小鳥遊ホシノの同級生で、梔子ユメの妹 作:IMOPOTETO
アビドス自治区にある、とあるビル。そこの屋上近くの階の壁は大きく破壊され、空いた穴からは大きな煙が出ていた。
キヴォトスでは日常的な光景ではあるが一つ違う点は、非常に騒々しい声があることだろう。
「私の方が多く倒した!」
「いいえ私の方が多かったです!」
「さっき私が1人殴り倒したでしょ!それで1人!」
「それを言うなら私だって隣にいたやつ倒しました!狙撃手のくせに目が悪いんですか!」
「なによ、私の方が先に倒してたでしょ!」
「いいえ、私が先に倒しました!」
「私が‼︎」
「私の方が‼︎」
「えっと……2人は私を助けにきてくれたんだよね?」
「ユメ先輩は黙っててください‼︎」
「お姉ちゃんは黙ってて‼︎」
「えぇ……」
大人に騙されていたところを後輩と妹に助けられたユメは、2人の口喧嘩を目を丸くし見ていた。
梔子ヒトミがアビドス生徒会に入ってから、いろんな意味で活動は劇的に変化していた。
主に借金の返済と治安維持に大きく貢献しており、仕事で騙されれば実力で相手を黙らせて無理やり報酬を出させ、その狙撃能力を活かし暴れている不良生徒を倒していき、不良たちはいつしか目に見えない存在に怯えるようになった。
そして1番の変化は、生徒会室がうるさくなったことだろう。
「ほら見てよお姉ちゃん!コイツの考えなしの頭悪い戦い方のせいでこんなに弾薬の出費が出るんだよ!こんな奴退部させよ退部‼︎」
「あなただって人のこと言えないでしょう!そのライフルの弾薬費、一発でいくらになると思ってるんですか!ユメ先輩、こいつこそ退部させましょうよ!」
「私はちゃんとワンショットワンキルしてるからいいの!あんたこそ、その猪みたいな戦い方どうにかならないの!」
「私はちゃんと考えて戦ってます!そもそもあなたの戦い方がいやらしすぎるんです‼︎」
「どう思いますかユメ先輩‼︎」
「どう思うお姉ちゃん‼︎」
「ええっと……どっちもどっちに見えるかなあ」
ユメの前に突き出される、ホシノとヒトミの弾薬費の明細書。
それは偶然か奇跡か、2人の金額は一円の誤差もなく揃っていた。
もはや日課ともなったホシノとヒトミの喧嘩競争。
今日みたいに倒した敵の数や消費した弾薬費の金額、別の日にはテストの点数やどっちが早く学校についたなど、大きいことから小さいことまで競い合っていた。
その光景を、ユメは温かい目で見守っていた。
後輩に同い年の同級生ができたこと、不登校だった妹が学校に来てくれたこと、何より2人がどこか楽しそうにしているのが嬉しかった。
とは言え、ヒートアップし過ぎたら止めるのがユメの役目となった。
「ほら2人とも、もう喧嘩はおしまいだよ」
「ぐぬぬぬぬ!」
「ぐぎぎぎぎ!」
「それよりも、見てみて。これ!」
ユメは鞄から一枚の資料を取り出し、机の上に置いた。
睨み合っていた2人も、その目線を置かれた紙の方に向ける。
「?なんですかコレ」
「これはね、宝の地図だよ!」
「宝の地図?」
「そう!昔の生徒会がアビドスの大オアシスにすっごいものを埋めたの‼︎希少鉱物が入った花火らしくて、100gで100万円もするものだったの!」
「……それで?」
「元々はお祭りに使うものだったんだけどうまく動かなくて湖に捨てたんだって。でも、湖があったのってかなり昔の話でしょ?」
「話し方からして、湖は今はもうないの?」
「その通りヒトミちゃん!つまり花火は干からびたオアシス、その下に存在するってこと!そしてこの地図にその場所が示されてるの!」
話が終わり、生徒会室に静けさが続く。
2人の反応のなさにユメは目を丸くしてホシノとヒトミを交互に見る。
最初に口を開いたのはホシノだった。
「……ユメ先輩は、自分が今何を言っているのか分かってますか」
「え……その……」
ホシノのただならぬ雰囲気に、ユメはオロオロしだす。
そんな姉を見て、ヒトミは小さくため息を吐いた。
「あ〜。お姉ちゃん言いにくいんだけど「こうしてる場合じゃないですよ!今すぐ探しにいきますよ!」お前まじか」
食い気味にヒトミの言葉に被せるホシノの顔は、満面の笑みだった。
「私もそれを言いたかったの!お宝探しスタート!」
「うへへ、行きましょう2人とも!」
「……まあ、別にいいけど」
一目散に教室を飛び出す姉ともう1人を尻目に、ヒトミは最低限の手荷物を持って部屋を出る。
その口元は、自分も一緒に呼ばれたことに少し微笑んでいた。
ザクリザクリと、スコップで砂を掘る音が聞こえる。
「ホシノちゃん、あのね……」
「それ以上言わないでください!私も薄々感じてるんですから!」
「私は初めから感じてたけどねー」
「あなたは何のんびりとくつろいでいるんですか!少しは手伝ってください!」
「私はここからお姉ちゃんの水着姿とチビピンクの必死な姿を見るのに忙しいから」
ヒトミはパラソルで日を遮り、折りたたみ式のサマーベッドに寝転がりながら水筒で飲み物を飲んでいた。
「お姉ちゃん、飲み物いる?」
「あと、もう少し頑張ってから。ひぃぃん……」
「頑張りすぎるとバテて倒れちゃうよ。あ、アンタは自分で取りに来てね」
「ユメ先輩と私の扱いの差があからさま過ぎませんか、あなたは!」
宝探しを始めてから数時間。地図に示された場所を見つけた3人は持ってきたスコップで掘り始めたが、もし本当に希少鉱物を使った花火が埋まっていたとしても干からびた大オアシスは砂で埋もれているため、掘るには専用の重機が必要になる。
が、アビドスにそんなもの使う余裕はない。
スコップの2つ3つでどうこうなる規模ではなかった。
姉の案は大体こうなるんだろうなと察していたヒトミは早々に離脱し、あらかじめ持ってきていた道具で寛いでいた。
「もうちょっと、もうちょっと頑張って……!」
「頑張れ頑張れ〜。お宝はすぐそこだ〜」
「うるさい〜〜〜い‼︎」
静かな砂漠の上で、ホシノの大声が響いた。
「……私たち、どこで間違えちゃったんだろうね」
「先輩が変な計画持ち込んだからじゃないですかね」
「いや、アンタもノリノリで騒いでたでしょ」
「うぐっ……」
いくら掘っても掘ってもお宝は見つからず、先に2人の体力が限界に達した。
今はヒトミが持ってきたシートの上で、息を整えながら寝転んでいる。
「今思えば水着を着る必要もなかった気がするね……」
「お姉ちゃんのことだから、地下水が吹き出してくるかもって考えたんでしょ」
「な、なんでわかったの?」
「わかるわよ。妹だもん」
「いやそれ理由になってますか?ていうか、そんな低い確率のために水着になったんですか!」
「だってえ……それで砂漠化も解決してめでたしめでたし〜って……」
「そんなわけないでしょ!」
「可愛い発想するのがお姉ちゃんの魅力でもあるの。それにお陰でお姉ちゃんの水着姿が見れたんだし、よかったよかった」
「何もよくないです!あと全部わかってたみたいに語ってますけどあなただって水着じゃないですか!」
「……いや、だって1人だけ違う服だとなんか仲間はずれみたいで寂しいし」
「急にしおらしくならないでください!」
その後も3人は炎天下、砂漠の真上でワーギャーワーギャーと騒がしさが続き、日が沈みかけてようやく帰宅を始めた。
その帰路の道中、3人は砂に埋もれた廃駅に立ち寄っていた。
「やっぱり、何もないね」
「高価なものはとっくに前生徒会が売り払ってますよ。ないのは当たり前です」
せめて何か売れるものでもと立ち寄った廃駅。しかしそこには何もなく、あるのは価値もない物ばかりだった。
「?どうしたの、ヒトミちゃん」
「ん、いやこのマーク……」
「ああ、ネフティスの」
ヒトミが凝視していたもの。それはかつてアビドスが繁栄していた時代、共にその栄華を誇っていたセイント・ネフティスの企業マーク。
その印はボロボロで、ひどく霞んでいる。
「……アビドスの今の現状も、ネフティスがアビドスを捨てたことが原因ですよね」
「それは、しょうがないよ。当時会社も大変だったろうし」
「それでも原因の一つではあります。当時ネフティスが見捨てなかったら、もしかしたら」
「どうでもいいでしょ、そんなこと」
冷たい声が、ホシノの声を遮る。
「……どうでもいい、とは?」
「文字通りよ。過去に、どこの、だれがアビドスを捨てたのかどうでもいい。……こんな場所、捨てられて当然よ」
「捨てられて当然って、そんなことないよヒトミちゃん。アビドスは私たちの大切な場所だよ」
「その大切な場所は、お姉ちゃんを苦しめてる」
「ーーーえ?」
「だって、そうでしょ。お姉ちゃんがどれだけ頑張っても周りにいる大人は助けもしない、それどころか騙してくる。いくらお金を集めても利息を返すだけで精一杯。……あげくには、うんざりするほど鬱陶しい砂漠。普通なら誰だって見捨てる」
今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、何かに向かって言葉をぶつける。
その姿に、ホシノもユメも黙ってみてるしかなかった。
「でも、お姉ちゃんだけはどうにかしようと頑張ってた。なのにアビドスは、良くなるどころか悪くなるばかり……。お姉ちゃん、この際だからはっきり言っておくね」
「ーーー私は、アビドスが大っ嫌い」
似ている、と思った。
ユメ先輩に会う前の自分に。
周りにいる人たちが全て敵に思えて、変わらない現状に苛立って。
そして、優しい先輩が報われないのが悔しくって。
自分は彼女を前の自分と重ねていて同族嫌悪していたのかもしれない。
もしかしたら彼女も、梔子ヒトミもまたーーー
「そんな悲しいこと言わないで、ヒトミちゃん」
優しい声が聞こえた。
「お姉ちゃん……」
「ヒトミちゃんはやっぱり優しいね。……確かに苦しいことや辛いことは沢山あるけど、私は大丈夫だよ」
「でも……でもお姉ちゃんは!」
「私がアビドスを好きな1番の理由はね、ヒトミちゃんだよ」
「ーーーえ?」
「ヒトミちゃんとお話ししたり、ご飯食べたり、遊んだり。ヒトミちゃんと一緒に過ごした場所だから、私は大好きなの」
ユメが一歩ヒトミに近づき、その手を握る
「私ドジだけど、それを無くさないように必死で頑張ったの。そしたら……ホシノちゃんにも出会えた。その後は学校に来なかったヒトミちゃんが生徒会に入ってくれて、今日みたいに3人で宝探しにもいけた。……お宝は、無かったけどね」
残念そうに呟く。だがその声色は、とても楽しそうだった。
「ヒトミちゃん。私はね、報われないなんてこと一度も思ったことないよ。だって、こうして3人で一緒にいられる。それが私にとって1番の奇跡で、大切なことなの」
「……お姉ちゃん」
それでも、ヒトミはどこか納得しきれないでいた。
そんなヒトミに向けて、ユメは言葉を続けた。
「アビドスが大っ嫌いなら、これから好きになっていけばいいんだよ、私たち3人で一緒に。それにね、ヒトミちゃんはホシノちゃんと一緒にいる時、すっごく楽しそうだったよ」
「え?な、何言ってるのお姉ちゃん!」
「本当だよ?喧嘩してる時も競争してる時も、あんなに張り切ってるヒトミちゃん初めてみたもん」
「そんなこと……。ホラ、アンタもなんか言いなさいよ!」
黙っていたホシノに助け船を求めるヒトミ。
嫌っている相手とは言え、この場にいる第三者はホシノしかいないため致し方ない。
しかし。
「私は結構楽しかったですよ。今日の宝探し」
「ーーーえ」
「"ヒトミ"は楽しく無かったんですか?」
予想外の返答、そして急に名前で呼ばれたことに思考が追いつかず視界がキョロキョロしている。
「いや、その」
「どうなんですか、ヒトミ」
「ヒトミちゃん」
「〜〜〜っ!楽しかった、楽しかったわよ‼︎これでいい!」
根負けして、思っていたことを発露した。
その妹の姿に、姉は嬉しそうに笑顔になる。
「じゃあこれからも楽しい思い出を一緒に作ろう!いつかヒトミちゃんがアビドスが大好きって言えるくらい、たくさん」
「……言っておくけど、今日は楽しかったってだけで、別にアビドスが好きになったり、コイツと仲良くなったりしてないからね」
「うんうん、わかってる!」
「……まったくもう」
3人はそのまま、学校の方向へと歩いて帰っていく。
その足取りは一日中砂漠で騒いでいたというのに、悠々としていた。
「"ホシノ"」
「なんですか、"ヒトミ"」
「まあ、あれよ。……最初会った時酷いこと言ってごめん」
「……私も、挑発に乗ってしまった部分があるので、おあいこです」
「そう。……でもいつか、あの時の決着はつけるから」
「ご自由に。勝つのは私ですけど」
「いや私だから」
「いえ私が」
「…………」
「…………」
「……今日はもう疲れましたから、明日にしましょう」
「……そうね」
「2人とも、早く帰ろう!日が沈んじゃうよ!」
「「は〜〜〜い!」」