バッドエンドカジノへようこそ!!   作:やーなん

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――アンズちゃんからの一言――

あんな風に他人の寿命を行ったり来たりしたって大丈夫か、だって?
問題ありませんよ、全然。

だって、地球が温暖化したとか、海水の水位が増えたとか、そんなことに比べれば誰が百年長く生きようが些細な事でしょう?
権力者が長生きしたところで、最終的には別に同じことなんですよ。誰も死からは逃れられない。

永遠なんて無い、まあそれこそを私自身が何よりも願うことですけどね!!



魔王 その1

 

 

 

 無数に存在する世界のひとつ、ハルフィーン世界。

 

 剣と魔法の時代を謳歌するこの世界に、天から災厄が舞い降りる。

 

『よう、人間ども。この世界、ハルフィーンじゃったか?

 ワシは魔王を名乗っとるギンヴォルスちゅうもんや』

 

 竜の頭部を持つ、着流しを着た怪物。

 空いっぱいに映し出された映像が、その姿を映し出していた。

 

『突然で悪いがのぅ、お前らの世界、滅ぼすことになったわ。

 うちの社長の決定でな……ほら、お前らも知っとるやろ、メアリースちゅう神さんや。

 この決定はお前らがワシのタマ取らんことには覆らんのじゃ。

 生き延びたいならワシを殺すことじゃな。

 普通なら、魔王軍とかでお前ら全員シバキ倒すんじゃけどな、ワシは暴力は嫌いや』

 

 魔王を名乗る神の使者は、表情の分かりにくい竜頭の顔に笑みを浮かべた。

 

『せやから、ギャンブルでこの世界の存亡を決めようや』

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、もしもし、こちらガイアディア支店です。はい、あ、これはこれは、いつもお世話になっております。

 予約でございますね、了解しました。一時間後でございますね。はい、お待ちしております」

 

 煌びやかなカジノのホールと違い、コンテナハウスのように簡素なスタッフルームでジャネットが備え付けの電話で対応をしていた。

 

「なにをやってるんですか、ジャネット先輩」

 

 休憩中のパティが訝し気に彼女に言った。

 ガイアディア世界は魔法文明の世界なので、電話なんて奇妙な箱に話しかけているようにしか見えないのだ。

 

「パティ、スタッフ全員を招集するわ。

 緊急対応を行うわ」

「緊急対応ですか?」

「ええ、大スポンサー様がお越しになるわ」

 

 神妙に言うジャネットに、ポカンとなるパティだった。

 

「スポンサーとか居るんですね……」

 

 そりゃあ支援者が居なければ、完全非営利なこのカジノは運営なんて出来ないだろう。

 現在スタッフの多くはカジノの宿舎で寝泊まりしている。

 それらの設備の維持や生活用品、食料などどこから来ているのか、という話になる。

 

 このカジノの維持費は、そのスポンサーが支払っているのである。

 

「ええ、最初このカジノは小さなログハウスほどの規模だったらしいのだけど、スポンサー様の出資でこれほど大きく、そして多くの世界に支店を設けることができているのよ」

「そこまでして、何の見返りがあるんですか?」

 

 お店の経営なんて分からないパティだったが、お金を出すからには見返りがあることぐらいはわかる。

 なので、彼女はジャネットに訊いてみた。

 

「それは勿論決まってるわ、──余興よ」

 

 その回答に、パティは口を閉じるしかなかった。

 

 

 

 

 

「魔王様の御ーなーりー!!」

 

 従業員たちは入り口の前で左右にずらりと並んで、頭を下げて出迎えを行った。

 

「おう、皆の衆ご苦労さん」

 

 入り口のドアを、狭そうにかがめて入って来るのは、竜頭の怪物。

 身長3メートルはあるその怪物は、一瞬でカジノの空気を変えた。

 

 パティは従業員の列の中で、息を潜めるほかでなかった。

 目の前の化け物には絶対に勝てない。そう思わせるほど格が違っていた。

 

「ようこそ、おいで下さいました。魔王ギンヴォルス様」

「おう、ジャネット!! 二階借りるで」

「はい。どうぞご自由に」

 

 二階はVIP席。一般客は入れない。

 魔王と呼ばれた怪物は悠々とそちらに歩いて行った。

 

 その後ろに続々と亜人や獣人らしき部下と、身なりの良い数人の人間が続いて行く。

 

「あ、あれは何なんですか……」

「静かにしろ、スポンサー様だよ。あの御方のお陰で俺たちは飢えずに済んでるんだ」

「あれが……」

 

 隣に並ぶ同僚に注意され、パティは震えた。

 彼女は下級の冒険者だったので、ドラゴンは見たことが無い。

 だが、それが人の形をしていればああであろうと言うのが確信できたのだ。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 二階のVIP席から、エントランスホールが見下ろせる。

 眼下の一階では一般客たちが思い思いに賭けに興じている。

 

「おもろいよなぁ、人間は不運ってだけでそれを忌避するんや。

 ここで賭けられている不運ってのは、決して悪いもんやないのにな」

 

 魔王は一階からテーブル越しに相対する三人の人間に目を向ける。

 

「まあ尤も、あんたらは間違いなく“不幸”に直面しとる」

 

 彼の目の前にいる人間の性別こそ同じだが、年齢はバラバラだった。

 

「ほな、ゲームをしよか」

「ふ、ふざけるなよ貴様!!」

 

 三人のうち一人、若い男が怒鳴り声をあげた。

 

「勝手に連れてきて、ゲームだと!! 馬鹿にしてるのか!!」

「別に強制はしとらんよ。じゃがな」

 

 魔王は顎をしゃくると、部下たちは鏡台を運んできた。

 女性がメイクに使うだろうデザインで、扉状に三面の鏡が備え付けられている。

 

 その鏡はそれぞれ、別々の景色を映していた。

 景色こそ異なっていたが、映されているモノは同じだった。

 

 それは、拘束された人間だった。

 

「お父様、お母様!!」

 

 三人のうち一番若い、少年としか言えない人間が椅子から立ち上がってそう言った。

 

「……ゲームをすれば、息子夫婦を解放してくれるかのう?」

 

 最後に一人、老人が魔王に問うた。

 

「別にゲームをしなくとも、こいつらには手荒な真似はせんわ。

 ただ、自動的にゲームに負けるっちゅうだけや」

 

 人質。それが彼らへのゲームの参加権だった。

 

「ハルフィーン世界の大国の国王であるあんたらには、ゲームに参加する義務がある。そうは思わんか?」

「どういう意味だ!!」

 

 若い王が声を荒げてそう言った。

 

「卑怯やと思わんか?」

「何がだ!!」

「ワシが世界を滅ぼす言うたら出てくるのはいつも若い勇者パーティちゅう鉄砲玉やん。

 ワシらは社長(カミ)の指示で、問題があるからお前らを滅ぼすんや。

 その責任はお前らにあると思わんか?」

「ふざけるな、王である私がなぜ責任を取らねばならん!!」

「本当に、心当たりはあらへんか?」

 

 魔王は部下に持たせていた書類を手に取った。

 

「ハルフィーン世界。丁度十数年前ぐらいから産業革命が起こった。

 文明は著しく発展したが、それと同時に激しい格差社会が形成された。

 環境問題も深刻で、地表の六割以上が公害によって汚染された」

 

 その書類を、魔王はテーブルに放り投げた。

 

「お前ら、うちの社長のメアリース様に上納するモン収められてないやろ」

 

 女神メアリース。

 人類の造物主にして、人類の概念そのもの。

 ハルフィーン世界も、ガイアディア世界も、地球さえも彼女の創造物に過ぎない。

 

 魔王とは、かの女神の使いっぱしりに過ぎないのだ。

 

「馬鹿馬鹿しい、なぜあれだけの量の食料を神に捧げなければならんのだ!!」

 

 若い王が吐き捨てるようにそう言った。

 

「……私が即位する以前から、受け取りを拒否されているらしいと聞いていますが」

 

 少年王がおずおずと気圧されながらそう応じた。

 

「当然やろ。食料やぞ。ヒトの口に入るもんが汚染されとるんや。それを受け取れ言うんかお前ら」

 

 女神メアリースにとって、この世界ハルフィーンは人間が住み込みで働いている工場に過ぎない。

 ここで徴収した食料も、別の世界の食料に乏しい貧しい世界に送る為だった。

 

「それは……」

「十年前くらいに、環境の改善を指示されたな。それまで上納は待ってやるとも。

 お前ら、全然ダメやん。あれもダメ、これもダメ、そら滅亡(じあげ)されても文句は言えんやろが」

 

 だから、魔王はやってきた。

 汚染された大地を、人間ごとこの工場(せかい)を滅ぼしに。

 破壊神にして創造神。神々の領主、女神メアリースはそう言う神だった。

 

「……仕方なかろう。人心は新たな技術に夢中だった。

 好奇心に魅了された人民に、我々にそれを止める術は無かった」

「さよか。ほな、毒杯を飲んだんなら死ぬのが筋やろ。(おや)にそれは危ないよ言われて、知らんかったは済まされへん」

 

 老王の嘆きに、魔王は淡々と答えた。

 そして、竜の顔でもわかるほど、にっこりと笑った。

 

「じゃが、お前らのような愚民どもでも、うちの社長は慈悲を与えることにしとんねん。

 それがワシや。魔王たるワシに勝てたら、お前らの滅亡を保留にしたる」

 

 魔王とは、女神の試練。

 滅ぼされたくなかったら、死ぬ気で戦え、そう言っているのだ。

 

「このゲームは、その前座の余興や。

 ワシはお前らの世界を滅ぼすのに、十年の猶予を貰っとる」

 

 魔王は手を叩いた。

 ジャネットが、王たちの前に十枚のコインを置いた。何の変哲もない、ただのコインだが。

 

「ルーレットをしようや。

 お前らはそのコインを賭ける。十回球を転がして、最終的に残った枚数×一年の時間をやる」

「……ゼロ枚になったら?」

「即座にその国は滅ぼす」

 

 少年王は、喉が渇くのがイヤなほど感じ取れた。

 

「手元に残ったコイン分の年数、お前らを滅ぼすのを待ってやる。その間に、ワシと戦う準備をしろや」

 

 これは、世界の滅亡を賭けたゲームだった。

 

「ルールは簡単。ゲームごとに必ず一枚以上のコインを赤か黒かに賭ける。

 お前らが勝てば、賭けた枚数と同じ分のコインを得る。負けたら賭けた分は没収や」

 

 ジャネットが指を鳴らすと、テーブルがルーレットのそれに変化する。

 

「それでは皆様、ベットをお願いします」

 

 ジャネットは丁寧にそう告げた。

 王達に拒否権は無い。

 

「赤に一枚」

「黒に三枚だ!!」

「儂も黒に一枚」

 

 ディーラーのジャネットが、ルーレットのノブを回し、ホイールが回転する。

 そして、運命を左右するボールが投げ入れられる。

 

 からからから、かたん。

 白いボールが枠に当たって、跳ねる。

 

 そして、ボールが落ちたのは、ゼロの枠。

 赤でも、黒でもなかった。

 

「くっはっはっは!! 相変わらず見事な腕前やな、ジャネット!!」

「お褒めのお言葉、光栄の極みでございます」

 

 魔王が手を叩いて笑う。

 ジャネットは恭しく頭を下げた。

 

「な、なぜ!!」

「ああ、言い忘れとったわ。

 誰かが十枚以上になりそうな時は、その時は賭けた分を没収や。

 悪く思わんでな、ワシに与えられた十年の猶予は社長の指示やもん」

 

 完全に、弄んでいる。

 これはただの、魔王の余興に過ぎないのだから。

 

「お、お前、人間なのになぜ魔王の味方をする!!」

「申し遅れました」

 

 怒りで震える若い王に、ジャネットは言った。

 

「わたくしめは、ディーラーのジャネットと申します。

 こちらの魔王たる我が主により、四天王の末席の地位と“国繰り”の異名を拝しております」

 

 ジャネットは普段はここで雇われディーラーをしているだけで、本業はそう──魔王の手下であった。

 

 その手練手管で、国家の滅亡さえも操る。魔王の、四天王。

 それが彼女の正体であった。

 

「ワシがこいつの腕に惚れてな。カードだろうがルーレットだろうが、小道具無しでありとあらゆるイカサマを網羅しおる」

「わ、我々に勝たせる気はないって言いたいのか!!」

「そうは言っとらんわボケが。ただワシの女を自慢しただけやないか」

 

 これは魔王の悪ふざけ。

 ただそれだけのことだった。

 

「次からはゼロにいれるな。赤か黒か、お前の好きな方にしろ」

「仰せのままに、魔王様」

 

 ジャネットは魔王の指示に恭しく頭を下げた。

 そして、彼女はノブを回し、ボールを投じた。

 

「それでは皆様、ベットを開始してください」

 

 

 

 

 

 七試合目に、それは起きた。

 

「黒、黒、黒だッ」

 

 若い王の手元にコインはゼロ。

 今ベットしたコインで勝たなければ、滅亡は確定だった。

 

 からからから、ことん。

 

 だが、無慈悲にも、ボールが落ちたのは赤の数字の枠だった。

 

「ほな、お前の国は滅亡やな」

「ま、待ってくれ!! チャンスを、チャンスをくれ!!」

 

 命乞いをする若い王を、魔王は愉快そうに見ていた。

 

「ええで」

「ほ、本当か?」

「ああ、その代わり誠意を見せてもらおか」

 

 魔王が目配せをすると、ジャネットはどこからかまな板と短刀(ドス)をテーブルの上に置いた。

 

「ワシの大好きな、ケジメの時間や」

 

 魔王は指を示した。

 

「指一本ごとに、コインを一枚やる」

「ひ、ひぃぃ!!」

「お前の指一本で自分の国の滅亡のカウントダウンが長引くんや。安いもんやろ?」

 

 怯える若い王に、魔王は優しく言った。

 

「お前は国を背おっちょるんやろうが。(おとこ)見せろや」

 

 とん、とん、とん、と魔王は苛立ちを示すようにテーブルに指を叩き始める。

 

「…………」

「それとも、嫁の前ならやる気出るか?」

 

 若い王の額の汗が、テーブルに落ちる。

 

「魔王よ」

「なんや?」

 

 その時だった。

 老王がまな板を自分の目の前に引っ張り、自身の小指を乗せてドスで第二関節から掻っ切った。

 まな板に血が噴き出し、テーブルまで血で汚れた。

 

「彼はまだ若い。これで許してくれまいか?」

「……おもろいやん、あんた」

 

 魔王が指を鳴らすと、彼の部下が魔法で老王の止血と傷口の治療をした。

 

「ふ、フリューゲルス王……」

「王族に限らず、貴族にとって五体の満足は政治的な価値に直結する。躊躇ったことを責めることはできぬよ」

 

 若い王は信じられないモノをみたように、老王を見上げた。

 そんな彼は痛みに汗を垂らしながらも、優しく諭した。

 

「魔王よ、貴殿は最初にルールを言い忘れた。

 それにそちらの都合で十枚以上にできないのなら九枚から始めればよかった。違うかね?」

「……ええやろう」

 

 魔王は若い王の前に、二枚のコインを投げた。

 

「魔王様、ゲームの続きはいかがしましょうか?」

「もうええわ。こいつらなら、退屈なゲームにはならんやろうからな」

 

 魔王の性格を熟知しているジャネットが尋ねると、彼はそう答えた。

 

「勇者を連れて来い」

 

 魔王は、三人の王に言った。

 

「命のやり取り、殺し合い、それこそが最高のギャンブルや!!

 社長と、ワシの神たるお袋はそれを望んでいる。ワシと戦うに値する、最高の勇者を寄越すんや」

 

 生き残りたければ、お前達の価値を示せ。

 残酷な、女神の最期の慈悲。

 

「ほな、楽しみにしとるで」

「それではお客様方、お帰りはこちらになります」

 

 三人の王たちが、魔王の配下たちに送られて帰っていく。

 

「こちらをどうぞ、魔王様」

「おう、サンキューな」

 

 ジャネットが恭しくぶどうジュースのグラスを差し出した。

 

「けったいな話やで。ヤクザもんに過ぎなかったワシが、魔王なんざ大仰な存在になっても、やっとることは人間の頃と変わらんとわな」

「きっと、大いなる邪悪の女神はそれを貴方様に見込まれたのでしょう」

「せやったらええな」

 

 この魔王が社長と呼ぶ女神メアリースが地上げの指示役ではあるが、彼を産み出したのはまた別の神である。

 

 その名も、邪悪の女神リェーサセッタ。

 全ての魔王の母神にして、邪悪と悪逆を司る者。女神メアリースと並び立つ、神々の領主である。

 

 

「相変わらず、あのアホ女神はワンパターンですねぇ」

 

 魔王は目の前から聞こえた声に、反射的に立ち上がった。

 

「これはこれは、アンズの姐さん!!」

 

 彼は膝立ちになって、頭を下げた。

 

「大袈裟ですよ、任侠映画じゃないんですから」

「ですが、ワシのお袋と杯を交わした御方を無下には出来まへん」

「いや、別に杯を交わした覚えもないんですけど……」

 

 目の前に現れた幼い女神は、そんなことをぼやいた。

 

「でもリューちゃんの提案でしたね。暇してる私に、カジノでもやってみないかって言ってくれたのは。

 私の権能を使って、右往左往する人間達を観察するには効率的な箱モノだって」

 

 幼い女神は、血に塗れたテーブルの上に肘を立てて顔に手を添えてそう言った。

 

「おかげでしばらくは飽きなさそうです。遊び相手には困りませんし」

「ほな、それはよかったですわ」

「このガイアディア世界も、そのうち滅ぼしに来るんですか?」

「それは何とも……ワシの担当になるかもわからんですし」

「ミストレス、このガイアディア世界の女神メアリースへの食糧や資源供給は順調です。当分は魔王一族が降臨することは無いと思われます」

 

 女神と魔王の会話に、ジャネットが割って入ってそう言った。

 

 そう、このガイアディアと呼ばれる世界(アパート)のオーナーは、女神メアリースなのだ。

 この世界におわす六柱は、当然家賃を支払っている。

 

「ぷふふ、でも知ってますか? ここの世界の軍神であるアリアちゃんは、私以上にあのクソ女神を嫌ってるんですよ」

「は? なんやて?」

 

 可笑しそうに笑う女神の言葉に、魔王が顔を上げる。

 

「辺境の木っ端女神の分際で、うちの社長に楯突く気なんか?」

「彼女がこの世界の主神になったら、軍神を取り纏めて反旗を翻すとかなんとか」

「下らん絵空事やわ。取り合う気にもならん」

 

 女神メアリースは人類文明を司る女神。

 彼女は軍神を取り纏める存在どころか、それ以外の人間全ての活動の統括者。

 田舎の一般人の小娘が一人で槍を振り上げ、数多の都市を取り纏める領主をぶっ殺すと叫んでるに等しかった。

 両者は、それくらい格が違うのだ。

 

「それこそ、アンズの姐さんが後ろ盾にならんことには……」

 

 そこまで言って、魔王はハッとした。

 この女神も、普段から女神メアリースを毛嫌いしていた。今の会話の中でもクソだのワンパターンだの侮蔑を隠さないほどに。

 

「……まさか、やる気でっか? お袋もだまっとりゃせんですよ」

「え? まさか。人間が蟻同士の争いに参加しますか? そんな面白くないことしませんよ」

 

 言質が取れて、魔王はホッとした。

 目の前の女神は運命そのもの。誰を領主に据えるか、やろうと思えばできてしまう。

 神々の領域で、自在に権勢を震える。

 

 それなのに、誰も、どの神も、彼女に取り入ろうなんて、そんな愚かな存在はいなかった。

 それも当然だろう。魔王は母なる神からどういう事情かは聞いてはいないが、察することが出来る。

 

 一般人が居て、村長が居て、町長が居て、領主が居る。

 神々の領域が国家だとするならば、当然ながら──“王”が居て然るべきだ。

 

「ああそうだ。せっかくだから予言しましょう」

 

 全てを見下ろすような、そんな瞳の女神がこう言った。

 

「次にあなたの前に現れる者は、貴方を楽しませてくれますよ」

 

 その言葉に、魔王はもう一度頭を下げて笑みを深めた。

 その勇者が自分の全てを賭すに値する、そんな存在であることを思い浮かべるように。

 

 

 

 

 

 




今回も早く更新できました!!
と、言いたいのですが、これは私には珍しいことに半分くらいまでは事前に書いていたのです。
世界観設定の話を連続でやるのはどうかと思って、前回を書いたのです。

次は、誰の視点でやりましょうか。考え中です。

ではまた、次回!! 感想や高評価をお待ちしております!!
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