イクイノックスを取り巻く袋小路。
その解決の糸口が見いだせないまま、
夏合宿が折り返しを迎えようとしている……。
彼女の進路選択がどうであるにしても、
このまま精神的な負担を引きずったままなのは
あからさまによくない。
それでも、自分にできる範囲のことをしようと
作業を続けていたある日――
「あ、イクイのトレーナーさん。
……あの、イクイ最近どうしたんですか?」
―//―//―//―
(……私は、どうしたいんだろう)
(たくさんの人を振り回して、
それが嫌なのに走るのをやめることも
できなくて――)
「――イクイ!」
「ドウ……? どうしてこんなとこに――」
「イクイ、なんで相談してくれないのさ!」
「……っ!」
「イクイのトレーナーさんに話してもらったよ、
だいたい全部……!」
「なんで言ってくれなかったのさ……
それだったらアタシだって、一緒に――」
「――違うんだよ、ドウと私は!」
「ドウには叶えたい夢も、
たどり着きたい目標だってある!」
「でも、私は――」
「私には、もうなくなったんだよ!」
「キタサン先輩みたいに、応援してくれる皆が
期待を背負わせてくれる、そんなウマ娘じゃ
私はない……!」
「走るたびにファンから距離を置かれて、何が
『皆から期待されるウマ娘』だよ……!」
「イクイ、アタシは……」
「……イクイのトレーナーさんに言われたんだ。
どうかイクイには、次の道を自分で選ばせて
あげてほしいって。」
「イクイの優しいとこも全部を見たいところも
欠点ではないから、治してまで何かを
してほしくはないって……。」
「でも、でもさぁ……!」
「……ドウ、」
「――ぁ、っ!」
(タタタタッ!)
「……イクイは、他人のために走りたい。
自分の目標も夢も、今すぐには決まらない。
ファンの人の声もすぐには変わらない……。」
「――じゃあまず、アタシたちを背負うのは?」
「……う、ん?」
「もしイクイが走って、強ければ強いほど、
一緒に走って迫ったウマ娘たちも
強いって言われることになるでしょ?」
「それだって、『たくさんの人の期待を背に
走るウマ娘』になるんじゃない?」
「え、ん……?」
「誰だって関係ない、戦った相手全員を
巻き込んで、振り回して、それでも
戦い続けて……」
「それで、いつか私たち皆が『強かった』って
言われるなら、それってきっと『期待と夢を
背負っていた』と思う、アタシは!」
「だからさ、気にしないのは難しいと思うけど……
優先順位をちょっとだけ上げてみて――」
「わ、ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「言いたいことは、わかったし……
そう考えられるっていうのも、わかった。
わかったけど……!」
「なんで、なんでドウはそもそもそんなに私に
走ってほしいの……?
だって私は――」
「っ、わかりきったこと言わないでよ!」
「アタシの親友! ライバル! 目標!
越えなきゃいけない、今の最強!」
「全部――オマエだからだよ、
イクイノックス!!」
「……だから、アタシのワガママでもいいなら。
ちょっとでもその気になったんだったら……
アタシは待ってるから、天皇賞秋で!」
「――後悔させない。アタシまでイクイから
離れてくなんて言わせないから……!」
「ド、ウ……」
「……それと、
イクイのトレーナーさんだけど――」
―//―//―//―
話を聞いたドウデュースが飛び出していって、
あっさり見失ってから1時間ほど経った。
手がかりもなく途方に暮れていたところ。
「……トレーナーさん。」
Ωイクイノックス!?
イクイノックスが帰ってきた。
どうやらドウデュースは
一緒ではないみたいだが……
「すみません、ご心配をおかけしました……。」
「……決めました。次の、行き先。」
「本当に、バタバタさせちゃってすみません。
――天皇賞秋に、行きたいです。」
イクイノックスは、確固たる意志を持って
次走を言った。なにか吹っ切れたのだろう。
何があったかは後で聞くとして。
Ω……っ、うん!
まずは一も二もなく頷く。
天皇賞秋の資料は当然用意してあった。
それを出そうとしたところで、
イクイノックスに指摘される。
「……あの、その資料って何通りぐらい
用意してあるんですか……?」
そういえば、数えてはいなかった。
言われた通りに数えてみる。
天皇賞秋の他にもマイルに挑戦するルート。
長距離重賞で来年の天皇賞春に備えるルート。
一度下積みをやりなおすパターン。
海外のレースも秋シーズンは全部調べた。
引退時の手続きや補償、再就職について、
学園内でのキャリアのつけかた――
「……その、絶対私が言うのも間違ってますけど、
これ全部用意したんですか……?」
Ω自分にはこれしかできないから
レースでも人生でも、自分にはイクイノックスを
送り出すことしかできない。
だからせめてと思って……と話す。
それを聞いて、イクイノックスは。
「――あー、やっぱりドウが言うとおり……
私たち、ちょっと似てきちゃったのかも
しれませんね……?」
苦笑いとはいえ、久々にリラックスした
笑顔を見せたのだった。
このイベントは後で加筆・修正を行うかもしれません。