クリスマス当日。
イクイノックスと自分は、近くの商店街に
足を運んでいた。
「わ、ぁ……!
ここのイルミネーション、
今年は気合入ってますね……」
イクイノックスは、コンビニで買った
エクレアとココアを片手にイルミネーションを
眺めている。
大目標としていたジャパンカップが終わり、
いったん肩の荷が下りたのか。
イクイノックスのテンションも心なしか高い。
Ωとりあえず座ろう
ベンチを探し、並んで腰をかける。
ひと心地ついてぼうっとイルミネーションを
見上げていると。
「本当、ウソみたいですよね。
まだあのジャパンカップから1ヶ月も
経ったなんて……。」
「月並みな言葉ですけど、
本当に、今でも現実なのが
信じられないっていうか……。」
Ω現実だよ、間違いなく
とはいえ、現実感がないというのも
わからなくはない。
実際、自分もなかなか信じがたい部分がある。
2年前の年末。クラシックに向けて
努力を積んでいたころと今のイクイノックスは
驚くような変貌を遂げている。
不安症も、最初に比べたらずいぶんと
鳴りを潜めたように感じる。
そんな話をすると――
「……実は、まだ全然不安なんですよ?」
「でも、たぶん……
『それどころじゃない』っていうのが
一番大きいのかな、って……。」
「踏み出さないと進めない。
踏み出したら、不安なんて感じているヒマは
もうどこにもない――」
「この瞬間のために、歩いていくしかない。
……皆が気付けてたことを、ようやく
私もわかったんです。」
ココアを握りしめるイクイノックス。
それは不安を堪えているようでもあり、
決意を表明しているようでもあった。
「遅くなっちゃったけど、ちょっとずつ。
……期待されるようなウマ娘を目指して。」
「不安なままでも、わからないままでも――
私が私のまま、変われなくっても。」
「あの時のジャパンカップみたいな、
あの瞬間を作っていけるなら。
頑張って、踏み出していかないとって……。」
イクイノックスはイルミネーションを
見上げる。横顔が照らされて、自分には
輝いているように見えた。
ふと、目が合う。寒さにほのかに頬を赤らめた
イクイノックスは、リラックスした笑みを
浮かべてくれた。
「……来年も一緒に、頑張ります?」
その笑顔に、思わず言葉が溢れる。
Ωもちろんだよ、私の『世界最強』
「ふふっ、なんですかそれ……
……それじゃあ、今日はゆっくり準備の準備を
しましょうか?」
クリスマスらしいことではないけれど、
結局自分たちにはこれが一番
それらしい休日の過ごし方なのかもしれない。
ふたりで作業をする時間。
期待に溢れた未来を目指しての助走期間。
クリスマスプレゼントには過ぎると思った。
ベンチから立ち上がる。
寒い風が吹き抜けるが、心は寒くなかった。
ちらつき始めた雪と電飾を楽しみながら、
イクイノックスと肩を並べてトレーナー室へ
引き返すのだった。