バッドエンドカジノへようこそ!!   作:やーなん

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――アンズちゃんからの一言――

皆さんは、自分がどの宗教に属しているか知っていますか?
あ、アンズちゃんは前回言った通り、無宗教ですよ。実家は仏教だったかな?

人間は面白いもので、ガチャを回すときにも宗教を見出します。
ガチャのテーブルがどうとか、深夜に引けば最高レアが当たるとか……本当に、面白いと思いません?





無料ガチャ

 

 

 

 

「今日は何だかにぎやかですね」

 

 今日の客入りを見て、パティはそんなことを呟いた。

 

 アプリコットパレスは来客に無料でぶどうジュースを提供しているので、それを目当てにタダ酒ならぬタダジュースを飲みに来る客も多い。

 賭け事をする客は全体の一割も居れば良い方だろう。

 

 それも当然だろう。

 パティは今五十枚の幸運のコインを持っている。

 これはこのカジノの賭け事でしか増減できない、生来の幸不幸。

 これを使い切ったら人生は終わりなのだ。

 常連客なんて、タダジュースを飲みに来る野次馬くらいになってしまうのは必然だった。

 

「そりゃあ、今日は無料ガチャの日だからね」

 

 一緒にホールを担当している従業員の同僚が、彼女の呟きに反応した。

 

「無料ガチャ?」

「ほら、あれ。あの機械。今日だけ一人一回無料で回せるんだって」

「……ああ」

 

 パティは同僚の視線の先に置かれている、場違いな機械を認めて納得した。

 

 そこに在るのは、巨大なガチャポンだった。

 幸運のコイン一枚で一回レバーを回し、中の景品を獲得できる仕組みである。

 その前に客たちが行列を作っている。

 

「パティも休憩の時にやってみたら?

 今、ピックアップ? 期間中なんだって」

「何ですか、ピックアップって」

「なんでも、SSRが出る確率が二倍になるんだって」

「そのSSRってのも何だかわからないんですけど……」

「さあ、SSRが一番レアだって話だよ」

 

 とにかくそういうモノだとしか分からない彼女達だった。

 

「タダで何か貰えるらしいし、今度から冒険者との兼業に戻るんでしょ?」

「ええ……」

「じゃあ、聖剣とか出てきたら冒険に役に立つんじゃない?」

「聖剣って……」

 

 そんなモノも入ってるのか、とガチャポンを見やるパティだった。

 

 

 

 

 そして、パティは休憩時間にガチャポンの行列に並ぶことにした。

 

 その理由は単純だ。

 ここ数日、パティはカジノのスタッフルームの奥にある寮の一室を借りて過ごしていたのだが。

 これは幸運のコインを全て失ってしまった者への救済措置。

 今のパティには当然当てはまらない。

 

 なので出て行かないといけないのであった。

 だが別にホールの仕事は辞めなくても良いと言う。

 その厚意に甘えて、週に何度かここで働き続けることにしたのだ。

 

 並んでいると、ガチャを引いた客たちの声が聞こえてくる。

 

「ちぇ、ヒールポーションかよ」

「ポーション代が浮くからいいだろ。俺なんてたわしだぞ」

「本当にSSRなんて出るのかよ……」

 

 どうやら中々大したものは出てこないらしい。

 

「おい、これってAランクの冒険者証じゃんか」

「なんでこんなものも出てくるんだよ……」

「これってギルドにどう説明すればいいんだよ……」

 

 或いは、役に立たないモノも出てくるようだった。

 

 そうして行列が徐々に進行していくと。

 

 突如として、ガチャポンが黄金色に輝いた。

 

「見ろ、SRの確定演出だ!!」

「マジかよ!?」

 

 周囲が騒めきだした。

 パティも何事かと列の最初の方を見やると。

 

「やった、エリクサーが当たったぞ!!」

「うおッすげー」

「本当に出るもんなんだな……」

 

 方々からそんな声が聞こえた。

 

「エリクサーって、万病に効く霊薬ですよね……」

 

 教養の無いパティでも知っているほどの、伝説の秘薬だった。

 そんなものがあっさりと出て良いのだろうか。

 パティがそう思っていると、またガチャポンが光った。

 

「いよっしゃあぁ!! 交換チケット五枚だ!!」

 

 このカジノで交換チケットと言えば、先日ここの女神が勝負にちらつかせていた、不運のコインを幸運のコインに交換できるチケットの事だ。

 それが五枚。一枚で十枚交換できるので、おおよそ常人の二倍の幸運を手に入れたということになる。

 

 SRでさえ、人生を一変できるような代物ばかりのようだ。

 では、その上のレアリティであるSSRともなればどのような景品があるというのか。

 パティが戦慄していると。

 

「た、頼む、そのエリクサーを譲ってください!!

 私の仕えるさる貴族の御方が、不治の病なのです!!」

「知るか、欲しかったらお前もガチャで当てればいいだろ」

 

 エリクサーを手にしたらしい冒険者に、身なりの良い召使いが土下座をしているのが見えてしまった。

 

 イヤな場面を見た、と彼女は目を逸らした。

 そしていよいよ、彼女の番が近づいてきた。

 

「くそッ、くそッ、俺もSRの景品を!!」

 

 行列の進行が遅いと思ったら、無料分だけでなく自前のコインを投入している人たちが続出しているようだった。

 だがポーションの瓶や、たわしが並んでいるのを見ると、彼らの戦果は芳しくないようだった。

 

 まさに天国と地獄。

 彼女の想像以上に危険な賭け事。それがガチャだった。

 

「おや、パティ君じゃないか」

「あ、石田先生ですか」

「君もガチャかな?」

「はい。せっかくの機会ですので」

 

 パティは無料分を引いてきたらしい石田に遭遇した。

 

「そっちは何が当たりましたか?」

「これだよ」

 

 彼はCランクの冒険者証を示した。

 

「まあ、所謂ハズレ枠だね」

「さっきAランクの奴を当ててる人居ましたけど、使えるんですかね?」

「ふふふ、これから試してみるつもりだよ」

 

 好奇心旺盛な彼は楽しそうにしている。

 

「でも学者先生、ドアから出たら自分が入ったところから出ちゃいますよ。

 冒険者ギルドのある所に行けるんですか?」

「実は私がこのガイアディア支店に居るのも、別の支店に移動できる権利がガチャで手に入ったからなのだよ」

「ああ、そうなんですか」

「ならば、別の世界に出入りできる権利もあるはずだ」

 

 無い、とは言えないだろう。

 パティが想像を絶するほど、景品の幅は大きいようだ。

 

「おや、次は君の番のようだよ」

「あ、本当だ」

 

 後ろから、早く引けよ、みたいな視線を感じる。

 パティはそそくさと、ガチャポンのレバーを回した。

 

「こ、これはッ!?」

 

 その時、ガチャポンが虹色に輝き始めたではないか。

 

「SSRの確定演出だ!!」

 

 誰かがそう言った。

 

 がこん、とカプセルに入った景品が出口から出てくる。

 

「……あれ?」

 

 しかし、カプセルの中には何も無かった。

 

「なんだ、ハズレかよ」

「びっくりして損したぜ」

「SSRなんて、出るわけないもんな」

 

 確定演出を見ていた周囲は、そんな好き勝手なことを言い始めた。

 

「……」

 

 パティは無言で、中身の無いカプセルを開けた。

 文字通り、中身は空っぽだった。

 

「おい、引いたんならどけよ」

「…………はい」

「パティ君? 顔色が悪いが大丈夫かね?」

 

 石田が心配そうに硬直しているパティを慮った。

 

「……すみません、大丈夫です」

 

 パティはそそくさとスタッフルームの方へ走って行った。

 

「(私の別支店へ行く権利も、物質的な物ではなかった)」

 

 彼はその時、一応それを説明する文章が封入されたカプセルが当たった。

 そして、その文章自体には何の特異性も存在しなかった。

 

 更に言えば、このガチャからは異能じみたスキルさえも排出される。

 石田は確信していた。あのカプセルは空っぽだったのではない。

 パティにだけ分かる形で、彼女は何かを受け取ったのだ。

 

 ただ、それを知る術は、当人だけしかわからないことだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 

 二日後、パティは自国の冒険者ギルドに赴いていた。

 

「あ、パティちゃん」

「ご無沙汰です……」

 

 彼女は顔見知りの受付嬢に話しかけられた。

 

「聞いたわよ、エリックの奴の件。

 うちのギルドの規律を破るなんて、良い度胸だわ。

 貴女も、大変だったわね」

「いえ、全ては終わったことですから……」

 

 正確には、未だに心の整理が付かない、と言った方が正しかった。

 憎き仇が捕まったことも、自分が手に入れてしまったモノのことも。

 何一つ、呑み込めていないのだ。

 

「パティちゃーん」

 

 その声に、パティはびくりと震えた。

 

「ミストレス、なぜここに」

 

 彼女が振り向くと、いつものけばけばしい格好ではない、庶民の服装にとんがり帽子を被った女神がにこにこしていた。

 

「私はどこにでも居ますよ。悪いですか?」

「い、いえ」

「実は冒険者ごっこはしたことがなかったんです!!

 せっかくだから一緒にパーティを組みましょうよ」

「いえそんなッ、恐れ多いといいますか……」

「えー、パティちゃん、私とパーティ組むの嫌なんですか?」

「いえ、そう言うわけでは……」

 

 本質的にパワハラと相違無かったが、パティは断る口実を探した。

 

「えっと、ミストレスは冒険者登録はしたんですか?」

「してませんよ? だって必要無いでしょ? 私はそれで報酬を貰うつもり何て無いんですから」

「……」

 

 本質的に、暇つぶし。

 この女神にとって、利益何てどうでもいいのだった。

 

「これでも人間だった頃は名の知れた魔術師だったんですよ? 邪魔はしませんよ」

「そう言うわけでは……」

「私はただ──」

 

 彼女はスッとパティに近づき、耳元でこう言った。

 

「貴女の資質を見たいだけなんですから」

「……あれは、アンズ様の差し金なんですか?」

「いいえ、あれは本当に偶然ですよ。私は何もしてません。それとも私を疑うんですか? アリアちゃんは疑わないくせに」

「……失礼しました。出過ぎたことを」

 

 パティは反射的に頭を下げた。

 神を怒らせてはいけない。どんなに親しげでも、その本質は人間とはどうしようもないほどかけ離れているのだから。

 

「気にしないで下さい。あ、杖とか調達してきた方がそれっぽいですよね? 今は普通の人間位の規格に合わせてるので、触媒は必要ですね!!」

 

 買って来まーす、と彼女はギルドから駆け出していった。

 

「はぁ……」

 

 パティは息を吐いた。

 息が詰まるとはこのことだった。

 

「おや、パティ君ではないか」

「あれ、石田先生……」

 

 ふと見ると、石田がなぜかギルドに居た。

 普段のスーツ姿ではなく、この国の庶民らしい格好をしている。

 

「なぜここにいるんですか?」

「先日手に入れたギルド証が使えるのか試したくてね。

 先ほど受付に提示したら、問題なく使えたよ」

「そうなんですか……」

 

 うちのギルドは大丈夫なのかと、不安になるパティだった。

 

「ところで、依頼を受けるにはどうするのかな?

 見たところ、掲示板などは見当たらないけど」

「うちの国のギルドの仕事は、全部ギルドが差配してくれますよ」

「え、そうなのかい?

 冒険者と言えば、自由なイメージがあったんだけど」

「よその国ではそうらしいですね」

 

 どうやら石田はイメージとの違いに困惑しているようだ。

 すると、パティは受付に呼ばれた。

 そして依頼書を持ってきた。

 

「私もCランクなんで、同じランクかそれ以下のランクのギルドメンバーを募って任務に出発します」

「任務、なのかい」

「ええ。この国は国民全員がアリアレア様の信者なんで、ギルドも軍事色が強いんですよ」

「なるほどね。それでどんな任務なのかな?」

 

 この人一緒に付いてくる気なのかな、と思いつつも彼女は依頼書を見せた。

 

「ふむふむ、近隣の村に巨人族が複数出現し、被害が出ているのか。

 しかし、これは後方支援の任務だね」

「ええ、巨人族を相手にするのはAランクの冒険者パーティじゃないと歯が立ちませんからね。

 この任務は彼らの任務が終わるまで陣地構築とかそれの維持や警備、輸送とかですね」

「意外と夢がな……ごほん、堅実的だね」

「Cランクの冒険者なんて駆け出しが終わった程度の人員ですし」

 

 歯に衣着せぬ物言いで、パティはそう言い切ったのだった。

 

 そして彼らの仕事が始まった。

 今回パティらの任務は、前線パーティへの食糧や補給物資の輸送だった。

 その後、防衛陣地を警備に移行する流れになる。

 

「各班の配置をこれより決める。斥候が得意な者は周辺の警戒をしてくれ」

 

 パティ達以外のCランク冒険者たちも多数参加し、Bランクの冒険者が司令塔になり、輸送隊は出発した。

 

「思ったより統率が取れている。流石は軍神の国だ」

「石田先生こそ、お歳の割にはしっかりとした体幹ですね」

「これでも若い頃は徴兵されていたからね。塹壕を掘るのなら任せてくれたまえ」

 

 なんて、行軍しながらお茶目に笑う石田だった。

 

 

 目的地には数日を要する。

 当然野営も行い、順番に寝ずの番も行う。

 

 初日は、パティや石田達数名が当番になった。

 

「魔物とやらに遭遇できなかったのは思いのほか残念だったな」

「ははは、爺さん、辺境に近づけばそのうち嫌でも魔物に出くわすさ」

「老いぼれはでしゃばるなよ!! 巨人が出てきたらこのラッキーマンの出番さ!!」

「馬鹿野郎、運だけで巨人族に勝てるかよ!!」

「ははは!!!」

 

 彼は若い冒険者たちと一緒に談笑している。

 若人は彼をからかいつつも、楽しそうにしていた。

 よく見れば、彼らの足元には酒瓶が転がってる。

 

「男の人達って単純ですよね」

「そうですね……」

 

 パティはたき火を間に、女神アンズライールと対面して座っていた。

 

「石田教授も、異世界をエンジョイするのはいいんですけど、奥さんと娘夫婦とお孫さんが心配してるのに」

 

 彼女は呆れながら、木の枝をたき火に放った。

 ばちばち、と火花が散った。

 

「……あの、アンズ様」

「なんですか?」

「どうして、アリアレア様は戦争をなさるんでしょうか」

 

 どこか思いつめたような、パティの呟き。

 女神は答えた。

 

「パティちゃんって、今はギルドの所有するアパートメントに住んでいますよね?」

「はい、そうですけど……」

 

 以前からの住処として、パティはギルドの加盟者向けの格安の長屋に住んでいる。

 

「例えば、そのアパートの住人が神々だとします。

 パティちゃんは今のように仕事をして、お金を稼いでいますよね。それが神々のお仕事だとします。

 アリアちゃんは、アパートの管理人に成りたいのです」

「……それはつまり、この世界の主神になりたいということですか?」

「ですです」

 

 女神は肯定した。

 

「アリアちゃんは軍神、より正確には軍規を司る女神です。

 彼女以外にも軍神や武神、戦神は沢山います。

 アリアちゃんはその一つを司っているに過ぎないのです。

 彼女ってばほら、女性でしょう? 軍隊って男所帯が基本ですし、女神の軍神ってだけで周りから舐められてるんです。

 アリアちゃんも人間の頃から普通に強いですけど、それでも別に武技や個人の武力で神になったわけではないですから」

 

 パティには衝撃だった。

 この世界では、少なくとも自国では女神アリアレアは絶対的な存在だ。

 だが、神々の世界において、彼女の地位は想像以上に低いらしかった。

 

「この世界の主神になってようやくこっちの業界で頭角を現したってところで、更にその上の軍神そのものを統括する神になって複数のアパートを管理する村長ってところでしょうか」

「では、創造神メアリースはどのくらいの地位なんですか?」

「あいつは領主になるんですかね。よく、そう例えられてます」

 

 彼女は若干嫌悪感を露わにして、この世界の造物主をそう評した。

 アパートの管理人、村長、町長、領主。一つの世界さえ支配できない神は、その中でも一般人レベルに過ぎないのだ。

 

「……アリアレア様は、自分の地位の為に戦争をしているんですね」

「まあ、彼女も昔は違ったんですけどね~」

「え?」

「じゃ、私はもう寝ますね」

「あ……」

 

 寝ずの番だというのに、目の前の自由奔放な女神は毛布を被って眠り始めた。

 

「じゃあ、ミストレス。アリアレア様を手玉に取れる貴女はどれだけの女神なんですか……」

 

 パティのその呟きが漏れる頃には、目の前から寝息が聞こえていた。

 

 

 

 §§§

 

 

「アリアレア様の加護ぞあれ!!」

 

 斥候が魔物の群れを発見したのが数分前。

 避けようがないと判断し、こちらからの奇襲作戦になったのはすぐだった。

 

 パティがメイスを掲げると、淡く魔力を帯びた。

 そして、そのまま大上段から勢いのままに、魔物へ叩きつけた。

 

 奇襲は成功し、他の冒険者たちの活躍もあり、魔物たちは逃げ出していった。

 

「……その華奢な体躯で、前衛とは頭が下がるね」

 

 石田はサーベルの柄に手を掛けたまま、物資の側で戦闘を見て、そんな感想を漏らした。

 

「基礎的な信仰魔法ですよ。

 アリアレア様の信者なら誰でも使えます」

 

 事も無げにパティはそう言った。

 信仰魔法とは、特定の神を信仰した際に授けられる体系的な魔法の一種だ。

 

 軍神のアリアレアなら戦闘に関連する効果の魔法を。

 これが酒の神なら当然酒に関する魔法になる。

 

「なるほど、この国が軍事面に特化している理由がよくわかったよ……」

 

 石田は白髪交じりの髪の毛を掻いてそう呟いた。

 そんな遭遇戦もありながらも、一行は防衛陣地へと辿り着いた。

 

 防衛陣地はテントが幾つも設置され、既に木の杭で壁を作ってあった。

 

「巨人族は、あの山辺りを住処にしているのかね?」

「え? そうらしいですね」

 

 物資の搬入作業中に、石田が山の方を見ながらそう言った。

 

「なるほど、山火事が起こって巨人たちは山を下りたのか」

「私はカジノの中に居たので知らなかったですけと、数日前に大嵐があったらしいですよ。雷もゴロゴロ鳴ったそうです」

「では、交渉の余地などは無さそうか……」

「ええ、人里に降りてきたら駆除するしかありません」

 

 石田は他種族と分かり合えないことに嘆いていた。

 

「つまり今回は駆除作戦なわけか。

 Aランクの冒険者パーティというのは、巨人の集落を全滅させられる強さを持っているのだな」

「……いえ、精々ひとつのパーティで一度に一体を倒せるくらいです」

「なるほどなるほど、だからこうして拠点を構え長期戦の構えを取っているわけか」

 

 そこで、作業をサボっている女神が言った。

 

「素人意見ですけど、ここが巨人に襲われたらどうするんですか? その日人類は思い出しちゃうんですか?」

「アンズ様、その為の防衛陣地で……」

 

 その時、どしん、と木の杭が倒れる音がした。

 

「巨人族だあぁぁ!!」

 

 そこから、腰みのを纏い棍棒を手にした巨人が入ってきた。

 

「アンズ様があんなこと言うから!!」

「私の所為なんですか!?」

「どうしてここまで接近に気づけなかったんだ!?」

 

 動揺して騒いでる女二人を他所に、石田がそう叫んだ。

 彼のその疑問の回答はすぐに得られた。

 

 この防衛陣地は森の前に布陣してある。

 新たな巨人が崩れた防壁の中に、森の中から這うようにして現れたのである。

 

「巨人どもを排除しろ!!

 この陣地を開け渡すなッ!!」

 

 専任の冒険者が叫んだ。

 数十人の冒険者たちが、戦闘態勢に移る。

 

 前衛たちが足止めを行い、後衛が弓矢や魔法で支援を行う。

 だが、身長5メートルを超える巨人にとって、人間など精々幼児が集まって来るのと同じだった。

 

 巨木を削ったような粗末な棍棒で、前衛が薙ぎ払われる。

 弓矢も魔法も、まるで歯が立たない。それでもうっとうしいのか、巨人は後衛に向かって歩を進める。

 

「これは全滅コースですかねぇ」

 

 他人事のように、女神がぼやいた。

 

「それで」

 

 彼女は震えて動けずにいるパティに顔を向けた。

 無理もない、Cランクの冒険者の戦う相手なんて、ゴブリンよりちょっと強い魔物くらいだ。

 

「また、見てるだけですか?」

 

 その言葉にパティの脳裏に、かつての惨劇が浮かんだ。

 

 タンスの中から見ることしかできなかった、悪漢の振り上げる武器と血飛沫。悲鳴。悲鳴。悲鳴!!

 崩れ落ちる家族に、散乱した死体。血の臭い。

 

 何かが、パティに話しかけてくる。

 

 

 ──手本を見せてやる。

 

 

 パティの口が、勝手にしゃべりだす。

 

「鎮まれ」

 

 信仰魔法“軍令”。

 

 パティの一声で、壊乱していた冒険者たちの悲鳴が止まった。

 

「丁度いい、お前を使おう」

 

 パティは、あんぐりと彼女を見ている石田を、悠然と指差した。

 

「“軍権神授・先任武官”」

 

 女神アリアレアの信仰魔法は、円滑な軍務の遂行に特化している。

 バラバラだった冒険者達は、誰がこの場の指揮官なのか一瞬で理解させられた。

 

「A隊は足止めを!! B隊は物資から油瓶を使い、C班は火炎魔法を投射せよ!!」

 

 石田はその穏やかな顔に、若い頃に部下をしごいた鬼軍曹の鬼気とした表情が宿って指示を飛ばした。

 冒険者たちは即座にその指示に従った。

 

「信仰魔法、“即席調練(インスタント・エクスペリエンス)”」

 

 所詮、数名単位の集まりに過ぎない冒険者たちの、動きが変わった。

 

 枝葉のように吹き飛ばされていた盾と武器を持った前衛が、巨人の一撃を受け流した。

 弓兵たちは巨人の両目に正確に狙いをつけ、矢を放つ。

 

「くらえ、化け物!!」

 

 弓矢に怯んだ巨人の頭に、油瓶が投じられる。

 

「ファイヤーボール!!」

 

 肌を焦がす程度のダメージしか与えられなかった火炎弾が、油まみれになった巨人の頭部に燃え移って燃え上がる。

 侵入してきたもう一体の巨人にも、寸分違わず同じように、冒険者たちは実行してみせた。

 

 悶え苦しむ巨人たちにパティは、パティだったものは片手を上げる。

 その間上に、高密度の魔力が集結していく。

 

「──ワルキューレランス」

 

 収束してプラズマ化した魔力の槍が、投じられる。

 

 閃光。爆音。轟音。

 巨人たちは死ぬ間際に確信した。

 

 あの音だ!! 自分たちを住処から追いやった、雷鳴だ!!

 

 二体の巨人は、消し炭となって絶命した。

 雷鳴の槍はそれだけでは留まらず、彼女の前方をすべて焼き尽くして地平線の彼方まで消し飛ばした。

 

 戦いは終わった。

 静寂が訪れる。

 

 そして、誰かが言った。

 

「……英雄だ」

「あの子が、英雄だったんだ」

「アリアレア様の、使徒だ……」

 

 魔法の効力が消えた冒険者たちは、口々にそう言った。

 

 それに何かを言うよりも先に、パティは気を失って倒れた。

 

「パティ君、パティ君!?」

 

 最後に彼女が見た光景は、自分に駆け寄って来る石田の姿だった。

 

 

 

 

 ──パティはSSRアイテム“軍神の英雄になる権利”を手に入れた!!

 

 

 

 

 

 

 

 




新作なのに更新が遅れてすみません。最近気力があまり湧かないモノでして。

あと、この小説のタイトルを短くしました。
元々の副題の方がインパクトありますよね?

それではまた、次回!!
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