【完結】さよなら、艦隊これくしょん――日本は抵抗をあきらめました――   作:河畑濤士

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次回更新は2月3日(月)ごろを予定しております。



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■8.戦うことだけが、戦いじゃない。(後)

「えらいことをしましたね」

 

 館長執務室にて、防衛省防衛政策局の弄橋(いらえばし)からかかってきた電話に出た鬼威は「すみません」、と虚空に向けて頭を下げた。

 

「いえ、謝る必要はありませんよ。こちらも溜飲は下がりました」

 

 ははは、という笑いはスマホの向こう側で数秒続いた。

 

 それが終わるのを待ってから、鬼威は口を開いた。

 

「しかし私が更迭されたら終わりです」

 

「鬼威館長、私が文化庁の人間だったら上から何か言われてもあなたを更迭しませんよ。次に国立現代海洋博物館の館長をやりたい人なんかいないでしょう」

 

 加えて現在の文科省、文化庁の人間は鬼威の知己である。

 

 もちろん鬼威はそれに甘えるつもりはないが、曖昧に答えた。

 

「まあ、そうですね」

 

「それに政権側はこのタイミングであなたを飛ばしたら、また世論とマスコミから集中砲火を浴びますよ」

 

 再び弄橋は数秒に亘って笑った。

 

 それから思い出したように、聞いてきた。

 

「そういえば、艦娘による哨戒体制はどうなりましたか?」

 

「アドバイスをいただいたとおり、8時間・3交代制を組みました」

 

 とにかく敵の動向を知りたい、というのが鬼威や防衛省関係者の共通するところであった。

 

 そのため鬼威は手持ちの艦娘を3チームに分けて、8時間ずつの哨戒に出すことに決めた。

 

 具体的には天龍・龍田ペア、磯風・霧島ペア、隼鷹・木曾ペアの交代制で国立現代海洋博物館(げんかい)南方の海域に出す。

 

 8時間で行って帰ってこられる範囲の哨戒であるから、監視できる範囲は現海からかなり短い距離になってしまうが、これは仕方がない。

 

(やはり空母が欲しい)

 

 海上監視を真剣に考えた際に、やはり必要なのは空母と艦上機だ。

 

 隼鷹が哨戒に出る際は艦上機が使えるため、哨戒範囲がかなり広がる。

 

 防衛省は自衛隊機による哨戒については未だ及び腰、ということであるが、海上保安庁は深海棲艦や敵艦上機に遭遇しても容易に振り切れる固定翼機のガルフストリーム5をもって、可能な限り監視にあたるらしい。

 

(それに……)

 

 米中が報せてきたとおり、敵空母が日本近海に近づいているのであれば、迎撃する手段と長距離からこれを叩く手段が必要だ。

 

 理不尽なことに、現代兵器は深海棲艦自体に対しては勿論、彼らが飛ばす艦上機に直接的なダメージを与えることができないという。

 

 これまで鬼威はそんなデタラメな、と思っていた。

 

 が、いまは違う。

 

 こちらの艦娘が半ば非科学的な存在である以上、そんなこともあるのだろう、と納得していた。

 

「あとは鬼威館長のほうに、県警から連絡がいっているかもしれませんが、現場検証の名のもと、県警が現海の周辺を警備します」

 

「あっ、わかりました」

 

「敵は深海棲艦だけじゃないですからね」

 

 また弄橋は笑ったが、鬼威は内心穏やかではなかった。

 

 午前中は携帯電話を駆使して関係各所との情報共有を行ったあと、退職を考えているスタッフとの面談を行った。

 

 その後は県警の人間や警備会社のスタッフと調整を行い、正午を迎えた。

 

「俺はこれからコンビニ行くんだけど、なんか食べるか?」

 

 哨戒を終えたあと、執務室でテレビを見ている霧島と磯風に声をかけると、霧島は「なんでもいいですよ!」、磯風は「私も行く」と返事をしてきた。

 

(なんでもいい、がいちばん困るんだよな)

 

 かといって、テレビが映すお昼のワイドショーに齧りついている霧島に声はかけづらい。

 

 仕方なくそのまま鬼威は磯風を連れて、通用口から本館を出た。

 

「磯風、霧島の好きなもの、嫌いなもの知っているか?」

 

「知らないな」

 

「まあなんでもいいっていってたしな」

 

 報道陣は朝よりも多くなって鬼威を囲んだが、鬼威は無視することなく丁寧に、事実だけを答えながらじりじりとコンビニに近づき、コンビニから出たあともじりじりと現海へ帰った。

 

(品数の種類は減り、そのかわり値段は上がった)

 

 鬼威は経済についてド素人だが、物流にかかるコストが上がっているのだから値段が上がるのも当たり前か、と思っていた。

 

「しっかし……」

 

 デスクに戻った鬼威は、磯風に塩おにぎりを投げながら愚痴を口にする。

 

「あのケースの中の艦娘たちも助けてくれてよさそうなんだけどな」

 

 鬼威からすればいちばん心残りというか、腑に落ちないというか、納得できていないのがそこだった。

 

 旧帝国海軍の艦艇をルーツにもつのならば、日本の危機を察知してすぐに動いてくれそうなものだが、未だケースの中の艦娘たちはカード形態のままだ。

 

「以前の提督と何か約束をしたのでしょう」

 

 磯風よりも先に反応したのは、霧島だった。

 

 彼女は具がほとんど入っていないコンビニのカレーライスを睨みながら、言葉を続ける。

 

「艦娘たちの多くは、国家のために戦っていたのではありません」

 

 霧島の答えに、鬼威は野菜ジュースのストローから口を離した。

 

「提督のため――提督への個人的な忠誠のために戦っていた?」

 

「提督のため、あるいは仲間を守るため。そういう艦娘が多かったのは事実です。鎮守府や提督から引き離される際に、もしかすると提督から何か言い含められたのかもしれませんね。単純に意地を張っているだけかもしれませんが」

 

「……逆に霧島たちのほうがレアケース、ってわけか」

 

「舞鶴で平和な日々に飽きちゃってましたからね、私たちは」

 

(このバトルジャンキーども……)

 

 と鬼威は思ったが、そのおかげで首の皮一枚つながっているような状況なのだから、文句は言えない。

 

「そうしたら元・提督たちの翻意を誘ったほうが得策か」

 

「ふぇひるのか(できるのか)?」

 

「磯風、口の中にモノを入れながら話すのをやめろ」

 

「すまん、司令。だが元・提督のなかにはもう戦いはこりごりだという者が多いだろう」

 

「……ああ」

 

 テレビ画面の向こう側では、今朝の鬼威とレポーターの受け答えが流れたあと、映像が切り替わった。

 

「あのねえ、だから艦娘は全部殺せって言ったんだよ」

 

 横柄な態度で椅子に座ったままの閣僚が、半笑いでそう語っている。

 

「俺は殺せって言ったんだよ。艦娘が元凶だよ、バケモノはあれを追いかけてきてんでしょ、たぶん」

 

 はあ、と画面の中の閣僚はうんざりした様子で続ける。

 

「言っとくけど、これオフレコで。書いたらその社は終わりだから」

 

 映像は昨夜のもののようだった。

 

「まあ……」

 

 鬼威は溜息をついた。

 

「これ見たら、ね。国のために戦おうとは思わんわ」

 

 午後になると、抗議の電話がかかってくるようになってきた。

 

 抗議の電話をかけてくる人間はみな相当暇なのか、代表番号をかけたあと、代表番号の下一桁を変えて様々な部署に電話をかけてきているらしい。

 

 そのため鬼威は経理、庶務の人間に電話線をすべて抜くように指示した。

 

 未だ一般公開していない現海にとって、固定電話ははっきりいって無用の長物だ。

 

 外部の関係各所は何かあれば、鬼威の携帯電話にかけてくる。

 

「くだらん嫌がらせだ」

 

 という都合があったので、鬼威は腹が立ったが、困りはしなかった。

 

 午後は午後で目まぐるしく時間が過ぎていき、夕方になり、夜になった。

 

 これ以上張りこんでも新たに得られるものは少ない、と判断したのか、すでにもう報道陣は引き揚げている。

 

「いやー仕事上がりの一杯は最高だぁー!」

 

 それと入れ違いに哨戒から隼鷹と木曾が帰ってきた。

 

 両者ともに発泡酒を手にしながら、であったが、鬼威はそれを黙認した。

 

 彼女と交代するかたちで夜間哨戒に出るのは、天龍・龍田である。

 

 両者を見送って執務室に戻ってきた鬼威は、鬼威のデスクに勝手に菓子を広げた隼鷹と木曾に「汚すなよ」とくぎを刺した。

 

「とりあえずきょう俺は終電で帰る。始発で戻ってくるが、何かあったら連絡をくれ」

 

 ついでに鬼威は自宅までついてきそうな磯風を視線で牽制する。

 

「なんだ、司令?」

 

「ついてくるなよ?」

 

「フリ、というやつか」

 

「違う」

 

 と、そんな会話をしつつ、鬼威は別のことを考えていた。

 

 緊急事態に備えることを考えれば、可能な限りここにいたほうがいいのは間違いない。

 

 この現海には他の博物館同様に休憩室があり、同時に元海軍施設ということもあってか、シャワーを備えた宿直室がある。

 

 が、鬼威は肝心の着替えや寝袋等を持ちこむのを忘れていた。

 

(レンタカーでも借りて……いや、誰かにお願いして運んできてもらうか)

 

 そんなことまで思考が巡ったところで、木曾が突然、不敵に笑った。

 

「仕掛けてくるな」

 

「深海棲艦か?」

 

 咄嗟に聞いた鬼威に、いや、と彼女は(かぶり)を振った。

 

「艦娘だ」

 

「なに?」

 

 木曾の返答の代わりに、パン、パン、と何かが弾ける音が外で響いた。

 

 このとき鬼威にはわからなかったが、それは警官が行った威嚇射撃であった。

 

「しかもこの気配、ただの艦娘じゃねえ――」

 

 木曾は黒い外套をはためかせながら立ち上がった。

 

 同じく隼鷹もまた、珍しく真面(マジ)な顔で発泡酒の缶をデスクに置いた。

 

「ただの艦娘じゃないって、ならなんなんだ?」

 

 突如として緊迫した空気についていけない鬼威の問いに、木曾は答えた。

 

「――大和だ」

 

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