不遇水魔法使いの禁忌術式 後追いを超えた後追い版 作:ゴリラ
「……流刑地…」
流刑地とは、あの流刑地だろうか?即ち、流刑において、罪人の行き先になる土地。と言うことは、僕は流刑に処されたのか?んなバカな。誰に?なんの罪で?そもそもどこの国の流刑地だよ……それに、ペカトゥム砂漠なんて地名聞いた事ないが……。
乾いた風が砂を巻き上げ、頬を鋭く打つ。その痛みが、これが夢でも幻でもないことを思い知らせる。灼熱の太陽が頭上に燦々と輝き、容赦なく肌を焼き、喉の奥を渇かせる。遠くの地平線は陽炎に歪み、まるで異世界の景色のようだった。
自宅の洗面台からこんなところに来てしまった時点でうすうす考えていた、ここは日本どころか地球ですらないのでは?と言うクエスチョンに、アンサーが出てしまった……知りたくなかった事実だ。どうすんのこれ……。
……これ、サーシャさんに僕が異世界転移者である事は果たして話すべきなのだろうか……いや、今は保留で良いか。十中八九信じてもらえないだろうし。
それよりも思考を戻そう。ここが異世界問題は、問題も問題の大問題だが、今の一番では無い。今の一番の問題は、目の前の彼女、サーシャさんが流刑に処される程の犯罪者であるかもしれないと言う点だ。砂に半ば埋もれた革のブーツ、上質な生地の衣装、そして涼しげな笑みを浮かべながらも、その瞳の奥に一瞬宿った翳り。
どうしようか。もしかして僕、殺される?
そうして心地の悪い沈黙が流れ出した時、サーシャさんが口火を切った。
「えっと……やっぱり、もう少し言葉を選ぶべき、でしたかね? 自分がいきなり、流刑地に居ます。なんて言われても、困っちゃいますもんね……アハハ……」
彼女の貼り付けた様な笑い声が、やけに耳に痛かった。
………いや、もういいだろう。
彼女の様な美少女が犯罪者である筈がない!きっと冤罪かなんかだ!そもそも、犯罪者が砂漠に倒れてる人間を救うだろか?いや、救わないだろう。だから、彼女は犯罪者ではない!Q.E.D.証明終了。サーシャ is Justice!!これでいいじゃないか!そう心に決めて、口を開く。
その口は、何故だかとても軽かった。
「いや、ここが流刑地だと知って驚いたけど、まぁ来てしまったものは仕方ない。取り敢えずは、ここから脱出しないと行けないね!」
気丈に振る舞おうとするも、口の中に残る砂の味と、じっとりと浮かんだ汗が、僕の内心の不安を拭いきれないことを思い知らせる。
「サーシャさんは、ここから出る方法とか知ってるかな?」
「……えーっと……砂漠から出る方法は、わからないです…ただ、ここから少し行った先に町がありました……なにも聞かないんですね……」
彼女は少し唖然とした後に、そう言った。最後に何か言っていた気がするが、聞き取れなかった。そういう事にした。いや、聞けるわけないだろ、常識的に考えて。
そういう所が、大好きです。愛しています
砂漠の風がまた吹き、彼女の髪をなびかせる。淡い水色の髪が、陽光を受けてきらめくその姿は、まるで蜃気楼の中の精霊のように思えた。
しかし、そうか町なんて物があるのか…まぁあるか。オアシスの町とか聞いたことあるしな(ヌッ)。
「頼み事ばかりで悪いんだけど、よかったらその町に案内してもらっても…いいかな?」
「はい!大丈夫です!寧ろ、私の方から言い出そうと思ってた所なので!」
おずおずと頼んでみると、見事に了承を貰えた。しかも、自分の方から案内を切り出そうとしていたと言うのだ。天使か?女神だわ。
しかし…案内して貰う身でアレだが、流刑地にある町なんて、絶対碌な所じゃないだろうなぁ……。
ちらりと遠くを見れば、波打つ砂丘の向こうに、わずかに建物らしき影が見えた気がする。しかし、それは陽炎のせいかもしれなかった。
うん、考えないようにしよう。嫌な事からは全力で目をそらす。それが、心を健康に保つ秘訣である。人として何か間違ってる気がしないではないが……。
◇◆◇◆◇◆◇
そして、この予測がバッチリ当たる事になるとは、この時の僕はまだ知らない。
知りたくなかったなぁ…
◇◆◇◆◇◆◇
町へ向かう最中、サーシャさんと雑談に興じる。
黙々と歩くだけなんて、寂しいからね。それに、さっきまで独りで砂漠を彷徨い歩いていたのだ。人恋しくもなるというものだ。
空は青く高く澄み渡り、灼熱の太陽が砂の大地を容赦なく照らしている。見渡す限りの砂丘と岩場に囲まれ、吹き抜ける風は熱を帯び、皮膚に焼けつくような感触を残す。乾燥した空気が喉をひりつかせ、歩くだけで体力がじわじわと奪われていくのを感じる。
「しかし、サーシャさん、よくこんな所に町があるなんて知ってたね」
「ここ……砂漠の外じゃ、結構有名だったり?」
少し、疑問に思ったことを聞いてみる。いや、別にサーシャさんが凶悪な犯罪者で、その町とやらに居る仲間と結託して、僕を害そうとしている……とかなんて、一ミリも考えていない。本当だ。
………いや、まぁ無いか。サーシャさん、普通に良い人そうだしな。それに、人間関係構築の第一歩は、その人を信頼する事からだとか、何かで見た気がするし。
「いえ、私も先ほど初めて知りました」
ん?先ほどとな?
「先ほど……?」
「はい。使い魔を飛ばして、周囲を散策していた折に……」
使い魔…使い魔か……使い魔?
「えーと……聞き間違いかな?」
「いま、使い魔って……」
「いえ? 聞き間違いではないですよ?」
「使い魔の作成は、そこまで難しい魔法でもないですし」
サーシャさんが、きょとんとした顔でそう言った。
…………わーお。流石、異世界。凄いな。
「そっかぁ……いや、僕の居た所は魔法に馴染みが無くてね」
馴染みが無いどころか、魔法なんて想像の産物で、現実には存在すらしていなかったわけだが……
「珍しいですね……まぁそういう地域もありますか」
「すこし見ててください」
そう言って、彼女は虚空に向かって手を翳した。途端に、空気が揺らぎ、透明な水球がいくつもふわりと生まれた。陽光を受けてきらめく水の粒が、宙を漂う。これが魔法か……。
初めて見る魔法という現象に、興奮せずにはいられない。思わず、パチパチパチと拍手をしてしまった。
「これが、初級水系統魔法の『オルビス・アクァエ』です」
僕の賞賛を受けてか、サーシャさんの頬が心なしか赤くなっている気がする。かわいい。
「んっん!! ええとですね…今見せたのが魔法です」
「せっかくですから、魔法がどういうものなのかも説明しましょう」
「魔法とは、魔力を使って起こす現象のことを言います。魔法は、月・火・水・木・金・土・陽の、七つの系統に分かれています。そして、一つの系統を極め、頂点に立った者は、魔天の称号が贈られる……といか、魔天と呼ばれるようになります」
なるほど……こう言うのもなんだけど、なんかありがちだなぁ……流石異世界……?なのな?
「魔法についてはわかりましたか?」
「まぁ魔法は陽系統以外は適性が無ければ使えない……と言うと語弊がありますが、相当に鍛錬しないと碌に使い物にならないので、そんなに気にしなくていいと思いますよ」
「それに、陽が一番使い勝手の良い系統ですし」
ふむ……適性と……しかし、なぜ陽系統だけ別なのだろうか?
「なんで陽系統は別なの?」
「えーっと……詳しいことはまだよくわかっていないんですけどね? 陽系始原説……なんて説があってですね」
「ざっくり言うと、元々魔法は陽系統しかなくて、人類が陽系統と自分達の身体を改造していって、他の系統とそれを扱える体を作り出していった~ていう説なんです」
「まぁ正直眉唾なんですけどね?」
うわ、そんな説があるのか……もしその説が本当だとするなら、いくら新たな魔法を使いたいからって、身体改造までするか?正直、ドン引きだ。流石異世界。いや、流石か?
「なるほどねぇ……それでなんで、その説は眉唾なの?」
「それはですね、なんの記録も残っていないからなんです」
「普通、そんな過去があるなら、何かしらの記録なりは残っていないと変じゃないですか? でも、説の裏付けとなりうる記録は何にも出てこないんです」
「と言うかそもそもですね? 魔法に関する記録が、歴史が、遡っていると、ある時期を境にぱったりと途切れるんです……まるである日突然、魔法が現れたかのように」
「だから正直、眉唾というか……眉唾と言わざるを得ないんですよね」
「だって、魔法に関する記録自体が存在しないんですから」
なんとも不気味な話だった。この世界の歴史や文化は知らないが、そう言う記録が残っていないというのがおかしいというのは何となく分かる。おそらく、魔法とはこの世界の人々にとっては存在していて当たり前の物なのだろうから。なのに、その痕跡が途切れているのだという。これはどう考えても異常で、不可思議で、不可解で、気持ちが悪い。
だがまぁしかし、現状だと何も分からない。と言うか、分かるわけがない。謎は謎のままと言うわけだ。いやまぁぶっちゃけ、この件には触れない方がいい気がして来た。なんか気持ち悪いし。だけど、若干魔法と言う物には興味が湧いた。夢にまで見た……訳ではないが、何しろ魔法だ。向こうにはなかった物だから、使ってみたい気持ちは十分ある。気持ちは悪いが、まぁ歴史にさえ触れなければ大丈夫だろ。多分。きっと。メイビー。
「ところで話を戻すんだけどさ、魔法適性っていうのは、どうやって調べるの?」
「適性を知りたいんですか? うーん……それは、町についてからにしましょうか」
そんな話をしながら、目の前に広がる光景が変わり始める。
遠くに、ちらつくような緑の影。近づくにつれ、それが確かな木々の群れであることがわかる。地平線の向こう、砂と岩に囲まれたその一角には、豊かなオアシスが広がっていた。
そして、そのオアシスの縁を取り囲むように、日干しレンガ造りの町並みが見えてきた。乾いた空気の中に、どこか湿った香りが混じる。町の入口には背の高い壁が築かれ、見張り台のようなものも確認できる。風に乗って、遠くから人々の喧騒が微かに聞こえてくる。
「もう、着くみたいですし」
サーシャが指さしたその先には、灼熱の砂漠の中に息づく、人の営みがあった。
魔法…魔力を糧に、世界を想うがままに改変せしめる魔の法。七つの系統に分かれており、一つの系統を極め、その頂点に立った者は、魔天の称号を得る。
魔法に似た現象として、呪法や聖法が存在する。
月系統…精神や魂に関する系統(イメージとしては、とあるの心理掌握とか)
火系統…文字通り、火に関する系統。治癒も出来る(自己治癒に特化)(イメージとしては、NARUTOの火遁や灼遁やワンピのメラメラ)
水系統…水に関する系統。治癒も出来る(イメージは、NARUTOの水遁)
木系統…樹木に関する系統(イメージは、NARUTOの木遁)
金系統…金属に関する系統(イメージはNARUTOの磁遁やワンピのゴルゴル、ハガレンの錬金術)
土系統…土に関する系統。重量の操作も出来る(イメージは。NARUTOの土遁)
陽系統…身体に関する系統。身体強化や治癒等々が出来る。