バッドエンドカジノへようこそ!!   作:やーなん

8 / 10
――アンズちゃんからの一言――

舞台設定って、どれくらいの数が有るんでしょうか?
現代、ファンタジー、異世界もの、スチームパンクにサイバーパンク。
作者のシリーズでは大体を網羅してますよ!! どれも鳴かず飛ばずなのはご愛嬌♪

あ、でも個人的にはロック●ンエグゼがサイバーパンク物だって聞いた時、ビックリしたかなー。
サイバーパンクってもっとバリバリの改造人間とか出てくるイメージだったんで。




若王の苦悩

 

 

 

 ハルフィーン世界の三大大国の一角、その首都にある空中王城。

 

 この世界の技術力を示すように上空に浮かぶそれは、人間の傲慢の象徴であった。

 そして、汚染が広がるこの世界において、格差そのものだった。

 

 地上の汚染から逃れるように浮かぶこれは、貴族たちが住まう城砦でもあった。

 庶民たちは汚染された空気に怯えながら、地上に住んでいる。

 

 清浄な空気のある空中王城は、何人にも侵されぬ絶対安全な場所の筈だった。

 

 そう、魔王が現れるまでは。

 

 

「……いつまで自室に閉じこもっているつもりですか、あなた」

 

 フォーマルなドレスを身に付けた女が、国王の自室の前でそう言った。

 彼女はこの国の王后、つまり国王の妻であった。

 

「わかっているのか、カトリーン!!

 魔王が、魔王がまた来るんだぞ!!」

「ええ、しっかりこの目で、耳で、見聞きしてましたとも」

 

 ドア越しに若い王の怒鳴り声が聞こえた。

 女王は表情を変えずに言った。

 

「あなたの短慮で、この国の猶予がもう二年しかないことも」

 

 三人の王と魔王の余興は、あの鏡を通じて人質たちにも見せられていた。

 女王は彼の賭け方に何度も物申したくなったほどである。

 

「お、お前は、私を責めるのか!?」

「まさか。賭け事の定石を知らぬあなたを責めることは出来ませんよ」

「……」

「ただ、無念ではあります。この国の窮状を救えなかった。我が娘の成長を見届けられなかった。あなたの妻として、役目を果たせなかった」

 

 この国の政務を取り仕切る、聡明な王后は察していた。

 この世界はもうとっくに先細り状態。この国の寿命があと二年か、数十年かの違いしかなかった、と。

 

「貴族たちは残り僅かな時間を、家族や享楽の為に過ごすようです。

 私もそうさせてもらいます。せめて死後、かの大いなる邪悪の女神リェーサセッタ様の裁きに伏して赦しを乞うしかないのでしょうから」

「……」

 

 女王が、王の自室の前から去った。

 若い国王は、ベッドのシーツを悔しそうに握り締めるしかなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

 国王、エドワード4世が即位したのは八年前。彼が16の時だった。

 前国王の急死に伴い、息子夫婦が即位することになった。

 

 彼は産まれたばかりの娘を抱え、妻と共に玉座に就いた。

 二人の即位は歓迎された。彼の妻、カトリーンは没落貴族出身ながらも国内のアカデミーで抜群の成績を叩き出した秀才だった。

 彼女は時期国王の補佐を見込まれ、エドワードと結婚した。

 

 既にその頃から年老いた義父の政務を一部引き継いでいた彼女は、瞬く間に辣腕を発揮。

 女神メアリースの警告を受け、現行技術の危険性を理解した彼女は数々の対策を打ち出した。

 即ち、産業の保護である。

 

 ただ、女神が求めていたのは技術の保護ではなく、技術の棄却であったようだった。

 いくら聡明でも、神ならぬ彼女には造物主の意図を全ては理解できなかった。

 

 いや、彼女は女王として国家の利益を優先しただけだった。

 それほどまでに、新技術は革新的だった。

 

 剣と魔法が、ビーム兵器と長距離通信の世界に様変わりした。

 馬車は自動化し空を飛び、糞尿を路上に捨てるまでも無く家庭内で処理できるようになった。

 産業、衛生、交通、軍事。瞬く間に数年で様変わりした。

 数百年レベルの技術革新が、たった数年で行われたのだ。

 

 人々は望んだ。もっと、更なる発展を!!

 

 工場廃液を垂れ流しにし、子供まで労働で酷使しながらも、この世界は前へ前へと進んだ。

 

 そう、この世界はただ、技術の発展に人々の倫理が追いつかなかっただけなのだ。

 数年で数百年も時間が進んだなら、数年で数百年後の滅びがやってきた。

 

 これはただ、それだけの話だった。

 

 さて、女王に対して、国王のエドワードは……まあ種馬的な?

 王族の血を次代に繋ぐための、重要な仕事を成した感じ?

 

 要するに彼は凡庸で、学生時代からあまり期待などされていなかった。

 

 彼の国の貴族社会は合理的で、能力が有れば養子でも当主になれた。

 逆に嫡男でも実家の家財を浪費すれば放逐もされた。

 完全に実力主義の社会だった。

 

 王族として益も無ければ害も無い。

 プライドは高いが、責任も取れない。

 敬われるが、敬意に中身はない。

 

 エドワード4世とは、そういう王だった。

 

 

 

「陛下」

 

 ベッドの毛布に包まって震えていた王に、臣下の一人が言った。

 

「……アーノルドか?」

「はい。こうして、おめおめと生き残ってしまいました」

 

 部屋の前に、若い騎士は膝を突く。

 

「同じ親衛隊の同胞、先輩方は皆討ち死にしたというのに!!」

 

 彼は悔しそうに、血反吐を吐くようにそう言った。

 

 数日前、彼ら親衛隊は空中王城を襲撃した魔王軍に皆殺しにされた。

 ただ一人、彼を除いて。

 

「陛下の護衛の任を受けておきながら、よりにもよって陛下に庇われるなどと!! 親衛隊としても、騎士としても失格です」

 

 アーノルドは王が学生時代からの親友同士だった。

 彼が王の護衛になったのも、その縁だった。

 

 片や王族の張り子、片や辺境貴族の三男坊。

 二人は気が合い、卒業後も彼は側付きとして護衛を任された。

 

 そしてあの日、王族が魔王に攫われ、いよいよ彼が魔王の軍勢に一人国王夫妻を守るために戦うことになった時。

 

『わ、わかった、投降する。だから彼を殺すな!!』

 

 王族の身柄を要求した魔王軍を指揮する竜人に、王はそう言った。

 

『……ええやろう。総員、戦闘終了や。

 お前ら、女子供と非戦闘員(カタギ)には手を出しとらんよな?』

『すみません、ヴォルノの兄貴。メイドのババアが抵抗して、骨を折ったらしく……』

『ほな、指出せ』

『……はい』

 

 竜人は、部下の小指を捩じ切った。

 彼の部下は悲鳴を上げてのたうちまわった。

 

『あんたらの身柄や城の者は、用事が終わったら無事に返しますわ。

 ここの騎士共も、主人を守るために名誉ある死を遂げました。彼らは手厚く葬りますんで、大人しくついて来てください』

 

 この指賭けますわ、と竜人は右手の小指を示した。

 

『くそ、くそッ、くそぉ……』

 

 そして、ヴォルノに挑むも一蹴され床に転がるしかなかったアーノルドは生き延びた。

 

 国王夫妻は無事帰って来た。

 二人の娘と出迎えた城内の使用人と貴族たちは二人の帰還に涙した。

 

「親衛隊の失態、他に責任を取る者がおりません。

 故に、せめてもの陛下の御前で我が命を捧げ、皆の旅路へ供をする所存です」

 

 それでは御免、とアーノルドは懐刀を取り出しそれを首筋に沿えた。

 

「や、やめろ、アーノルド!!」

 

 エドワードは、部屋から飛び出し、彼の手を取り押さえた。

 

「お放しください、陛下!!」

「せっかく拾った命を、粗末にするでない!!」

 

 二人が揉み合っていると、メイドが通りかかって悲鳴を上げた。

 すわ魔王軍がまた来たのか、と武装したメイド達が駆けつけてきた。

 

「陛下!? それにアーノルド卿も!? 何をなさってるのです!?」

「いいからこのバカを取り押さえろ!!」

 

 王の命令に、メイド達は従った。

 花嫁修業で武芸の熟達も項目に入っている貴族の末娘である彼女達は、瞬く間に数人掛かりでアーノルドを取り押さえた。

 

「これを見ろアーノルド!! 女たちは戦うつもりだぞ、お前はこのまま死ぬつもりか!!」

「う、うう、陛下……」

 

 彼はうな垂れて、王に頷いて見せた。

 

 

 

「……陛下」

「なんだ」

魔蒸気兵装(エーテルアームズ)の携帯の許可をお願いします」

 

 改めて王の護衛に復帰したアーノルドは、彼にそう言った。

 

「……今更か、よかろう」

 

 魔蒸気兵装(エーテルアームズ)。この世界の最新技術を用いた最先端の兵装だった。

 空中王城にそれが配備されていなかった理由は、まさかこの城に攻め入る者がいるなんて思わなかったのもあるが、これは致命的な汚染を周囲に齎す。

 

 王は武器庫に寄り、機械構造が取り付けられた剣を手に取り、アーノルドに貸与した。

 

「これさえあれば、魔王軍に後れを取らなかったものを……」

「……」

 

 彼はとても悔しそうに嘆いていた。

 

「だが、結局のところ、魔王が来たのはこの技術のせいでもある」

 

 この世界の科学者が、魔力より扱いやすいエネルギーを発見した。

 その汎用性は絶大であり、魔法を使えぬ者でもそれを用いた道具は活用できた。

 この世界の文明は発展した。その代わり、致命的な汚染を引き起こしたが。

 

「どうせこの国もあと二年だ。お前も故郷に戻り、家族と過ごすといい」

「そんなことを口にすれば、私は父に殺されます」

「お前は相変わらずだな」

 

 真顔でそう言った彼に、エドワードは苦笑した。

 

「供をしろ。城を見て回りたい」

「御意に」

 

 王は騎士を連れ、王城を見て回ることにした。

 

 彼が最初に出向いたのは、行政官の執務室だった。

 

「おや、あなた。部屋から出てくれたのですね」

 

 そこには、他の貴族たちと書類に向かっている女王カトリーンだった。

 

「カトリーンに、お前達……家族と過ごすのではなかったのか?」

「ええ、暇を貰おうと思ったのですが」

「日課の仕事を終えなければ、むず痒いのですよ」

 

 ははは、と貴族たちは苦笑いした。

 

「……私もです。娘の顔を見た時、このままではいられないと、こうして我が身を机へと向かわせたのです」

「…………」

「フリューゲルス王は、国中でギャンブル大会を開催すると連絡が来ましたわ」

「なに?」

「人員はこちらで集めるとのことで、装備はこちらに一任したいとのこと」

「……」

「まさか、なんの算段も無くあの老王があなたを庇ったと思ったのですか?

 彼は我が国に滅びて貰っては困るのです」

「すまない……」

 

 聡明な妻に詰められると、エドワードはいつも何も言えなくなってしまう。

 無理に評定に出席しても、彼女と貴族たちのやり取りは半分もわからない。

 

「しかし、かの王はなぜギャンブル大会など」

「知れたことでしょう。あの魔王ならば、必ず自らの元に送られてきた勇者たちの運を試す筈です」

「うむ、そうだろうな」

「我が国も、全ての技術の粋を集めて決戦兵器の製造を命じました」

「……カトリーンよ」

 

 王は妻の名を呼び、しかしそれ以上は語句が継げなかった。

 更なる汚染を呼び込んで勝利したところで、何の意味があるというのか、と。そんなことは、戦うことを決めた彼女達には言えなかった。

 

「わかっていますよ。

 それでも、我々は戦うしかないのです」

「……そうか、邪魔したな」

 

 聡明で有能な妻が、今は彼の負い目だった。

 政略結婚ではあったが、自分に無い物を持っている彼女にエドワードは惚れていた。

 それを伝えることなく、これまでのように彼は立ち去った。

 

 

「陛下、少しよろしいでしょうか」

「……どうした? メイド長」

 

 年老いたメイドが、頭を下げて王に申し出た。

 

「略式ですが親衛隊の者達の葬儀をしたく。

 少しばかりで良いので、お時間を……」

「構わない。それより」

 

 エドワードは彼女の右腕をみやった。

 そこは包帯で吊るされている。

 

「腕は大丈夫か?」

「ええ。おかげさまで若い子たちがよく働いてくれています」

 

 メイド長の言葉に、エドワードも苦笑した。

 

 中庭に移動すると、芝が掘り返され、レンガで簡素な墓標が数十人分も作られていた。

 墓標の前には、生前の彼らの武具が供えられていた。そのどれもが、ボロボロだった。

 

「一足先に我らの造物主、女神メアリースの御許に旅立たれた彼らを、かの御方は歓迎するでしょう。

 勇敢に戦った彼らは、より良い来世を迎え、楽園に導かれることでしょう」

 

 神官が祝詞を唱え、参列者たちは黙祷を行う。

 その中で、アーノルドは涙をこらえきれずにいた。

 

 祝詞が終わり、庭園の花壇から抜いた花を彼らの墓前へと置いていった。

 

「……アーノルドよ、我らも勇敢に戦えば、主上に認められるのだろうか」

「少なくとも、かの御方の使者はそう言っていますね」

 

 あの魔王こそ、造物主の御使い。

 滅ぼされたくなければ、戦って勝て。それが神の意志。

 

「…………」

 

 エドワードの脳裏に、魔王の言葉が蘇る。

 

『お前は国を背負っちょるんやろうが。(おとこ)見せろや』

 

「ッくぅ!!」

 

 エドワードは、産まれてから一瞬たりとも、国を背負ってなどいなかった。

 ただ王族に産まれ、惰性に生きて来ただけだった。

 

「アーノルド、外遊に向かうぞ」

「しかし、陛下……いえ、お供します」

 

 今は、城内に居たい気分ではなかった。

 二人はゲートに向かい、守衛に言って自律馬車に乗った。

 

 馬が牽かぬ馬車から浮力が生じ、ゆっくりと浮かび上がって地上へと下りて行った。

 

「陛下、こちらを」

「うむ」

 

 エドワードは馬車の中でアーノルドから防護マスクを受け取って、顔に装着した。

 そしてアーノルドも自身に防護マスクを付けた。

 

 程なくして、城下町へと馬車は降り立った。

 空気が淀んでいるのが、防護マスク越しにもわかる。彼の従者は馬車の中に備えられている空気清浄機を作動する。

 自立馬車から、エドワードは窓の外をなんとなく見た。

 

 ここは首都の主要道路のはずだが、人通りはまばらだ。

 誰もが防護マスクを着用し、そそくさと汚染を恐れて移動している。

 

「……これが、かつて栄華を誇った首都の街並み、か」

 

 エドワードは十年前、この首都で最も権威あるアカデミーに在籍していた。

 その当時はまだ活気があったはずだった。

 

「民たちは今、共同の複合施設を建設し、そこに暮らしているようです」

「合理的であるな」

 

 外気は既に汚染されている。

 ならば外出の際の汚染を避けるために、住居と全ての施設を一つの建物にするのは効率的で合理的と言えた。

 

 しかし、それは即ち入居者に限りがあると言うこと。

 メインストリートのそこら中に、ぐったりとした人影が蹲っている。

 

 低所得者か、職を失った者はああして外で暮らしていくしかない。

 

「ミュータントが出たぞ!!」

 

 その時、悲鳴が聞こえた。

 

「あれが、ミュータントか」

 

 エドワードが実物を見たのは、初めてだった。

 汚染を受けた人間の成れの果て。

 体中が腐食し、肥大化した肉体は血肉を求め手あたり次第人間に襲い掛かる。

 

「やめてぇえぇ、その子は、私の娘なの!!」

 

 衛兵がすぐに集まり、ミュータントにクロスボウの矢の雨を浴びせる。

 ミュータントの母親らしき女性が衛兵たちに縋ってるが、もう手遅れだった。

 

 腐肉の塊と化した死体は、直ちにその場で焼却処分された。

 母親のくぐもった泣き声が、馬車にも聞こえてきた。

 

「やりきれませんね」

「ああ……」

 

 これが、進歩の代償。

 技術は進み、人々の生活水準は飛躍的に向上した。

 

 だが、その陰で大勢の人間がこうした劣悪な環境に身を置いている。

 エドワードにできることはなにもない。

 

 

「……そろそろ、戻りましょう、陛下」

「待て、あれはなんだ?」

「あれですか?」

 

 馬車の窓から、アーノルドもエドワードの指差す先を見た。

 そこはこの首都の中央広場だった。

 そこに、大勢の人間が集まっている。

 

「……なぜ彼らはここに集まって」

「あれだ」

「え?」

「あの扉は、見覚えがある。あのカジノの入り口だ!!」

 

 彼らの行き先は中央広場のど真ん中。

 そこに不自然に直立する両開きの扉だった。

 扉の横には、『アプリコットパレス・ハルフィーン支店(仮)』と立札があった。

 

「アーノルド、我々も行くぞ!!」

「陛下、なにを」

「……魔王と話を付ける」

 

 エドワードは衛兵に自律馬車を預け、カジノの扉へと向かった。

 

 先頭の者に銀貨を渡し、順番を代わってもらい二人は中へと入った。

 

 中は、野戦病院のようだ、とアーノルドは思った。

 大勢の人間が壁際に座って、ぶどうジュースを飲んでいる。

 

「ここは空気が正常なようです」

「そのようだな」

 

 二人は防護マスクを外した。

 事実、ここに居る人間は誰ひとり防護マスクをしていない。

 

「おい、そこの従業員」

「はい。いらっしゃいませ、お客様」

「ここにジャネットという女は居るか?」

 

 ざっと見たところ、あの存在感のある怪物はどこにも居ない。

 ならば、魔王の四天王であるジャネットに取り次いでもらうのが一番早いとエドワードは考えた。

 

「当店にジャネットという従業員はおりません」

「なんだって?」

「責任者に御用でしたら、お呼びしますが」

「そうか、頼む」

「はい、少々お待ちください」

 

 彼が話しかけたボーイは、バックルームの方へ歩いて行った。

 そしてすぐに、大柄の獣人がやってきた。

 

 ポロシャツにズボン、パンチパーマをかけた人狼はどこからどう見てもチンピラにしか見えなかった。

 

「どうも、この国の権利者のもんですか?

 この身はギンヴォルス系魔王軍の直参幹部、四天王のヴィロッサ言います。

 先日からここはうちの会社、ヴィロッサ興行が仕切らせてもらってますわ」

「我が国に勝手にこんな場所を作らないで貰おうか!!」

「ほな、文句があるならなら、力づくで退去させてみぃや」

 

 ヴィロッサと名乗った人狼の背後に、バックルームから次々とドスと拳銃を持った人狼が出てくる。

 

「止めろ、アーノルド。ここには民が多い」

「く……」

 

 魔蒸気兵装(エーテルアームズ)に手を掛けたアーノルドに、エドワードは待ったをかける。

 ここでそれを抜いたら、大勢の関係の無い人間が巻き添えになる。

 

「……すまなかった。私は魔王に会いたいだけだ。取り次いでもらおう」

「それは出来ない相談ですわ」

「なに?」

「昔から決まっとるやろ。

 魔王に挑めんのは、四天王を全員倒したもんやと。

 いけまへんなぁ、その辺のギミックを無視するんは」

「では、ここで我が民たちになにをしてる」

「なにをしとる、やって?」

 

 人狼ヴィロッサは、途端に大笑いを始めた。

 彼の部下たちも、笑い始めた。

 

「何が可笑しい!!」

「うちらはあんたんところ国民で、シノギさせてもらっとるだけですわ」

 

 ほら、とヴィロッサは近くのテーブルを指差した。

 

「奥さん、これ以上の借金はできまへんで。

 ルールは忘れておりまへんよな? ここで作った借金は、ここで返さねばならないと」

「ひ、ひぃ」

「お母ちゃん!!」

 

 怯える若い母娘を、ディーラーは舐めるようにその肢体を見やる。

 

「返せん言うなら、うちの会社の風呂屋で働いてもらいまひょか。

 丁度先日、嬢に欠員が出たところなんや。あんさんのような若いオナゴなら、せやな、五年も働けば返せるやろ」

「お、お許しを……」

「いかんよなぁ、それは。返すもんは返さんと」

 

 ディーラーは、二人の母娘の目の前にパンフレットのようなものを放り投げた。

 

「それじゃあ、親父の運営するスーパー銭湯『魔王の湯』で受付嬢として働いて貰いましょうな!!

 借金を返すまで、この世界に帰れると思わんことや!!

 勿論、住み込みで働いて貰うで!! 週休二日でボーナス有り、三食賄い付きやから覚悟しいや」

「……え、あの、私達はその、汚染が進んでて」

「なんや、そんな言い訳でワシらから逃げられるとでも?」

 

 ディーラーの人狼は、書類を提示した。

 

「ほれ、健康保険の書類や。治療費が出るから名前を書けや」

「……あ、あの、娘の分も」

「アホか!! それ一枚で家族全員分賄えるに決まっとるやろ!!」

 

 強面のディーラーの迫力に負けて、母娘は泣きながら書類にサインした。

 連れてけ、とディーラーが指示をすると、黒服の人狼が母娘を転送装置へと連れて行った。

 

 他にも。

 

「カニ漁船とマグロ漁船、どちらがええ?

 この世界には十年は帰れまへんで」

「た、助けてくれぇ!! 早く!!」

 

 ディーラーに縋りつく男や。

 

「界外に飛んで電話の受け子をするだけや。

 マニュアル通りに、クレームに対応するだけで銭が貰えるで」

「や、やります!!」

 

 高額の時給に釣れられ、過酷な労働を強いられようとしていた。

 

「ぎゃははは!! メアリースの大社長は、この世界の労働力で上納の分を賄えって言ったそうや。

 わいのシノギも順調で、次の幹部会が楽しみやで」

「ああ、その、彼らをよろしく頼む」

「当たり前やろ。メアリースの大社長はコンプライアンスにうるさいんや。

 うちの魔王軍の連中みたいに手荒に扱うわけないやろが」

 

 ふん、とヴィロッサは鼻を鳴らした。

 そして、何を思ったのか彼は二人をまじまじと見た。

 

「……? もしかして、あんたら、親父に挑みにきたんやないのか?」

「だから、話があると言っているのだが」

「なんやて!? 最初からそう言えや!!

 親父はいつでも暇しとるんや、話し相手になるんなら今からアポとるで」

 

 カチコミかと思ったわ、とヴィロッサは携帯端末を弄り始めた。

 

「ほな、五分後にこっちに来るそうや」

「そうか。取り次ぎご苦労」

「ゆっくりしてってや」

 

 それだけ言うと、ヴィロッサと取り巻きはスタッフルームへ帰って行った。

 

 五分後。

 

「何の用や、小僧。茶でもしばきに来たんか?」

 

 本当に、魔王ギンヴォルスは二人の前にやってきた。

 

 

 

 

 

 





そろそろ日本支店のお話とか書きたいですね。
いろいろな世界の話が同時進行してますが、皆さんはどんな世界のお話が好きでしょうか。

作者は中学時代からファンタジーものを書き続けてますので、私はファンタジーが好きになるのでしょうか。
単なる得意分野なだけもします。

ではまた、次回!! 感想や高評価をお待ちしております!!(定型文
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