大鬼族の襲撃
エレンさん達が帰っていった後も町の建設は着々と進んでいった。
今は上下水管道の設置を優先させているので家はまだ仮設テントが多いが、本格的な家屋などもちらほら立ち始めている。リグルドの統率力の賜物だね。
ただ、500人もの住人が増えたため、さすがに一人ではまとめきれないと判断しリグルドをゴブリン・キングに昇格させ、その下にルグルド、レグルド、ログルド、リリナの四人をゴブリン・ロードに指名した。
そして…
「注文通りに打ってみたが、感触はどうだい?」
「うん、すごくなじむよ。ありがとうカイジン」
私はカイジンに頼んでいた短刀二振りを受け取りに来ていた。
前に使ってたのはこれが完成するまでの代わりだったが、今回は私に合わせて魔鋼から作られた一品だ。
「例のやつはほかの作業との平行になるから完成は当分先になる、すまねぇな」
「ううん、そもそも無理言ってるのはこっちだし、気長に待つよ」
まぁ、こちらも本命ではないけど。
イフリートとの戦いで砕けちゃったから副武装にするつもりだった短刀を無理言って急ピッチで仕上げてもらったんだよね。
「助かったよ、今日はリグル達の食料調達について行くことになってたから」
「森の調査だったか?」
「うん、最近、森の奥から魔獣が移動してきてるって報告があったから、念のため調べておこうと思ってね」
「そうかい、気を付けろよ、姫さん」
「うん、ありがと」
そう言えば、私を姫さんって呼ぶ理由、結局わからずじまいだったな…
「皆、お待たせ」
「いえ、お気になさらず」
私はカイジンの工房を出るとリグル達に合流した。皆もう準備は整ってるみたいだね。
「それでは、普段の巡回ルートを回ろうと思いますが、宜しいでしょうか?」
「うん、やることは樹木や獲物の状態を確認するだけだから」
実際にやるのは『学習者』だけど…
「オウガ、出てきて」
「承知」
オウガが私の影から出てくる。
皆テンペストウルフに乗って移動するため私もオウガに乗っての移動になる。
「今日はよろしく頼むぞ、リグル」
「こちらこそ」
オウガはリグルのお兄さんの仇だったこともあり、最初は不安だったけど、お互い真面目なこもあって、相性がいいみたい。
「よう、リグル!」
「リムル様!」
出発しようとしたところにランガに乗ったリムルがやって来た。
今日は人型なんだね。
「これから食料調達か?」
「はい」
「今日は宴会の予定だ、美味しそうな獲物を頼むよ」
なんだか嬉しそう。
「嬉しそうだけど、どうしたの?」
「この身体には味覚があるんだ!今日から俺も飯を食うんだよ!」
そっか、今まで味覚なんてなかったから。
「あれ、そういやなんでシードも一緒なんだ?」
「最近、森の奥から魔獣が移動してくることが多いから、調べておこうと思って」
「そういえばリグルドが言ってたような…」
リムル、それくらいは把握しておこ?
「まぁ、調べるって言っても、いつものルートを回る片手間に少し魔素を流すだけで済むんだけどね。それに、今回が初めてってわけでもないみたいだし」
「そうですね、一応警備体制は強化してありますので、ご安心を」
リムルは腑に落ちないのか、何か考え込んでいるようだ。
「ランガ、シード達に同行してくれ。もしもの時は皆を頼む」
「リムル、どこかに行くんじゃないの?」
「例の洞窟だから、問題ないさ」
あそこに行くのか。
「遠慮はいりません、我をお連れください、シード様」
ランガ、尻尾がブンブンと凄いよ。
それからリムルと別れた私達は普段と同じルートを回っていた。
『学習者』どう?
《解。範囲内の樹木に変化は見当たりません》
「いかがですか?シード様」
リグルが訪ねてくる。
やっぱり普段と違うのは不安があるんだろうね。
「うん、問題なさそう。やっぱり気候の変化で住みやすい環境に移ってきたんじゃないかな」
「そうでしたか、ならば安心ですね」
だといいんだけど、胸騒ぎがする。
この森で、とてつもない何かが起こっているような、そんな予感が…
《告。周辺から複数の妖気を感知。警戒してください》
「皆!周囲に警戒して‼」
私のが短刀を抜き言い放つと同時にリグル達が武器を構え辺りを見回す。
オウガやランガ達も唸り声をあげている。
「シード様、この妖気は…」
「強力な魔物が近くにいるみたい。できれば衝突は避けたいけど、それは相手の出方次第かな」
できればこのまま何事もなくやり過ごしたいけど…どう来る?
暫しの静寂の後、オウガとランガが同時に反応した。
「前方!来ます‼」
ランガの言葉と同時にオウガは二つの雷光弾を放つ。
刹那、紫の髪を持つ女性が走り出してきてその手に携える星球武器で雷光弾を打ち落とすと私に一直線で向かってきて武器を振り下ろした。
私は咄嗟に二振りの短刀を交差させて防ぎ、弾き飛ばす。
弾き飛ばした女性をよく見ると額から紫の一本角が伸びている。
「あれは…
オーガ?
《解。大鬼族は強靭な肉体を持つ人型種族で、魔物ランクはB相当です》
Bランク、なんでこんなところに…
私一人ならよかったけど、リグル達じゃ…
「皆、ここは退く…」
撤退の指示を出そうとしたが皆が次々と倒れていく。倒れなかったのはオウガとランガ、リグルにゴブタだけだった。
皆眠ってるだけみたいだけど、今のは…
《解。魔法によるものと推測》
魔法…複数の妖気があってこのタイミングでってことは…
「逃がさんぞ」
さらに五人のオーガが出て来た。
数が多い、二人か三人ならどうにかなるかと思ってたけど…
話し合いで解決できるかな?
「一つ聞きます、対話の意思はありますか?」
「対話だと?里を滅ぼしておきながらよくもそのような…」
赤髪のオーガの表情が険しくなっていく。
里?何のこと?
「あなた達、何か勘違いを「とぼけるな‼」」
「力を隠しているようだが巫女姫の目は誤魔化せん!奴らの仲間なのだろう‼」
だめだ、完全に頭に血が上ってる…
「同胞の無念、その億分の一でも貴様の首で贖ってもらうぞ」
赤髪のオーガが刀を抜くにつれほかのオーガも武器を抜いていく。
戦闘は避けられないか…
「ランガ、リムルを呼んで」
「直ちに」
『学習者』魔法を使ったのは誰かわかる?
《解。巫女姫と呼ばれた桃髪のオーガと推測》
「オウガ、桃髪のオーガをお願い」
「殺しますか?」
「だめよ、相手の目的が分からない以上、下手に害せばそれこそ収集がつかなくなる。最悪捕らえて無理やり交渉に持ち込むわ」
来ている鎧の返り血、そして皆を眠らせての無力化にとどめてる。
落ち着かせれば話し合いに応じてくれるはず。
「承知しました」
「リグルとゴブタは「行くっすよ!」ちょっ…ゴブタ⁉」
ゴブタが老いているオーガに向かっていく。
「こんなヨボヨボジジイならオイラ一人でも余裕っす!」
ゴブタが飛び上がり老いたオーガに棍棒を振り下ろす。
ダメ!そのオーガ、ゴブタの動きがしっかり見えてる!
老いたオーガは流れるように刀を抜くとゴブタに斬りかかる。
「…え?」
切っ先が眼前に迫りゴブタの腑抜けた声が不思議と響く。
私は間一髪で短刀を割り込ませてさえぎった。
「し、シード様…」
「ほう、ワシの剣に追いつくか」
この人…強い!
魔素の量や身体能力は間違いなく私が上、だけどそれすら補う技量がこの人にはある!
「リグルとゴブタの二人で一人にあたって!ランガは残りをお願い!」
「「はい!」っす!」
「承知しました!」
リグルとゴブタは最初に飛び出してきた紫髪を、ランガは黒髪と青髪のオーガと相対する。
オウガと桃髪は睨みあいとなっており、赤髪は俯瞰している。
ほかの戦況に気を取られていると、老いたオーガは瞬時に私に詰め寄り刀で斬りつけてきた。私は即座に短刀で防ぐ。
あっぶな!
「貴様の相手はワシであろう」
目にもとまらぬ速さで次々と斬撃を入れてくる。
私も何とか短刀で反らしていくが次第に一撃、また一撃と首や脇腹を掠めていく。
まずい、『学習者』のおかげで辛うじて対応できてるけど尋常じゃなく速い!
それにさっき首を掠めた一撃、物理攻撃無効がなかったらあの時点で死んでた。
…だったら!
さらに迫る斬撃を左手に持つ短刀で防ぐと相手を蹴り飛ばし、その隙に右手に持つ短刀に魔素を集約させた。
『学習者』技の範囲内に誰かいる?
《解。範囲内に生命体は存在しません》
すみませんお爺さん!後で治します!
「月牙天衝‼」
「‼」
右手に持つ短刀を振り下ろすと魔素の奔流が木々を薙ぎ払いながら直線状に飛んでいった。
「爺⁉」
ほかのオーガの表情が驚愕に染まった。
込める魔素は最小限に絞ったから死んではいないと思うけど…
「シード様後ろっす!」
ゴブタの声に後ろを振り返ると老いたオーガが無傷で私に斬りかかってきていた。
まずい!
刹那、私の頭上に複数の氷の塊が生成され撃ち出される。
老いたオーガは後方に飛び回避した。
…え?
《告。急を要する事態だったため、水氷大魔散弾の情報を出力しました》
なるほど、助かったよ。ありがと。
「…これはどういう状況なんだ?」
そこにシズさんの仮面をしたリムルが駆けつけた。