バッドエンドカジノへようこそ!!   作:やーなん

1 / 10
アプリコットパレスにようこそ!!

 

 

 

 六柱の神々が存在し、各国が奉っている世界ガイアディア。

 そのうちの一国、アリアーン王国の冒険者ギルドにて、この物語は始まる。

 

 

「幸運を得られるカジノ?」

 

 B級冒険者のエリックは、同じギルドに所属する同僚との酒の席で訝し気にその話を聞いた。

 

「そうなんだよ!! なんとかって女神様が運営してるカジノらしくてよ、そいつの人生の幸運と不運をコインに換えて、そいつを賭けられるんだ!!」

「信じられないな」

「周りを見てみろよ」

 

 彼に指摘され、エリックは周囲を見る。

 ギルドの酒場ではろくでなしの冒険者どもが、日がな酒を呑んではカードに興じているものだが、そのような連中がなぜか見当たらなかった。

 

「みんな、あのカジノに夢中なんだよ」

「……だが、アリアレア教団が他の神の信仰を許すのか?」

 

 この国はアリアレア教が国教だ。

 初代国王が勝利の女神たるアリアレアの助力を得て魔物を追い払い、この国は建国された。

 

 戦神にして軍神を崇める教団は武闘派で、同時に排他的だった。

 他国の宣教師を串刺しにして広場に晒していたこともあるほどに。

 

「それがよ!! 連中、勢い勇んでカジノに入り込んだらしいが、すごすごと出て行って、教団公認になったらしい!!」

「嘘だろ……」

 

 エリックは信じられないと言った表情で同僚を見た。

 

「なあ? 興味がでただろう?

 お前も一回行ってみようぜ?」

「……確かに、興味が湧いた。だが、カジノなんてどこにあるんだ?」

 

 基本的に冒険者なんて職業は、地域に密着した仕事だ。

 ダンジョン潜りや遺跡を探して遠征をしなければ、だが。

 

 つまりエリックもカジノなんて町内の変化を察せないようでは商売あがったりである。

 

「まあ、行けば分かるって」

 

 エリックは同僚に連れられ、酒代を払ってからギルドの酒場を出た。

 そして中央広場に赴くと、そこに両開きのドアがぽつんと設置されていた。

 

「まさか、これか?」

「ああ、これだよ」

「冗談だろ……」

 

 同僚は両開きのドアを開いた。

 

「……冗談だろ」

 

 エリックはオウム返しのようにもう一度そう言った。

 

 ただのオブジェにしか見えない木製のドアの奥には、広大な空間が広がっていた。

 

 そこはまるで、異世界であった。

 

「運命の殿堂、“アプリコットパレス”へようこそ!!」

 

 ドアの内側のすぐ傍で、フロントスタッフらしい黒服とバニースーツの合いの子みたいな装束を纏った女が笑顔で応対してきた。

 

「ほ、本当にカジノだ……」

 

 中には大勢の人間で賑わっていた。まるで貴族の豪邸のような、そんな空間だった。

 彼の知るカジノとは、もっと小規模で、酒場などの地下でやるような、そんなものでしかない。

 彼が衝撃を受けるのも当然だった。

 

「お客様、もしやここは初めてですか?」

「ああ、こいつはここが初めてなんだ!!」

「よろしければ、案内いたしますよ」

「ああ、頼む……」

「じゃあ、俺は先に遊んでるぜ」

 

 エリックをスタッフに預け、同僚は先にテーブルの方に歩いて行った。

 スタッフに案内されて、エリックはは正面のモニュメントに近づいた。

 それは、等身大の大きさの天秤だった。

 

「こちらに御触れください」

 

 エリックが言われるがままに触ると、天秤が動いた。

 

「これは……」

 

 天秤の左右の皿の上には、いつの間にか金と黒のコインが何十枚と乗っていたのだ。

 

「これはあなたの人生の、幸運と不運そのもの。

 この神器に触れることで、それをコインとして物質化されたのです」

「これが、俺の……」

「当カジノでは、こちらの二種類のコインを用いて、ゲームをプレイして頂きます」

 

 金のコイン54枚、黒のコイン52枚。

 幸運と不運の物質化。まさに神の所業だった。

 

「当カジノは完全非営利であり、お客様の所有する現金などは一切使用いたしません。

 つまり、これらのコインは金銭では購入できません。

 その代わり、個人間での授受については認められています。無論、我々は個人間の勝負の立会人も引き受けますので、その際はお声かけ下さい」

 

 にこり、とスタッフは笑顔で恐ろしいことを言う。

 要するに、ここでは幸運そのものを賭けた決闘も推奨しているのだ。

 

「仮にだが、幸運のコインを使い果たしてしまったら、どうなるんだ?」

「それは、我々にも分かりません。不幸とは、人それぞれですから。

 ですが、多くの場合は不自由になり、最終的に死に至ると思われます」

「それを承知で、ここに皆は来ているのか?」

 

 エリックは周囲を見渡す。

 大勢の人間が、自分の人生を切り売りして熱狂している。

 

「それは、現実の金銭でも同じことでしょう?

 財産の全てを使い果たした者に訪れるのは破滅のみ。

 我々はただ、皆さまに一時のスリルと楽しみを提供するだけです」

 

 スタッフの言葉は尤もだった。

 

「このままあのドアからお帰りになるのも勇気でございます。

 実際、自分の幸運と不運がどれほどなのか確認するだけでお帰りになるお客様も大勢います」

 

 それは、ある意味で最も賢い選択なのだろう。

 

「これらコインはドアからお戻りになられれば、自動的に消失し持ち主の元に戻ります」

「気になったんだが、この黒いコイン、不運のコインの使い道はなんなんだ? 不運の可視化ってだけか?」

 

 彼は疑問を口にした。

 

「当カジノで、幸運のコインを賭ける時に使用します。

 不運のコインを賭けた分だけ、勝負に勝利した時に幸運のコインを多く手にできるのです」

「逆に負ければ、不運のコインが増える。そう言うことか」

 

 それを肯定するように、スタッフは笑みを深めた。

 

「聞くに、不運のコインは減らすことはできないのか」

「当カジノではお客様の為に様々なイベントを取り行っております。

 それらの景品に、不運のコインを幸運のコインに交換するチケットなどを用意しております」

 

 なるほど、よく出来ているとエリックは思った。

 

 そうして彼が説明を受けていると。

 

「え、エリック先輩ですか?」

「その声は、パティか!?」

 

 彼は声のした方に目を向けると、子犬のような小動物感溢れる少女が立っていた。

 

「お前、なんて格好をしてるんだ!!」

 

 パティは起伏の乏しい体格が丸わかりのバニースーツを着用していた。

 彼女はお盆を持って、その上にはドリンクの入ったコップが乗せられていた。

 明らかに従業員として働いているようだった。

 

「ううう、見ないでください……」

「お前、どうしてこんなところで……」

「幸運のコインを全部使い切ってしまったんです……」

 

 彼女は羞恥に顔を染め、自分の痴態を知り合いに見せてしまったことを恥じていた。

 

「ここでのお賃金は、幸運のコインで支払ってくれるので、人並みに溜まるまで働かせてもらってるんです……」

「一応そういう救済措置はあるんだな……」

「でも、週に一枚ぐらいで……賄いは貰えますけど、多分何年もここで働くことになりそうです」

 

 冒険者の後輩は泣きそうになりながらそう言った。

 

「だから俺がパーティに誘った時に来ればよかったんだよ」

「……はい」

 

 エリックは溜息を吐いて、パティの醜態を嘆いた。

 

「ご安心ください。ミストレスは彼女を気に入っています。

 あの御方は気まぐれに幸運や不運を与える……。

 貴女が外に出れる日もそう遠くないでしょう」

「ジャネット先輩……」

 

 パティは縋るように案内役のスタッフを見上げた。

 彼女はただ、微笑むだけだった。

 

 そんな時であった。

 

 

「みなさーん!!」

 

 その声に、従業員達が一斉に膝を突いた。

 騒がしい客たちが、口を閉ざす。

 

 二階のVIP席に、少女が客たちに向けて手を振っていた。

 

 チグハグな様相の少女だった。

 見た目は黒髪の十代半ばの少女なのに、虎柄の高級そうなコートを羽織ってサングラスを掛けている。

 金持ちの少女が母親の高いコートを着て遊んでいるような、そんな場違いな見た目だった。

 

「どうもー、どうもー!!

 初めての人は初めまして、お馴染みの人はお馴染み!!

 皆の運命の女神、アンズライールことアンズちゃんでーす!!」

 

 少女の声に、客たちは思い思いに声を挙げる。

 

「今日の皆はラッキーですかー? それとも、アンラッキーですかー?

 このカジノの存在意義はただひとつ!!」

 

 びし、と少女は人差し指を立てて皆に突き付ける。

 

 

「────私の、暇つぶしです」

 

 

 無垢な少女に見える彼女は、どうしようもなく残酷な女神なのだ。

 

「暇で、暇で、暇すぎておかしくなりそうなんです。

 なのでここを私は作りました。

 ここで勝てば、ただの村人が英雄になれるようなスキルを得られるかもしれません。

 ここで負ければ、約束された将来が水の泡になるかもしれません。

 それを、愉しませてください。私が皆さんに望むのはそれだけ」

 

 少女の見た目の女神が、ふわりとVIP席から飛び降りる。

 

「私と勝負するヒト、誰か居ませんか?」

 

 しかし一階に降り立った女神に、近づく者は居ない。

 誰もが知っているのだ。神に近づいて良いことなど無いと。

 

「私に勝てれば不運のコインを幸運のコインに換えられるチケットあげますよー。

 おやおや冒険者の皆さん、冒険はなさらない感じですかー?」

「ミストレス、こちらをどうぞ」

「わあ、ありがとうございます!!」

 

 すかさず、従業員が彼女のお盆に乗せられた鳩型のクッキーを差し出した。

 彼女はそれをむしゃむしゃと食べている。

 それにより、周囲は我関せずと自分たちの勝負に戻った。

 

「まったく、どうせみんな五十歳まで生きれないくせに。

 せっかくだから一発逆転しようって思わないんですかね」

 

 クッキーを食べ終えた女神が独り言ちる。

 

「そこのパティちゃんのように」

「こ、こんにちは、ミストレス……」

「やーん、私と勝負して幸運を全部剥ぎ取られちゃったパティちゃん!!

 冒険者なんかよりバニースーツの方が似合ってますよ!!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 女神にウザ絡みされているパティに、エリックは顔を顰めた。

 

「あ、そうだ!!」

 

 運命の女神は、意地悪く笑った。

 

「このカジノに永久就職する義務と、このチケット10枚を賭けましょう。

 このチケット1枚に付き不運のコインを10枚、幸運のコインに換えられます。

 人間の平均的な幸運と不運は共に50枚前後。このチケット10枚で、人間の人生二人分の幸運ですよ」

「……」

 

 パティは確かに、彼女に気に入られていた。

 ただ、結局のところ、神に気に入られるのと嫌われるのは同じこと。

 幸運と不運を天秤にかけるこの女神ならなおのことである。

 

「や、やります……」

「おい、パティ!!」

「私には、やりたいことがあるので」

 

 後輩を諫めるエリックに対し、パティは決意が宿っていた。

 

「チケットは要りません。その代わり、私のお願いを聞いてもらってもいいですか?」

「いいですよ、アンズちゃんは全知全能なので。

 貴女が賭けた対価に相応しい分だけのお願いを聞いてあげます」

 

 まさに退屈を窮めた、女神の遊びだった。

 

「止めろパティ、自分の全てを賭けるつもりか!?」

「先輩、止めないでください。私は一刻も早く、ここから出たいんです!!」

「あの、部外者は口を挟まないでくれます?

 パティちゃんと勝負するのは私ですよ」

 

 二人のやり取りに、女神が口を挟んだ。

 

「それとも、貴方が彼女の代わりに勝負しますか?」

 

「……良いだろう」

「エリック先輩!?」

「その代わり、俺が勝ったら彼女を解放してくれ」

「勿論、構いませんよ」

 

 女神がテーブルに彼を促す。

 丁度勝負が終わった席に、二人は着いた。

 

「おい、ミストレスと勝負ってマジかよ」

「まだそんな度胸のある奴がいるなんてな……」

 

 すぐに野次馬たちが集まって来る。

 

「賭けるモノを指定してきたのはそちらですし、勝負の内容はこちらが決めさせてもらいますね。

 そーだなー、じゃあ単純にブラックジャックで良いですか?」

「それで構わない」

 

 ブラックジャック……トランプの数字の合計で21に近づけるゲーム。

 

「幸運のコイン50枚で彼女を解放しましょう。

 ただしコインを賭けるのは貴方で、貴方が所有する幸運のコインは合計100枚を超えなければならないとします。

 私は貴方が諦めるまで、幾らでも付き合いますよ」

「分かった」

 

 彼女が目配せすると、従業員が封された新品のトランプを持ってきた。

 

「どうぞ、シャッフルしてください」

 

 公平を期すためか、女神はシャッフルをエリックに薦めた。

 

「ああ」

 

 エリックはトランプの封を切って、シャッフルを行った。

 

 そして二枚ずつ、お互いにカードを配った。

 

「(これは……!!)」

 

 自分の手札を確認したエリックはいいカードが来たと確信した。

 キングのハートと、ジャックのクラブ。

 絵札は10として数えるので、エリックの数字は20。

 21に近づけるゲームとしては、ほぼ最高の手札だ。

 

「それで、何枚賭けます?」

 

 本来なら他のプレイヤーと、カードを引くか引かないかで駆け引きがあるが、女神は実質ディーラーと同じ。

 

「私は結構いい手札ですよー」

「20枚だ」

「分かりました。カードを公開しましょう」

 

 女神:19

 エリック:20

 

「あれ、負けちゃいました。

 どうぞ、20枚です」

 

 彼女は手のひらから20枚もの幸運のコインが湧きだし、それをテーブルの隅に置いた。

 おお、と観客たちがどよめいた。

 

「……神の力を使わないのですか?」

「勝負でそんな無粋なことはしませんよ。そんな無意味なことはね。

 さあ、もう次の勝負しましょう」

 

 エリックがカードを配る。

 今度の彼の手札の合計は、11だった。

 

「うーん、ヒットかな」

 

 女神はカードを1枚引いた。

 エリックもカードを引く。

 

 数字は7。

 

「あ、一応言っておきますけど、私は居るだけで無意識に運命に干渉してしまいます。こればかりはどうしようもないので、どうしても勝ちたかったら私を喜ばせると勝ちやすくなる傾向になりますよ」

「ご忠告どうも」

「それで、何枚賭けますか?」

「また20枚でいい」

「では、カードを出しましょう」

 

 女神:18

 エリック:18

 

「おや、ドローですね、残念」

 

 またエリックがカードを配る。

 次の勝負もドローだった。

 観客は勝負の行方を固唾を飲んで見守っている。

 

「冒険者のお仕事って大変なんですか?」

 

 駆け引きの一環なのか、女神がそんなことを言い始めた。

 

「大変じゃない仕事とかあるわけないだろ」

 

 もうカードを出すかどうか決まっている。

 無駄に勝負を長引かせる意味はないはずだった。

 

「でも依頼とかで魔物とか戦ったりするんですよね?

 私の故郷は魔物とか居なかったんで、その大変さは分からないですんよねー」

「想像も出来んな」

「同じ人間と戦ったりするんでしょう?」

「依頼によっては、街道に現れる盗賊の討伐とかもあったりはする」

「へぇ~」

 

 彼女はにやにや笑って見ている。

 エリックの背筋に悪寒が走る。

 

「さあ、どれくらい賭けます?」

「賭けない」

「あ、そうします? では、カードを出しましょう」

 

 女神:17

 エリック:24

 

 ブラックジャックは21を超えてはいけない。女神の勝ちだ。

 だが、彼に損失は無い。

 

「次のゲームを始めましょう」

 

 カードが配られる。

 まだ勝負は終わらない。

 

「やっぱり依頼とかでも人を殺すと、躊躇いとか無くなっちゃうものなんですかね?」

「……」

「例えば、五年前とか」

「……」

「おや、ズルいとか、卑怯とか思いましたね?」

 

 女神は、運命はニヤニヤと嗤っている。

 エリックの額に汗が流れ落ちる。

 

「勇敢ですよね、エリックさん。

 パティちゃんの代わりに私と勝負に乗り出るなんて」

「何が言いたいんだ!!」

「何枚賭けますか?」

 

 女神は男の言葉に答えず、勝負を促した。

 

「三十枚だ……」

「おお、これで貴方が勝ったら、見事100枚に到達ですね。

 無事にパティちゃんもこのカジノから解放されますね」

 

 女神の手札は、19。

 エリックの手札は18だった。

 

「くそッ」

「あら、40枚まで減ってしまいましたね」

 

 すぐに次のゲームが始まる。

 

「カードを配って下さい」

「……」

 

 エリックは動けない。

 

「そっちがやらないのなら、私が配りますよ」

 

 女神がカードを二枚ずつ配る。

 

「ところで、パティちゃんが私に何をお願いしようと思ったか、知りたいですか?」

「……興味ないな」

 

 エリックがカードを取った。

 その手は震えている。

 

「本当は分かってますよね。

 彼女の願いをわざわざ遮って、私と遊んでくれているんですから」

 

 くすくす、と女神は嗤っている。

 

「彼女が私のところにいると、都合が悪いんですよね?」

「デタラメを言うな!!」

「あははは!! ほら、カードを出しなさい」

 

 ぱんぱん、と手を叩いて激昂するエリックを女神は嘲笑っている。

 

「……やっぱり、エリック先輩だったんですね」

 

 勝負を見守っていたパティが呟いた。

 

「私の家族を殺したのは」

 

 観客たちが、ざわざわと騒ぎ出した。

 

「ねえ、どうして殺しちゃったんですか?」

「俺は誰も殺してなんてない!!」

「それで、何枚賭けます?」

 

 エリックは無言で10枚のコインをテーブルの真ん中に置いた。

 

 女神の数字は27。

 エリックは18だった。

 

 彼の勝利だった。彼に10枚のコインが支払われる。

 

 女神は再びカードを配った。

 

「ねえねえ、教えてくださいよー。

 どうしてパティちゃんの両親とお爺ちゃんと妹を殺しちゃったんですか?」

「……白々しい」

「教えてください、先輩。……言え!! 私はあの時、お前の顔をタンスの中から見ていたんだ!!」

「まあまあ」

 

 テーブルを叩いて怒鳴るパティを、女神は諫めた。

 

「賭ける品を変えましょうか?

 貴方が勝ったら新しい顔と人生を上げましょう。

 私と勝負しているんだから、それくらいの景品は必要でしょう」

「ほ、本当か?」

「私は嘘を言いませんよ。その代わり次の勝負で負けたら、コイン50枚を貰います」

 

 女神はカードを取るように手で促した。

 

「アンズ様ッ」

「勝負しているのは彼ですよ、外野は黙っていなさい」

 

 パティの批難も、女神は気にしない。

 

「あの貧乏どもが悪いのさ!!

 こっちはオークの群れ退治で仲間を全員失ったんだぞ!!

 あんな報酬じゃ割に合わないってんだ!! 依頼主から追加で交渉して何が悪い!!」

「だから殺したんですか!? ギルドを通じてない報酬の交渉は規約違反ですよ!!」

「村長のくせにケチくさいお前の家族が悪いんだよ!!」

 

 本性を見せたエリックの罵倒に、パティはこぶしを握って涙を流した。

 

 エリックの手札は5とA。Aは11とも扱えるので、6か11だ。

 微妙な手札だった。彼はカードを引いた。

 

 その数字は2。合計で8か13。

 もう1枚引いた。次の数字は4だった。

 

「ふふふッ、もし勝ったらどんな新しい人生を送りますか?」

「今度こそ冒険者として成り上がってやるんだ、こんなシケた街ともオサラバだ!!」

「ふーん」

 

 エリックの手は震えている。

 彼の手札の合計は12だ。

 

 最低でももう1枚は引かないと、勝てる数字ではない。

 彼は、山札からカードを引いた。

 

「新しい人生で、パティちゃん達に償おうとは思わないんですね」

 

 彼が引いたカードはハートのクイーン。

 合計で、22。彼は、()()に嫌われていた。

 

 エリックの手からカードが落ちる。

 

「じゃあ、50枚、貰いますねー」

 

 彼の目の前から、自身の幸運が根こそぎ奪い取られる。

 

「おい、このクソ野郎をギルドに連れてくぞ!!」

「俺達全員が証人だ。絞首台は覚悟しやがれッ!!」

「や、いやだ、たすけッ」

「黙れ、俺らの評判に傷つけやがって!!」

 

 エリックは観客の中に居た同僚の冒険者たちに引きずられていった。

 

「あらあら、気の早い人たちですね。まだコインは4枚残ってたのに」

「……ありがとうございます、ミストレス。家族の仇を討ってくれて」

 

 パティが女神に頭を下げた。

 

「別に、ただの暇潰しですし……。

 あ、どうせあいつから取れるものも無いでしょうし、慰謝料代わりにこれあげます」

 

 女神はエリックから勝ち取ったコインをパティの前に押し出した。

 

「い、良いんですか?」

「貴女とそれそれに伴う運命を堪能させてもらいました。

 まあ私が何もしなくても、彼は同じ末路を辿ったでしょうけど」

 

 これはただの暇潰し。

 暇を持て余した女神の遊びなのだ。

 

「貴女がこのカジノを辞めてしまうのは寂しいですけど」

「……いえ、しばらくはここでお世話になります」

「おや?」

 

 勝負に勝っても何の感慨も浮かべていなかった女神の表情に、喜色を浮かべた。

 

「気軽に話しかけられる友達が居るのは良いことです。

 この世界に出店してよかった」

 

 別の世界の神たる彼女には興味の無い事だったが、この世界は神々の距離がずっと人間の生活に近い。

 

 神話の物語のように、神々の横暴がすぐそこにあるのが、この世界だった。

 ある意味で、気まぐれだが()()()()ができる神様の領域は、唯一無二の安全地帯。

 

 復讐と敵討ちをする必要の無くなったパティは、その事実を数日前に目の当たりにしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




拙作はタグの「メアリース・シリーズ」と同一の世界観を有しています。
これらを読まなくても理解できる内容になっておりますので、ご安心ください。

今作のテーマは破滅とそれを取り巻く人々です。
主題はギャンブルによる駆け引きの描写ではなく、人間模様でしょうか。

このカジノは今回は異世界でしたが、現代の地球にも現れます。
そうした群像劇の予定です。短編ですし、好きな時に更新できるってな感じで心理的ハードルを下げておきます。

では、次回のご来店をお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。