しかし、彼が目覚めたのは天国でも地獄でもなく砂に埋れた住宅街の中だった。そこは頭にヘイローを浮かべた女子高生たちが暮らす学園都市キヴォトスのアビドス自治区であった。その後、彼はアビドス廃校対策委員会の生徒と先生に出会った。
最後の回廊に差し込む光は一人のニンゲンと一人のモンスターを照らしていた。
モンスターの名前はサンズ。彼はジョーク好きで怠け癖のあるただのスケルトンである、そんな彼は今、幼い子どものように見えるニンゲンと熾烈な戦いを繰り広げている。
サンズはその姿には似合わない凶悪なブラスターや激しい骨攻撃を仕掛け、ニンゲンは子供とは思えない身体能力で攻撃を躱しながらその見た目にそぐわないナイフをサンズに向かって振り回している。
サンズの体に一筋の斬撃が刻まれた。つまりこの熾烈な戦いの決着がついたということだ。
「いいか? オレはとめたからな?」
グリルビーズにでも行こうかなと、意識を手放す前に軽口を叩こうと思ったが声がでなかった。どうやらもう、天国かもしくは地獄からのお迎えが来てしまったようだ。
(へへ...ちょっとせっかちすぎだぜ)
サンズの意識は暗闇へと落ちていった。
彼が目を覚まして最初に目に写ったのは一面に広がる青だった。
「これは....空か?」
サンズは仰向けになっていた。彼は起き上がって周りを見回すとあたり一面に砂漠が広がっていた。
「うーん天国にしては殺風景だし、地獄にしては青空が綺麗すぎだな」
どうやら自分は死んだわけではないらしいとサンズは悟った。
(まあ、だとしたらここはどこなんだって話になるが)
(オレが知っている地下世界にはこんな場所はないはずだ)
モンスターたちが暮らす地下にはスノーフルのような雪景色やホットランドの灼熱の火山はあっても砂漠はなかったはずだ。サンズも砂漠については昔に写真で見たことがあるだけだ。
(だとしたらここは地上....? でもなんで地上に出れたんだ、バリアは一体どうなった?)
自分の現在地についてそんな考察していたら、ふとサンズの目に砂漠の少し奥に住宅街らしき影が写った。
(とりあえずここが地上にしても地下にしてもここがどこなのか人に聞かないとな)
(だが、もしここが仮に地上だとしたらニンゲンに出会うかもしれない)
ニンゲンはモンスターを侵略して地下に封印した種族で、地下のモンスターを虐殺したアイツもニンゲンである。もし出会ったらどんな扱いを受けるかたまったものじゃない。
(ま、このまま砂漠で野垂れ死ぬよりはマシか)
サンズが消去法で住宅街を目指して歩くことを決めた。
ーーーーー2時間後
燦々と日光が砂漠を照らす中サンズは住宅街の近くまで歩いて来ていた。
遮蔽のない直射日光のせいでサンズは大量の汗をかいていた。
サンズは疲れに顔を歪ませながら口を開いた。
「ハァハァ...思ったよりも遠かったみたいだな」
「まさか日頃の運動不足を一日に二回も痛感することになるなんてな」
ニンゲンとの戦いの敗因の一つが自身の疲労であったことを思い出しながらつぶやいた。
「ハァ....これは予想以上にまずいな...」
サンズの意識は朦朧としついに住宅街まであと一歩というところで倒れてしまった。
(へへ...今度こそあの世へいっちまうかな)
サンズは今日二度目の意識喪失を迎えた。
「うわっ、シロコ先輩! 背負ってるそれって人骨!?」
「ん、多分違う。この骨は生きていたから」
「シロコちゃん、生きてる骨って意味がわからないよー」
"アンデッドってことかな、きっと墓から蘇ったのかも”
「せ、先生あまり怖がらせるようなことをいうのはやめてよっ!」
”ごめんごめん”
「全くセリカちゃんは怖がりですね♣」
「のっ、ノノミ先輩!」
(うーん...オレは一体どうなった?ここはどこだ?)
何者かの話し声が聞こえたことで、サンズの意識が徐々に覚醒してきた。
”ほら目を覚ましたみたいだから、本人に直接話を聞こうよ”
サンズは自分が銀髪の狼のような耳が生え、ヘイローのようなものを頭の上に浮かべる少女に背負われている事に気づいた。
「もしかして、オイラを背負ってここまで運んでくれたのか?」
「しゃっ、しゃべった...」
「おっ本当に骨が喋ってる〜」
こちらをを怪訝そうな顔で見つめる黒髪の猫耳の少女とオッドアイのピンク髪の少女がつぶやいた。
彼女らも頭の上にヘイローを浮かべている
「そうだよ、ライディングをしていたら住宅街の近くで急に倒れたあなたを見つけたの。」
「ありがとな、オイラはスケルトンのサンズってんだ。」
「へへへ...オイラあんたに助けてもらわなかったら今頃"サンズ"の川を渡っていたところだぜ」
\ツクテーン/
サンズはこの世界に来てから一発目の渾身のジョークを披露した。が、辺りは静寂に包まれてしまった。
「ふふっ」
黒髪の猫耳の少女の笑い声が静寂を破った。
「あははっ、なによそれ。まったく、怖がって損した気分だわ」
「私の名前は黒見セリカ。よろしくねサンズ」
「ん、私の名前は砂狼シロコ。よろしく、サンズ」
「はい、私の名前は十六夜ノノミです☆よろしくお願いしますサンズさん」
「おじさんの名前は小鳥遊ホシノだよ〜。サンズのジョーク、おじさんは結構好きだったなぁ」
(おじさん...?)
サンズには眼の前の少女はどう考えてもおじさんには見えなかった。
「もうっ、ホシノ先輩はまだ高3なのにそんなことを言って。初めて会う人が混乱するでしょ!」
「うへぇ〜、わかったよぉセリカちゃん」
どうやら実際におじさんであるわけではないらしい。
”じゃぁ次は私の番かな”
と、口を開いたその人はここにいる他の人とは明らかに異なった容姿をしていた。他の人は制服を身にまとっているのに対して彼はスーツを纏っている。
そして一番の差異は頭の上にヘイローのようなものが存在しないことだ。
"私はシャーレの先生だよ。よろしくねサンズ"
"君のジョークはなかなか面白かったよ"
「ありがとな、素直に賞賛として受け取っておくぜ」
「あと...」と、先生に続けてセリカが話す。
「今は学校の点検をして居ないけど、奥空アヤネって子もいるの」
「多分そろそろでここに戻ってくると思うから」
「わかった」
ここでサンズは当初の目的であるこの場所について彼らに聞くことにした。
「なぁアンタたちに聞きたいことがあるんだが。外の砂漠やここは一体どこなんだ?」
サンズの質問にシロコが答えた。
「ん、ここは学園都市キヴォトスのアビドス自治区にあるアビドス高等学校。外の砂漠はアビドス砂漠って言うよ?」
「キヴォトスにアビドスか....まったく聞いたことがないな」
「サンズは何も知らないでアビドスに来てたの?」
「何も知らないどころか、気づいたら砂漠のど真ん中にいたんだ」
「だから、現在地を知るために人がいそうなところに向けて歩いていたんだが。その途中で倒れちまったんだ」
サンズの答えに対しホシノが口を開く。
「つまりサンズは記憶喪失ってこと?」
「まぁ、つまりそういうことになるんだろうな」
『え!!』
一同驚嘆の声を上げる。
サンズの返答に対してノノミが口を開く。
「記憶喪失になってしまうなんて大変でしたね.....。サンズさんここに来る前の記憶では何をしていたんですか?もしかしたらその記憶を辿ることで記憶を取り戻せるかもしれません」
ノノミがサンズに尋ねる。
(ここに来る前の記憶か......)
サンズは、ここに来る前にニンゲンと熾烈な戦いを繰り広げ、そして最後にニンゲンに殺された。
「ここに来る前にオイラは死んだはずだった」
「でも何故かオイラが目をを覚ましたのは砂漠だった」
サンズの予想以上に暗い答えを聞き、あたりに重い空気が漂う。
「そうだったんですね.....。もし嫌でなければ、なぜ命を落としそうになったのか聞いてもいいですか?」
ノノミがサンズに死に際のことを尋ねる。
「すまん、あまり詳しくは言いたくない」
サンズは心痛な面持ちで答えた
「すみません。あまり言いたいことではなかったですよね。」
ノノミはサンズに嫌な思いをさせてしまったと思い謝罪した。
「謝る必要はないぜ、オイラの死に際はちょっと人には言いにくい恥ずかしい死に際だったってだけだよ」
サンズは重い空気を変えるように明るく茶化すような言い方で答えた。
ノノミは話題をサンズの記憶についての話に戻した。
「でもサンズさんの話を聞いても、記憶喪失の原因はわからなかったですね。」
「先生はサンズさんの記憶喪失に対してなにか考えはありますか?」
ノノミは先生に質問した。大人である先生なら何か別の考えがでてくるのではと思ったからだ。
"うーん"
わからないと言おうとしたところで先生の中である説が浮かび上がる。
”あっもしかして”
"サンズは記憶喪失になったんじゃなくてさ、外の世界からこの世界に転移したたのかもしれないね"
「先生には何かそう思う根拠があるの~?」
先生の説に対してホシノが横から質問を入れる。
"うーん、明確な根拠はないんだけど。サンズが記憶喪失になったこの世界の住人であると仮定するとちょっとあまりにもこの世界のことを知らなすぎるなって思って。"
「確かに、おじさんもそれは思ったかな。記憶を無くしてて、自分の死に際は覚えているのに自分がいる場所の名前だけ忘れるなんて少し辻褄があわないよ」
ホシノは先生の説に同意した。
"だから私はサンズが[私と同じように]外の世界から来た人ではないかと思ったんだ。まぁでも根拠はこれぐらいしかないからあまり確かな説とは言えないけどね"
([私と同じように]だって?)
(もしかして....)
先生の発言によりサンズはある可能性に気づいた。
「なぁ先生今、外の世界から来たって言ったよな」
"あぁ言ったよ、僕はもともとキヴォトスの人じゃないんだ"
サンズは少し考えてから答えた。
「なぁアンタのその仮説多分合ってるかもしれない」
「アンタはやけにシロコたちと違ってオイラの知ってるニンゲンに見た目が近いと思ったんだ。オイラと同じで別の世界から来たんってんなら納得だぜ」
サンズの仮説に対してシロコが口を開く。
「でも、先生はサンズみたいにスケルトンじゃないよ。同じ世界から来たならサンズも先生みたいな見た目じゃないとおかしくない?」
シロコの疑問に対してサンズは答える。
「いや、おかしくないぜオイラはモンスターだからな、先生はオイラの世界のニンゲンとよく似てるんだ。オイラの知ってる世界にはニンゲンとモンスターの二種類の種族がいたからな」
サンズの答えに対して先生が声を上げる
"自分の説を自分で否定するようなことを言うけど、私の元いた外の世界にはモンスターなんて種族はいなかったよ。居たとしても空想上の世界の中だけだった"
先生の反論に対してサンズは更に答える。
「オイラもそういう考えが来ることはわかっていた。だからその意見でも矛盾がない答えは考えてある」
「オイラはニンゲンたちはモンスターのことを忘れ去ってしまったんじゃないかと思っている。なぜならオイラたちは非常に長い間地下に封印されていたんだ。」
「そしてモンスターの寿命はニンゲンの寿命と比べ物にならないぐらい長い」
「モンスターとニンゲンが一緒に居た時代はオイラたちにとっては一世代程前のことでも、ニンゲンにとっては歴史が霞んで伝説となってしまうほど大昔のことになってしまったんだとオイラは考えたんだけど」
「どう思う?」
"なるほどね、だから私はモンスターの存在を知らなかったのか"
先生は納得するように答えた。
"じゃぁサンズは外の世界から転移してきたって説が正解そうだね"
「転移してきたって明確な証拠がないからあくまで可能性の一つだけどな」
サンズはあくまで仮定の話とした。
「サンズは記憶喪失じゃなかったの、良かったわね」
一連の話を聞いていたセリカがつぶやく。
セリカのつぶやきにホシノが反応する。
「まぁでも外の世界から転移してきたとしても大変なのは変わらないとおじさんは思うけどね」
話の流れ的にはサンズは先生と同じ世界から転移してきたということになった。
だが、サンズはその答えにうっすらと違和感をいだいていた。本当に自分は先生と同じ世界から来たのかという点である。この世界はそもそもがサンズがもといた世界とは全く関係ない可能性をサンズは思いついていた。
(しかし現時点で最も可能性が高いのはさっきの説だろうから、今ここで否定する必要はないな)
(結局の所オイラがどうやってここに来たのかについてのヒントが少なすぎる)
サンズは現時点でこのことについてこれ以上考えても無駄だと思い話題を変えることにした。
「まぁってことでオイラはそろそろお暇さしてもらおうかな」
サンズはもうここを去ることにしたのだ。
「アンタらには世話になったよ、シロコには助けてもらったし、他の人達にはこの世界のことについて教えてもらったしな」
「本当に感謝してるぜ」
サンズが別れの挨拶を告げるが、皆はキョトンとした顔をしている。
「えっあんたこのまま帰ってどうやって生活するのよ?」
セリカがサンズを心配するように尋ねる。
「いやまぁ適当に生きてくつもりだぜ、少なくともアンタらに迷惑はかけれない。もう十分世話になったからな」
セリカがサンズの返答に対してツッコむ。
「いやいや流石に、この世界に来たばっかで行く宛もない人を見捨てるほど鬼畜じゃないわよ」
「サンズがここで働いてくれるなら暫くの間この学校に住んでていいわよ」
「みんなもそう思うでしょ?」
セリカがここにいるみんなに尋ねる。
「はい、わたしは賛成です♣」
「ん、私も賛成」
「おじさんも別にいいと思うよ〜」
更に先生も答える。
"もしここが無理でもシャーレで預かるよ"
サンズは困惑している。
「皆出会ったばかりのオイラになんでそんなに親身なってくれるんだ?」
"だって困ってる人が居たら見捨てるわけにはいかないからね"
先生が当たり前のことだというような顔で答える
「ん、困ったときはお互い様」
シロコも先生に同調する。
「うへぇ、みんなお人好しさんだね〜」
「それはホシノ先輩も同じでしょう?」
「照れること言うねぇノノミちゃん」
ホシノは嬉しそうである。
「私も先輩も困ってるあなたを助けたいんです」
皆の親切心に触れたサンズは胸の奥に熱いものが込み上げた。
気づいたときにはサンズの目に一筋の涙がこぼれていた。
「えっ!ちょっ、あんたなんで泣いてるの!?」
セリカが驚きの声を上げる。
「へへ....」
実はサンズは内心あのニンゲンと同じような見た目をした彼女らを恐れていた。いつ彼女らが自分に刃を向けるか内心ずっと気が気ではなかったのだ。
(オレはちょっと気を張りすぎてたのかもな)
あまりにも凄惨な虐殺のせいでサンズの心は荒み、この世には純粋な善意をもつ者がいることを忘れてしまっていたのだ。
(オレは知っていたはずなのになニンゲンにもいいやつはいるって)
サンズは今の自分の思考に疑問を持った。
(どういうことだ..?)
(オレが会ったことあるニンゲンはアイツだけのはずだが.....)
サンズの中に存在し得ない記憶が溢れ出す。
『オイラはアンタをおうえんしてるぜ』
(フリスク....)
(あぁそうかこの記憶は...)
"サンズ?"
先生の声がサンズを現実に引き戻した
"大丈夫?"
先生以外も皆が心配そうに見つめている。
「大丈夫だ」
サンズはこの記憶については後でに考えることにした
「ありがとうな、皆。その気持ちありがたく受け取るぜ」
「これから、よろしくな」
「ん、こちらこそよろしく」
「はい☆よろしくです」
「よろしくねサンズ!」
「よろしくね〜」
セリカが声を上げる。
「サンズがこの学校に住むなら、私達アビドス高等学校廃校対策委員会の活動の協力をしてもらうからね」
「廃校対策委員会?」
サンズは聞き返した。
「私たち対策委員会はアビドス高校の廃校危機を救うために活動する委員会なんです。部員は私達とアヤネちゃんを含めて5人です」
ノノミがサンズの質問に答えた。
「まぁアビドス高校の生徒も5人しか居ないんだけどね。だから私たちがアビドス高校の全校生徒でもあるの」
セリカがノノミの話に付け加えた。
「全校生徒が5人しか居ないとはなかなかに大変そうだな」
「ええ、まったくそうよ」
セリカが疲れたように答える。
「ねぇアヤネちゃんやけに遅くありません?」
ノノミが思い出したように声を上げた。
「そうねもう帰ってきていい頃だけど」
その瞬間ガラガラとドアが勢いよく開かれる。
「噂をすればね」
「やけに遅かったじゃない、ちょっと話したいことがあるんだけど....」
セリカの続く言葉を遮るようにアヤネが声を上げた。
「皆さん、大変です!ヘルメット団がアビドスに攻めてきました!」
皆に緊張が走った。