イクイノックス 育成ウマ娘イベント   作:土見

33 / 47
※イベントシナリオではなく、走るイクイノックス視点からのレース描写話になります。
展開や順位などはある程度史実のレースに準拠しますが、解釈はオリジナルです。


宝塚記念、ターフの上から

 

 

 

 考え事をしてたら出遅れかけた。

 慌てて踏み出した何歩目かが滑りかけて、一気に前に追いつくのが難しくなった。

 外側から壁が怒涛のように押し寄せてきて、私はあっという間に内側の後方――届かない場所へ押しやられた。

 言われているようだった。「勝たなくていい」と。

 

 歓声が聞こえる。500mちょっとの直線は私がもたもたしている間にあっという間に過ぎ去っていく。コーナーを回っている私の斜め後ろには1人いるだけで、あとは私の後ろに誰もいない。単純計算で今私は16番手ということになる。

 私には、わからない。このまま自分が沈むのと、少しでも順位を上げるためにあがくこと。どっちが私に望まれていることなのか。

 どっちを選んだとしても、全員を満足させることはできない。気にしたってどうしようもない。そんなことは、わかってる。わかっていても、どうすればいいのか切り分けることができない。切り分けることができないのに、脚は勝手にペースを刻む。たぶん、前のペースは速いんだろう。

 目の前の子はずっと足を溜めている。私は、もし勝ちたいならどうするべきなんだろうか。短い最終直線を意識して早仕掛けするべき? それともハイペースの前崩れを受けるためにまだ控えるべき?

 自分が今どうしたいのかもわからない。足が勝手に回っているだけ。どこを走っているのか、自分がどれくらいのペースで走っている想定なのかすら定かじゃない。

 前の子が大きく動いた。だから、何も考えずに私もその背中をついていく。ついていこうとする。

 

(……っ)

 

 遠心力で大きく外に身体が振られた。……第3コーナー? もう? 今は始まって何秒で、結局ペースはどれぐらい速い? さっき前にいた子はどこまで前に行けた? そもそもあの子は誰だった?

 頭の中がどんどんぐちゃぐちゃになっていく。どうにかギリギリ踏みとどまりながら第4コーナーに差しかかる。全体がぐっと縮まって、前と後ろの差がなくなる。

 

(……いちばん、そと)

 

 光る道が、見えた気がした。だから私は、街灯に集まる虫みたいにそこに足を踏み入れる。

 その意味がわかったのは、強く踏み込んでからだった。

 

(ぁ、ち、がっ……!)

 

 ほぼコースのど真ん中、猛烈に外側なコースを私はなぜかスパートしている。遠心力に耐えるために体勢を低くする。脚は、止まらない。地面が揺れるような歓声。私は押し出されるように前に進む。

 

(え、先頭……っ!?)

 

 内を見る。じりじりと内の子たちと差がついていく。どうするべきか悩んだ。その時。

 

 

「――やあああっ!!」

 

 

 鋭く響く声が聞こえた。一瞬遅れて、影から1人迫ってくる。それが誰かはわからなかったけれど、このままなら私を抜き去って突き抜けるだろう。

 出遅れて、全力を出したうえで負ける。これならきっと、私の精で嫌なことを考える人は少ないだろう。だから――

 歓声が吹き上がる。

 

 

「……勝た、なきゃ」

 

 

 私の中の何かが、それを許さなかった。

 

 

 

 私は、自分が何をするべきなのかを完全に見失った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。