【完結】さよなら、艦隊これくしょん――日本は抵抗をあきらめました――   作:河畑濤士

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■10.月下、航空戦!

「誰が空襲警報(Jアラート)を出した!?」

 

 全国瞬時警報システム、通称“Jアラート”は自然災害が発生した際には気象庁が消防庁へ情報伝達を行い、消防庁が全国へ発信することになっている。

 

 一方、外国からの武力攻撃や深海棲艦に関係する警報については、原則としては防衛省等から通報を受けた内閣官房が情報を取りまとめ、消防庁へ情報伝達を行い、同じく消防庁が全国へ発信することになっていた。

 

 が、深海棲艦との戦争が継続するなかで法改正が実施され、防衛省が消防庁へダイレクトに情報伝達を実施し、消防庁から全国発信を行える“例外”が認められている。

 

「すぐに撤回するんだ!」

 

「これは誤りだ、誤りのはずだ!」

 

「日本近海に深海棲艦は存在しないっ! もちろん、航空母艦もだ!」

 

 叩き起こされた首相が、官邸から怒り狂って四方八方にお叱りの電話を自らかけるなか、航空自衛隊航空総隊司令部およびJTF-“わだつみ”司令部は事態を正確に認識していた。

 

「市街地のひとつやふたつ、吹き飛ぶぞ」

 

 航空自衛隊峯岡山分屯基地(千葉県南房総市)のレーダーが捉えた国籍不明機(アンノウン)の数は140を超えていた。

 

「空母棲鬼1隻か、軽空母2隻、といったところか」

 

 国籍不明機の針路上には、国立現代海洋博物館がある。

 

「飛ばした偵察機(RF-15DJ)は」

 

「あと10分で目標に接触します」

 

 その情報は当然、鬼威にまで共有されている。

 

「畜生、一気に国立現代海洋博物館(ゲンカイ)を陥としに来るか」

 

 大和の空砲射撃によって廃屋同然となった現海から外に出た鬼威は、いつの間にか空を覆っていた赤のかかる暗雲を睨んだ。

 

「隼鷹、いけるか?」

 

 鬼威の問いに、隼鷹は「たははー」と曖昧に笑った。

 

「あたしの烈風は30機もないよ。提督、装備スロットを戦闘機にできる? そうすりゃ60機くらいまでは飛ばせんだけどなあ」

 

「その装備スロットとやらがまったくわからん」

 

「だよねえ……まあ、やれるだけはやるよ」

 

「……どういうことですか」

 

 鬼威と隼鷹の会話に割りこんできたのは、大和だった。

 

「どういうこと、というのは?」

 

「装備の換装ができないのですか」

 

「ああ。提督としての適性があればできるんだろうがな……」

 

 鬼威の答えに、大和は小首を傾げた。

 

「ではなぜ妖精さんたちは、あなたに味方する――提督である資格がないあなたに」

 

「……」

 

 鬼威が答えに窮すると、その隣に霧島と木曾が立った。

 

「司令に戦う覚悟があるから、でしょうね」

 

「だがこいつには力がねえ。だから俺は力を貸してやると決めた。たぶん、妖精どももそうなんだろう」

 

 そして最後に、大和と鬼威の間に磯風が割りこんだ。

 

「次は護る。この誓いを新たにしたのは、この男がいたからだ」

 

 大和は視線を逸らして、数歩下がった。

 

 それとは対照的に、彼女の胸元から青白い光が奔った。

 

「話はだいたい聞いてた」

 

 姿を現した艦娘は、端的に言えば“武者”であった。

 

 得物は、長弓――纏った装甲の上に純白の陣羽織を羽織り、伸びきった髪を鉢巻とともに後ろへまとめている少女は、鋭い視線を鬼威に投げかける。

 

「口だけだったら、妖精も、艦娘もついてこない。その点、この人は信用できる。でも、一方で私はまだ迷っている――この国は一度、痛い目を見たほうがいいんじゃないか、って」

 

「……」

 

 鬼威は苛立っていた。

 

 時間がない。

 

 だから手短に話を終わらせることにした。

 

「お前は何年生まれだ?」

 

「何年って、昭和――」

 

「ああ。俺も昭和生まれだ」

 

「それがいまの話と、何の関係があるんですか?」

 

「お互い昭和生まれ同士――平成、令和生まれの連中に平和をプレゼントしてやろうって話だ」

 

「はあ」

 

「それで俺たちジジイ、ババアが、平成、令和の子どもたちに見返りを求めてどうする!」

 

◇◆◇

 

 月も隠れた曇天と生臭い海の合間を、100を超えるバケモノが翔ける。

 

 純白の外殻を被った、人魂の群れ。

 

 それを黒鉄(くろがね)に寝そべる少女は、超人的な視力で見ている。

 

 生気さえも漂白されたどこまでも白い長髪と、血の色に輝く瞳。

 

 人類側から空母棲鬼と呼称される彼女は自らが送り出した艦上機部隊を視界には入れているものの、その行動にさしたる興味を持っていなかった。

 

 これから始まるのは、一方的な虐殺だ。

 

 人類の希望、提督の帰還――否、提督まがいのただの人間の登場。

 

 とはいえ、彼我の戦力差は歴然としている。

 

 向こうの航空戦力は軽空母が1隻。

 

 これでは負けるほうが難しい――あらゆる色を塗り潰す金色の瘴気を纏った2隻の重巡リ級に護衛されながら、彼女はそう思っていた。

 

(絶望を教えてやる)

 

 彼女は復讐艦攻改修型に生体魚雷ではなく、生体爆弾を装備させていた。

 

 やつらが打って出てこなかったならば、連中の拠点とその周辺すべてを焼き払うつもりであった。

 

(お前たちの蛮勇が、何をもたらすか、を)

 

 殺戮に伴う喜悦、そろそろそれが押し寄せる。

 

 彼女は眠気に抗いながら、ようやく時間だと思った。

 

 こちらの戦爆連合は、やつらの直上に達する頃合いだ。

 

 そして、次の瞬間、光を見た。

 

「アウトレンジどころか、インファイト――」

 

 夜闇に抗う人々の灯火が広がる大地と、死肉思わせる赤黒い曇天の大空を、一筋の光が燦然と貫いた。

 

 それから一筋の光は、二筋(ふたすじ)三筋(みすじ)と続けざまに増えていく。

 

 鮮血と重金属でできた雲が一瞬で晴れ渡り、青白い月が顔を出した。

 

「上等じゃない!」

 

 地上から放たれたその光の中から現れたのは、零式艦上戦闘機52型。

 

 青い燐光を散らしながら急上昇――死肉を思わせる白い幽鬼のどてっ腹に突撃を仕掛けた。

 

「クダラン」

 

 が、空母棲鬼は焦らなかった。

 

 一般的に言って航空戦は位置エネルギーを保持しているほうが、つまり高度が高いほうが有利である。

 

 この場合、地上から弓箭を以て打ち上げられたとはいえ、零戦は極めて不利だといえた。

 

――七面鳥撃ちだ。

 

 口の端を歪めて嗤う空母棲鬼は、その5秒後にその嘲笑を凍らせた。

 

「ひゃっはあああああああああ!」

 

 先程まで雲に隠れていた月。

 

 太陽の光を照り返して輝く青白い月。

 

 その月光を背負った機影が24機、眼下で始まった戦闘を見下ろしていた。

 

(伏兵――!)

 

 空母棲鬼が直上の敵機を警戒するように思念を飛ばす前に、分厚い雲よりも高空で待機していた隼鷹の烈風が、急降下突撃に移った。

 

「天地挟撃、やっちゃってえええ!」

 

 烈風の20mm機関砲が火を噴き、瞬く間に十数の深海艦上機が爆散した。

 

 目の前の零戦52型を好餌とばかりに攻撃しようとしていた深海猫艦戦たちは、即座に仰向けになって頭上の敵に対応せんとしたが、それはそれで悪手である。

 

 零戦の全力射撃が深海猫艦戦の白い外殻を貫徹し、内臓をぶちまけて血煙を生み出した。

 

「マエ ヘ デル!」

 

 空母棲鬼は左右の直衛艦に怒鳴った。

 

「カンジョウキ ヲ カイシュウ――」

 

 そこで、気づいた。

 

 重巡リ級が頭上を指差し、後背のツ級が5インチ砲を最大角まで持ち上げていることに。

 

「よう」

 

 その5インチ連装両用砲の延長線上には、雲を割って現れた銀翼があった。

 

「まんしん ゆだん たいてき だぜ――」

 

 空母棲鬼が対空砲を指向するよりも早く、隼鷹の99式艦爆隊は決死の急降下爆撃(ダイブ)に移っていた。

 

「ガァ――」

 

 次の瞬間、彼女が操る長大な航空甲板を、250kg航空爆弾が貫徹していた。

 

 火柱が上がり、衝撃波と破片が彼女の生身を襲う。

 

 もちろん、それだけでは終わらない。

 

 2発目は彼女の後部砲塔に接触――生体装甲に阻まれてワンバウンドしたところで炸裂し、彼女の後頭部から背中にかけてに、無数の破片を浴びせた。

 

 続けて3発目、4発目は至近弾。

 

 5発目は上甲板を貫徹してから炸裂し、黒鉄(くろがね)の上顎を爆炎とともに噴き上げた。

 

 そして6発目が、彼女の目と鼻の先に現れた。

 








◇◆◇



次回更新は1週間以内を予定しております。



◇◆◇
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