不遇水魔法使いの禁忌術式 後追いを超えた後追い版   作:ゴリラ

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魔法の適性

◇◆◇◆◇◆◇

咎人の町2日目

◇◆◇◆◇◆◇

 

 目を開けると、目の前に顔があった。

しばらくそれをぼんやりと眺め──

「ドワァッ!?」

 奇声と共に跳ね起きた。

 

 心臓に悪い。頼むからやめて欲しい、普通に怖い。というか、いつから見てたのだろうか?

そんな僕の内心を知ってか知らずか、目の前の彼女──サーシャさんは、悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑いながら言う。

「おはようございます、悠太さん」

 

 僕はそれに対して、「おっ、おはよう」なんて言葉しか返せなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 朝食(魔獣肉の素焼。流石に朝からは重かった)を食べ終え、、ニルヴァさんの使いを待っている間、暇だったので、昨日話してすっかり忘れていた僕の魔法適性について聞いてみる。

「それで、どうやって調べるの?」

 

「一番簡単な方法は、水と葉っぱを使ったりとか紙を使う方法なんですけど……うーん? どこに仕舞いましたかねぇ……? ここかな?

 サーシャさんは鞄の中をゴソゴソと漁る。

「あれらは簡単な代わりに、大雑把にしか分からないので……あ! あったあった、これを使います

 そう言って、サーシャさんが取り出したのは、小ぶりなナイフ。

 

「えっと…? それで何が分かるの? それで分かるのは、僕の血とか肉とか臓腑くらいじゃない…?」

 

「それを調べるんですよ? ……って、ああ! 逃げないでください!」

 恐ろしい返答が返ってきた。三十六計逃げるに如かず。僕はまだ死にたくない。

 

全力で逃走しようとするが──

っ…逃げないでください!私から離れないで!!!

 その言葉と共に、体がピクリとも動かなくなってしまった。

 

「もう……ちょっと血を採るだけでいいんですから、そんなに大げさにしないでくださいよ…」

 いや、あれは言葉選びが悪かったでしょ……なんて思うも、思うだけで口には出さない。と言うか、出せない。口も舌も瞼でさえも、固まって動かせない。これが魔法の力……。

 

「しかし、思わず魔法を掛けてしまいましたが……大丈夫ですか? 何か痛みとか……あーそういえばこれ、喋れもしなくなるんでしたっけ……」

 その言葉と共に、体が自由になる。

 

「あぁ…大丈夫…それで……血を採るのか……」

 

「はい。魔力や魔法適性は『血』と密接に関りがありますからね。親兄弟なんかは魔力量も同じくらいで、魔法適性も全く同じ……なんてことは結構ありますしね」それこそ、私と姉さんの様に……ね

 DNAみたいなものだろうか? いや、そこまで絶対的ではなさそ——

「痛っ!」

 

 手の平に痛みが走る。見ると、サーシャがナイフを持ったまま、僕の手の平に切り傷を作っていた。

「ちょっと! 危ないので動かないでください! 切れすぎたらどうするんですか!」

 

 何故か怒られた。

「えっごめん」

 反射で謝ってしまったが、え? これ僕が悪いの?

 

「もう、気を付けてくださいよ……これでよしっと」

 なんだか釈然としない。

 

「それじゃあ必要分は取れたので、傷、治しますね」

 サーシャさんが僕の傷口をサッと撫でると、そこにはもう傷跡一つなかった。

 ……これが魔法の力……病院要らずだなぁ。そんなことを考えていると、サーシャは床に人が一人立って入れるほどの大きな円を描き、その周囲に七つの小さな円を配置。中心から小さな円へと繋がる線を書き、最後にそれらを纏めるように大きな円と文字を描いた。

 

「たーしーか、これでいいはず……」

 

「これは?」

 

「魔法陣ですね。さっ、そこの中心の円に立ってください」

 久しぶりなのでワクワクですね、と言いながら、サーシャはビンに採取した僕の血液を手に持ち、詠唱を始めた。

 

血を一滴落とし、唱える。静謐なる月。(メンシス。)

落ちた血液が独りでに動き、小さな円の一つに収まる。そして、白銀に輝きだす。

また一滴落とし、唱する。燃え盛る火。(イグニス。)

これもまた、独りでに動き出し、円の一つに収まり、今度は赤く輝く。

また一滴落とし、詠む。湧き立つ水。(アクア。)

今度は、青に輝く。

また一滴落とし、吟じる。生い茂る巨木。(アルボル。)

今度は、緑に。

また一滴落とし、謡う。冷徹なる金。(フェルム。)

今度は、鈍色に。

また一滴落とし、歌う。母なる大地。(テッラ。)

今度は、黄色に。

また一滴落とし、唄う。大いなる太陽。(ソル。)

今度は、黄金に。

そして最後に唱える。我が呼びかけに応じ、我が内なる形を指し示せ。フィグラ・アニマ・アニムス。

最後の詠唱を終えた瞬間、血液の輝きが一斉に増し、強烈な閃光と暴風が室内を満たした。

──そして、視界が晴れる。

そこには黄金の輝きだけが残り、他の輝きは失せていた。

 

「適性は……陽系統だけ、みたいですね」

「ただ、魔力量は凄まじいですね。普通はあんな風吹いたりしませんし、あそこまで輝くことなんてありませんし……」

「たった七滴に含まれた魔力だけであんななんですから、総量はそれこそ……」

 サーシャさんが何処か畏怖するような目で僕を見てくる。あれ、そんなに凄かったのか……。

 しかし、陽系統か…何が出来るんだろうか?

 

「それで、陽系統ってどんな魔法が使えるの?」

 

「えっとですねぇ……色々使えますよ? 身体強化魔法に、治癒魔法。それと、肉体を変化させたりするのも陽系統でしたね。あと、ほかにも色々……」

「まぁ色々使えはしますが、個人的なおススメは治癒魔法で、次いで身体強化魔法ですね」

「その二つさえ覚えておけば、大体どうにかなります。と言うか、一流の魔法使いは最低でも回復魔法は極めてますね」

 

「なんで回復魔法を?」

 

「それは単純に、死に難くなるからですよ」

「魔法使いには何かと命の危険がありますからねぇ……魔法の失敗で腕吹き飛んだりですとか……」

 何処か濁った瞳でサーシャさんは語る。経験、あるんだろうか。てか失敗で腕吹き飛ぶってなんだよ…怖すぎて使えないよ魔法。

 

「それに、魔法使いは往々にして戦いの場に駆り出されます。そして敵にもまた、魔法使いは居ます」

「魔法使い同士の戦いは理不尽の押し付け合いです。それなのに、治癒魔法を習得してないなんてなったら……それこそ、命が幾つあっても足りません」

「だから、一流の魔法使いは最低でも治癒魔法を極めて、いつ致命傷を負っても大丈夫なように、治癒魔法を自動で起動できるまでに鍛え上げるんですよ。それさえしておけば、そうそう死にませんからね」

「まぁ……そのせいで、こんな場所(流刑地)が作られたんですけどねぇ」

「殺しても死なない罪人とか、普通に害悪ですからねぇ」

 そう言って、彼女はアハハハと快活に笑うのだった。……いや、笑えないが……。というより、そこまでして尚、死ぬ事があるのか……ドン引きである。この世界の過酷さに。

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 そうして僕が、なんとなーく微妙な気持ちになっていた最中、家の戸を叩く音が響いた。

 戸を開けてみると男一人、立っていた。

「ニルヴァ様の使いで参りました。カルピ・アンバースと、申します」

 そう言って男…アンバースさんは、慇懃に礼をする。

 

「これはご丁寧に…僕は雨宮 悠太です」

 

「サーシャ・アルプサスです」

 

「………ユータ様と、アルプサス様でございますね」

「早速ではございますが、ニルヴァ様の邸宅へご案内します」

 偉く丁寧な人だ昨日出逢ったナーイさんとは全く違う。なぜこのような人が、こんな所に居るのだろうか……いや、詮索は止そう。

 

「ニルヴァ様は、久方ぶりのお客人に大変お喜びです。賑やかなのが好きなお人ですので」

「ですが、この町は立地の都合上、人がほぼ来ず……」

 ほぼと言うか皆無だろう。なんて、野暮な突っ込みはしない。すごくしたいが、しない。

 

「なにせ、この町に来る前に大抵の人は干からびるか、魔獣の餌になってしまいますので」

 そう言ってアンバースさんが、はっはっはっと笑う。笑えんが?なんでこの町の人…と言うより、僕の出会ったこの世界の人達は、笑えないジョークが好きなんだ?不思議だ。

 流れを変えるか。

「……ところで、この町は流刑地の中にあるとは思えない程発展していますね」

 

「はい。私も、あのペカトゥム砂漠にこの様な場所があると知った時は驚きました」

 サーシャさんも僕の言葉に続く。やっぱりそう思うよね。

 

「ニルヴァ様の手腕が良いのでしょうなぁ」

 

「へぇ…どんな人なのか、ぜひ気になりますね」

 

「はっはっはっ、もう間なくですので、直接会ってお確かめ下さい」

「ここが、ニルヴァ様の邸宅になります」

 その邸宅は高い石壁に囲まれて敷地の全貌は一見隠されているが、その上から覗く揺れるヤシの葉が内部に広がる豊かな空間を暗示していた。壁は砂漠と同じ黄土色をしており、太陽の光を反射して黄金色に輝いている。邸宅の正面には、重厚な木製の門がそびえており、幾何学模様が丁寧に彫り込まれた骨で作られた装飾がされ、住む者の地位を物語っていた。

 

 門の両脇には、大柄な男たちが槍を携えながら無言で立っている。彼らの目は鋭く、まるで獲物を見据える鷹のようだ。門の上には旗が掲げられ、金色の刺繍で何らかの紋章が縫い込まれている。それが何を示しているのかは分からないが、明らかにただの町の屋敷とは一線を画していた。

 

「凄いですね……」

 

「こんな所で、よくぞここまで…まぁ…」

 

 驚愕する僕らを他所に、アンバースさんは楽しそうに言う。

「驚くのは、まだ早いですぞ」

 そして門をくぐると、内部には広大な中庭が広がっていた。中には大きな池があり、昼間の灼熱の太陽の下ではきらめくように輝いている。池の周りには草が生い茂り、砂漠の単調な景色に彩を添えてくれるだろう。そしてヤシの木々がその周囲を囲み、涼しげな陰を作り出している。

 

 池のほとりには白い石造りの東屋があり、そこには豪華な刺繍が施されたクッションが無造作に置かれていた。まるで王宮のような造りで、風がそよぐたびに花の香りが仄かに漂ってくる。小道には鮮やかな花が植えられ、その合間を蝶が舞っている。

 

 邸宅の建物は二階建てで、壁が陽光の下で輝きを放っている。窓は細長く、外敵を防ぐための装飾が施されているが、そのデザインは繊細で美しく、実用性と芸術性が見事に調和している。石の柱が並ぶ回廊が建物を取り囲み、日中の直射日光を遮りながらも風を通すような設計がなされている。

 

「ここまで来ると、驚きを通り越して呆れますね……」

 まったくもって、その通り。サーシャさんの言葉に、内心で激しく同意する。

 

「どうぞ、お入りください」

 アンバースさんの開けた扉を潜り、邸宅の内部に足を踏み入れる。そこには、さらに豪奢な空間が広がっていた。天井には複雑な文様が描かれた装飾が施され、中央から吊り下がるシャンデリアが空間を優雅に照らしている。床は滑らかなタイルで覆われ、幾何学模様のモザイクが丁寧に敷き詰められていた。

 

 壁には金箔が散りばめられた壁画が描かれており、砂漠を越えて栄華を極めた都市の光景が映し出されている。その間に並ぶ燭台は細工が施され、火が揺れるたびに影が踊る。

 

 アンバースさんに案内をされ、二階へと上がる。

そして、ある部屋の前で彼は立ち止った。

「この中で、ニルヴァ様がお待ちです」

「お入りください」

 

 そうして開かれた扉の先、この部屋の主は僕をしっかりと見据えて、言った。

「よう、待ってたぜ。異界からの訪問者殿」




詠唱…魔法により、自身の想像をより強固にする為に行う、一種の自己暗示方。
詠唱によって自身の想像を強固にし、魔力を使用して、その想像の儘に世界を改変する。
この一連の流れによって引き起こされるものが、魔法と呼ばれる。
所詮は自己暗示である為、極まった魔法使いは無詠唱での魔法の行使が可能である。

魔力…魔法の源。

第3罪人 カルピ・アンバース
罪 殺人
ガランサス王国で活動していた暗殺者。
主な手法は、猛毒を混ぜ込んだ水を魔法で操作し、対象に接種させると言う物。
余りにも有名になりすぎて、親組織が手に負えないと判断し、売られた。
王国法に則れば死罪ではあるが、一流の暗殺者であると同時に魔法使いでもあったため、殺しきる事が出来ず流刑へと処された。
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