「……よし、今日も10セット終わり……!」
日本ダービーに向けて練習を重ねるなかで、
イクイノックスは少しずつ自信を
つけているように見えた。
不安を隠すのが上手くなったのかもしれない。
そう思って質問したこともあったが――
Ω本番までに一番鍛えたいところはどこ?
「……メンタル、ですかね……」
苦笑いまじりではあるが、そう答えてくれた。
本人に自覚はなさそうだが、走りそのものや
知識の面だけであれば十分ダービーでも
通用する自信があるという意味にも取れる。
とはいえこれを指摘すると、
言葉を引っ込めてしまいそうだったので
言ってあげることはできなかったが……
とにかく、無意識にでも彼女に
自信が備わってきたのならとても嬉しいことだ。
Ω(絶対にもっと、G1を勝っていける)
イクイノックスのさらなる勝利のためにも、
お互いにできることをコツコツと積み上げた。
―//―//―//―
そうして迎えた、日本ダービー当日。
手元にまとめた資料の最終確認をしながら
イクイノックスを待っていると――
「お、お疲れ様です……」
Ωおはよう、今日も頑張ろう!
「は、はは……」
やはり固くはなっている。
皐月賞の時と同じようにデータの振り返りを
するための準備を始める。
想定できるレース展開。その場合のプラン。
前回のレースも踏まえて、位置取りを
見ておきたいウマ娘。
皐月賞での好走も影響したのか、
イクイノックス本人も注目されていた。
マークしてきそうなウマ娘も確認する。
Ω君はもう立派に追われる側のウマ娘だから
「うぅ…… そんなたいそうなウマ娘じゃ
ないんですけど……」
たいそうなウマ娘だよ、と笑うと、
イクイノックスは緊張と安心の混ざった
複雑そうな顔で笑いかえしてくれた。
これで緊張がほぐれきるとは
さすがに思っていないが――
Ω気にせず走っておいで
集合の時間も迫っている。
精一杯自分も笑顔を作って、
イクイノックスを送り出した。
―//―//―//―
(ワアアアアッ!!!!)
(……すごい、歓声)
(やっぱり頭はくらくらするし、
まっすぐ立つのも大変だ)
(……でも)
「イクイ!」
「……ドウ、えっと――」
「イクイもさ、負けられないと思うんだよ!
ここはG1で、しかもダービーで――」
「でも!」
「それでも、アタシが勝つ!」
「もちろんイクイ以外にもだって、
アタシより前でゴールさせない……!」
「アタシは兄ちゃんのためにも、
絶対にダービーウマ娘になる!!」
「ドウ……」
(空気がぴりぴりする)
(私は、ドウみたいな自信と信念は
まだ持てない。けど――)
「……わかってるよ。
でも、簡単に負けてあげられないのも、
ドウならわかってくれるよね?」
(みんなが持っているような、
大きな目標でもないけど)
(私は、せめて期待されたぐらいは――)
(トレーナーさんとドウに、
胸を張れるようなウマ娘になりたい)
「……もちろん! イクイも皆も、
お互い全力で!」