不遇水魔法使いの禁忌術式   作:リョー・バッキー

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MATCH.03 襲撃

 「消えぬ火(アシュベストス)の門を開けろっ!変態野郎の火葬開始だあ──っ」

 

 瞬間、燃え上がった松明の炎が蛇のようにのたくりながら宙に躍る。

 

 「燃え尽きろ変態野郎っ!〝舐めずる蛇炎(グロッシ・オセイ・ピュロス)〟だあっ」

 

 「ま、マスター……!」

 「……心配しないで」

 

 突然のことに硬直したサーシャを抱き寄せ、そっと囁いた。

 

 「……この程度、どうにでもなるから」

 「大した自信だなあ──っ変態野郎っ!この俺様の炎は消えぬ火(アシュベストス)!てめえらクソ陰気(ミズ)野郎に消せる火じゃねえんだよッえ────っ」

 

 罵声の中でも頭は冷えている。

 宙を舞う炎の蛇に、この手を掲げる。

 

 「〝第二の争い(シテナ)────凪ぐ水鏡(ガレーネ・メガレー)〟!」

 

 ガラスのように薄く貼られた水の盾。その正面に突っ込んだ炎の蛇たちは──ジュッと音を立てて消え失せる。

 

 「なにっ……!水魔法ごときに俺様の火があっ」

 「悪いね、第一階梯ごときの炎が消せないような水じゃないんだ」

 

 〝消えぬ火(アシュベストス)〟は火属性の位階としては最低層のもの。確かにただ水をぶっかけただけでは消えないかもしれないが……魔術によるもの、それも…更に上の存在である第二階梯の魔法でなら、簡単に消えてしまう。

 

 「な……何を言ってるんだあっ? こ……この変態野郎がっ」

 「位階差も理解していない三下ごときに負けるほど弱くはないっ」

 

 掲げた手から圧縮した水弾が飛ぶ。魔力によって粘度を付与された水の塊に胸を打ちつけられ、男が跳ねた。

 

 「うああっ……やめろっ! やめてくれえ──ッ」

 

 壁に叩きつけられた男が命乞いをしている。

 むき出しの悪意に怯えていたサーシャは、もうすでに冷徹な瞳をそいつに向けていた。

 

 「すみません、マスター。混乱してしまいました」

 「いいんだ。あれくらい大した相手じゃなかったんだから」

 

 水色の頭を撫でる。無表情ながらどこか嬉しそうなサーシャの表情が──

 

 「な、なあ……変態野郎、よお……。そ……その女はなんだよ。お前が盗み出したのは女の死体(・・・・)じゃねえのかよ……? で……でもそいつ、生きて……。そ……それに髪の色だ。 な……なんだよそのバカみたいな色はよ……俺は茶色の髪の土属性の女って聞いて……! ま……まさか」

 

 男が目を見開く。驚愕と恐怖がその顔を彩っている。

 

 「ま……まさかお前──ッ! い……生き返らせたのか〝禁忌の魔術師〟のように、し……死者を蘇らせたのかあっ! ヒィィイエエエ───ッ!〝禁忌(・・)〟だっ! それは〝人の手に余る罪(・・・・・・・)〟だあ──っ」

 

 「そうだ!それがどうした───!」

 

 腕の中のサーシャを強く抱き寄せる。

 歪な形でも蘇った幼馴染を、もう二度と失うわけにはいかない。

 たとえその手段が禁忌であろうとも、それが必要なことならばやるのみだ。

 男はそれでも絶叫する。

 

 「な……なにを平然としていやがるっ!こ……この変態禁忌野郎があっ!ゆ……許されない。許されないぞ……〝異端狩り(エグゼタステス)〟になあっ」

 

 

 「──やれやれ。この期に及んで他力本願とは……魔術協会の尖兵共も質が落ちたものよ」

 

 風が吹き荒れる。魔力を含んだ、荒々しく力強い旋風──。

 

 「──こんにちは(・・・・・)、禁術使いのキマ・レウミデスくん、それと……〝禁忌〟そのものと化した死体(・・)さん」

 

 所々に鎧のようなパーツのついた異形の神官服。

 オールバックに撫でつけた、灰色の髪。

 その男は、一見しただけでも只者ではないとわかる風貌をしていた。

 

 「ああ──勘違いしないで頂きたい。そこの死体(・・)の名を呼ばないのは知らないからではないし、もちろん〝女性の名前を呼ぶのが恥ずかしい〟なんて理由でもない。──だが分かってほしい、我らは神のため、人のために在るのであって……〝死体〟のためにあるのではない。死体に人と同じ扱いはしないだろう? それだけのことだ。それが動いているとしても……ただその体の内に悍ましい〝禁忌〟の力が働いているというだけで、蔑みこそしても慈しむ理由などないのだ」

 

 滔々と語りながら固い靴音を立てて暗い石室の中を歩き回る神官服の男。

 

 「ああ──長々と語ってしまったが、名乗りもしていなかったか。……では改めて、告げるとしよう」

 

 男は懐から何かを取り出し、見せつけながら言う。

 

 「我が名はダイク・アナクリオス。君たちも察しているだろうが──異端審問官(エグゼタステス)だ。普段は神の教えに背く者共を裁くのが役目だが……こうして禁忌を犯す者たちを処断するのはなかなかどうして久しぶりでね。高揚しているのだよ」

 

 「そ……そんなことはいいっ! お……俺を助けてくれよっ神官様っ」

 

 「……やれやれ。弱いものほどうるさいとは言うが……仕方あるまい。三下(・・)くん、名前を聞かせてほしい」

 

 「お……俺は三下なんかじゃねえ!ミゼット・トゥクダニーヤって名前がきちんとあるんだあっ」

 「ふうん……ミゼットくんね。いいだろうミゼットくん、私と協力し合おうじゃないか。私は風、君は炎。相性はバッチリだろう?」

 

 神官服の男が差し伸べた手を、粗野な男はがっしりと掴む。

 

 「感謝するぜっ神官様っ! この俺様の力が必要ならいくらでも言ってくれやっ」

 「ハハハ……なかなかどうして、まだ元気じゃないか」

 

 男たちは手を取り合い、こちらに向き直る。

 

 「マスター、あの男は──強そうですね」

 「ああ、かなりね。〝異端狩り(エグゼタステス)〟といえば教会の裏の精鋭部隊……あの三下とは比べ物にならないだろう」

 

 「──そうですか。理解しました」

 「……サーシャ?」

 

 なにか覚悟でも決めたような声音のサーシャに違和感を抱く。

 だがその違和感を問う前に、男たちの手が翻った。

 

 「ヒャヒャヒャヒャハハ!お前らもう終わりだぜえ!火葬再開だあ───っ」

 「はっはっは、元気だねえ……」

 

 「消えぬ火(アシュベストス)ゥ────っ!!」

 「───────静かなる凪(ペフィモソ)

 

 松明から吹き上がる炎が、渦巻き始めた風に呑まれて火勢を増す。

 第二階梯の風魔法によるブーストが、貧弱な火属性を凶悪に補い、強力な破壊の力を纏いとぐろを巻いている。

 

 「さあ──っ! やっちまってくださいよ神官様あ──っ」

 

 野卑な男──ミゼットは喜色を顔面に浮かび上がらせて叫ぶ。

 対するダイクは、冷静に……いや、冷徹に笑って言った。

 

 「すまないねえミゼットくん(・・・・・・)

 

 瞬間、炎を纏った竜巻が膨れ上がり──ミゼットを飲み込んだ。

 

 「うああああああっ!!! な……なにをっ」

 

 炎に呑まれながら叫ぶ人間の前で、善良に微笑んだ神官が嘲笑う。

 

 「ははは……三下を利用するには命ごと燃やすのが手っ取り早い。いいかねミ()ットくん、君は私によって殺されるのではない……禁術使い共との戦闘で自爆し悪しき者たちを滅ぼしたのだよ。いい筋書きだろう?」

 

 異形の神官服に身を包む男は、静かに燃え盛る竜巻に語りかける。

 

 「さあ──最後の仕事をしたまえ、リゾットくん……。まあ、私は帰らせてもらうがね」

 

 男が突風を起こして消えると同時に、炎が膨れ上がる。

 爆燃する旋風が狭い石室を覆い尽くすのに、数秒もいらない。

 

 「────ッ!」

 

 熱にくらむ視界の中、サーシャの声が聞こえた気がした。

 




◇爆発…。

次号、二人の運命が……?


※三下くんの名前は手元にあったプラモからつけられています。
佃煮屋のプラモなんて誰が買うんや?と思った人。それは僕です……。
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