イフリートとの戦いから一週間。シズさんはあれからずっと眠り続けている。
…こうなることはわかってた、でも、どうにかする時間なんてなかったし、あの状態のままだったらシズさんは消えていた。それはシズさんの望みじゃないことも…
「シードさん」
この声は…
「エレンさん」
エレンさん達だ。
シズさんのこともあり村に留まっている三人は村のことを手伝ってくれている。
まぁ…お騒がせなところもあるけれど、本当にいい人達だ。
「シズさんのお見舞い行くんだけど一緒にどう?」
「それじゃあ一緒に行こっかな、私もそろそろ行こうと思ってたし」
ちなみにエレンさんとは結構親しくなった。
人間の町のことや魔法について色々教えてもらっているうちにいろんな話題に発展した。なかでもイングラシア王国にヨシダさんという菓子職人がいるらしいのだが、その人が作るお菓子に関しては熱中してしまい夜中まで話し込んでしまったほどだ。
いつか行ってみたい。
「シズさん、大丈夫かな…」
「心配いらねーって、リムルの旦那もついてんだろ」
リムルはずっとシズさんについてる。
同郷とはいえどうしてそこまで気にしてたのか不思議だったがカイジン曰く運命の人の一人なのだとか。
リムルってロマン求めるとこあるし、意識しちゃうのかもね。
カイジンがやたらと「一人」を強調してたけど…
「シードさんはどう思う?」
「え?あ、ごめん、考え事してた」
「シズさんのこと、大丈夫かなって」
…
「大丈夫だよ、リムルがついてるんだし」
「そうだよね…」
…ごめん、エレンさん。シズさんはもう…
「おや、シード様。御三方もお揃いで」
「リグルド」
リグルドは服を一式もっていた。シズさんの着替えかな。
「皆さんもお見舞いですかな?」
「えぇ、リグルドさんもっすか」
「はい、シズ殿の着替えをお持ちしたところです」
あ、着替え忘れてた。
「ごめん、リグルド。私が持ってこうと思ってたんだけど」
「いえいえ、お気になさらず」
リグルドはドアをノックし開ける。
「リムル様、失礼しま…」
固まっちゃった。
「リグルド?」
私は部屋を覗き込む。エレンさん達も気になったのか同じく覗き込んだ。
…そっか…
部屋には何も着ていない人の後ろ姿がある。
背中まで伸びる蒼銀の髪、背は低めだけどシズさんの姿と重なる。
「え…何⁉」
「裸の女の子⁉」
「え、誰⁉」
「え⁉」
エレンさんも驚いてる。
「リムル様、そのお姿は…」
シズさん…
「えええ⁉」
「この子が…」
「リムルの旦那⁉」
リムルに託したんだね…
人間に擬態したリムルの頬には一粒の涙が流れていた。
「そうか…シズさん、逝っちまったのか…」
カバルさんとギドさんの表情が暗くなる。エレンさんも涙ぐんでいる。
落ち着いたエレンさん達にリムルはすべて話した。
シズさんが逝ってしまったこと。
シズさんがリムルの中で眠ることを望んだことを…
「というかあんた…本当にリムルの旦那なんでやすか?」
「間違いないよ」
「シードさん」
「まだ数か月の付き合いだけど、私がリムルのことを見間違えるわけない」
これだけは断言できる。
「すいやせん、ただ、どうにもその…なーんかちっこいシズさんっぽいっつーか…」
まぁ、そりゃそうだよね。
「本当だよ、ホレ」
リムルはいつものスライムの姿に戻った。
「ふへー」
「見事なもんでやんすね」
カバルさんとギドさんはリムルをまじまじと見つめる。
「…シズさんを食べたの?」
今まで黙り込んでいたエレンさんが口を開く。
まだ涙ぐんでいた。
「イフリートを食べたみたいに」
エレンさん…
「…それが俺にできる、唯一の葬送だったからな。すまんなエレン、割り切れないかもしれないけど」
「ううん、でも、最後にお別れの挨拶くらいは言いたかったな」
強いな…
「シズさんは最後の旅でお前達と仲間になれて、楽しかったって言ってたよ。ちょっと危なっかしいとも言ってたけどな」
「あーね…」
エレンさんとギドさんがカバルさんの方を見る。
「おいコラなにこっち見てんだお前ら!」
「だってねぇ」
「お前だってこの前落とし穴にハマってたじゃねーか
「あ、あれは姉さんが急に押すからでやす!」
「ちょっとぉ、私のせいにしないでよぅ…あの時は突然蜘蛛が落ちてきて…」
言い争いがヒートアップしていく。
だけど、この三人はしんみりするよりこっちのほうがいいよね。
「あの時はシズさんが蜘蛛とってくれたのよねぇ」
「あれ以来シズさんが罠探し手伝ってくれやして…」
「ホレみろ!俺だけじゃないじゃん!」
…これから大丈夫かな…
「…さてと、そろそろお暇するかね」
あれからお茶を飲みつつ話していたが、帰るようで皆支度を始めた。
「帰るのか?」
「あぁ、ギルマスにこの森の調査結果と…シズさんのことも報告しなきゃならんからな」
ギルマス…ギルドマスターのことかな。
「ギルドがあるの?」
「おうよ、自由組合つってな、ほとんどの冒険者が所属してるんだ。もちろん、ここのことは悪いようには報告しないぜ」
「リムルさんとシードさんのこと、ギルマスに伝えとくね」
皆…ありがとう。
「お二方も何か困ったことがあれば頼るといいでやすよ」
「おう、そうさせてもらうよ、気をつけてな」
「よければ森の外まで送ろっか?」
「そこまで世話になるわけにゃいかねーよ。…あっと、最後にもう一つ」
なんだろ?
「なぁ旦那、もう一度人の姿になってもらえねぇかな」
「?別にいいけど」
リムルは人の姿になる。
本当にシズさんそっくり…
「「「シズさん!ありがとうございました‼」」」
皆…
「俺、あなたに心配されないようなリーダーになります!」
「あなたと冒険できたこと、生涯の宝にしやす!」
「ありがとう!」
エレンさんがリムルに抱き着いた。
「お姉ちゃんみたいって思ってました」
シズさん…
あなたの最後の旅仲間がこの三人で本当によかったね…
「ところでお前らの装備ボロッボロだな」
そう言えば何日も魔物に追われてたんだっけ。
そこで私達はカイジンの工房に向かった。
「おぉ!憧れのスケイルメイル!」
「すごい!軽い上に頑丈、それにめっちゃキレイ!」
「いいんでやすか⁉牙狼の毛皮まで使われて…あっしにはもったいない代物でやす!」
三人にカイジン達が作ったものを贈ることにした。
「餞別だよ、うちの職人の力作だ」
「紹介するね、こちらカイジン」
「力作っつてもまだ試作品だけどな」
「そしてガルム」
「着心地はどうだい?」
「え?カイジンってあの伝説の鍛冶師の?」
カイジンってそんなに凄かったんだ…
てことは…
「じゃあガルムってあのガルム師⁉」
だよね。
「うおーーー‼家宝にしますぅぅぅ‼」
「いい土産を渡せたな」
「うん」
三人は悲しみを吹き飛ばすように大はしゃぎをした後帰っていった。
本当にたくましい人たちだね。
その後私とリムルはシズさんと話したあの丘に来ていた。
石を積んで簡素だけど墓標のようなものを作った。
二人で手を合わせる。
「…じゃあ、シードは知ってたんだな」
「ごめんね、リムルにだけは伝えるべきだったよね」
「いいさ、シズさんがそれを望んでたんだからさ」
今回の一件、下手をすれば町に被害があったかもしれない、防げたのは結果論に過ぎない。
「そういえば、シズさんにお前が竜種だって伝えてたんだな」
「うん、勢いでね…」
「別に責めてるんじゃないさ、でも町の皆には伝えないのか?」
「そうだね、私が竜種だとしても皆の目が変わることはないってわかってるんだけど、世界への影響もあるから」
でも、やっぱり怖いかな…
「お前がそういうなら俺から言うことはないさ」
「ありがと」
「いいっていいって」
あ、そういえば…
「カイジンから聞いたけど、シズさんってリムルの運命の人の一人だったんでしょ?」
「そっ、そうだな!」
リムル?
なんでそんなに慌ててるんだろ。
「もう一人ってどんな人だったの?」
「い、いや~あんまよく見えなかったし、あの時は酒も入ってたから覚えてないな~」
「リムル?」
「あ、そういえばリグルドに呼ばれてるんだった、先に戻るから!」
リムルが早足で戻っていった。
どうしたんだろ?
sideリムル
カイジンめ、余計なことを…
言えるわけないだろ、あの時水晶玉に映ったのがシズさんと…
…シードだったなんて…
そういえば…
「悟さん、菜種さんのこと、ちゃんと見ててあげてね」
「菜種って…シードの?」
「うん、竜種、それも新たなものが誕生することの意味は悟さんが思ってるよりもずっと大きい。遠くない未来、彼女の意思を無視して必ず世界の中心に引きずり込まれる。良くも、悪くも…」
「世界の…中心」
「そして、彼女の闇は、とても深い」
「闇?」
「うん、彼女は薄々気づいてるんじゃないかな。あの闇…怒りなのかな?それは一度解き放たれたら、目につくすべてを滅ぼす類のものだと思う」
「すべてを滅ぼす」
「私は彼女に…菜種さんにそうなってほしくない」
「大丈夫さ、シードには俺や皆がついてる」
それにヴェルドラも。
「そうだね」
シード、お前は一人なんかじゃないからな。
sideヴェルシード
「やっぱりだ…」
最初の違和感は洞窟でアーマーサウルスを殺した時…
次に牙狼族と戦った時…
そして、シズさん…
嫌悪感がわかない、悲しめない、恐れを抱けない、怒れない。
いや、厳密にいえばほんの少しだけそんな感情も抱けるけど、それだけ。
いつからこうなったんだろう…