1.アンズちゃんのダーリン♪ を見たら殺す。
2.アンズちゃんのダーリン♪ を知ろうとしたら殺す。
3.アンズちゃんのダーリン♪ に願ったら殺す。
ただいまアンズちゃんは信者の受付を拒否しています♪
自称アンズちゃんの信者は皆殺しの対応をさせていただきます。ご了承ください。
時間はパティがカジノに来る少し前まで遡る。
「あなたがザルヴィス殿ですね?」
ザルヴィスが振り返ると、白髪の混じる黒髪の平たい顔の老人が居た。
「私は陽ノ本大学にて教鞭をとらせて貰っております、石田と言います」
「……ああ、最近このカジノでいろんな奴に話を聞きまわってるって奴か」
「ええ、民俗学が専門でして」
そう言いながら、石田は手土産の包みを取り出した。
その形状からして、酒瓶であることは明らかだった。
それだけで、ザルヴィスはこの老人が話が分かる奴だと認定した。
「我が国の名を冠した酒です。どうぞお納めください」
「どれどれ」
さっそくザルヴィスは酒瓶の蓋を開け、匂いを嗅いだ。
ここが運命の女神がおわすカジノでなければ、一口ぐらいは飲んでいただろう。
「おお、酒性の強い酒だな。清水のように透き通っていやがる」
「我が国の自慢の一つは水ですので。水質は酒の命とも言います」
「おう、しかし水の違いで風土を感じるのもいいもんだぜ」
「確かに。私も調査先の現地の民族から振舞われる酒を楽しみにしている所存です」
これだけで、この二人はあっさりと打ち解けた。
ギャンブルのテーブルから休憩所に移動し、二人は椅子に座った。
「それで、何を聞きたいんだ?」
「貴国の風土や制度などは一通り聞かせてもらいましたので、やはり神の使徒としての視点からの信仰について教えて欲しいですな」
「ほう、その歳で熱心だな」
「ええ、この歳でも興味は尽きません」
ザルヴィスはホールの従業員に、ノンアルコールビールを持ってこさせ、二人は乾杯をした。
「うちの主上は酒の神だが、その中でも酒宴を司っている」
「なるほど。酒と言うカテゴリーだけでも、ざっと酒蔵や利き酒、酒の種類ごとにも神は存在しているのかもしれませんね」
「当然、その中で一番偉いのは酒造の神だろう。
その中で主上は、まあそれなりに上の方の立場だ」
「なるほど、それはなぜです?」
メモを取りながら、石田は先を促す。
「所謂、幹事役ってことだよ。
酒宴を開催するにも、場所や飯、当然酒も調達せにゃならんだろう?
あとは招待客への連絡やらなにやら……だからうちの国の英雄ってのはそういう立場なわけだ」
ザルヴィスが面倒見が良いのは、性格もあるが職業病のようなものであった。
「これでも大変なんだぜ。酒宴の参加者が酔って女を連れ込んで乱暴でもしたら、主上の顔に泥を塗ることになる。
酒の飲めない奴にはそれとなく水を注いだり、悪酔いしてからんでる奴と絡まれてる奴の間に入ったり。
とにかく酒宴を成功させるのが、俺の役目な訳だ」
「なるほど、なるほど」
酒豪の異名に反して、彼は細かな気配りが求められる仕事をこなしているようだった。
「主上も古い神だから、その辺りの信頼も神々ではあるようなんだわな」
「なるほどなるほど」
石田は熱心にメモに書き示す。
「酒宴の神について、もっと聞かせてくれませんか?
どうやらあまり伝承などの資料が残っていないらしいのですが」
「ああ……主上はあまり人間に干渉しないタイプらしいな。俺も声は聞いたことは無い。意志だけを伝えてくる」
殆どの伝承は口伝だ、とザルヴィスは言う。
「一番有名なのは、女神アリアレアと婚約してたって話か」
「ああ、私も聞き及んでいます。
お二方が婚姻関係になるのは驚きに値しません。食料、水、塩、そして酒。それらは古来より戦争を継続する為の戦略物資。
戦争の神と深い関わりにあるのは自然なことです」
「そうだな」
石田は独自の解釈を交え語ると、ザルヴィスも頷いた。
「しかしそれで国民が戦争に巻き込まれるとなると、やるせない話ではありますね」
「ははは、それはそうだ!!」
「あの、ところで神々に古いも新しいもあるのですか? 酒宴の神は古い神だと仰っていましたが」
「ああ、あのラヴィーナも古い神だ。世代が違うっつうのかな?」
逆に軍神アリアレアや、サリナスの崇める商神は新しい世代の神だった。
「そのように分類分けがあるのですか?」
「いや、学術的な分類があるかは知らないな。俺が勝手にそう思ってるだけだ」
「何か資料でもあるのですか?」
「……いや、説明が難しいな」
ザルヴィスは腕を組んで、自分の語彙で説明を行った。
「主上の記憶っていうのか、俺は偶に夢で見るんだ。
神々の視点で、何が起こったっつうのか。どういう歴史を辿ったかっつうか」
「ぜひ、その話を聞かせてください!!」
「……まあいいけどよ」
食い気味な石田に若干引きつつも、ザルヴィスは語り始めた。
§§§
まず、俺が最初に見るのは、上から地上を見下ろすような視点っていうのか?
周りには鬼人族やらドワーフやら猿人やらが何人か、同じ酒神だと直感して分かった。
そうして地上を見下ろしているとだな、偶然倉庫にしまってた果物が発酵して出来た酒を人間が見つける瞬間を見ることになった。
それで周りの酒神と一緒に、酒だ酒だ、って喜ぶんだよ。
多分、それが酒の概念が誕生した瞬間なんだろう。
それからしばらく、人間達に思念を送って、酒の作り方やらを教えていると、連中は集落も作り出したんだ。
そうしていると、いろんな神々が周りにいることに気づいた。
親子愛を司るラヴィーナも、この頃には居たはずだ。
父性愛や母性愛を司る神や、同じ親子愛に目覚めた動物たちに囲まれてるのを覚えてる。
──まるで古代の光景のようですね。まだ人間が愛欲と快楽が結びつく前ということでしょうか。
かもしれんな。すぐにそう言う神々は現れたようだが。
──まあ、世界最古の職業は兵士と娼婦と言われているくらいですからね。
酒神たちも毎日捧げられる酒で酒盛りをして、それなりに楽しくやってたようだが、それも長くは続かなかった。
嵐だ。
暴風と雷鳴で、人々の住居は破壊された。
それと同時に──。
──なるほど、嵐の神も現れた、と。
ああ。その通りだ。
神々の領域にも嵐が訪れた。
それから長い間、古い神々と自然神の闘いが続くんだ。
天災の神々は、それからも多く現れた。
地震、噴火、津波、嵐に雷。
人間を始めとした生物出身の神々は、蹂躙されるばかりだった。
当然だな、どれだけ人間が強くなっても、災害には勝てない。
今ではあの造物主メアリースに並び立つ強大な邪悪の女神リェーサセッタも、この時は無力を嘆いたほどだった。
しかし自然神の中で唯一、古い神々に味方する存在が居た。
月面の面貌を持つ、神々の世界においても天上に浮かぶ不可侵の女神。
月の女神ルナティアだった。
彼女は自然神でありながら、最古の人間出身の女神だった。
太陽神も居たには居たが、地上の争いに関心を持つ存在ではなかった。
とにかく、古い神々は耐え忍ぶ日々だった。
時に戦い、時に負け、偶に退ける。
人間や動物なんて、災害そのものである自然神どもからは虫けら同然だった。
連中にも喜怒哀楽のような感情はあったみたいだが、意思疎通は不可能みたいだったな。
古い神々は考えた。このままでは自分たちは滅ぼされる。
周囲を見渡せば、空席が目立つ神々の領域。
まだそこに座る神は居る筈だ!!
古い神々は自身の力を分け与える英雄を選び、その死後を新たな神として空席に座らせることにした。
古い神々の目論見は成功した。
英雄の神、武神の誕生だ。
主上も酒神にしては強い方だったが、武神には及ばない。
それでも数多の武神と共に、災害の神々に挑んだ。
だが一進一退の長い戦いは、ある時唐突に終わった。
ずっと空席だった、“全知全能”の席に、三位一体の神が座ったからだ。
即ち、全てを見渡す観測の女神、あらゆる運命を掌握する女神、そして全能の権能を持つ神王からなる、三柱でひとつの神だった。
彼らは人間出身だった。
それが災害の神々は大層気に食わなかったらしい。
虫けらに過ぎない人間どもに、上から見下ろされるのは我慢できなかったのかもな。
自然神たちは全知全能の神に戦いを挑んだ。
戦いにすらならなかった。
連中は王の一瞥だけで、跡形もなく消え去った。
古い神々は、王にひれ伏すしかなかった。
神々の王の存在を、古い神々は恐れた。
その視線が、自分には絶対服従だと語っていたからだ。
だが、かの者は何も言わず、自らの前に巨大な門を打ち立て、その奥に引きこもった。
こうして、一つの時代が終わった。
その後、女神メアリースを始めとした、人類文明を司る神々が現れるようになった。
そう、アリアレアのような軍神、新世代の神々の登場だ。
そんなある時だ、空席になった災害の神々の席に座る者達が現れた。
古い神々はおっかなびっくり話しかけると、彼らは人間や動物出身だと語った。
──まさに、世代交代というわけですね。
ああ、たき火を管理する者を殺しても、火と言う現象は消えない。そう言う意味では、神々は不滅だ。
新世代の災害の神々は気性は荒いが、前の連中よりは話せる連中だった。
かくして、神々の領域は災害と戦う時代から、同じ生物同士の神々で争う時代になったわけだ。
§§§
ザルヴィスは長々と語り終えると、ノンアルコールビールで喉を潤した。
「……我が国の神話とは真逆ですね。
まず神々の席があり、そこに座るモノを神と呼ぶ、か」
石田は書き記したメモ帳の内容を見下ろし、唸った。
「しかしなぜ、神々の王は何もせず引きこもり──」
「教えてあげましょうか♪」
時間が止まった。
石田が横を向くと、くすくすと笑う幼い女神が彼を見ていた。
「ダーリンはですね、自分を詮索する輩が嫌いで嫌いで、必ずぶっ殺すって決めてるんですよ♪」
これは警告です、と彼女は言った。
彼女は石田のメモ帳から神王の記述を毟り取った。
「良かったですね、私がすぐそこに居て。
危うくぶっ殺されるところでした。ほら」
少女が天井を見上げる。
石田はつられて見てしまった。
災害の神々を一掃した視線が、そこにあった。
石田は全身から汗がしたたり落ちるのを感じた。
身体震え、自分の細胞一つ一つの情報を観察されるような気分を味わった。
歯がガチガチとなり、言葉すら出なかった。
「ねえダーリン♪ ザルヴィスさんももうすぐ死ぬし、石田教授も老い先短いですし、勘弁してあげてください♪」
永遠に近い、数秒の沈黙。
視線が遠ざかる。
石田は、自分が見逃されたのを悟った。
「ああもう、ただでさえ残り短い寿命が減っちゃうじゃないですか。
ごめんなさいね、とりあえず暗示を掛けときますんで、忘れてください」
ちちんぷいぷーい、と幼い女神は指先はくるくる回した。
「……まあ、恐怖は魂に刻んでおいたので、二度と私達を知ろうとはしないでしょう」
ぱん、と彼女が手を叩くと、時間が動き出した。
「……おい、大丈夫か? 汗ぐっしょりだぞ」
「…………本当だ。興奮しすぎてしまったのかな」
石田は自分でもわからないまま、寒さに凍えるように震えていた。
「申し訳ないが、今日はここまでにしましょう」
「ああ、ほどほどにしろよ。ここには血の気の多い奴もいるからな」
「ええ、肝に銘じておくよ」
その後、石田は数日間寝込む羽目になった。
§§§
ザルヴィスは夢を見る。
ああ、これは神が自分に何かを伝えたい時のあれだ、と彼は悟った。
ガイアディア世界の上位位相。
ここには言わば、神々の個室があり、顔を会わせる為のラウンジがある。
全ての神々が存在する領域は、言うならば大部屋だ。
つまりプライベートが無い。これには多くの人間出身の神々は精神衛生に悪い。
だからこうして、ひとつの世界に降りたち、そこで神としての活動を行うのが定番であった。
そして、この世界のラウンジに五柱が集った。
基本的に自室から出ない知の神以外の五柱だ。
「もう一度言ってくれるか、アリアレア」
ザルヴィスの視線は、酒神の物だ。
対面には戦神にして軍神であるアリアレアが席に着いている。
「これ以降のメアリースへの奉納を拒否すると言ったのだ」
「アリアレア、お前何言うてんのか分かっとんのか?」
大きな小判を大事そうに抱えた商神が彼女を睨みながら言った。
彼女はサリナスそっくりだったので、一瞬ザルヴィスは目を疑った。
だが彼女の英雄たるサリナスは自分の神に容姿もなるべく寄せていると言ったのをザルヴィスは思い出した。
「これからはお前たちが払えばいい」
「戦争がしたいならすればいい。お前はそう言う神だ。否定はしねえよ。
だがな、それとこれとは別だ」
酒神がそう言った。
彼に応じて、狼の姿をした精霊神にして守護神たる森の神が、唸る。敵意だ。
「メアリースに奉納が遅れたら俺達も追い出される。
そりゃあルール違反だろ」
「うちは嫌や。あんなプライベートもない場所に戻るんは」
商神が吐き捨てるように言った。
酒神が言うルールとは、この世界に降り立った六柱の協定だ。
この世界の滅亡を招くようなことはしない、そう言った取り決めなどが幾つもあった。
「そうだよ。アリアレアは私達の家族を追い出すつもりなの?」
サキュバスのハーフである愛の女神ラヴァーナが言った。
小柄な商神よりも幼い、その精神性を体現した子供の姿をした女神だった。
「私が居なくなったら、皆が困っちゃうよ」
テーブルの上で車のオモチャを弄びながら、彼女は自分たちの信者を心配していた。
「私はこの世界だけで済ますつもりは無い」
「またその話か」
酒神の呆れが、ザルヴィスにも伝わる。
「私は自分の世界が欲しいのだ」
「メアリースから奪うつもりか? あの女は自分の財産を奪われるのが大嫌いだぞ」
人間が住むありとあらゆる世界は、造物主たる女神メアリースの創造物である。
女神アリアレアが新しい世界を創造する能力が無い以上、必然的に彼女から奪うしかない。
「別にこのままでもいいじゃん。メアリースは結構
アリアレアも、そんなことはやめなきゃダメだよ。
愛の女神は優しく諭した。
ラヴァーナにとって、新しい世代の神々は全員弟か妹なのだ。
「断る」
「なんでよ!!」
「逆に聞くが」
アリアレアはラヴァーナを見据える。
「お前はこれを見て何も思わないのか?」
アリアレアが指を鳴らす。
ラウンジの景色が変わる。
無数の人々の営みが映った。
そこに、魔王の軍勢が襲い掛かる。女神メアリースの差配によって。
数多の家族が残虐に殺された。
財産を、家を、家族を、無残に殺されている。
「ラヴァーナ、お前は彼らを救わないのか?」
「……だって」
「だって、なんだ? メアリースはお前の妹なのだろ?
めっ、て悪いことは止めろと言えばいいのではないか?」
「……でも、ルール違反だし」
全ての神々のルール。
即ち──各々の権能がすべき所を、侵すべからず。
だからここに居る面々は、アリアレアが戦争をすること自体は何も言わないのだ。
だが、彼女が上納を拒否して、他の神々の活動を阻害することはルールに反する。これはその話し合いだった。
「そうか。お前は家族にする人間を選ぶのだな。愛の神であるのに、愛する者を選別するのだな。
助けを求める者を見捨てるわけだ。相変わらず素晴らしい神だな、お前は」
「う、ううぅ、うわぁぁぁあん!!
アリアレアに詰め寄られ、ラヴァーナは泣き出し酒神に泣き付いた。
「おー、よしよし。あと、俺はお前のパパじゃねえぞ」
「パパだもーん!!」
酒神は、数少ない古い神の生き残りだった。
彼女がこうやって甘える相手は少ないので、いつも彼があやしている。
「……戦争でうちらを追い出すこと自体は、メアリースは何も言わんやろう。
だが、奉納をしないのは話がちゃうんやないか?」
「嫌なら出て行けばいいだろう。お前が嫌いな他の商神の顔色を窺って新しい世界でも行けばいい」
「はあ?」
彼女は行商の神だった。
言うなれば個人経営であり、大店舗を多数展開するような経営をしてきた商神に比べれば格下に当たる。
「お前まで独りで気ままに商売するのはみみっちい言うんか!!」
「そこで怒るくらいなら、そのエセ方言をやめたらどうだ」
「しゃーないやろ!! 商神がこの口調やないと信者にがっかりされるんや!! うちだってこんな成金みたいな道具見せびらかしたいわけやないやぞ!!」
商神は手に持っていた小判をテーブルに叩きつけて激怒した。
「ケッ、獣耳ついてればなんでもいい、媚びればちょろい
そしてその果てに不貞腐れてタバコをふかし始めた。
だが、すぐに森の神が唸り声を上げて、彼女はそそくさとタバコを消した。
「……うちもラヴァーナも、あんたも居場所がなかった者同士やろ。
矛を収めるんなら今やで」
愛の神は欲望に忠実な存在が多数を占めている。
ラヴァーナのような性欲が絡まない愛の女神は周囲から見下される傾向にあった。その上で、彼女は年上気取りで煙たがられていた。
「私に足を止める自由は無い」
「ほんなら、うちも戦うしかないわな」
商神は溜息を吐いて、顔を引き締めた。
「なあ、アリアレア」
酒神が頭をガシガシと掻きながら、バツが悪そうに言った。
「今からでもよりを戻そうぜ。
元々俺たちは意気投合して、この地にやってきた。
どうしても、ダメなのか? そんなにも俺を許せないか?」
「何を言う。お前の事はとっくに赦している」
「ならなぜ!!」
「私が赦せないのは」
アリアレアは目を細めて酒神を見据えた。
「お前は酒宴の守護者だろう。
なのに、わ、私の臀部をまさぐった……!!」
「それは何度も謝っただろ……」
「やはりお前は分かっていない。
お前と言う神が、それをしたということが問題なのだ!!」
アリアレアは顔を赤らめたが、語気を強めてこう言った。
「お前の信者は真似をするぞ。神がこうしたのだから、なぜ自分が悪いのか、と」
「それは……」
「貴様は忘れたのか。魔女は殺さなければならない、たったその一文でどれだけ血が流れたのかを」
「……」
「お前は自分の存在意義に唾を吐いたのだ。
そして、我が軍規において、宴会の席で異性に暴行を働く者は死罪。私はお前を処罰しないという自由は無い」
だから赦せない。個人的には許してるが、神としてお前は赦せない。
軍神アリアレアはどこまでも他人に厳しく、自分にも厳しかった。
彼女は絶対の規律の守護者なのだから。
「……俺は、お前以外にあんなことはしない」
「わかっている。だがそれでも、お前を殺す」
酒神はがっくりと肩を落とした。
もう自分の言葉は彼女に届かない、その確信と後悔があった。
「ふ、ふふ、ふっふふふふふ」
その時だった。
酒神があやしていたラヴァーナが、笑い出した。
「私は、赦さない」
ラヴァーナの瞳には、憎悪が宿っていた。
「アリアレア、パパも殺すの?」
「ああ」
「私のママになってくれないの? 前に言ったよね、私達は家族だって、お前が!!」
「お前たちは自分たちの目の前の物事で満足しようとした。私はそれができなかった。ただそれだけのことだ」
「嘘吐き、裏切り者!! 人殺ししかできない分際で、他人の家族を奪うしかできないクソ女の分際で!! 私の家族を奪うつもりなんだ!!」
それは子供の癇癪、だが彼女は女神だった。
愛と憎しみは表裏一体。それらは元々同じモノなのだ。
「お前なんて要らない!! その人格を消してやる!!
そうして空いた席に、新しいママを迎えてやる!!」
「出来るものならやってみろ」
「自惚れるなよ、アリアレア」
本気でキレているラヴァーナを挑発するアリアレア。
しかし、酒神は彼女を宥めるように抱きしめた。
「ラヴァーナはあの凶悪な自然神が蔓延る時代を生き延びた。
お前はあの時代を知らない。所詮人間の軍事行動なぞ、災害には勝てない。お前もあの時代に居れば、ひれ伏すしかなかっただろう」
「そして、今はあの御方にひれ伏している。それのどこが違う」
「もうええやろ」
二人の神の言い合いに、溜息と共に商神が言った。
「話し合いの余地なんかもうあらへんやろ」
「……ねえねえ、バイカ」
「なんや?」
商神バイカに、ラヴァーナが小さく耳打ちをする。
「そら、いい手やな」
「でしょ?」
「ほな、神域に戻るで」
二柱がガイアディア世界から去る。
神々の座する領域に、戻って言ったのだ。
話を聞き届けた森神も、自室へと戻っていく。
「これで俺達も終わりだな」
「ああ、残念だ」
残った二柱の、もしかしたら結婚していた両者がそう言った。
「よしッ、切り替えた。それじゃ、思う存分殺し合うか!!」
酒神は酒瓶を呷ると、そう言った。
そんな彼を、アリアレアはジッと見ているだけだった。
「お前は私のような女ではなく、もっと愛想のいい女神を見つければいい」
「うるせえ、お前の代わりなんているか!!」
彼はそう怒鳴って、自室に戻って行った。
ザルヴィスの視点からでは、あの女神がどのような表情をしてるかわからなかった。
神々の決定的な決裂。
戦争は間近だった。
パティの住む首都も、物々しい雰囲気になっていた。
誰もが戦いの準備をしている。
毎日のようにパティを拝む人々。
パティはもう限界だった。
「私は、どうしたら……」
自分の住処である長屋の部屋の隅っこで、彼女はすすり泣くことしかできなかった。
どうせ彼女には、何もできないのだから。
しかし、彼女の絶望と嘆きに、意外な声が掛けられる。
『ねえねえ、聞こえる?』
「……あなたは、誰ですか?」
パティの脳裏に、知らない誰かの声が響いた。
『あ、よかった!! 本当に通じた!!』
「あの、本当に、誰ですか?」
『あ、ごめんごめん。急で困っちゃうよね?』
意志だけで明るい声だと、パティに声の主の性格が伝わってくる。
『改めて名乗るね!!』
声の主は、こう名乗った。
『私は軍神、軍衣を司りしヴィオライラだよ!!』
軍神アリアレアの妹だよ、と。
なかなかストーリーが進まない……。
次は、死神との対決です。
ではまた次回!!