イクイノックス 育成ウマ娘イベント   作:土見

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※イベントシナリオではなく、走るイクイノックス視点からのレース描写話になります。
展開や順位などはある程度史実のレースに準拠しますが、解釈はオリジナルです。


日本ダービー、ターフの上から

 

 

 

 ダービーは、無理に前を取りに行かなくてもいいことにしよう。それが、皐月賞での走りをひととおり検討した私とトレーナーさんの結論だった。

 

 皐月賞がややハイペースになりがちなのに対して、ダービーは2400mという距離やレースのプレッシャーもあってじりじりとしたペースになりやすい、というのは存在するデータだ。だから本来日本ダービーは前目につけるべき、のはず。ただ――

 

(……18番)

 

 自分の入っていた枠を思い出す。結局私は、皐月賞に続いてよく言えば一番最後にゲートに入る……悪く言えば一番外のゲートに入ることになっていた。ここから皐月賞ではほぼ無意識とはいえ前に取りつくことはできていたけれど、400m距離が長くなったうえで直線の長い東京の舞台では少し危ないんじゃないか。私の言葉に、トレーナーさんはそれならと頷いてくれた。

 基本的にスローペースであればあるほど、前にいるウマ娘も後ろのウマ娘と同じぐらいスパートをかけられる。そうなると後ろにいる子は前の子と距離を詰めるのが難しくなる。だから、放送やタイム表示を見なくてもペースがわかるようにラップ走の特訓を積んで、せめて体内時計だけは信じられるように、してきたはずで――

 

(え、え……?)

 

 スタートしてすぐに前がどんどん固まっていく。私を置いて。

 

(もしかして、みんな前を取りたがった……?)

 

 日本ダービーは前が有利だし、私だって皐月賞では塞がれたくなくて前を取った。だから皆前を取りたいのかもしれない。だって、ここはダービーだから。

 そんなことを考えている間にあっという間に私はぽつんと取り残されて、ほとんどのウマ娘を前に見るところに残されてしまっていた。コーナーを回り切って向こう正面を走るころには、私の後ろには2人しかいない。目を細めて先頭の場所を見る。

 

(たぶん、59秒……? 早い……!?)

 

 よく見えなかったけれど、明らかにブリーフィングで話し合っていたペースよりも速い。前の子が本当にセーフティーリードを保てるのか怪しいライン。でもスタミナ自慢の子も前にいることは確かで、置いて行かれてしまった私はこのままだと届かない。

 

(少しだけ、少しだけ、ペースを上げて……)

 

 じりじりとポジションを上げようとする。なかなか差は詰まらない。でもこれ以上一気にペースを上げて進出して、また皐月賞の時と同じように後ろから来られてしまたら、でもずっとこのポジションにいてもいいのか――

 皐月賞の時と同じように思考がぐるぐるになりはじめる。暑い。頭がぼーっとしてくる。

 でも、今回は、一度考えるのをやめることなんて、できなかった。

 

(っ、違うっ! 下り始めたってことは、今からスパートをかけても外でロスになる……!)

 

 強く踏み込みかけた脚を止める。坂を下りはじめる。どうするかを決めてから踏み出したかった。

 直線まで待つか、内でポジションを上げるか。外を見る。前を見る。誰ひとりだって、目は死んでいない。誰もが、このレースを勝つつもりで走っている。

 

(――ドウ)

 

 外の少し前、こっちを見ることもなく、前だけを見て走るドウ。

 

 インでいい。

 たとえ抜け出せなかったなら、それは判断ミスかもしれない。

 でも、ドウは絶対に突き抜けていく。そんな気がした。

 だから――

 

(――ドウに合わせて、抜け出せる)

 

 根拠もなく、そんなことを考えた。

 

 直線に立ち上がる。割れんばかりの歓声が聞こえる。行進のような足音がうるさい。

 隙間から先頭の子がちらっと見えた。脚の上がりが鈍い。それが見えたのか、隣の子が捕まえにペースを上げる。

 

 ど、と大地が震えたような気がした。

 隣の子の後ろから、猛然となにかが追い上げる。

 それがドウだと気付くのが、一瞬遅れた。

 

(――っ!!)

 

 踏みしめる。坂を駆け上がる。上りきったらあとは300m。ものすごい勢いで先団だった子たちの背中が迫ってくる。抜く。抜く。抜く。ドウにも、手が届く。

 

 

 

「――があああああっっ!!」

 

 

 

 弾かれたように、ドウの背中が遠ざかる。私より前で、私より早くスパートをかけたドウが。まるで誰かからの後押しがあるように、ドウはスピードを落とさないまま駆けていく。

 つられて周りの子も絞り出すように追加のスパートをかける。追いすがる。抜く。絞り出す。抜く。声も出ない。詰め寄る。あと少し。詰め寄る――

 

 

 最後の背中だけは、抜けないまま。

 私はまた、2番手でゴール板の前を駆け抜ける。

 

 

 倒れ込んで、掲示板を見上げる。

 レコードの赤いランプの上。私の番号はやっぱり、2着のところに灯っていた。

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