アリアちゃんは軍神なので、当然部隊運用の戦略性に特化しています。
ただ、彼女は軍規を司る女神なので、軍神のスキルツリーにある彼女の固有スキルを取っていくと、略奪が出来ない、自分から休戦協定を破棄できない、と言ったデメリットも生じてしまうでしょう。
ただ、そんなデメリットも気にならないほど、出撃した部隊へのバフが強いです。一時的に兵隊ユニットをスパルタ兵にできるようなものですからね。それに軍事ユニットの徴兵コストが安いのも特徴でしょう。
ただし、逆に内政に触れるスキルがほぼ皆無です。精々、治安を維持するのに役立つ程度でしょうか。
英雄ユニットも周囲の味方に強力なバフを与え、それ自体がかなり強いです。
やること、やれることが分かりやすい、実にシミュレーションゲームなら初心者向けと言ったところでしょうね!!
「はぁ……」
パティは憂鬱だった。
憂鬱以外の何物でもなかった。
「あのー、パティ……さん。様?」
カジノのホールの仕事の最中に、彼女に話しかける自国の冒険者がいた。
「入り口の方々、どうにかした方がいいっすよ……」
彼はとても言い難そうに彼女へそう言った。
「じゃ、ジャネット先輩……」
「……」
問題が起こらないか待機しているジャネットは、にっこりと笑うだけだった。
彼女の判定では、かろうじて営業妨害には成っていない、ということだろう。
仕方なく、パティは入り口から一度カジノの外に出た。
「あ、あのー」
パティがカジノの入り口から出ると、自国の中央広場に繋がっている。
その目の前に、ずらりと聖騎士が並び、その一歩前に巫女が聖騎士達と一緒に正座していた。
「う……」
その異様な光景に、パティが思わずたじろいだ。
「パティ様」
彼らを代表して、巫女が言った。頭を下げて、土下座の姿勢だった。
「どうか、我らと共に戦ってください」
お願いいたします、と聖騎士達も一糸乱れずに頭を下げた。全員土下座だった。
「む、無理です!! 私なんて、ただのCランク冒険者で……」
「ギルドとは既に、話を付けております」
巫女はすっと懐から冒険者証を取り出し、差し出した。
Sランクの冒険者証だった。
「我々に、あなたの自由を縛る権利はありません。
しかし、お忘れなきよう」
巫女は顔を上げて、パティを見上げた。
「アリアレア様は貴女様と共に居ます。
英雄とは、なるべくしてなるもの。そして、存在するだけで価値があるもの」
「……」
「我々はもう、アリアレア様の御心のままに戦うだけなのです」
パティにも、彼女達にも。
選択肢など、この国の人間には、誰にも無いのだ。
「……ああ、そうでした」
俯くパティに、巫女はゴミ捨ての日を思い出したかのようにこう言った。
「お前たち」
「はい、巫女様」
聖騎士達は、麻布を被せられて縄で拘束された“誰か”を引きずりながら連れてきた。
体格からして、男性だろう。
パティは、それが誰なのか、言われずにも悟った。
「アリアレア様の定めた軍規を破り、民間人に乱暴狼藉、殺戮を行ったこと、万死に値する」
巫女はもう一度、ひれ伏した。
「アリアレア様。軍規に従い、極刑を」
パティの身体が、自然に動いた。
「──我が軍規、我が軍法に従い、銃殺刑を執行する」
そして、パティの口で、パティではない誰かが言った。
彼女の指先が、拘束された男に向けられた。
その指先から、目にも止まらぬ光線が男を貫いた。
「うう、うううぅうぅうぅ」
「肝動脈をを正確に撃ち抜いた。苦しみ、悶えながら死んでいけ」
男は、大量の血を流しながら、時間を掛けて息絶えた。
「私はまだ優しい方だ。あのリェーサセッタがお前を赦すといいな」
パティと女神アリアレアは一心同体だった。
この世界に地獄は無い。なので、この世界の造物主たる女神メアリースが作った
そして、その地獄の管理者こそ、邪悪を司る女神リェーサセッタであった。その知識が彼女に浮かんだ。
パティの目には、その男の魂が赤い瞳のような何かに滑落していくのが見えていた。
本物の恐怖を目の当たりにした、彼の魂からの絶叫が中央広場に響いた。
「見ろ、アリアレア様の英雄が誕生したぞ!!」
巫女が声高々にそう宣言した。
この中央広場は首都の交通の要所で、自由に露店を出して良いことになっている。
つまり、大勢の人間が見ていた。
「アリアレア様の英雄だ!!」
「二十年振りだ!!」
「我々に、アリアレア様の戦勝あれ!!」
「他国を滅ぼせ!!」
この国は、全員がアリアレアの信者である。
彼らは熱狂し、パティと自らの神を称えた。
「それでは、我々はこれにて。
王家と英雄誕生の祭りの打ち合わせがあります故」
巫女は冒険証を唖然としてるパティに握らせ、聖騎士たちを連れて去って行った。
パティは、逃げるようにカジノに戻って行った。
……なお、ここまでずっと、彼女はカジノで働いていたので、バニーガールの格好のままだったと追記しておく。
§§§
「……ここは?」
パティが目を覚ますと、一面の白い世界があった。
「私は確か、巨人の討伐支援の任務に来てて……」
彼女は思い出した。
自分が、自分ではない誰かに支配され、動かされ、巨人を消し飛ばしたことを。
「パティ。我が使徒よ」
「その声はッ」
彼女の目の前に、高潔なる戦女神が舞い降りる。
彼女こそ軍神、軍規を司る女神、アリアレアであった。
「我が意に従い、この世界を我が手中に収める手伝いをするのだ」
「わ、私が、ですか!?」
パティは困惑する。
いや、ずっと困惑しっぱなしだった。
あのガチャポンの景品のカプセルを開けた時に聞こえた、彼女の声を聴いてから。
「わ、私には、力不足です!! 私はただの一般庶民で、あれもただの偶然で!!」
「本当にそう思うのか?」
冷たい美貌の女神が、パティに問う。
「運命とは絶対の理。お前以外があの玩具で我が使徒の役目を得ることは無いだろうし、他の人間がその権利を手に入れることもなかっただろう」
「どういう、ことですか?」
「お前が本来辿った未来を見せよう」
白い世界が、現実のような場所を映し出す。
そこはどこかのダンジョンか、迷宮か。
その奥の通路の行き止まりに、怯えるパティが映し出されていた。
そんな彼女を追って現れたのは、彼女の家族を殺した男だった。
彼はずっと、自分の姿を見たパティを殺す機会を伺っていたのだ。
彼がパティを殺そうとした時、彼女は──覚醒した。
目の前の下郎を塵一つ残さず消し炭にして、彼女の中に女神が舞い降りた。
「岩に刺さった伝説の剣を抜くのは選ばれし一人だけ。ただそれだけのことだ」
「……」
パティはあの幼い女神に言われたことを思い出した。
自分は何もしていない、と。
「アンズ様は、偶然だって」
「お前がこの世に産まれたのも偶然、そうだろう?」
「そう言うレベルからだったんですか!?」
神との認識の違いをまざまざと見せつけられたパティだった。
「アリアレア様!! 仮にこの世界を手中に収めたとして、いったい何を成さるつもりなのですか!?」
パティは問うた。
自分の信ずる神は、清廉な女神であることは知識で知っている。
それでも昨夜にあの幼い女神に言われたことが引っかかっていた。
だからこそ、問わずにはいられなかった。
「ああ……
「二代目……?」
アリアレアは少しだけ視線を逸らして、そう呟いた。
「我は軍神なるぞ。我が成すこと、何一つ変わらない。
お前はあのメアリースについてどこまで知っている?」
「……ええと、この世界の創造神だとしか」
それは、自分の住む借家を管理する親会社の社長についてどれだけ知っているのかと問われたのと同じだった。
そんなことに興味を持つ者は稀だった。
「これを見るがいい」
アリアレアが手を振るうと、また景色が変わった。
「うッ」
それは、地獄だった。
いや、地獄のような光景だった。
人間が、街で、戦場で、ありとあらゆる場所で殺されている。
それを行っているのは亜人や獣人、魔物や魔族と称される種族ばかりだった。
「それが、あの女が遣わす、魔王軍の日常だ」
殺し、奪い、犯す。
乱暴狼藉なんて言葉では言い表せないほどの、鬼畜外道の所業が繰り広げられていた。
怪物たちが笑っている。
まさしく、魔の軍勢だった。
「これが軍だと? その名称を使うこと自にが虫唾が走る」
女神アリアレアは、その冷たい美貌を顰め、そう言った。
「戦場の狂乱。それ自体は否定しまい。
だが、この下種どもはそれを目的に、ただ投入されているだけだ。
どうせ、魔王によって滅ぼす世界だからと、民間人すら残虐に殺して回っている。
……お前はこれを赦せるのか?」
これもまた、神の所業だった。
ヒトをヒトとも思わない、残酷な試練の過程だった。
「お前もまた、規律を何とも思わない者の被害者であろう?」
「アリアレア様の仰りたいことはわかります」
自分の神は、確かに清廉だった。
パティもその所業を許すことは出来ないだろう。
「でもだからって、この世界で争いを産み出すのは違うのではありませんか!?」
「……? 私の信者たちは、全て軍人ではないか」
それは、パティが欲しかった答えではなかった。
自国の国民は皆兵制度によって訓練を受けている。だから民間人に当たらないという言葉は、根本的に価値観がずれていた。
「……私には、無理です」
自分が戦争の引き金になる。
それは、臆病で心優しい少女には無理難題だった。
「そうか。ならば私にその身を委ねればいい」
軍神は、彼女を責めなかった。ただそれだけだった。
巨大な力で、自分の精神が塗りつぶされる。
そのような感覚に悲鳴を上げようとした時だった。
「あーあ、相変わらずクソ真面目ですねぇ、アリアちゃん」
くすくす、と幼い女神の声が聞こえた。
「……何の用ですか、二代目」
「なにって、私のお店の従業員ですよ、彼女」
少女はパティを指差した。
「勝手に取らないでください」
「二代目、あなたは何がしたいのですか?」
「はい?」
「この器を覚醒させる手伝いをしたと思えば、これを自分から奪うなと言う」
「うーん、アリアちゃんをからかう為って言ったら怒ります?」
「…………」
「あはは、ウソウソ!!」
悪ふざけのように笑う、少女の姿をしただけの運命そのもの。
「まあアリアちゃんにこういうことを言うのは酷ですけど、無意味な戦争を繰り返したところで血が流れるだけじゃないですか」
「無意味ではありません。これは神としての責務です」
「うーん、クソ真面目」
淡々と答える軍神に、少女は肩を竦めた。
「どうせ上位の神になんて成れないってわかってるくせに。身の程を弁えて他の五
ほら、ヴィオラちゃんも心配してますよ」
「……あの子の事は言わないで頂きたい」
諫めているのか貶しているのか分からない少女の態度に、軍神の肩が震えた。
「……ヴィオラちゃん? 誰ですか?」
「ヴィオライアちゃんですよ。アリアちゃんの妹です」
「え、妹様が居られたんですか!?」
これにはパティもびっくりだった。
アリアレアの教典を一通り教会で読み聞かせられて育った彼女だが、そんな記述は記憶のどこにも無かったのだ。
「ええ、軍衣を司る女神。軍神なのに兵法も軍略もからっきし、容姿と愛嬌と行動力だけで神になった女。軍神たちのマスコット。
写真集も出してますよ、ほら」
「えぇ……」
パティは写真集とやらを手渡された。
表紙には軍服を纏った愛嬌のある美女がウインクしていた。
パティが呆然としていると、写真集が一瞬で焼失した。
アリアレアが槍を投じたのだ。
「あの子には、神としての自覚が無いのです」
「私に言わせれば、神の責務やら使命やら、そんなのを決めた人なんていませんけどね」
「わかっているでしょう、二代目。私にこれを辞める自由など無い、と」
「……そうですね」
少女は切なそうに目を細めた。
神とは結局のところ、コンピューターのプログラムのようなモノ。
彼女に戦争をするなと言うのは、ウイルス対策ソフトに作業をするなと言うのと同じ。存在意義の否定だった。
それは、神としての、死と同じだった。
それを、少女は憐れんだ。
「そこまで言うなら、好きにすればいいです」
「わかってくださいましたか」
「ええ、でもパティちゃんを取っちゃダメですよ」
「……まあ、私はどちらでも良いのです」
軍神は、パティを見やる。
「どうせ、お前には戦う道しかないのだから」
戦女神が消える。神は立ち去った。
「……ありがとうございます、ミストレス」
「いいえ、こっちの方が面白いって思っただけです」
「……」
パティは、なぜ素直に感謝させてくれないんだ、と思った。
「これはアリアちゃんには内緒ですが」
「はい」
「アリアちゃんって、めっちゃあのメアリースに似てるんですよ。境遇も、性格も」
「それはつまり、同族嫌悪ですか?」
「ですです」
少女は可笑しそうに笑った。
「私もアイツが嫌いだから、アリアちゃんをからかうのが楽しくて、ぷふふ」
そして、笑顔のまま少女はこう言った。
「ああ、そうだ、ヴィオラちゃんからの伝言があったんでした。忘れてましたけど、まあいっか☆」
運命の悪戯ってこう言うのをいうんだろうか、と思うパティだった。
このやり取りが、つい先日のこと。
「はぁ……」
カジノに戻ったパティは憂鬱だった。
結局パティの意志など、国家からすれば些細なことに過ぎなかった。
戦争が始まる。
しかし、戦争を行うには必要なものがある。
「……あんたが、アリアレアの英雄かいな?」
「え?」
パティがホールでトレイにジュースを乗せて待機していると。
「え、ええ!!」
「どういうことか、説明せいや」
商神の英雄サリナスが、彼女の胸倉の代わりに衣装のチョーカーを掴んだ。
床にトレイが落ちて、ぶどうジュースがぶちまけられる。
「な、何がですか!?」
「とぼけんやない!! アリアレアを出せや、話があるんや!!」
「まずは落ち着いてください!!」
激怒してる彼女に揺さぶられ、パティは涙目になっていた。
「おい、サリナス。それ以上は止めとけ」
騒ぎを見咎めたザルヴィスが、二人の間に割って入った。
「あ、ありがとうございます」
「とは言え、俺も話があるのは同じだ」
「え……?」
ザルヴィスが真剣な表情で、パティを見た。
「もしかして、お前知らないのか?
アリアレアが創造神への上納を拒否したらしい」
「……え?」
「あの女、神々の会合でこう言ったらしいわ。代わりにお前らが納めればいい、ってな!!」
その意味を理解し、パティは真っ青になった。
この世界の、ガイアディアは女神メアリースの所有物である。
アリアレアを始めとした六柱の神々は、借家の住人に過ぎない。
当然家賃を収めている。
ただし、これは六柱全員に課している家賃であり、アリアレア個人に負担を強いているわけではない。
要するに、連帯責任。誰かが払えないなら、残りの五柱で補わなければならない。
当然、残りの国は単純計算で二割増しの負担を強いられることになる。
「お前、ウチに商会のジジババどもに急に税を二割増しで収めろって言えっちゅうのか、ぶち殺されるわ!!」
サリナスは商人の国の人間なので、諸に死活問題だった。
「……今回ばかりは、こっちも黙っちゃいられんな」
ザルヴィスも、冷静だが表情には不満しかなかった。
そう、戦争に必要なのは、開戦理由だった。
パティは理解した。
神々にとって、自分の意志など些末事に過ぎないと。
そして、このことに怒り心頭なのはこの二人だけではなかった。
カジノ内で、ざわめきが大きくなる。
三人の視線が、そちらに向いた。
ぺち、ぺち、と四つ足の生物に騎乗した少年が、カジノの入り口から入ってきた。
問題なのは、その四つ足の生き物と言うのが、全裸の成人男性だということだった。
「うわぁ……」
「あっちもか」
サリナスはドン引きして、ザルヴィスは事態の大きさに目を細めた。
「やあ、お姉さんがアリアレア様の英雄なんだよね? 初めまして!!」
ツノに細い尻尾という、夢魔族の特徴を有した少年が微笑んでそう言った。
「僕は愛の女神ラヴィーナ様の使徒、ネグレスだよ!!」
お馬さんごっこさえしていなければ、元気な少年にしか見えない彼はそう名乗った。
「あ、あの、それ、なんですか?」
知識では、パティは知っている。
だが、実際に目の当たりにすると、尋ねずにはいられなかった。
「ああ、これ? あッ、そうだよね、この子も紹介しないと!!
この子は“ポチ”。ペットのポチだよ」
そう言って、少年は乗騎から降りて、
「可愛いでしょ? 昔はパパだったんだけど、ラヴァーナ様に
愛の女神ラヴァーナの司るのは、家族愛。
彼女を崇める愛国は、一つの巨大な家族とした国家なのである。
彼は、家族としてペットのそれを可愛がっていた。
「いきなりで悪いけどさ、ラヴァーナ様がとてもお怒りなんだ!!」
まるで伝言のお使いのように、彼はそう言った。
「お姉ちゃんを、
純真無垢な笑顔で、愛の女神の英雄はそう言った。
次回、パティの命運は如何に!?
短編から連載にしますんで、どうか感想と高評価をお願いします。更新速度維持の為にも、どうかお願いします!!