バッドエンドカジノへようこそ!!   作:やーなん

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――アンズちゃんからの一言――

実はあのガチャでSSRを引く確率は、0.00001%……一億分の一です!!
え? 人生で約五十回しか引けないのに、確率が低すぎるって?

逆ですよ、逆。
一億人が一人ずつ引けば、ほぼ確実に誰かが当たるんです。

あのガチャポンには他に換えの利かないユニークアイテムばかり入ってます。
ええ、“英雄になる権利”のような唯一無二のものばかり。
それで世界を変えられるのですからむしろ太っ腹ってものでしょう?




カジノの日常

 

 

 

 今日も賑わいを見せるアプリコットパレス・ガイアディア支店。

 

 その広大なホールを、ジャネットは見て回っていた。

 彼女はディーラーだが、実質的にはこの店の経営責任者。

 この店は利益度外視で営業しているが、当然何らかの利益が無ければ店を維持することはできない。

 

 彼女は比較的人の少ないホールの一角へと向かった。

 

 そこには、布のシートを広げてその上にバックパックを置いて座り込んでる猫獣人の女がいた。

 小柄で身長はパティと大差ないが、それは種族的な物で彼女は成人している。

 

「なんや兄さん、どないしたん? ガチャでたわしでも出たんか?」

「そこまで運が悪かねーよ。こいつを買ってくれ」

「なんやこれ、始めて見たわ。≪鑑定LV8≫」

 

 彼女は客の持ってきた景品を手に取って、スキルを使用した。

 

「こいつは『ダンベル』っちゅうアイテムや。こいつを腕に持って身体を鍛える代物やと」

「要するに、重りじゃねえか……」

「重りやなぁ。ほな、鑑定代を引いて、こんなもんやな」

「ちくしょう、酒代にしかなんねー」

 

 冒険者らしい客は、彼女の前から去って行った。

 

「……これ、二つで意味があるもんやん。ひとつだけ出てきて意味ないやんけ。まあ、潰せば鉄にはなるかな」

「精が出ますね、サリナスさん」

 

 ジャネットが声を掛けると、サリナスと呼ばれた商人の尻尾がピンと真上に伸びた。

 

「お、おう、ジャネットはんか。

 そちらも、見回りごくろうさん」

「仕事ですので」

 

 ジャネットは柔和な笑みで受け答えをした。

 

「あの神のお膝元で悪いことはせんから、はよあっちへ行きなはれ」

「悪いことをしない人はそう言うことを言いませんよ」

「もうしないって言うてんのや、察し悪いなぁ」

 

 彼女はこの世界、ガイアディアの商売の神の、商国の人間だ。

 かの国は猫獣人の国で、その神もまた猫獣人出身だという。

 

 彼女、サリナスはこのカジノで唯一来場客と金銭取引を許された存在だった。

 それもその筈。

 

「よう、サリナス!! 商神の英雄が相変わらずせせこましいことしてるなぁ!!」

 

 のっしのっし、とザルヴィスが彼女のところに歩み寄ってきた。

 

「相変わらずデカい声と図体やなぁ、ザルヴィスはん。

 うちの国で英雄なんてものは、要するに我が神の入り心地の良い器やねん。それの何が英雄や。アホらしい」

 

 そう、彼女はこの世界に六人しかいない、神の寵愛を受けし者の一人だった。

 

「そう邪険にするなって。俺らの神と、お前んところの神は盟友じゃねぇか」

「何が盟友や。酒が届かんと困るだけやろ」

 

 酒神を崇める酒国と、商神を崇める商国は同盟国同士。

 この両者が顔を突き付けて話すのは、政治的な意味も生じるのである。

 

「まあ、前置きはこのくらいにして、お前も気づいただろ?」

「この世界最後の英雄、あのアリアレアの英雄が目覚めたっちゅうことやろ?」

「おう」

 

 二人は感じていた。新たな英雄の目覚めを。

 そして、それは即ち。

 

「二十年振りか。また戦争が始まるぜ」

「愛国のアホ共を蹴散らしてくれるんなら万々歳やけどな」

 

 軍神の英雄、それは即ち戦争にしか用途が無い。

 また戦争が始まるのを、二人は感じていた。

 

「今代のアリアレアの英雄はどんな奴かねぇ」

「前回は、お前さんが討ち取ったんやっけ? ウチはまだガキだったから知らんけど」

「おう、お前の先代の支援を受けて、万全で互角ってところか」

「アリアレアのところは英雄だけじゃなく、兵隊もぎょうさん強いからな。沢山人が死ぬんかな」

 

 女神アリアレアの信仰魔法は軍事面で強力だが、裏を返せばそれ以外には使い道が少ない。

 かの女神は戦争しかできない。平時は次の戦争の為の準備期間。そういう神なのだ。

 

「人の生き死にで、商売なんてしとうないんやけどなぁ」

「同感だな。辛気臭くなると酒がマズくなる」

 

 二人の英雄の嘆き。

 仕事には関係が無いのでジャネットは気配を消してそっとその場を去った。

 

『ジャネットさん、入り口でZ対応お願いします』

 

 見回りを再開したジャネットの脳内に、別の従業員の声が響く。

 一般的には“念話”と呼ばれる通信魔法であった。

 ガイアディアにはそのような通信技術は限られているので、サリナスは幾らでも出すから技術を売ってくれ、と言われたこともある。

 

『了解しました、すぐに向かいます』

 

 念話の業務連絡に、ジャネットは足早に入り口に向かった。

 

 

 

「なあ? この天秤に触れて出てきた金色のコインを俺達に分けてくれるだけでいいんだよ」

「喧嘩を売って来たのはお前だぜ? それで許してやるって言ってるんだ」

「け、喧嘩なんて……たまたま肩がぶつかっただけで」

 

 入り口の神器の前で、ガラの悪いチンピラ二人が一般人に因縁を吹っかけているのがジャネットの目に映った。

 

 こういう問題は、当然想定されていることだった。

 幸運と不運の物質化。それは即ち、取引や強奪が可能になると言うことだった。

 

 だが、それは無駄な事である。

 

「お客様、ここは運命の女神の領域。

 他者から強奪したコインや物品は、呪いとなって災禍を招くでしょう」

 

 それを示した注意書きが、天秤の神器の横に赤文字で書かれている。

 ジャネットはそれを指差した。

 

「このカジノでの秩序を乱す行いは、警備の者を呼ぶことになります」

「……ちッ」

「くそッ、行こうぜ」

 

 注意を受けたチンピラ二人が踵を返した。

 その後ろ姿を見た一般客が、彼女に礼を言おうとしたその時だった。

 

 ジャネットは、嗤っていた。

 それを、彼は見てしまった。

 

「お客様、もしやお金にお困りですか?」

「な、なんだよ急に」

「もしかしたら、私が御力になれるかもしれません」

 

 ジャネットはホールの中央にある、二階への階段を示した。

 

「二階のVIPルームでは、VIPの方々が莫大な金銭を賭けて勝負をしています。よろしければ、お客様お二人も特別に招待いたしましょうか?」

「ば、莫大な金銭……」

 

 チンピラ二人が唾を飲んだ。

 

「ええ、アプリコットパレスの系列店のスポンサーの方々です。

 彼らの相手をすれば、確実に()()()使いきれぬ金銭を得られるでしょう」

 

 この店の運営費、その全ては一部のスポンサー達の寄付によって成り立っていた。

 そう、カネが有って有り余って仕方がない、そう言う人種によって。

 

「か、確実に儲かるのか!?」

「ええ、今までで、大金を手にせず帰ったお客様はおりません」

 

 ジャネットは、ひとつも、嘘は言っていなかった。

 

「や、やる、俺はやるぞ!! 借金を帳消しにしてやる!!」

「おッ、俺もだ!!」

「ではどうぞ、二階のVIP席へ」

 

 ジャネットが二階へとチンピラ二人を案内し始めた。

 

 

 

「うわ、ジャネットはん、また()()二階に若いやつを連れてったわ」

 

 そんな光景を遠目に見ていたサリナス達は、ドン引きしていた。

 ここの常連たちは、決して二階のVIP席には近づかない。

 なにせ、彼らの二階への通称は──。

 

「ああ、憐れな奴らだ。あのヴァンパイアの巣窟に行くなんてな……」

 

 “Vampire in Power”、略してVIP席である、と。

 

 

 

 §§§

 

 

「地球支部からお越しの皆様。お待たせいたしました」

 

 二階に上がったジャネットが頭を下げる。

 二階に上がったチンピラ二人は、VIP席で談笑する仮面の紳士淑女たちに面を食らった。

 

「こちらが皆様の対戦相手でございます」

 

 ジャネットは二人をVIP達に示した。

 

「おお、ようこそ!! 今日は二人も来てくれるとは!!」

 

 奥に座っていた、杖を持った英国紳士を彷彿とさせる老人が立ち上がり、チンピラ二人に歩み寄った。

 

「いやあ、よく来てくれた。

 ワシ等はカネは有り余っておってな。

 ちょっとばかし遊んでくれれば、幾らでもカネを積もう」

 

 老人が視線を横に向けると、黒服にサングラスを掛けたSPがアタッシュケースを持ってきて、中身を見せつけるように開けた。

 

 そこには、輝くような黄金の延べ棒がぎっしりと並んでいた。

 

「ルールは十回勝負でどうじゃ?

 ゲームの種類はその時々で構わん。一度でも勝てば、日本円で一千万分の金塊をやろう」

 

 チンピラ二人は、ただただ頷くばかりだった。

 彼らがテーブルの席に着くと。

 

「ほれほれ、皆の衆。くじを引きなされ」

「こ、今度こそ私よ!!」

「いいや、俺だ、俺の番だ!!」

 

 老人がくじ引きの箱を示すと、この場に集まった紳士淑女たちがこぞってそれを引いた。

 

「いやった、私だ、私が当たりだ!!」

「私もですわ」

「おめでとう。では、対戦をしたまえ」

 

 当たりを引いたのは、若いスーツの男と、老貴婦人だった。

 

「な、なんであいつらは、あんなに喜んでるんだ?」

「さあ……」

 

 席に着いたチンピラ二人は、何が起きているのかわからなかった。

 

「勝負はポーカーに決まりました。

 ディーラーは僭越ながら、我が主に“国繰り”の異名を頂いたこのジャネットめが務めさせていただきます」

 

 四人がテーブルの席に着いたところを見計らい、ジャネットが一礼をした。

 

「それでは、お互いに賭けるモノを提示してください」

 

 VIP側は、金塊をテーブルに置いた。

 しかし、チンピラ二人は、困惑した。

 

「なあ、賭ける物って、幸運のコインでいいのか?」

「まさか」

 

 愉快そうに、テーブルに座る四人を見守っている老紳士が言った。

 

「このカジノでは、コイン以外にも賭けることができると知っとるか?」

 

 そう、個人間の決闘において、このカジノでは幸運と不運以外のモノも賭けることができる。そういうルールだ。

 

「ただし、その場合は賭けた物に等価なモノでなければならん。

 お前達の差し出せるモノで、お前たち如きの幸運なぞたかが知れている」

 

 壮絶な、そう、イヤな予感が二人に襲われた。

 それはすぐに的中した。

 

「人間が一生に稼げる金額は一世帯約三億円程度だと言われとるらしいな。

 流石に物価が違うじゃろうから、一人一億円もあればその一生分としては妥当かのう」

「お、俺達を、奴隷にするつもりか!?」

「そんなことはせんよ。お前達はちゃんと返してやるとも」

 

 ただの人間。ただの老人。そうであるはずなのに、好々爺のような老獪は、怪物そのものだった。

 

 

「お前達には、自身の寿命を賭けて貰う」

 

 “人生喰らい(ライフイーター)”、と周囲に称される老人は言った。

 

「俺は先月、余命半年と宣告された難病持ちなんだ」

「わたくしは、全身に癌が転移して、末期と医者に宣言されましたわ」

 

 一代で莫大な富を築いたIT社長と、代々続く名家の老婦人が応じた。

 

「お前たちが勝つごとに一千万、お前たちが負けるごとに十年の寿命を貰う」

「ふ、ふざけるな!!」

「そんな勝負、応じれるか!!!」

 

 二人のチンピラは席を勢いよく立ち上がる。

 

「おや、良いのですか?」

 

 そんな二人の背後にいつの間にか回ったジャネットが、囁く。

 

「人間の寿命はおおよそ80年。しかし、それを使い切る人間はどれだけ居ましょうか?

 あなた達だって、どうせ50を数える前にこの世界の医療技術では亡くなるでしょう。

 では、30年分くらいは負けてしまっても問題ないのでは?」

 

 悪魔の、ささやきだった。

 

「あなた達がどれだけ汗水たらしたところで、そこへ並ぶ金塊に匹敵するほどの財貨を得られるのですか?

 彼らにとって、あなた方から得られる10年の価値はそこに在る全ての金塊よりも大きいのです」

 

 この金持ちたちにとって、負けても失うのは金銭だけ。

 だが一度さえ勝てば、次の10年は約束される。別に、寿命を搾り取るのは他の人間でも良いのだ。

 

 対して、このチンピラ達は一度さえ勝てば、何年も遊んで暮らせる大金が手に入る。

 

 十回も対戦すれば、どちらかが全敗することはまず無いだろう。

 そう、これは賭け事とは名ばかりの取引。

 

 悪魔の契約なのだ。

 

 

「や、やるぞ……俺は、やる」

「おッ、おい……」

「俺はマフィアからカネを借りてるんだ!!

 明日にもカネが払わなければ、指を切り落とすって言われてんだよ!!」

 

 その状況は、もう一人のチンピラも大して変わらなかった。

 二人は、覚悟を決めて席についた。

 

「それでは、勝負を始めましょう」

 

 見せつけるように新品のトランプの封を切り、シャッフルを始めるジャネット。

 そして、四人にカードが配られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五回戦目。

 

 その時点で、チンピラ達は二度負けていた。

 彼らのテーブルの側には既に金塊が積まれていた。

 

 だが、チンピラ達は震えていた。

 

「も、もうそろそろ、や、止めにしませんか……?」

 

 チンピラの一人がそう言った。

 もうお互いに、十分に利益を得ただろう、そんな妥協の提案だった。

 

「なりません。最初に十回戦と明示されました。

 それを終えるまで、何人たりとも勝負を終えることはできません」

 

 ジャネットがそう告げた。

 

 十回。十回戦。

 それが、その回数が、妥協の取引をデスゲームに変えている。

 

「……なあ、ディーラーさん」

「なんでしょう?」

 

 若社長の問いに、ジャネットが応じる。

 

「もしかして、健康も賭けられるのか?」

「可能です。貴方がその対価に相応しいモノを賭けられるのなら」

「よ、よし、ではもう寿命は要らない、お前の健康を寄越せ!!」

「ならばわたくしは、身体の癌腫瘍を賭けさせて貰いましょうか」

 

 VIP達は、金塊をベットした。

 

「ゆ、ゆるして、もう勘弁してください……」

「しッ、死ぬのは嫌だ、イヤだぁ」

 

 暴れるチンピラ二人を、老人のSPたちが取り押さえる。

 

「勝てば、勝てば良いのですよ。お二人共」

 

 ディーラーに求められるのは、誠実さ。

 不正を行わないという、信頼。

 

 ジャネットは正真正銘、カード捌きでどちらにも肩入れなどしなかった。

 金持ちたちも、勝負に負けたらちゃんと対価を支払った。

 

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 十回戦が終わった。

 

 チンピラ達は偶然二人共揃って七回負けた。

 彼らがこのカジノに入ってきた時の若々しい姿は見る影もない。

 

 寿命を、健康さを奪いつくされた二人は、難病を、癌腫瘍を押し付けられ、若いだけの老人と見まごう姿になっていた。

 その手には、人生の三割を買えるだけの金塊を持たされて、カジノから叩き出された。

 

 まともに動けない身体に鞭打ち、何とか家まで這い戻った彼らを待ち受けていたのは借金取り。

 当然、金塊は全て奪われた。

 

 しかし、どのような経緯であれ、その金塊は彼らが勝ち取った正当な対価には違いなかった。

 

 彼らから奪ったその金塊が、呪われた黄金としてマフィア達に広がるのは、すぐのことであった……。

 

 

 

 

 

 

 




今回は早めに更新できました!!

ちなみに、アンズちゃんの趣味は人助けです。
お金持ちの皆さんは健康になれて、お金の無いチンピラ達も大金を手にした。ハッピーエンドですね!!
あれ、バッドエンド要素どこだろうな~(すっとぼけ

それではまた、次回!! 高評価と感想、お待ちしております!! 作者のモチベーションと更新速度の為にも!! 平にお願いします!!
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