イクイノックス 育成ウマ娘イベント   作:土見

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※イベントシナリオではなく、走るイクイノックス視点からのレース描写話になります。
展開や順位などはある程度史実のレースに準拠しますが、解釈はオリジナルです。


シニア級天皇賞(秋)、ターフの上から

 

 

 

 ブリーフィングでトレーナーさんから最初にされた質問は、「自分のことをマークしようとするウマ娘が何人いると思うか」だった。

 私以外の今日の出走者は10人。ドウは間違いなくマークしてくるとして、それに追加で2人くらい。……夏までの私なら、迷うことなくそう答えていたと思う。でも、私の目指すウマ娘の形は、そう答えることをよしとしなかった。

 

「……先頭の子以外、全員。そうであるように、頑張ります」

 

 トレーナーさんは一瞬びっくりしたみたいな顔をして、それからひとつ咳払いをした。

 ――「客観的に見ても、マークできるウマ娘は全員マークしてくると考えたほうがいい。最低でも7人」。トレーナーさんは、そう言った。

 そのうえで、トレーナーさんは次の質問を私に投げかけた。

 「ほとんど全員がマークしてくるという前提で、イクイノックスはどういう風に勝ちたいか」。

 

 

 

 乾いた府中の空に、ゲートの音が響く。身体はぽんと前に飛び出して、去年よりいい位置が狙えるポジションだった。

 コーナーを回ろうとしたところで、ぐんっと1つ影が前に回りこんできた。去年も対戦した先輩。今年はハナを切って逃げるつもりなんだと思う。他のウマ娘も楽に逃げさせないように走路は確保するけど、無理にハナを奪いにはいかない。コーナーに差し掛かって、一瞬だけペースが緩んだ。

 

(まずは、ここ……!)

 

 隙間を抜け出して、前へ。ちらっと前の2人がこっちを見た。私も後ろを確認する。少しだけ後ろの子もこっちを意識しているようだった。まずは、第1条件クリア。

 

 私は、勝ちたかった。それもなるべくなら、一緒に走った誰もが、見ている誰もが納得するような勝利が欲しかった。そうすれば、きっと……少しぐらいは、私も背負えるようなウマ娘だと認めてくれる人が出てくれると思ったから。

 そう伝えると、トレーナーさんは少し考えてから、「スタートが上手く出られたなら」という前提条件をつけて作戦を一緒に考えてくれた。……作戦と言えるほどのものかはわからないけれど。

 

 向こう正面にしっかりと入る。ほとんど隊列は固まったみたいで、私のポジションも3番手に落ち着いた。先頭の子が見える。ペースは、速い。

 パンサラッサ先輩の言葉を改めて思い出す。「大逃げになるかは、ペースが速いかどうかよりも後ろが追いかけるかどうか」。つまり。

 

(私が追いかける限り、誰も大逃げはできない)

 

 今度はトレーナーさんとのブリーフィングの再確認。

 ある特定の強いウマ娘に勝つ、という観点に大きく注目してレースを構成すると、基本的に「対象のウマ娘より前にいたいウマ娘」と「対象のウマ娘より後ろにいたいウマ娘」に分かれる。各々のセーフティリードをとって振り切るか、そのウマ娘より強い豪脚を使って勝つか。もちろんそれぞれのポテンシャルや戦略、その時々の瞬間的な判断によって変わってくるけど、どっちの戦略を取るにしてもある程度そのウマ娘との相対距離は大事になってくる。

 逆に言えば、もし誰もが私との相対距離を気にしているなら。私が、全員のポジションとペースを決めることになる。

 

 2番手の子がこっちを見てくる。たぶん、私がもっと後ろにいる想定だったんだろう。先頭の子はこっちを振り返る余裕もなさそうだった。それもそうだろう。このままのペースでいくと、たぶん去年のパンサラッサ先輩とそんなに変わらないペースで先頭の子は走ることになる。それなのに、去年と違って全員が先頭の背中を見られる位置で固まっている。ペースは下げられない。

 58秒を少し過ぎたあたりで残り1000mの標識を過ぎる。去年と同じように、はるか向こうから歓声が聞こえたような気がした。一番後ろの子も60秒少し過ぎぐらいなら、私の作戦も上手くいっているんだけど。

 すぐに大欅を過ぎて、第3コーナーを飛ぶように走る。明らかに、不条理なハイペースだ。上手くいっているなら、私がそうした。圧倒的に後方待機が有利で、3番手にいる私はこのままだと潰れてしまう。

 

 ――でも、そうじゃなければ。

 自分からレースを作って、それを乗りこなす。

 このハイペースから、まだスパートをかける。

 それぐらいできなきゃ、それぐらいやろうとしなければ、私は何も背負えない。

 私は、私の夢があるって信じてくれる人たちに、私を信じてくれる人たちに、私の信じる人に、顔向けできない。

 

「ここ、からぁっ!!」

 

 だから私は、強く、強く踏み出す。

 身体はまだ軽い。あと500mとちょっと。まだ、まだいける。

 前の2人との距離が上り坂で縮まって、ゼロになる。前に誰もいなくなる。後ろからの足音は、まだ遠い。どこまでも、遠い――

 

 うるさいほどの歓声の中、私はようやく。胸を張って、先頭で決勝線を通過した。

 

 

 

 ようやく、1歩め。

 夏合宿で私が考えたワガママを叶えるためのスタートラインに、私は立った。だから。

 

《レコードおぉっ! なんとタイムはレコードぉぉっ!!》

 

 その1歩めに、赤いランプがついたのは。なんというか、できすぎたことだと思った。

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