腹パン系ダンジョン配信者   作:恋狸

10 / 27
Mざめちゃったね……。
ユキヤきゅんは別にレギュラーメンバーにはなりません。たまに出てきます。


腹パンによって狂った者、狂わされた者。前世の遺産

 ──配信を切り忘れていた件について。

 

「ぐわぁぁぁぁあ!!! やっちまった!!!」

 

 ユキヤきゅんから逃げる際に、配信切り忘れてますよ〜! と掛け声を貰ったので、慌てて確認したら本当に切り忘れていた。

 どうやら俺はコメントを非表示にするボタンと、配信を終了するボタンを間違えて押していたっぽい。

 何たる凡ミス。配信者の風上にも置けぬ。

 

 ということは、つまりはユキヤとのやり取りや──アイツを腹パンしてナニカに目覚めさせてしまった一部始終を全世界に発信してしまったことになる。

 

 ……くっ、別に俺は悪くないはずなのに、何だかすっげぇ後ろめたい気持ちになる……!!

 ……まあ、これを機にダンジョンにいる俺に近づかないようにしてくれれば良いか……。

 

『またお会い()しにいきますね♡』

 

「ううっ」

 

 ブルッと身震いをする。嫌なヤツを思い出した。

 あの配信切り忘れから三日経ったが、ちなみにユキヤは無事に大炎上を果たした。

 

 最終的な結末はともかく、アイツが私怨で人を襲ったことには変わりないし、俺が腹パンで過剰防衛した事実も変わらないぜ!

 

「俺が男性配信者を誤解してたこともあるしな。俺にも責任の一端はある」

 

 そんなわけで、ダンジョン内のトラブルを担当する協会の人に減刑するようにさり気なく言ってはおいた。反省はしてほしいけど。

 

「……んー、チャンネルBANかつ、賠償金か」

 

 新しくチャンネルを作ることは禁止されていない。

 つまりは、かなり情状酌量があった模様である。

 

 殺人未遂にはならないのー? という疑問に関しては、ダンジョンの原則──基本的にダンジョン内での出来事は自己責任、という原則が関係している。 

 だとしても傷害事件は事件なので、恐らくBANと賠償金以外にも何かしらの制約だとか罰は食らってることだろう。

 

 男性に関して甘いこの世界特有の沙汰でもあり、俺が口添えしたのもあると思うけど。

 

「おお、もう新しいチャンネル作ったのか。なになに、謝罪とこれからの活動について、と」

 

 俺は少し気になって、『ユキヤの腹パン信奉ちゃんねる』というチャンネル名からは目を逸らして、動画を開いた。

 

『この度は私の暴走により多くの方々に迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ございません。視聴者を裏切るような行為に手を染めてしまったことは、到底許されるようなことではありません。──しかしッ! 甘い罰で許していただいた夢咲様に報いるためにも、私はこの新しいチャンネルで生まれ変わることを誓います……ッ!!』

 

 あの件に関して、俺はすでに許している。

 被害者本人が許しても、世間が許してくれるとは限らないが。

 

 ……うーん、案の定コメント欄は批判の嵐だが、俺はユキヤが即効でチャンネルを作ってくれてありがたいと思っている。

 反省は間違いなくしているし、変に重く捉えられても俺が困るのだ。

 

『そして反省の意思として、私はこれから一年間は、ダンジョン内で得た報酬は全て子ども支援団体に寄付し──中層での活動を行いたいと思います』

 

「え、マジでか」

 

 これには驚いた。

 確かにユキヤのあの足の速さと膂力を考えれば、中層で活動していける最低限のレベルはあるだろう。

 それでも、この世界の男性は安定思考に走りがちで、中層なんて危険しかない場所に足を踏み込むことはしない。

 

『かつて憧れたダンジョンのロマンを──僭越ながら……ボクも追いたくて』

 

「ユキヤ……」

 

 俺はいたく感度して目頭を押さえた。

 言葉が……行動が……これまでしてきたことがまるで報われたようで、きっかけ(腹パン)はさておき俺は嬉しかった。

 

 やれやれ、襲われた甲斐があったもんだぜ……的なことを思っていると、ふとユキヤの後ろから女性探索者が二人現れた。 

 確かいつも茶番劇をするためにパーティを組んでいた二人組だろう。……これから一緒に中層を攻略していきますよ、的なヤツか?

 

 すると──ユキヤが頬を染めながら満面の笑みで話す。

 

『最後に──もう一つの反省の意思として……いつもお世話になってるこの二人に腹パンをしてもらうことで──』

 

「きええええええぃ!!!」

 

 俺はスマホをぶん投げて布団の中に引きこもった。

 

 

☆☆☆

 

「行くか……! ダンジョン!」

 

 喉元過ぎれば熱さを忘れると言うが、俺の場合葉嫌なことがあっても三日挟めば大抵のことは笑って許せるようになる。

 ただし、ユキヤが腹パンにMざめた件に関しては俺の脳内処理が色々と追いつかずに、結局四日も配信をサボってしまった。

 

 現在時刻は夜の21時。

 大体の探索者がダンジョンから帰って来る頃合いであり、この時間からダンジョンに潜る酔狂な人物は俺くらいしかいない。

 受付嬢も最初は「え、この時間から……?」って顔をしていたが、俺が人を巻き込んで腹パンしてしまうことを明らかにしてから笑顔で送り届けてくれるようになった。

 ……その納得のされ方は色々と癪なんだけどよ。てか俺の配信見てんのね、君……。

 

 というわけでいつもの渋谷ダンジョンへ行くと──やけに多くの人がいた。

 

 ……え、こんなに探索者いたっけ……?

 

「夢咲さんだ……!」

「あれが伝説の腹パンマン……夢咲氷織……!」

「Oh、ジャパニーズ腹パンチニンジャFooooo!!!」

「ダンジョン内で近づきたくない男ランキング不動のナンバーワン……」

「腹パンされたい男ランキングナンバーワンでもある……」

 

 俺がダンジョンのゲート前に辿り着くと、ザワザワと騒がしくなり──変なこと言う奴らが溢れていた。

 

「俺しか該当しなさそうなエセランキング作ったの誰だコラァ!!」

 

 思わず全力でツッコむと、謎に拍手を送られた。なんでや!

 

「あ、夢咲様! お待ちしておりました」

「あ、はい、どーも。なんかやけに人多くないですか?」

  

 受付に行くと、いつもの受付嬢が笑顔で待ち受けていた。

 明らかに人の多い渋谷ダンジョンに疑問を抱いたので受付嬢に聞いてみると、彼女はぱぁと笑みを溢れさせて言った。

 

「夢咲様のお陰ですよ! あなたの配信を見て探索者になろうと決めた人が最近後を立たなくて!」

「へぇ〜、それは嬉しいですね」

「ええ、ですが……武器も買わずに拳で戦おうとしている人が多いので困りものなんですが……」

「ヘエー、ソレハコマリマスネー」

 

 俺のせいじゃないぞ。俺のせいじゃないからな!

 ……まあ、俺を見て探索者を志したってのは普通に嬉しいけど、当然命の危険もあるんだから軽率な行動しないようにネ……って俺が言っても説得力ねーけど……。

 

「夢咲様ならS()()()()()()()も夢ではないと思いますよ!」

「勿論、目指してますよ」

「Sランクになると異名が付きますからね。夢咲様なら……『腹パンマン』でしょうか!」

「それだけはやめてもろてェ!!」

 

 Sランク探索者とは。

 謂わば探索者の上澄みの中の上澄み。

 

 どのダンジョン関係なく、101階層まで辿り着いた者にしか贈られない称号のことで、特に目立った特典があるわけでは無いものの、探索者として絶大な信頼を得ることができる。

 本来探索者にランクシステムは無いからな。

 だからその分、Sランクとまで言わしめる上澄みの探索者がどれほど強いのか理解できるだろう。

 

 前世じゃ手に入れることができなかった夢の称号。

 

『撤退……するしかない……ッ! クソがァァァ!!!』

 

 苦い記憶が蘇る。

 100階層のフロアボスに成すすべもなく敗北し、悔しさと不甲斐なさに震えながら逃げ帰ることしかできなかった記憶が。

 

「──どうしました?」

「いえ、何でもないです」

 

 ぼぅっとしていた俺を心配する声が届く。 

 ええい、やめだやめだ。弱音ばっかり吐いたって強くなるわけでもあるまいし。

 下を向くより上を向いたほうが遥かに効率が良い。

 

「それじゃ、行ってきますね」

 

 そうしてダンジョンに入場するゲートに入ろうとしたその瞬間──ゲートの中から一人の女性が現れた。

 黒髪ポニーテールに、The探索者と言わんばかりの無骨な装備。スラリとしたスタイルに怜悧な表情から、冷たい美人……というイメージを感じる。

 しかし、腰に差している長剣からは異常なほどに澄み切った魔力と威圧感を感じ、ただものではないことは明らかだ。

 

 俺は、女性の顔を確認した瞬間──()()()()()()が蘇る。

 

「あ……きみは……」

「────ッ」

 

 ──走る走る全力で走る。

 ダンジョンの入場ゲートを抜け、15階層に辿り着いてもなお走って走って、現れた魔物を通り魔的に腹パンして走って走る。

 

「ハァ……ハァ……ハァッ……!」

 

 

 ──どうして()()()()にいる……ッッ!!!!

 あり得ない……あり得ない……いや、冷静に考えるとあり得ない話では確かに無い……!! 可能性はあったはずだ。

 ここは貞操逆転世界ではあるが、俺の知っている世界と非常に酷似している。……しているが、前世の知り合いと今まで会ったことが無かったから油断していた。

 

()()()()……ッ、どうしてここに……!」

 

 あの女性は──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かつ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ヤツだった。

 

「……くっ、多分あの世界のアイリスとは別人……本人だったら会って早々腹を差し出して来るからな……」

 

 だとしてもまさかアイリスがこの世界にもいるなんて思いもしなかった……くそぅ、油断が過ぎるぞ俺ェ!!

 渋谷ダンジョンの構造が変わってない=前世の世界と相似関係にあることくらい予測つくだろうがッッ!!

 

 ……幸い俺のことは知られてるような反応をしていたが、あくまでそれは俺が有名になったことの弊害。

 関わろうとしなければ関わることは無いだろう……。

 

 それに、この世界のアイリスはどうにもかなり強そうな探索者だったし……ん? てか待って??

 

 あの剣もどこか見覚えがあると思ったら──、

 

「──アレ、俺の元愛剣じゃねぇかよォォ!!!」

 

 なんて日だァ!!!!

 

 




ヒロイン登場の儀。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。