天皇賞秋から有馬記念に向かう。
そう決めてからの練習期間は
長くはなかったが――
「ふっ、ふっ、ふっ……」
Ωペースはそのまま、あと1本!
夏前までは菊花賞に行けるようなメニューを
組んでいたからか、単純にダービーから
100m延長するだけからか。
イクイノックスは2500mという舞台にも、
みるみるうちに順応していった。
そして、時を同じくして――
「年末のグランプリ、有馬記念の
ファン投票の結果が発表されました!」
「投票上位には、凱旋門賞へ挑戦したウマ娘たちや
国内でめざましい活躍を残したウマ娘たちが
名前を連ねています。」
「国内組の注目はなんといっても
イクイノックスさんではないでしょうか。」
「そうですね、クラシック戦線とシニア級との
対決、両方でいい結果を残していますし……
やはり、期待の声というのは高まると思います。」
あちこちのメディアで、イクイノックスが
注目を集めはじめていた。
有馬記念の関門であるファン投票が問題なく
通過できたというのは喜ばしいが……
Ω(プレッシャーだろうな……)
イクイノックスはこういう目を
素直に受け止めすぎてしまう傾向がある。
それに、夏に菊花賞を回避する原因になった
ダメージについても考えものだった。
大目標から次の大目標までの間隔としては、
皐月賞からダービーの時とそう大きく差はない。
ダービー後のダメージを考えると、少し不安だ。
しかし、そんな自分の不安とは裏腹に――
Ω……自己ベスト! すごい!
「ふーっ、ふう……
トレーナーさん、大丈夫そうでしょうか……?」
Ω大丈夫とかじゃないよ、完璧!
イクイノックスはとても順調に、
有馬記念に向かって進んでいた。
―//―//―//―
そして訪れた有馬記念当日。
イクイノックスはというと……
「あ、あはは…… おはようございます……」
思ったよりも緊張はしていない……気がした。
夏までが緊張しすぎだったといえば
その通りなのだが……
Ωなにか心境の変化でもあった?
「え……? なにか、って言われても……」
あまり深追いしてしまっても
逆に緊張させてしまうかもしれない。
そんなに難しく考えないでほしいと
言葉をつけたす。
少しあってイクイノックスは、
ためらいながら口を開いた。
「……ドウのぶんも、頑張らないと、とは
相変わらず勝手に思ってますけど……」
「でも、勝手にです。それで緊張しなくなる
わけでもないですし……」
「その、ドウに言ったら『そんなことしなくても
大丈夫だ』って言われそうで……」
トーンダウンしていくイクイノックス。
Ω別に向こうもそれで怒るようなことはしないよ
いったんなだめながら考える。
もし、イクイノックスが他人の想いのために
走れるウマ娘になってきたというなら――
このグランプリという大きな場で、
彼女はどんな走りを見せてくれるのだろうか。
それが少し、楽しみにもなった。