不遇水魔法使いの禁忌術式   作:リョー・バッキー

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MATCH.08 手段

 「──それで、どうするのキー君。〝錬金術(通貨偽造)〟はいいけどさ……小銭しかないから、大したものは買えないと思うよ?」

 

 ぶらぶら街を歩きながら、サーシャと話をする。

 

 「そうだね……確かに小銭をジャラジャラ持って武器屋なんて行っても門前払い確定だしね」

 

 「武器屋……あ、そっか。荷物全部持ってかれたから、わたしの杖もキー君の……剣とか杖とかいろいろなの、全部ないんだ」

 「そうなんだよね」

 

 流石に危険を冒してまで取り返しに行くほどのものでもないが、街を出るに当たって手ぶらというのも……まあ、危険は大きいだろう。

 そして、その準備を揃えるには明らかに金銭が不足している。

 

 「家には……やっぱり、帰れないよねえ……」

 「うーん……僕の家は張られてそうだけどね。サーシャの方はどうかな……」

 「でもね〜。わたし家にそんなに貴重品とか置いてないし、銀行とか貸金庫に取りに行くのは……危険だよねぇ」

 

 そりゃそうだ。この街の貨幣を司る銀行と、そこに併設された貸金庫は行政を握る魔術協会とズブズブであるがゆえに、魔術師にとっては安心して預けられる場所──一般市民にとってどうなのかは知らない──だが、ズブズブということは網を張りやすいということでもある。

 

 つまり……正当な手段で金を取りに行くのは危険だ、ということになる。

 じゃあ正当じゃない手段でどうにかするしかない。

 ああカスの理論。まっとうさの欠片もないロジックだ。

 

 「……前から入れないなら裏から行くしかないよね」

 「わあ……銀行強盗までやっちゃう? それとも金庫破り?」

 「……いやいや、強盗って。もっと穏便に済ませようよ」

 

 首を振る。銀行に押し入って金を奪い、逃走する……まではどうにかなるかもしれないが、悠長に買い物している間にその店をサツの群れが包囲しているのは想像に難くない。

 そうなれば多勢に無勢、いくら暴れても捕まるしかない。

 僕はまたホモ看守の睨みをきかせる牢獄にブチ込まれ、サーシャは死ぬまで教会の審問と魔術協会の非人道的実験室の間で反復横跳びをさせられることだろう。

 

 「う〜ん、さすがにそれは嫌だな〜」

 「だからそうならないようにするんだろっ」

 

 ごもっともです、とサーシャは頷いた。

 「じゃあドロボーするしかないね」、と続ける。

 

 「いや、泥棒って──まあいいんだけど。そもそも僕ら、何が必要なのかな」

 「なにって、旅の必需品と言ったら……水──は要らないのか。キー君出せるし……あ、今はわたしも出せるんだね。あとは食料でしょ、武器……はキー君に剣とか杖とか、わたしの杖は……どうしたら良いかなあ」

 

 「どうしたら……って? 普通に前使ってたのをまた買うんじゃダメなのか?」

 

 「いや、ほら……〝わたし〟は前使ってたの……土属性(・・・)の杖でいいけどね? 今は〝ワタシ〟も使うんだから、土属性の杖じゃよくないんじゃないかと思って……二属性の杖なんて売ってないし、いっそ無属性にするとか……」

 

 「無属性の杖ェ──?」僕は顔をしかめた。

 そんなものを買っても仕方ないんじゃないか?

 

 ──杖というものは、魔法の発動をサポートする道具だ。持ち手があって、その中には魔力を通すために特殊な魔力の線が彫り込まれている。その線を描くのに使われるのは魔法陣を描くのと同じ技術だが、何らかの意味を持たせるのではなく、ただ魔力を集めるためだけの線なのだ。

 その行先は先端にはめ込まれた宝石になっていて、属性を持つ宝石が魔力を増幅してくれるから魔法が強くなる、という寸法だ。

 

 杖には属性を持つ宝石を使うので、違う属性の魔力を流すと……反発する。ただ宝石が割れるだけならいいが、下手するとボンッ、となることもある。

 それは危険だ、ということで……誰でも使える無属性の杖、というものもあるのだが──世の中、そう上手い話はないもので。

 

 無属性の杖というのは非常にシンプルな結論によって作られている。

 属性のある宝石に魔力を流すから爆発するのだ。

 なら──取っちゃえばよくね?

 ……という、身も蓋もない結論によって。

 

 当然ながら魔力を増幅する効果を持つ宝石を取るということは……その効果を失うということを意味する。

 つまり、無属性の杖というのは……めちゃくちゃ魔力の通りがいい、ただの棒である。

 ちょっと高いのを買うと先端にガラス玉がついている。

 

 当然ながら、効果はまったくない。

 

 

 ……で、あるので。

 僕の反応に、サーシャは「まあ、そうだよね」と肩をすくめた。

 「でもね、わたし達〝二人〟で使える杖ってないからね……」

 もう棒でも持っとくかな……それなら作れるし、とサーシャはボヤいた。

 

 「ああ、そういえば……僕の剣も作ってくれたよね。あれ、持っていかれちゃったなあ……」

 

 僕は長いこと、サーシャの土魔法で作り出された柄から鋒まで一体の鉄剣を腰にぶっ刺していたのだ。

 切れ味ははっきり言って微妙だったが、とにかく頑丈な鉄の塊で……魔法そのものにはそれほど殺傷能力がないとされる水魔法使いの僕にとっては、なかなかありがたい攻撃手段だった。

 

 「あ〜。あれ……。いいんだよ、持ってかれたって……だってさ、見る度ちょっと申し訳なく感じてたやつだし。あんまり慣れてない頃に作ったから……質が悪かったでしょ?」

 「えっ? いや、一度も折れなかったし……質が悪いと思ったたことはないけどな」

 

 それに、サーシャが作ってくれたやつだから──わりと大事にしていたんだ。

 

 「……えへへへ。嬉しいこと言ってくれるけど──それくらい作るって。もっと質のいいのをね」

 

 ──ということは、だ。

 僕の武器:剣。サーシャが作れる。

 サーシャの武器:棒……もとい無属性杖。サーシャが作れる。

 

 つまり、武器屋に行く必要は……ない。

 従って……大金を調達する必要も、これまたない。

 

 「……もしかして、食料があればいい感じ?」

 「そうかもしれないね」

 

 サーシャと顔を見合わせる。

 「……どうする? 泥棒なんて、やる必要がなくなってきたぞ」

 「…………あっ、そういえば。わたし、中央銀行にある魔術協会の金庫の場所を──」

 「やろうか」

 

 僕は即答した。

 魔術協会害すべし。




◇加速するクズ度…。

次号、大して必要のない金庫破りが…?
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