小鳥遊ホシノの同級生で、梔子ユメの妹 作:IMOPOTETO
申し訳ありませんが最初の話は削除します。諸事情で申し訳ありません。
雲一つない青空。砂まみれの土地。誰もいない校舎。
今日も今日とて、アビドスはいつも通り寂れた1日が流れている。
窓の外を見ても人1人見えない。たまに車が通りかかったり、鳥が飛んでいくのが見えるだけだ。
そんなどうでもいい景色を見ながら、座っている椅子を少し後ろに下げ、机にうつ伏せになる。
「……ユメ先輩、遅いなあ」
私が生徒会室にいる理由は2人しかいないアビドス生徒会のメンバーであると言うのもあるが、今日に限っては別の理由もある。
借金まみれで、在籍している生徒の数も数えるほどしかいないアビドスだがある程度の仕事はある。
だがそれに加えてアビドス再興のための活動や借金を返済するために仕事を請け負ったり、ユメ先輩の思いつきに付き合ったりと、到底2人では回し切れない作業量があった。
言ってしまえば、人手不足だ。
今の学校には私とユメ先輩以外にも生徒はいるが、そのほとんどがアビドス復興とか、借金返済とか、そんなことできやしないと、転校を考えていたり卒業を待っているだけの諦めた生徒たちだ。
ユメ先輩もそんな人たちに声をかけていたが、キッパリ断られるかなあなあで済まされていた。
それで先輩は落ち込んでいたが、何か思いついたかのように元気になり、私に待っているように伝えどこかへ行ってしまった。
そして今に至る。
……先輩のアイデアは大体から回ることが多い。あまり期待しないで待っておこう。
そんなことを思いながら大人しく待っていたが、あまりに遅い。
また何か面倒ごとに巻き込まれたのか。……まさか砂漠の方に向かったのか?
やっぱりついていくべきだったかと少し後悔していると、ノックもなく扉が開かれた。
「ふーん。あなたが小鳥遊ホシノ」
「……誰ですか、あなた」
ドアの前に突然現れた、なぜか上から目線の態度で睨みつけてくる人物を警戒する。
肩より少し上まで伸びた緑色の髪に背丈は私より少し上。背中には対戦車ライフルを背負っている。
その見た目は、身体的特徴や雰囲気は違うが、まるでアホ毛を抜いた先輩のようでーーー
「なんだ。お姉ちゃんからすごい後輩ができたって聞いたけど、ただのピンク色のチビじゃん」
「ーーーは?」
思考が停止した。
なんだコイツ。初対面の人間に向かって接する態度と言葉では到底ない。
いやまて、そのまえに。お姉ちゃん?
「あなたまさか、ユメ先輩の妹さんですか?」
前々からその存在はユメ先輩から聞いていた。
曰く、自分より優れた妹がいると。可愛くて優しい子だと。私と同じ学年で、会えばすぐ友達になれるかもと。
けどその妹さんは学校にはほとんど通っておらず、不登校。
最後の説明で少し不穏な感じはしたが、正直私はどんな人物かとワクワクしていたりもした。
けど、まさか出会って数秒で人をこんなに苛立たせるとは思っても見なかった。
「……ユメ先輩の話も当てにはなりませんね。いや、いつものことですけど」
「なにあなた、お姉ちゃんのこと馬鹿にしてるの?」
「いえ、先輩からはよくできた妹さんがいると聞いていたのに、出てきたのが会えば噛みついてくる狂犬のような人だったとガッカリしてるんです。それともユメ先輩の前でだけ随分と厚い皮を被ってるんですかね」
「よく回る舌だね。私もお姉ちゃんからしっかりした後輩ができたって聞いたけど随分口が悪いじゃん。ああ、その口に栄養全部持っていかれたからそんな貧相な体してるんだ」
「……人の身体的な特徴をよくもまあそんなに馬鹿にできますね。あなた本当にユメ先輩の妹さんですか?ああ、なるほど。一般的な教養が全部先輩に持っていかれたせいでそんな人格破綻した性格なんですね。可哀想に」
ホシノは自分がこんなに口が回るのかと驚いている。
先輩に対しても向けられない、向けたことがない暴言がスラスラと出てくる。
数分間、口論による応酬が繰り広げられる。時間が経つごとにその熱気は上がっていき、ついに互いの口が止まった瞬間部屋の温度が急激に下がった。
互いが互いを睨みつけ、通りがかった鳥が何かを感じ取って慌てて逃げていく。
一方は机の上に置いていたショットガンを手に取り、もう一方は肩に背負っていたライフルを両手に持つ。
「ーーー構えなさい。ユメ先輩の代わりに私が躾けてやりますよ」
「ーーー上等よ。その頭からピンク色の体液撒き散らしてやるわ」
この日、アビドスが砂漠化した原因でもある自然災害に匹敵するのではと噂される戦闘が、火蓋を切って始まった。
とある元アビドス高等学校一般生徒の証言。
「ええまあ、あの日の出来事を忘れるなんてありえませんよ」
「いつ廃校になってもおかしくなかったんですけど、一応地元だったので卒業するまでは学校に通っておこうと教室にいたんですけどね」
「いつもみたいに机の上で惰眠を貪ってたわけですよ。……そしたら急に窓が揺れ出したんですよ」
「最初は風かと考えたんですけど、内側の窓も震えてたんで地震だと思ったんです。でも違いました」
「それに気づいたのは、ピンク色の何かがものすごい速さで教室の前を通り過ぎて行ったのを見た瞬間でした」
「何事かと思って廊下に出たら、びっくりしましたよ。だってグラウンドが爆撃にでもあったんじゃないかってくらいボコボコでしたもん。いや、元から校舎自体はボロボロだったんですけど。でもね、あの時はどっかの学校が攻めてきて戦争でも起こったんじゃないかと勘違いしましたよ」
「……正直、あの戦いをみてビビリもしましたけど、胸が熱くなりましたよ」
「何にかって?……はぁ、そんなの決まってるじゃないですか」
「ーーー強者同士の戦いってのは、どう見たって高鳴るもんでしょう?」
「くっ!」
ライフルの弾が窓を破り、頬を掠める。
コケそうになるのを、なんとか体制を持ち直して走る。
戦いが始まってから、一度もライフルの弾が外れない。
掠めたりはしているが、それでもダメージは入っている。
隠れてもまるで透視でも使えるんじゃないかと思うほど正確に狙撃される。
走って狙いが定まらないようにしても的確に狙い撃ちされる。
弾道から狙撃場所に当たりをつけ、そこへ向かってもすでに場所を変えている。どんなに早く向かっても、まるでこちらの動きを予測しているかのように消える。
まるで、一方的な狩りのようだ。そして獲物は私。
初めてだ。初めて戦闘で劣勢の立場に立たされている。
自慢じゃないが、どんな戦場や争いの場にいても私はいつも勝ってきた。苦戦したことは一度もない。
そんな私が、こんな有様だ。
混乱し、焦っている。
そして、ーーーどこか楽しんでいる。
だって、初めてなのだ。
ーーーどんなに撃たれても私には大して痛くない。
ーーー大抵は適当に突っ込んでも適当に戦えば勝てる。
ーーー大軍で来られても簡単にあしらえる。
それが、今はどうだ。
ーーーどれだけ撃たれても平気な私が、逃げに徹している。
ーーー適当に戦えない上、向こうが戦場を掌握している。
ーーーたった1人で私を翻弄している。
私の当たり前が覆される。
私は今、はじめて誰かに勝ちたいと思っている。
……けど、それはそれとしてアイツのことは気に食わない。
戦いを楽しんでいる部分はもちろんあるが、私を馬鹿にしたことに対しては腹が立っているし、今あんな奴に負けかかっていることにも我慢ならない。
……たしか、不登校って言ってたっけ。
なら、勝ち筋はある。あの太々しい気に入らない顔に一発ぶち込んでやろう。
「ほら、大したことないじゃん」
小鳥遊ホシノ。
お姉ちゃんの話の中で一番話題に出てくる人物。
曰く、生徒会に入ってくれた後輩、とっても強い、自分よりしっかりした子、曰く、曰く、曰く。
……腹が立つ。
お姉ちゃんの口からあのチビピンクの話が出るたびにそう思う。
最初はどうってことなかったが、その頻度が上がるたびに腹立たしくなっていった。
けど、お姉ちゃんが楽しそうに話しているから『やめて』とは言わなかった。
私はアビドスが嫌いだ。
こんな砂まみれで、借金まみれの学校誰が好きになれると言うのだ。
私は高校に進学する段階で、別の自治区に転校しようとした。
お姉ちゃんにもそう提案した。
でもお姉ちゃんは、アビドスに残った。
いつか、アビドスに大勢の人たちがきて昔みたいに賑わえるようにしたいと、そう言っていた。
……無理だ。
どう頑張ったって10億に近い借金なんか返済できやしない。砂漠だってどう処理する。みんなでスコップでも持って減らすのか?
そもそも、生徒の数だってどんどん減っている。そしてそのアビドスに残っている人々は、皆一様に諦めている。
私と同じように。
でも、それでもお姉ちゃんは諦めなかった。
無理矢理生徒会長にされても、どれだけ拒絶されても、騙されても傷ついても。
お姉ちゃんはアビドスのために動いていた。
そんな姉に、アビドスは厳しかった。
そんなお姉ちゃんの姿を見ていられなくて、そんなアビドスに怒りを募らせて、私はお姉ちゃんを理由にアビドスで進学したは良いものの、学校には通わなかった。
いつかお姉ちゃんが諦めてくれれば。
ーーーお姉ちゃんは絶対諦めない。
アビドスがお姉ちゃんを見限ってくれれば。
ーーー絶対に許さない。
そうすれば、そうなればいつか。
そしたら、
私が本来いる場所を掠め取るように。
お前がやらないから代わりを用意したぞと言わんばかりに。
私にできなかったことを、ポッと出のチビピンクがやり始めた。
「お姉ちゃんの隣にいていいのは、私だけ」
お前がボロボロになれば、お姉ちゃんは諦めてくれる?
「そこは、お前の場所じゃない」
昔みたいに、2人っきりになれる?
「消えていなくなれ、小鳥遊ホシノ」
お姉ちゃんは、私の。
「……あれ?」
いない。
目は離さなかったはずだ。忽然と姿が消えた。
どこに消えた?
「ーーー捕まえた」
「っ⁉︎」
懐に収めているグロッグを取り出そうとするが、遅かった。
屋上の床下に倒され、ショットガンで首を絞められる。
「どこ、からっ」
「私はちゃんと学校に通っていたので、不登校のあなたの知らない抜け道を知ってるんですよ」
力任せに押し返そうとするが、ピクリとも動けない。
ならばと、腰についている閃光弾の安全ピンを器用に片手で外す。
瞬間、眩しい光が2人の視界を閉ざす。
それでもホシノは体勢を変えなかったが、力が少し緩んだ瞬間を見逃さず押し返す。
2人は両膝をついたままショットガンを中心に押し合うが、力押しではホシノに分があった。
次にグロックを素早く引き抜き、銃口を首筋にゼロ距離で当て引き金を引く。
ホシノの短い悲鳴と共に、4、5回の発砲音が響く。
が、それでもホシノは止まらなかった。
「っ?あんた石でも食ってんの!?」
グロックの弾倉が空になるまで狙える関節部分を全てゼロ距離で撃つ。
「っの!いい加減にしろ‼︎」
「ぐっ!」
ショットガンのストックが頬にぶつかる。
意識を失いかけるが、気合いで持ち直す。
「あなたさっきからやり方がねちっこいんですよ!もっと正面からやりあえ!」
「ふざけんな猪女!あんたみたいな馬鹿力まともに相手できるか‼︎」
「自分の非力さを認めたね!そのまま土の味も噛み締めてろ‼︎」
「ここ屋上!そんなに地面がいいんだったら突き落としてやる‼︎」
銃の存在を忘れたかのように、殴る、蹴る。
力で優っているホシノはこのまま殴り合えば勝てると思ったが、相手は自分より非力とはいえ攻撃を紙一重で避け、的確に急所を狙いダメージを蓄積してくる。
「この、猪ピンク‼︎」
「シスコン女‼︎」
銃社会のキヴォトスでは稀に見ない原始的な殴り合い。
終わることがないと思えるほどの応酬は続く、と思われたが。
「こら〜〜〜!!ホシノちゃんもヒトミちゃんも何やってるの!!!」
自分の先輩、自分の姉の静止により、決着が付くことなく戦いは終わった。
「もう!ホシノちゃんもヒトミちゃんもなにしてるの!」
「「だってこいつが‼︎」」
「だってもなにもありません‼︎」
「「うぐっ」」
先程まで勇ましく戦っていた2人は、いつもふわふわと頼りない少女に正座させられていた。
「家に戻ってもいないと思ったら、何してるのヒトミちゃん!ホシノちゃんも‼︎」
「だ、だって先に喧嘩を売ってきたのはコイツで」
「それは校舎を壊したり周りの人たちに迷惑をかける理由にはならないでしょ!」
「うひっ!ご、ごめんなさい……」
「ぷっ、うひだって。ダッサ」
「は?なんですか、もう一度その頭にスラッグ弾ぶちこんであげましょうか?」
「やってみなさいよ。頭ぶち抜いてその貧相な身長もっと削ってやる」
「ーーー二人とも」
「「すみませんでした」」
その後数時間正座させられた2人は痺れた足で帰宅。
もう会うことはないなと、互いに思っていたが次の日に再び顔を見ることになる。
「というわけで。新しく生徒会に入るメンバー梔子ヒトミちゃんだよ!昨日のことは水に流して仲良くしてね!」
「本気で言ってるんですかユメ先輩⁉︎」
「本気で言ってるのお姉ちゃん⁉︎」
「「被せるな‼︎」」
「うんうん。二人とも仲良くやれそうだね!」
「「どこが‼︎」」
その後もギャーギャーワーワーと喧騒が響き、1日が過ぎた。
この日、2人きりだったアビドス生徒会にまた騒がしい生徒が入部した。
梔子ヒトミ
アビドス高等学校の生徒会長であった梔子ユメの妹。
借金と砂に塗れたアビドスという土地を嫌悪しており、入学初日から不登校となった。
ヒトミは姉である梔子ユメの頑張りに報いない周りの環境をよく思っておらず、募りに募った激情は突如姉の隣に現れた小鳥遊ホシノに向けられた。
武装は対戦車ライフルの『Wrath of Set』。また、その塗装は姉と一緒に手がけたもの。