【完結】さよなら、艦隊これくしょん――日本は抵抗をあきらめました――   作:河畑濤士

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すみません、まだ少しだけ続きます。



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■24.日本は抵抗をあきらめました。あるいは、

「来るッ!」

 

 大和の艦橋から身を乗り出し、南の空を睨んでいた鬼威が怒鳴る。

 

「わかってますっ!」

 

 実艦形態を採る大和が叫び返し、対空砲火を夜明けの空に浮かぶ漆黒の機影に浴びせる。

 

 と同時に、彼女は針路上に待ち構える巨大な軟体動物然とした艤装を従えた深海棲艦、航空戦艦の戦艦未完棲姫を睨んでいた。

 

(周囲の影響が大きい主砲と対空砲を併用することはできない)

 

 敵艦上機も危険だが、15インチ四連装砲3基を有する彼女もまた脅威だ。

 

「くそ、飛魚(ミサイル)だ!」

 

「えっ!?」

 

 次の瞬間、いつの間にか並走する戦艦レ級が放った飛魚が、右舷から迫っていた。

 

 回避の暇も迎撃する猶予もなく、飛魚は右舷中央部、1番砲塔側面、右舷後部に直撃し、その装甲表面に食いこんでから爆ぜた。

 

 が、大和の艦体は揺らぎさえしない。

 

「ニシシ……シッ!?」

 

「矢矧、突撃するッ!」

 

 まったくの無傷といっていい大和の威容を前に、戦艦レ級の表情が強張るとともに、凛々しい叫びが追いついてきた。

 

 それだけではなく飛来した15.5cm弾がレ級の後頭部に直撃して炸裂し、周辺に弾片をばら撒いた。

 

「大和、提督、待たせたな」

 

 ダメージはほぼゼロにもかかわらず、逆上して矢矧に向けて変針した戦艦レ級を無視し、大和の横に並んだのは装備スロットを高角砲と電探で埋めた駆逐艦冬月、駆逐艦涼月の2隻であった。

 

「大和さんは砲戦に集中してください! お冬さん、投弾態勢のやつからやりますよっ!」

 

「異論なし! 友軍誤射だけは御免だ」

 

 その頭上を飛び抜けていくのは零戦52型から成る直掩隊。

 

 さらにその高空を飛び抜けていくのは、F-35Aの編隊であった。

 

「ドラゴン311。ドラゴン312。こちらワダツミ・コントロール。ターゲットへの攻撃を開始せよ」

 

「ワダツミ・コントロール、ドラゴン311。了解」

 

「ワダツミ・コントロール。ドラゴン312。了解」

 

 F-35Aが翼下の兵装庫を開放すると同時に、250kg爆弾が空中にその身を晒した。

 

 そして重力に囚われて、加速を始める。

 

 ただ加速するだけではない。

 

 弾頭のシーカーが起動すると同時に、弾体の末端に設けられた尾翼が稼働し、滑空しながら海面上の“点”へ向かう。

 

「オ゛ア゛ッ!?」

 

 大和に照準をつけようとしていた戦艦未完棲姫の体勢が、揺らいだ。

 

 1発は15インチ四連装砲の砲塔上面に激突してから僅かに浮き上がってから爆発し、もう1発は戦艦未完棲姫の左脇の海面で炸裂し、大波を立てた。

 

 その後方で発艦姿勢をとる空母ヲ級の周囲にも2発の250kg誘導爆弾が着弾し、その姿勢を崩す。

 

 客観的にみれば、有効な攻撃だとはいえない。

 

 航空自衛隊のF-35Aは、戦艦未完棲姫は勿論のこと、空母ヲ級にさえ傷一つ加えることができていない。

 

 しかしながら、彼女たちに致命的な隙をもたらした。

 

「主砲、撃てぇ!」

 

 僅か1000mという近距離に遊弋する戦艦未完棲姫目掛け、大和の46cm三連装砲が火を噴く。

 

 低伸する弾道は、戦艦未完棲姫に破滅的な被害をもたらした。

 

 外れた砲弾が巨大な水柱を作り出すなか、1発の46cm徹甲弾は彼女の触腕複数本を捥ぎ取り、切断し、滅茶苦茶に破壊してしまい、もう1発は触手に防護された彼女の腹を穿ってから炸裂して全身に爆風と破片を浴びせた。

 

「ア゛ア゛ア゛――ミセイカン゛、ダカラトテェ!」

 

 鮮やかな赤い体液を垂れ流しながら戦艦未完棲姫が15インチ砲を微調整するが、その1秒後に46cm弾が1基の砲塔を破砕し――砲塔は上面から火を噴き始めたと思うと、瞬く間にそれは炎に、劫火に、巨大な火焔の塊となった。

 

 その向こう側では邀撃機の発艦が遅れた空母ヲ級が、遥か後方から飛来した雲龍の艦爆彗星の爆撃を浴び、指揮杖を持つ両腕を折られ、頭部を破壊されて沈み始めていた。

 

「鬼威館長、そろそろです」

 

 爆散する自らの砲塔に焼かれ、さらに突進してきた戦艦比叡の連続射撃を浴びて巨大な体躯を周囲の海面へ四散させた戦艦未完棲姫を左舷に見ながら、大和は鬼威にそう言った。

 

「……あれが美雪か」

 

 水平線上に純白の構造物が見えた。

 

 周囲には未だに数隻の敵影がちらつく。

 

 そしてその合間にちらりと少女が立っているのもまた見えた。

 

 それからこちらへ伸びてくる航跡も。

 

「魚雷が来るぞッ! 間に合わん、艦娘になれ!」

 

「えっ!?」

 

「俺のことはいいっ!」

 

 鬼威も大和も判断は早かった。

 

 次の瞬間、大和の艦体が左右に割れたかと思うと光の塊となり、艦娘形態の大和が宙へ飛び出す。

 

 その僅か数秒後、高雷速の魚雷は実艦形態の大和の艦尾、艦体が存在していた場所を素通りしていった。

 

「また落下かよ――!」

 

 緊急手術で閉じたばかりの傷口が疼くのを無視し、鬼威はそれまで実体をもっていた光の中を通り抜け――海面ギリギリのところで襟首とベルトを掴まれて宙に留まることができた。

 

「信じていたぞ、鹿島。ありがとう」

 

「まったく……提督としては落第ですよっ! えへへ……」

 

 すんでのところで鬼威を捕まえたのは、鬼威の胸ポケットから顕現した練習巡洋艦鹿島であった。

 

「鹿島、司令を頼んだぞ」

 

 同時に姿を現していた磯風は海面を蹴ると、魚雷を放った張本人――奇妙な仮面を被った深海棲艦に突撃した。

 

「新型の……駆逐艦か!?」

 

「イミ ナンカ ナイッ! オマエラ ノ ショウリニ! ナゼソレガ ワカラナイ!?」

 

「わからないな。意味があるかないかなんて、10年後、100年後にならねばわかるまい」

 

 磯風と駆逐ラ級ζのドッグファイトが始まる一方、大和は迫る新手を迎え撃つべく46cm三連装砲を操っていた。

 

「ココデイキドマリ!」

 

「カワイイネエ――ヨリヨイ アス ヲ タダ シンジル ソノ スガタハ!」

 

 海峡夜棲姫と標準型戦艦棲姫が自身の獲物を大和へ指向するのと、大和が46cm三連装砲による射撃を開始するのはほぼ同時であった。

 

 14インチ徹甲弾が大和の和傘に直撃して砕け、火を曳く破片をぶちまける。

 

 続いて16インチ徹甲弾が大和の纏う純白の装束に激突し、けたたましい金属音を響かせた。

 

 さらに遅れて戦闘加入した近代化戦艦棲姫が16インチ連装砲塔を巡らせ、全力射撃を開始する。

 

 超弩級戦艦1隻対姫級戦艦3隻。

 

 あまりにも分が悪い戦い――大和は海面上を滑走しながら軽々と致命打を避けていくが、それでも彼女が纏う装甲は、徐々に削り取られていく。

 

「ワダツミ・コントロールッ!」

 

 鹿島に抱かれた鬼威は彼女の肩に腕を回してバランスをとると、彼女が装備していた通信機、その古めかしいデザインの伝声器に怒鳴った。

 

「こちら鬼威ッ! 未来棲姫への航空攻撃は!?」

 

「こちらワダツミ・コントロール。5分前にドラゴン313、314――2機のF-35Aが攻撃を実施したが、“飛魚”の妨害もあり失敗した」

 

「次の攻撃はっ!?」

 

「30分後にF-2A戦闘機のグローリー321、322、323、324が攻撃を実施する」

 

「30分後ッ!?」

 

 鬼威は「遅すぎる」と怒鳴った。

 

 その数秒後、轟音という表現さえも控えめな大音響に鬼威は顔を上げた。

 

「大和ッ――!」

 

「いったん退きます!」

 

 鹿島が全力後進をかける。

 

 爆炎を噴きながら大和の1番砲塔が宙を舞い、海上に投げ出され、海面を破砕しながら横転し、沈んでいく。

 

 鹿島の一瞬の判断により、彼女と鬼威は降り注ぐ破片の雨に巻き込まれずに済んだ。

 

「……ッ!」

 

 見やれば、大和は多数の直撃弾を浴びていた。

 

 敵とて無傷ではない。

 

 双子から成る海峡夜棲姫は、片割れが46cm徹甲弾の直撃を浴びて艤装の上で悶え苦しんでおり、他方もまたその破片を半身に浴び、苦痛の表情を歪めていたし、標準型戦艦棲姫もまた1基の砲塔を吹き飛ばされ、鉄仮面もまた引き剥がされていた。

 

 が、大和もまた壮絶だ。

 

 46cm三連装砲の砲塔1基は前述のように吹き飛ばされ、もう1基は敵の集中射撃を浴びて砲身が折れ曲がっており、残る健全な砲塔は1基のみとなっていた。

 

「鬼威館長、時間を稼ぎます」

 

 彼女は和傘を振るって新たに飛来した敵弾を弾き、あるいは偏向させながら、残る1基の砲塔を巡らせる。

 

「なに言ってる!」

 

 反射的に鬼威は反駁したが、大和は敵を見据えながらただ冷静に言った。

 

「甘く見たわけじゃないですが、攻勢はここが限界点です。いったん後退して、味方艦と合流してください」

 

 敵の徹甲弾が46cm三連装砲の防盾に激突し、後方へ逸れていく。

 

 損害は軽微、しかし彼女の姿勢は大きく崩れる。

 

 助けはない。

 

 涼月、冬月、矢矧は戦艦レ級を相手取るのに精一杯になっており、磯風もまた敵新型駆逐と殺し合いの最中である。

 

「……」

 

 大和は鬼威と鹿島が撤退していくはずの後方かなたを振り返ることなく、悲壮な覚悟とともに敵を睨んだ。

 

 が、次の瞬間、その背中が僅かに震えた。

 

「諦めるな!」

 

「は?」

 

 大和は背後を振り返る。

 

 後方には鹿島に肩車された鬼威がいた。

 

 その姿は大和に負けず劣らず満身創痍――一部の傷口が開き、血が漏れはじめている。

 

 が、それも気にせず鬼威は怒鳴った。

 

「俺たち日本人からすりゃなァ――!」

 

 淡く彼の右手が光りはじめる。

 

「戦艦大和は、そんな簡単には沈まねえんだよ!」

 

 大和は、大和の肩越しに深海棲艦たちは、奇跡を目にした。

 

「軍艦同士の殴り合いじゃ、お前ら有象無象の戦艦がいくら束になったってかなわない、それが大和だ!」

 

 蛍火を思わせる青い光が鬼威の右腕を這い、その右指に集束する。

 

「テイトク ノ ナリゾコナイガ、ココデ――!?」

 

「これは俺の提督としての力じゃない!」

 

 不可思議な光の壁(画面)が展開され、装備換装の文字が浮き上がった。

 

 それは日本人の想念だとか祈りだとか認識だとか呼ばれる代物が、鬼威の意志によって励起されたものだった。

 

 破砕された46cm主砲塔が淡い光となって消え失せ、続けて巨大な光の塊が大和を包みこむ。

 

「51cm連装砲ッ!」

 

 光の中から現れた傷一つない巨砲は、ぴたりと近代化戦艦棲姫に狙いをつけていた。

 

 油断して接近してきていた彼女は、火を噴く51cm連装砲の最初の餌食となった。

 

 一見すると三胴構造にみえる彼女の艤装――その右艤装、左艤装が51cm徹甲弾によって切断され、加えて遅れて飛来した砲弾が彼女の頭部を貫徹し、その背後の水上電探を兼ねるマストを粉砕して血肉と鋼鉄の入り混じった混淆物を後方の海面上へ四散させた。

 

 慌てて射撃を再開した標準型戦艦棲姫は胸部を一撃で射抜かれ、その上体を吹き飛ばされている。

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