絶対教え込まされることだが、そんな内容でも初歩ということでヴェルフは『まじかよ』と面倒そうな感想を漏らす。他にも中層のモンスターやはたまた下層。最後に強化種が原因で起こった事件などを説明すると、全員すっかり意気消沈した様子で項垂れていた。
「そ、そんなに難しいのかい?」
「逆に"序の口"ですよ。仮に認可が下りたとしても毎月ギルドには講習を受ける義務も発生しますし、税……というか"お目こぼし代"は徴収されます。そしてなにより、脱走した際は本人のみではなくファミリア全体に責任を追及されますよ」
聞けば聞くだけファミリアに何の利点もない。それどころかデメリットが膨れ上がっていく状況にリリルカの顔が徐々に闇へと落ちていく。
それに気づいたヴェルフが慌ててウィーネをテイムさせる利点についてをアクスに尋ねてくるが、逆に意思の疎通が出来るとはいえ中層以降のモンスターをテイムして檻にも入れずに放し飼いするメリットは戦力を増加する他になにかあるのかとアクスは問うた。
「檻……調教……コンッ!」
「は、春姫殿!」
「春姫君は置いとくとして……。そうか、テイムってことになるから檻に入れることになるのか」
「ヴィーヴルをテイムしたとあっては話題性は抜群ですからね。【ガネーシャ・ファミリア】も警戒して毎日巡回に来ると思いますよ」
取扱いに十分気を付けないといけないモンスターが居ることでの巡回は、市民を守るのを主任務としている【ガネーシャ・ファミリア】にとって当たり前だ。さらに
「ただでさえ数か月という異例の速さでランクアップしているベル様がいらっしゃいますからね。……いや、本当になんであんなに速くレベル上がるんですか? たしか成長期って仰ってましたよね? 僕、まだ来てないのですが」
「わー、僕のごまかしを信じる子居たんだぁ」
以前に言ったごまかしをちゃんと聞いていて、かつそれを信じるほどのピュア具合にヘスティアは『この子、変な神に騙されないかな』と心配になるが、改めてベルのことを勘定に入れてウィーネをテイムする方向について頭の中を整理する。
仮にテイマーの認可がおり、さらに講習などをパスして正式にウィーネを【ヘスティア・ファミリア】に加えたとしよう。『テイムした』と言い張るのならば、彼女の人権──この場合はモンスター権になるだろうか。それは、はく奪されるに等しい所業を受けることになる。
見世物のようになるかもしれないし、自由に外を出歩けない。あんなに喜んでいた日の光だって十分に浴びることも叶わないかもしれない。
つまるところ1人の少女としてではなく
それだけならまだ良いが、被害を出せばその目が非難へと一気に変わる。そこまで考えたヘスティアは、ぎゅっと瞑っていた目を開けると『ウィーネ君をダンジョンに帰そう』と提案した。
「良いのですか? ヘスティア様は気に入っていたではないですか」
「それだと駄目といったのはサポーター君だぜ? うちに誰かをテイマーにする余裕はない。そして、仮にウィーネ君をここに迎えることになったら当然、あの子にはかなり不自由な暮らしをさせる。……だけど、殺すなんてもってのほかだ。だから、ダンジョンに帰そう。あの子なら……なんとか……うぅっ」
善性に溢れた処女神だからだろうか。ウィーネの境遇やこれから襲い掛かるであろう苦難を想像したヘスティアは筆舌し難い葛藤を覚え、血が出るほどに手を強く握りしめた。
そんな彼女の悲痛な思いに共感したのか、全員の表情が一気に曇っていく。
「治します」
「あぁ、ありがとう。でも神父君、本当に何もないんだね? 今のウィーネ君を救うにはダンジョンに帰すしかないんだね?」
治癒魔法を使ってヘスティアの手を治療するが、そんなアクスに彼女は目を合わせて問いかける。フェルズからは『彼らの自主性に任せるように』と指示を受けているので『絶対にそうしなければならない』とは言えなかったが、
しかし、それでも難色を示すヘスティアたちにウィーネの種族であるヴィーヴルの生態を改めて共有するため、リリルカにそういったモンスターについての図鑑を取ってきてもらう。
ヴィーヴルは上半身が人間の女性、下半身が蛇という半人半蛇の姿をしたモンスターであるラミアと非常に似通った姿を持つ希少種に該当する非常に珍しいモンスターなのだが、
「これを見てください」
「なになに……、"ヴィーヴルの涙"?」
「あぁ、かなり貴重なドロップアイテムってのは聞いたことあるな」
ヴィーヴルの額に埋め込まれた紅石であるこのドロップアイテムは、その美しさや巨万の富を約束される『幸福の石という触れ込みもあってか、冒険者の装備はもちろん富豪などが身に付ける装飾品としてもかなり人気を博している。
ただ、ヴィーヴルはそもそも希少種。個体数も少なく、さらにこのドロップアイテムは
そして、そんな存在が【ヘスティア・ファミリア】に居たらどうなるだろうか。そこまで説明すると、ダンジョンに足しげく潜ったリリルカとヴェルフと命。特に冒険者の中で最底辺に居た経験を持ったリリルカが声を上げた。
「最悪、【ヘスティア・ファミリア】が潰れてヘスティア様が強制送還……」
「ちょっ、ちょちょちょ! 飛躍し過ぎだよ、サポーター君!」
「いや、リリスケの言い分は間違ってないですよ」
「この図鑑を見る限り、私もリリ殿のいう最悪はそうなると思っております」
「命様、どういうことでしょうか?」
娼婦だったという経歴からあまりダンジョンに潜れていなかった春姫やそもそも主神であるヘスティアが彼女たちの想定する内容が流石にぶっ飛び過ぎていることを驚くものの、リリルカたちの『起こり得る最悪の状況』を聞いて顔中から冷や汗を流し出す。
彼女たちの考える最悪。それは『部外者が
いくらテイムモンスターと言い張ろうが、ウィーネはモンスターに変わりはない。それもヴィーヴルという希少種で、一獲千金のアイテムを内包するモンスターだ。
それにこのファミリアはかなりの時間をダンジョンに使う変態……もとい、ベル・クラネルが団長を務めているという事情や少数精鋭で動いているため、【ロキ・ファミリア】のように留守番に割ける人員は圧倒的に少ない。
仮にウィーネをダンジョンに連れて行けない事情があるならば、当然だが彼女は
何度も言うが、ヴィーヴルは中層に住むモンスターだ。それが凶暴化して市街に這い出れば、待っているのは蹂躙だ。
モンスターの中でかなりの強さを誇る竜種ゆえにLV.1や一般市民では歯が立たず、上級冒険者が現場に急行するまでには少なくともオラリオの1区画ぐらいは消し飛ぶだろう。
そうしてやっと倒したあたりでギルドが状況を整理し出し、ベルたちが帰ってきた頃には地獄の第2ラウンドが始まる。その頃にはウィーネの出所が【ヘスティア・ファミリア】であるところの証言が集まり、ヘスティアはギルドや【ガネーシャ・ファミリア】に捕まっているだろう。
「サポーター君? まさか僕が憎くてでっち上げてるわけじゃ……」
「リリがそんな性悪に見えますかっ!」
「リリスケが腹黒いのには同意するが、ヘスティア様。俺も同じ考えだ。ただ、俺の目線から言えばあんたはギルドに捕まるじゃない、"保護される"んだ」
「保護?」
図星を突かれて怒り狂うリリルカを適当にあしらいながら、ヴェルフは説明を引き継ぐ。
ウィーネが暴れたら当然
まぁ、考え出したらキリがない下手人のことはどうでも良い。問題はいくら故意であろうがなかろうが、
被害に遭った人間の逆恨みで主神が襲撃。いくら神々を下界の子が害することが難しくとも、ちょっとした手違いや事故などでコロッと致命傷を受けて送還。そうなるとベルたちがダンジョンから帰還することも難しくなる。
そのための『保護』だ。いくら方便でもガス抜きのためには言葉を選ばなければならない。おそらく
「なるほど。たしかにそうなったら目も当てられないね。神父君もそんな解釈で良いのかい?」
「はい、人の口には戸口は立てられません。そうならないと思うのは勝手ですが、黙っておくにせよ、テイマーの認可を受けて正式に受け入れるにせよ、希少種のモンスターを迎え入れるには相応の力が必要だと思います」
「それがリリたちに足りないと?」
リリルカの問いにアクスは黙ってうなずく。
正義という正論を振りかざせるのは、そんな力を持っているから。昔、
彼女の思いつめたような表情はよく覚えているし、数年たった今になってようやくその意味も分かってきた。
つまるところ、【ヘスティア・ファミリア】には調教したモンスターを万全な状態で手元においておけるほどの実績や、警備体制が整っていないことになる。
これが【ロキ・ファミリア】のフィンから相談されたのであれば、アクスはガレスを筆頭としたドワーフ集団に頑強な地下室を作ってもらってから厳重に隔離。たまに日の光を浴びせるためにフィンやリヴェリア、ガレスといった上級冒険者の上澄みのパーティで監視しながら外に出すことで、周囲からそんなに批判を受けることないだろう。
ただ、何度も言うがそれはオラリオ最高峰のファミリアであるからゆえの信頼だ。結成されて精々半年の【ヘスティア・ファミリア】にはウィーネを守るための名声も信頼。そしてなにより『理不尽や悪逆に対抗する力』が圧倒的に足りない。
ここまで話すと、ようやくヘスティアたちも現実が見えてくる。ウィーネを保護していずれ来るであろう破滅に震えながら対策を講じる日々を送るのか、それともダンジョンへ戻して元の日々に戻るのか。
ただ、後者の方を選んでもベルたちにとって辛いことになるだろうことはたしかである。
「どういうことだい?」
「仮にウィーネ様を帰したとして……。皆さんは彼女と同じ種族を倒せるでしょうか?」
リリルカたちの肩が震える。そうだ、それをすっかり失念していた。
彼女たちは既に、喋るモンスターを
モンスターの怖さを身をもって知り、ウィーネを突っぱねようとしていたリリルカはまだ良い。ただ、ウィーネを保護するといったベルや甲斐甲斐しく世話をしていた春姫や命はかなり危険だとアクスは断言する。
「そう……かもしれません。ウィーネ殿のような存在かもしれない……と考えると」
「お話をする機会も無いのでしょうか?」
「その間にベル様が殺されても良いんですか?」
切れ味の鋭い指摘に口ごもる春姫。しかし、残念ながら事実だ。
何が起こるか分からないダンジョンでそんな悠長をしていると、待っているのは死一択。リリルカもそれが分かっているからこそ最初から『見なかったことにしよう』と考えを曲げずに説得していた。
「はぁー、最終的にはベル君も交えて話さないと駄目かぁ。とりあえず、今日は寝よう」
「そうですね。明日、改めて話をしましょう。命様と春姫様はあの子のお守りをお願いします」
今宵はもう遅い。それに団長のベルが居ない以上はどんなに情報を伝えても決め切れないと判断したヘスティアは、全員に解散を告げる。
明日はウィーネのお守り……というか、監視を命と春姫に任せてベルに全てを伝える。その上でどうしたいかを改めて彼に決めてもらう。そんな予定となった。
***
「さて……」
全員が部屋に戻ってしばらくした後、アクスは窓から外に出て
「アクス・フローレンス。報告のために来てもらってすまな……」
「ひえっ、怪人!」
「……私も流石に傷つくんだが?」
まるで幽霊でも見たような反応に件の人影──フェルズが悲し気な声を上げるが、メイドインオラリオのアクスにとってご当地の怪談話はそれだけで恐怖の対象なので仕方ない。俗にいう『仕方ねぇだろ、この街の子供なんだから』というやつだ。
そうして、フェルズが何とかアクスを宥めた頃。ようやく夜中の報告会が幕を開けた。
そういえば、ダンクロでイレギュラー・レコードのストーリーが出てきましたが…。シャクティのアクスに対する反応があまり間違いではない気がしてきた。
なんだ、あのシスコン。
アクスの講座
だんだん主人公のお助けキャラになっていく気が否めないけど、【オラリオの住民や冒険者を意図的に傷つけようとしない限り】は、ポメっとした可愛い辻ヒール妖怪なんで…。
手土産と食事不要
お気遣いの紳士。これを言い出した冒険者はきっと手から光線を撃てるに違いない。
デンチ、ハシャーナ
どちらもソード・オラトリアで登場だが、ハシャーナはベルがオラリオに来た時の門番なので多少面識がある。
テイマー
モンスターを扱うんだから、そりゃ認可に厳しいよねと思ったゆえのオリジナル設定。
なお、某じゃが丸君を研究してたあの人はモグり。
部外者が
おそらく、話題になったらされる。逆にそれしないって断言できるほど冒険者ってお人好しでお行儀がいい存在なの? と疑問視するほど確定でやられると思う。