イクイノックスは、先頭のままゴール板の前を
駆け抜けていった。
「お、おいおい…… ちょっと調子悪いかもって
思ったのに、メチャクチャ強いじゃん……!」
「どこまで強いんだ、イクイノックス……!」
Ωイクイノックス……
モニターの中のイクイノックスは、
明らかに挙動不審な様子だ。
精神的に絶不調なのは間違いないだろう。
しかし、それでもレースに勝ててしまう……。
むしろ、勝ててしまう。
間違いなくイクイノックスの身体は
今全盛期を迎えようとしている。
だが、メンタルはそうではない……。
一刻も早くイクイノックスの話を
聞かなくてはならない。
地下バ道へ駆けだす。
―//―//―//―
イクイノックスは、ふらふらと
足元もおぼつかない様子で歩いてきた。
Ωイクイノックス!
「……トレーナーさん――」
「私は、走って勝つことを望まれているって、
そう思ってたんです。」
「たぶんそれは間違ってなくて……
でも勝てば勝つほど、わからなくなるんです。」
「見てくれる皆さんの気持ちは、
だんだん離れていくような気がして……」
「……私は勝ち続ける意志も嫌われる覚悟も
両方無い、中途半端なウマ娘でした。」
「走るのも、やめるのも、私には……」
Ωいったん落ち着いて!
一息に気持ちを吐き出したイクイノックスを
ひとまず落ち着ける。
……ここでは誰が聞いているかわからない。
彼女の手を握り呼吸が整うまで待って、
控え室に戻ることにした。
―//―//―//―
「……ごめんなさい、トレーナーさん。」
Ω謝ることないよ、ごめんね
温かい飲み物を渡して、イクイノックスの
これからを考える。
今のままのイクイノックスが走るのは
間違いなく危険だ。精神的なダメージを
受けてしまうのが目に見えている。
……だが、走るのをやめてしまうのも
イクイノックスの本意ではないらしい。
彼女の中の「ファンの期待に応えたい」という
気持ちが失われたわけではない。
そして彼女は、あくまでも応援されている。
メンタルケアに関しても、自分は素人だ。
今から勉強して間に合うかは怪しいし、
それにリスクをかけることはとてもできない。
「次走は、ちょっと……
ごめんなさい、考えさせてください……。」
その言葉に、頷くしかない。
……次走をどこにするかだけではなく、
今後の進退も含めてだとしても。
順調なG1戦線の道のりとは正反対に、
目の前にあるのは袋小路。
何もできないまま事態が悪化する閉塞感。
自分とイクイノックスには、いったい
何ができて、何をするべきなのか。
暗闇の中、夏の足音だけが
近付いてきていた。