「20万、副戦士長が言ってた数と一致するな」
あの後頑なに土下座を止めない副戦士長さんをなんとかなだめ会議室に来てもらった。どうやら副戦士長さんはオークロードの存在を疑った首領の指示でガビルや部下と共にゴブリン村から協力者を募っていたそうだが、その道中にガビルさんは部下に煽てられ調子に乗ってしまったらしく、大騒ぎになったうえ周りが見えなくなった皆に置いて行かれてしまい、追いかけようとしたところで騒ぎが原因で付近に住んでいたジャイアントアントの怒りを買い交戦になったんだとか。
それで何とか撃退してやっと追いついたと思ったらガビルさんが私たち相手にやらかしまくった後だったらしい。
これを聞いた皆は憐みの視線を副戦士長さんに向けていた。
そして、偵察から戻ったソウエイからの報告で、オークの軍勢も確認が取れたということだ。
「俺達の里を襲撃したのは数千程度だったはずだぞ」
「あれは別動隊だったのだ。本隊は大河に沿って北上している。そして本隊と別動隊の動きから予想できる合流地点はこの町より東の湿地帯、つまりリザードマンの支配領域ということになります」
ひとまず私達の町が標的になってないことを喜ぶべき…いや、そもそもオーガの里は進路の妨げになっていなかったことを考えると安心できない。
「オークの目的ってなんなんだろう。副戦士長さんは心当たりってある?」
「いえ、オークに侵攻されるような心当たりはないです」
そうだよね、いくら覇権争いが始まってるとはいえそんな…それにそんな大規模の行動、何の後ろ盾もなしに…後ろ盾…
「リグルのお兄さんって誰に名付けてもらったの?」
「魔王軍の幹部、ゲルミュッド様に名付けてもらったんです」
「ある魔人が名をやろうと訪ねてきて、名は確か…」
「ゲルミュッドだ」
…まさか。
「…ゲルミュッド」
私の出した名に室内の者たちが一斉に私の方を向いた。
「シード殿!その名をどこで⁉」
副戦士長さんが驚きをあらわにする。
「その反応から察すると、ガビルさんに名を付けたのはゲルミュッドなんだね」
「はい、私もその時、ガビルと共にいたので」
「確か、ベニマル達の里にも来たんだよね?」
「はい、襲撃の少し前に名をやろうと言ってきたのですが、全員突っぱねて、滅んでしまえなどと悪態ついて…まさか‼」
これなら侵攻に無関係だったベニマル達の里が襲撃されたことに説明がつく。
「リグルのお兄さん、ガビルさん、ベニマル達の里。そこまで動いてるならオークにも訪ねていないわけがない。そして仮にオークロードがいたとしても、知性がそこまで高くないはずのオークがここまでの行動を起こすには後ろ盾がいる、そしてゲルミュッドは…」
「魔王軍の幹部…だったな」
リムルも気づいたんだね。
「そのゲルミュッドって奴が裏で糸を引いてるって見て間違いねぇな。ここまで繋がってて無関係はねぇだろ」
「問題はゲルミュッドの独断なのか魔王が動いてるのか、だね」
「下手したら魔王に喧嘩売るってことか…」
そこでソウエイが何かを気にしだした。
「どうした、ソウエイ?」
「偵察中の分身体に接触してきた者がいます。リムル様とシード様に取り次いでもらいたいとのこと、いかが致しましょう」
私達に?
「誰なの?」
「その…
ドライアド?
《解。ドライアドは森の最上位の存在であり、ジュラの大森林の管理者と呼ばれています》
オークに関してかな。
「お呼びしたまえ」
刹那。蔦が現れて一か所に集まり、一人の女性が現れた。
…リムル、もうちょっと考えて呼ぼう。
「突然の訪問相すみません、わたくしはドライアドのトレイニーと申します。どうぞお見知りおきください」
トレイニーさんの登場に皆動揺している。
「俺はリムル=テンペストです。初めましてトレイニーさん」
「シード=テンペストです。本日はどのようなご用件でおこしになられたのですか?」
「本日はお願いがあって罷り越しました」
トレイニーさんはにこやかな笑みを浮かべる。
「シード=テンペスト、リムル=テンペスト…魔物をすべる者達よ、貴方方にオークロードの討伐を依頼したいのです」
やっぱりそうか…
sideガビル
「…はっ⁉」
ガビルが飛び起きる。
そこには部下たちが心配し見つめていた。
「こ、ここは…」
「起きたかよっ⁉」
「わーん、ガビル様ー…」
そうだ、我輩はあのふざけた顔の男に…そうか、そういうことか!
「うぬ…すっかり騙されたわ」
「どういうこと?」
「簡単なことよ、我輩を制したあの者こそあの村の本当の主に違いない」
ガビルの言葉に部下達の脳裏にゴブタの顔が浮かんだ。
「あれが?」
「確かに、そうでなければガビル様が負けるはずなど…」
「汚い!騙してガビル様の油断を誘うなんて‼」
「まぁ落ち着け、弱者なりの知恵という奴だろう」
ヒートアップする部下をなだめた。
「さっすがガビル様、器の大きさ山の如し!」
「よッ次期頭領!」
「いやーカッコええなガビルはん」
…はん?
「聞いた通りえらい男前やないか」
「なにヤツ⁉」
部下達の中に妙な格好の男が混ざっていた。
「ワイはラプラスいう者です。ゲルミュッド様の使いであんたに警告をしに来たんや」
「おお、ゲルミュッド様の⁉わざわざご足労をおかけしたな、してゲルミュッド様の警告とは?」
「これがまたえらいことになっとるんですわ、今回のオークの軍勢…どうやら本当にオークロードが率いてるらしいでっせ」
オークロードという単語に部下達の間に驚愕が走る。
「リザードマンの現首領は出来たお人やけど、もうかなりのお歳やし、正直なとこ、お父上には荷が重いんとちゃいます?」
「ホントにあの伝説の魔物が?」
「オークロードなんてオレ御伽噺でしか知らねーよ」
「静まれぃ!」
部下たちは未だ動揺していたがガビルの一喝により我にかえった。
「伝説だか何だかしらんが他より僅かに優れているというだけだ…だがそう悠長なことも言ってられなくなった。オーク撃退ののちに首領の座を受け継いだのでは間に合わん!ラプラス殿、挨拶もそこそこだが我輩達は「ええって、ええって」」
「湿地帯に戻るんやろ?こっからじゃ数日はかかる、はよいった方がええで」
「うむ、かたじけない。行くぞ皆の者」
ガビル達は急いでリザードマンの領地に向かっていった。
「…せいぜい頑張りや、ガビルはん」
「そういえば、副戦士長いなくない?」
「ム?あ、ほんとだ」
途中、部下の言葉に副戦士長がいないことに気がついた。
「探しますか?」
「いや、このまま帰還する」
部下の言葉に否定で返した。
「でも、副戦士長もいたほうが…」
「あいつならばすぐに事態の把握もできよう、もしかすると、我輩達を勝利に導く何かを持って帰還するかもしれんな」
「そうなんですか?」
「そうだ、なにせあいつは、我輩が最も信頼する副官であり、幼馴染なのだからな」
sideヴェルシード
「シード殿、行かせてください」
「だめよ、何の策もなく死地に飛び込もうとする人を行かせるわけにはいかない」
トレイニーさんからオークロードの存在を知らされ、副戦士長さんが急いで帰還しようとしていたため私は扉の前に立ちいく手を阻んでいた。
副戦士長さんの表情には焦燥が見える。
「このままでは同胞が豚共に食い尽くされてしまいます!早く戻って知らせなければ!」
「知らせてどうするの?」
「戦います!我らが故郷を守らなければ‼」
周りが見えなくなっちゃってるな。
「ならハッキリ言います。あなたが行っても何も変わらない、それどころか、オークの餌が増えるだけよ」
「ッ!…貴様!」
副戦士長さんが私に飛び掛かろうとしてきた。
「シードさ…!」
ベニマル達が副戦士長さんを取り押さえようと動き出したが、私が抑えていた妖気を解き放ったことで周囲に重圧がかかったことで全員が硬直し、冷や汗を流した。
「この妖気に耐えられないようではオークロードを退けるなど到底不可能です。あなたがやるべきは無策で死地に飛び込むことではないでしょう?」
「あ…あぁ…」
膨大な妖気を前にしている副戦士長さんは腰を抜かしてしまう。
「正解は、ここにあるはずです」
「ここ…に?」
私は妖気を抑え、しゃがんで副戦士長さんに目線を合わせ優しく微笑んだ。
「ここには私がいる、そしてとっても強いスライムさんに、オークに雪辱を果たしたい鬼人達、そしてジュラの森の管理者。ここまで言えば分かるかな?」
副戦士長さんも気づいたようでハッとしたが、思いつめたように下を向いてしまった。
「そんなこと、できません。我々があなた達にどれだけの無礼を働いたと…」
「…あなたの故郷を思う気持ちよりもメンツが大事なの?」
「そうでは…」
私の言葉に副戦士長さんが反論しようとするが口籠ってしまう。
「…今のあなたと似た目をした人を見たことがあるんだ」
「え?」
そう、その目は…
「その人は家族を思うあまり、何が起きても自分で抱え込んでしまった」
この人は、私達に対しての申し訳なさと、戦いに巻き込みたくないって優しさを持ってる。
「でも、それが災いして、大変なことが起こってしまったの」
「シード…」
リムルは誰のことか分かったみたいだね。
「その時は家族に助けられたんだけど、あの後なんで何も言わなかったんだって心配されて、怒られてた」
そう、これは私の…後悔の記憶。
「だけど、それからしばらくして、取り返しのつかない悲劇が起こったの」
転生のきっかけ。
「その者は…どうなったのですか?」
「どうなったんだろうね?でも、あなたはまだ間に合う」
「!」
副戦士長さんも気づいたみたいだね。
「後悔しない選択をして。一人で抱え込まないで、それでもどうしようもなくなったら…」
私は副戦士長さんの右手を両手で包み込んで微笑む。
「私が、あなたを引き上げるから」
その言葉に、副戦士長さんの目からボロボロと涙が零れ落ちていく。
「助けて…ください…あなた達に無礼を働いたうえで…このような願いをするなど…どれだけ厚かましいことなのかは…承知の上です…許せぬというなら…私の首を撥ねてもらって…構いません…だから…我らが故郷を…ガビルを…助けて…」
副戦士長さんの嗚咽が一室に響く。
私は副戦士長さんを抱きしめると…
「リオ」
「…え?」
「あなたの名よ、そして、私は名を与えた相手を見殺しになんて、絶対しない」
「では…」
「行きましょう、リオ。あなたの故郷を、ガビルさんを助けに」
「シード…殿…」
私から多量の魔素が噴き出しリオを包み込んだ。数分すると魔素の渦が晴れ、そこには一見すると人間だが頭からは竜の角、背中から翼が生え、美しい顔立ちで、秘める魔素が何倍にも跳ね上がったリオの姿があった。
リオはシードから一歩離れると跪き頭を下げる。
「リオ、それが私の名。シード様、此度に受けた多大なる恩に報いるため、オーク撃退後より配下の末席として、生涯貴女様に仕えさせてください」
「…ええ、なら尚のこと、あなたに死なれるわけにはいかないわね」
「では!」
リオが嬉しそうに頭をあげた。
私はリオに手を差し伸べる。
「生きて戦い抜きなさい。その功績をもってあなたを配下の末席に加えます。絶対に生きて私の元の戻るように」
「貴女様から頂いたこの名にかけて!」
私の手をつかんだリオを引っ張り上げた。
「リムル、勝手に決めちゃってごめん。私は行くね」
「何言ってんだ?当然俺達も行くぞ。それに、俺だけじゃないみたいだしな」
リムルの言葉に私は周囲を見渡す。
皆…
「皆、勝手に決めちゃってごめん。でも、私はリザードマンを助けたい。力を貸して!」
「「「はい‼」」」
皆、ありがとう。