今生の名
『えぇ!じゃあ、あなたの前世ってあの龍川菜種さんだったんですか⁉』
『やっぱり知ってましたか~…そこそこ話題になってましたよね?』
『そこそこどころの騒ぎじゃありませんよ!あの「龍川グループ」のご令嬢が過去に襲われた男に出所後刺殺されたってことで連日大騒ぎだったんですよ‼』
あの後自己紹介という流れになり、私は今世ではまだ名前がないため前世の名前を教えた。私の前世の名前にスライムさん、三上悟さんと言うらしいが、私が死んだ後のことを知っていたことで反応したのだ。
…というより大ごとになっていたようだ。それにしてもやっぱり犯人あの人だったんだね。
『それで、犯人は捕まったんですか?』
『俺が死んだのが3ヶ月くらい前なんで現在はわかりませんが、少なくとも俺が死んだ日の段階では捕まってなかったみたいです。現場にあった包丁から出てきた指紋と、周辺の防犯カメラの映像からしてまず間違いないってことで指名手配されてたんですけど、最後にカメラに写ってたっきり半年以上情報がないみたいで、どこかで死んでるんじゃないかって説もあるくらいなんですよ…』
スライムさんが申し訳なさそうにしている。別にスライムさんが悪いわけじゃないんだけどね…
それにしても捕まってない、か…情報がないっていうのも気になるな…
『いつまで二人で話し込んでおる。我も混ぜよ』
『今、大事な話してるんで後にしてください』
『んなっ⁉』
お兄様がしょんぼりしてるが今はそんな余裕はない。それにもう一つ気になることがある。
『お父様ってどうしてたか分かりますか?』
『お父様っていうと…龍川グループ代表のことですか?』
『はい…この世界に転生してからもずっと気がかりで…』
お父様のことだ。
私はこの一年の間、お兄様がいたから寂しくはなかった。でもお父様はもう家族といえるのはもう、叔父様くらいしかいない…
『正直、分からないんです…あの事件の後から公の場に出なくなって、それから一週間ほどで代表の弟が新しい代表に就任したと発表があったんで…』
『そう…ですか…』
これだけで、何となくだが分かった…
あたりに暗い空気が立ち込める…
『妹よ。お前の父が今どのような状態になっておるかはおおよそ見当はついた。だからこそ、いつか会いに行くのだ。それは先ほど決めていたであろう?』
『お兄様…』
私を励まそうとしてくれているのだろう。私は本当にこの世界にきてから助けられっぱなしだなぁ…
『これぞできる兄のなせる御業…決まったな』
『ヴェルドラさん、心の声が念話でだだ漏れですよ…』
『…マジ?』
『マジです』
…ここぞというときに全部台無しにもされてきたが…
『と、とにかく!我ら竜種には時間などいくらでもあるのだから、何でも試して世界を超える術を見つけるのだな!クァーッハハハ‼』
(誤魔化した…)
(誤魔化したな…)
私とスライムさんの心の声が重なった。
『では、何でも試すためにもさっそく旅に出て、いろいろと探してみますね!』
私はお兄様をからかってみることにした。
まぁ、そろそろここで出来ることもなかったから時期だなとは思ってたんだけど、もうお兄様を放って行くのもいい気がする。
というより連れてったら絶対トラブル持ち込まれる気がする…
『ま、待つのだ妹よ!我の封印をどうにかしてくれるのではなかったのか‼』
お兄様が慌て始める。
私としては本当にこのまま旅に出てもいいんだけど、さてどうするか…
『さっきも封印されて、とか言ってましたけど、この光の膜みたいなのってやっぱり封印だったんですね』
スライムさんがお兄様を包み込んでいる膜みたいなものを突いている。
『そ、そうだな。この『無限牢獄』に囚われてもう300年になる。』
『『無限牢獄』?』
スライムさんが気になっているようだ。竜種を封じれるなら私も封印できるだろうし、もう少し聞いてみるか。
『うむ、我を封印した者が用いたスキルだ』
(よし、妹も興味を持ったようだな。このまま話を引き伸ばしてこの場に留めよう)
ヴェルドラの邪念にも気づかず二人は興味津々となっている。
『そもそも、どうして封印されたんですか?』
スライムさん…気になるのはわかるよ。けどできれば触れないでほしかった…
『よくぞ聞いてくれた!300年前のことだ、ちょっとうっかり街一つ灰にしちゃってな。』
ちょっとうっかりって時点で全然こりてないじゃん!
やっぱりお兄様は置いていこうかな…
『そんな我を討伐に来た者がいたのだ、ちょっぴり舐めていたのは間違いない。それでも途中からは本気を出したのだが…負けてしまったな!』
お兄様が胸を張って嬉しそうに言っている。なんでそんなに嬉しそうなんだろ…
『ヴェルドラさんってすごい強そうなのに、相手はそんなに強かったのですか?』
『あぁ、可憐な見た目に反して強かったよ。加護を受けた人間の勇者と呼ばれる存在でな、ユニークスキル『絶対切断』で我を圧倒!そして『無限牢獄』で、我を封印したのだ』
勇者か、今の私なんて一捻りなんだろうなぁ…絶対近づかないようにしよう。
…ってあれ?お兄様今確か…
『可憐って、戦闘中なのによくわかりましたね』
『う、うむ!我ほどの強者となると戦闘中でもそのくらいたやすいことよ!』
なぜかお兄様が慌てている。まさか…
『もしかして見とれて負けました?』
『ばっ、そんなわけなかろう!我は決して小柄でほっそりとした身体も、その白い肌も、一つにまとめた黒髪も、真紅で小さな唇も、何一つ見ておらんからな‼』
ガッツリ見てたんですね…
『とまぁ、そんなわけでここ300年封印されておるのだよ。妹が来てくれるまではもう、暇で暇で…』
『お兄様…』
お兄様がしょんぼりとしている。300年か…私じゃあそんな途方もないを一人で過ごすのは無理だ。置いていったほうがいいと思ってたんだけど、どうするのが正解なんだろ…
『…よし、じゃあ俺と友達にならないか?そこの妹さんも』
『え、私も?』
『なんだと!スライムの分際で、我ら竜種と友達だと⁉』
内心嬉しそうだけどプライドが邪魔してるなぁ…
じゃあ、お先に失礼して…
『お兄様は嫌みたいですが、私は大歓迎です!これからよろしくお願いいたします、スライムさん!』
『あぁ、よろしく!これからは友達なんだし敬語は不要だぞ!』
『分かった!じゃあそうするね!』
やった!今世初の友達!
『な、なにを抜け駆けしておる妹よ!仕方ない…我も友達になってやる。感謝せよ!』
『素直じゃないなぁ』
『本当に素直じゃないねぇ』
『『ねぇーー』』
『妹よ!スライムも!我をからかうでない‼』
本当に素直じゃない。
だけど、お兄様凄く嬉しそう。
『それじゃあ、封印をどうにかしないとな』
『そうだね、乗り掛かった舟だし、私も手伝うよ』
『お、お前たち!』
よほど嬉しいのだろう。お兄様が目をウルウルさせながら私たちを見つめている。
ただ、問題が一つ…
『でも、私がスキルで解析した時はわからずじまいだったんだよね…』
『そうだったのか?』
『うん。私、生まれたばかりでまだ力もそこまで備わっていないから…』
そう、この一年の間に『無限牢獄』の解析自体は行ったことがあった。
どれも空振りで終わっていたからどうしようかと悩んではいたのだ。
『俺のスキルでもこの封印を破るのは難しいみたいだな…』
『ふむ、妹の力がある程度発達すれば封印を破ることも可能であろうが、それでも100年はかかるであろうからな…』
『100年、ですか?』
『そうだ。お前はまだ幼く、何もかもが未熟だ。しかし、その秘める力は我を上回っているように見える。長い年月をかけ、力が完全に開花すれば、それこそ世界の頂に君臨することも可能であろう』
私ってそんなに凄かったんだ…
『凄いじゃないか!ところでヴェルドラ、封印の突破に一つ可能性が出てきたぞ!』
お兄様と話しているうちにスライムさんが封印突破の可能性にたどり着いたみたいだ。
『本当か⁉して、それは何なのだ⁉』
『俺の胃袋に入る気はないか?』
『『胃袋?』』
胃袋って、え?食べるってこと?
『あぁ、まず俺のスキル『捕食者』で『無限牢獄』ごとお前を捕食して胃袋に収納する。そしてもう一つのスキル『大賢者』で俺は外側から、お前には内側から解析してもらう。どうだ?』
なるほど。これなら常に解析できるから大幅な時間短縮ができるかも。
『…ククク…クハハハ……クァーーーッハハハハハハ‼面白い!お前に我のすべてを委ねよう!』
どうやらお兄様も乗り気のようだ。
…ってあれ?
『私は⁉私も手伝うって言ったよね⁉』
なんか私ナチュラルにはぶかれてない⁉
『…』
『スライムさん⁉ねぇ⁉』
『テヘペロ!』
テヘペロじゃないよ!可愛いけど!
『…まぁ、あれだ、お前には元の世界へ行く術を探さねばならんだろう。我はそこのスライムと封印を破る故、気にするな』
『はいぃ…』
それはそうだけど私もやる気満々だったのに…
『そう落ち込むでない。せっかくだ。お前達に名をやろう。お前達も、我らに共通の名を考えるのだ』
『『共通の名?』』
『うむ。我らは同格であると、魂に刻み込むのだ』
苗字みたいなものかな?
『う~ん…スライムさん、何かいい名前ないかな?』
『そうだなぁ…ヴェルドラって暴風竜っていうんだろ?だったら暴風…嵐…「テンペスト」なんてどうだ?』
テンペスト。すごくいい。スライムさんって名前考えるの上手なんだ。
『何いいぃぃぃ‼テンペストだとおぉぉぉぉぉぉぉ‼』
お兄様が興奮して咆哮をあげたことで風圧が私たちを襲う。
スライムさんも吹き飛ばされそうになってる。
『だ、ダメだった?』
『素晴らしい響きだああぁぁぁぁぁぁ‼今日から我はヴェルドラ=テンペストだああぁぁぁぁぁぁ‼』
気に入ったんだね。
でもいちいち興奮しないで、風圧凄いから。
『…そして、スライムには『リムル』、妹には『ヴェルシード』の名を与えよう!今日からリムル=テンペスト、ヴェルシード=テンペストをそれぞれ名乗るが良い‼』
瞬間、私の魂に『ヴェルシード=テンペスト』の名前が刻まれた。
ヴェルシード。シードは種を意味する。多分、前世の『菜種』からとってくれたんだ…
(お兄様、ありがとう)
『よし、じゃあヴェルドラ、さっさと無限牢獄から脱出して来いよ!』
『待ってますね。お兄様』
『任せておけ、リムル。それに妹よ。そう遠くないうちに相まみえようぞ!』
言葉を交わすとリムルはお兄様を『無限牢獄』ごと取り込んだ。
すべて包み込むと次第に小さくなっていき、元のサイズに戻った。
『なんだか、一気に静かになったな』
『そうだね』
私たちはお兄様がいなくなり静かになった空間で、暫し感傷に浸っていた。
その日、世界に激震が走った。
天災級モンスター暴風竜ヴェルドラの消滅を確認。
そして、ヴェルドラの気配が消えたことで、世界に現存する二体の竜種と一柱の魔王だけが気づくことが出来た。
新たなる竜種の誕生に