腹パン系ダンジョン配信者   作:恋狸

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くっ、19%を引いてしまったか……。


呪われたパッシブスキル

 ア イ ツ ら は 帰 っ た 。

 

 いや、語弊があるな。帰らせたというほうが正しい。

 いつ魔物が湧いてくるか分からないダンジョン内において、集団行動というものは非常に理に適ってる。

 人数が増えれば警戒する人員も投入できるし、怪我を負えば誰かが魔物の注意を引いて戦闘中に回復することもできる。

 

 その分得られる経験値が少なくなるのはパーティーを組む弊害ではあるのだが、安全に攻略するならそれくらいの弊害は弊害にならない。

 

 ──まあ、全部俺に関係ねぇんだけど。

 

 いつ魔物が湧いてくるか分からないダンジョン内において、俺はひたすらソロ活動を強制させられている。

 なんか勝手にスキルレベルが上がった《回避》。  

 スキルレベルが上がるにつれて害悪仕様になってしまった《即撃》。

 

 たとえば《回避》が敵対行動している者の悪意に反応して自動で回避をする……的な有能さを持ち合わせていれば、俺は何の悪意もなく「回避さんあざーす!」とニコニコ笑顔で天に感謝を告げている。

 

 しかし実際のところは、悪意関係なく俺に降りかかる火の粉を──回復魔法も支援魔法も味方の流れ弾も、何でもかんでも回避しやがる。

 

 おまけに回避したら敵味方関係なく腹パンするというイカれた性能を持っている。

 

 こんなヤツとパーティー組みたいって言ってくれる人がどこにいるだろうか。あ、ドMは除きます。

 

 そんなわけで、ユキヤと愉快な仲間たち御一行には感謝を告げて帰還してもらった。

 俺もすぐに帰るけど、もし途中で鉢合わせて流れ弾を回避してしまった時があまりに怖い。

 

 俺は男も女も関係なく人に腹パンする趣味はねぇんだ……。

 

 

「ほな、ドロップした魔道具を見ていきまひょか〜」

 

コメント

・いよいよか

・そこら中にドロップアイテムが転がってるせいでどれが魔道具か分からん

・申し訳ないけど混沌のゴーレム戦よりユキヤとアイリスが助けに来たところのほうが切り抜かれそう

・草

 

「切り抜き師の皆さん、後生ですから俺のカッコいいとこを切り抜いてください」

 

 俺は思いっきり土下座をかました。

 

コメント

・カッコいいところ台無しにするな

・これぞ恥の上塗りであるw

・お前が自ら切り抜き甲斐のある行動ばっかするから……

 

 切り抜き甲斐のある行動ってなんやねん。

 多少ネタに走ろうとするシーンはあるけど、基本的に俺は割と真面目にやってはいる。分からないかもしれないけど、普通にステステ歩いている時だって前世で培ってきた攻略技術をふんだんに使用しているのだ。

 

 ……いや、リスナーが理解してない時点であかんか。

 

 今度ダンジョンの歩き方講座でもしようかしら……。

 

「うわ〜、めちゃくちゃドロップアイテムあるな。やっぱり睡眠無意識腹パンのほうが効率良い気がするんだよなぁ」

 

コメント

・やっぱり言い出したぞコイツw

・睡 眠 学 習

・寝てる間に回避貫通しないかこっちはヒヤヒヤなんだぞ……

 

「スリルある方が面白いだろ? ストーンゴーレムだって一撃ダメージ食らったくらいじゃ死なんし。余裕とか舐めプとかじゃなくて、経験則的にな」

 

 ある程度探索者として活動していくと、引き際というものが理解できるようになる。

 単に魔物の強さを見抜けるようになるだけでなく、"大体これを食らったら死ぬな"ってラインが感覚的に分かるのだ。

 

 前も言ったけど戦闘中にステータスを見る暇なんて当たり前のように無い。

 ということは、自分のHPがどれほど減っているのか可視化することができないのだ。

 

 何とも不親切である。

 視界の端にHPバーとか用意しとけよな、とも思うけど、それはそれで戦闘の邪魔になるんだよな……。

 

 ちなみに今言ったことは大体ソロが前提の話だから、パーティーとなるとまた別だゾ!! ソロ万歳!! パッシブスキル死ね!!

 

コメント

・スリルありすぎ問題

・面白いのはまあ本当w

・見てるだけの人間としては刺激が無いと飽きるからねぇ

・死ななけりゃ何でもエンタメよ

 

「良いこと言うじゃねーの。死ななけりゃエンタメ。まさにその通りだな」

 

 その点、ネタに走って死んだら、それはただのバカとして後世の記録に残ってしまう弊害があるけどネ……。

 俺の場合、腹パンマン……散る……的な文言で『今年あったヤバい出来事3選』みたいなネタ系動画投稿者のエサとなる可能性が高い。

 

 いやだ……Tik◯okで無限に転載されるような扱いにはなりとうない……!!

 

「俺の葬式にはユキヤを呼ぶなよ」

 

コメント

・草

・地獄まで追いかけてきて腹パンしてください!って頼み込んできそう

 

「おい待て何で俺が地獄に落ちる前提なんだよ!!」

 

コメント

・無差別腹パン罪……?

・生物のお腹の治安を荒らした罰

・ストマックキラーに天国は似合わないぜ

 

「悪いけど俺は無機物も腹パンするぞ」

 

 なんの言い訳にもなってねーけど。

 つくづく思うけど君ら俺の扱い雑すぎねぇか? 仮にも俺って今一番脂乗ってる男性配信者だと思うんですけど──まあ、"男"で売ってないからこういう扱いなんだろうが。

 

 前世ではダンジョン配信者のことを『命を賭けたプロレス』なんて揶揄する発言が目立つこともあったが、結局のところスリルある命のやり取りを見せ物にして……それを楽しんでる時点でみんな同じ穴の狢なんですわ。

 

「毎回本題に辿り着かないな。とりあえずドロップアイテムを回収していくか……ストーンゴーレムのドロップは基本的に鉱石の類だったよな?」

  

 地面に散乱している鉱石を拾い集める俺。

 大体がクズ石ばかりだが、魔石とは別に稀に光輝く石が落ちている。

 

 これがダンジョンにしかない鉱石、魔鉱石だ。

 魔石と名前似てるしややこしいんだけども……。

 

 魔鉱石は──主に主婦層に爆受けした鉱石である。

 

 何とね、これで作る包丁の切れ味がすんごいのよ。

 マジでスッパスパ斬れる。硬い野菜とか筋のある肉とかめっちゃ斬れるのよ。いや、マジで革命的だと思うコレは。

 

「魔鉱石で作る包丁。ちょっとお高めだけどマジで良いよな。斬れ味凄すぎて一人暮らしの自炊モチベがすんげぇ高くなる」

 

コメント

・探索者くんさァ……

・革命起こしたの探索者の武器やろがい……

・いや確かにあの包丁マジですごいけどさw

・意味もなく大根千切りにしたあの頃が懐かしい

 

 なぜかリスナーは呆れているようだった。  

 いや、分かってるヨ? 今俺が使ってるお値打ち品の剣だって魔鉱石を加工して作られた物だし、これが世に出回ってから魔物の討伐が楽になったのは認める。

 

 

 でもなァ……!

 

「魔鉱石の特徴である自動再生……! 包丁がマジで便利なんだよなァ……!! 研がなくて良いの最高すぎる……!」

 

コメント

・いつになく熱入ってんなコイツ

・剣を語れ剣を

・仮にも剣術で天下取りたいヤツが言うセリフじゃねぇ

 

「剣を語る時は剣で語るから良いんだよ」

 

コメント

・あ、ハイ

・不覚にもちょっとカッコいいと思っちゃった

・実際それを体現してるから何も言えない……

・やるやん

・そのドヤ顔が無ければ最高だったw

 

 実際問題、前世で使ってた愛剣は魔道具だったし、これといって魔鉱石に愛着が無いというのが本音ではある。

 意外と高く買い取ってくれるから稼ぎが良い、という利点はあるけども。

 

「さてさて、これも魔鉱石……これはクズ石……んでもって魔鉱石……ん……これがドロップアイテムか」

 

 いそいそと落ち穂拾いならぬ落石拾いをすること5分。

 そろそろストーンゴーレムくんの再登場時間という時に、俺は恐らく混沌のゴーレムくんの遺品である魔道具を見つけることができた。

 

 ……あぁ……なんか紫色の巨人が笑顔でサムズアップしてる動画が脳内再生されているわ……。

 

コメント

・え、これって……

・マジもんのレアじゃん!!

・存在は聞いたことあるけど初めて見たわ

・特徴ピッタリだね

 

 俺はドロップアイテムである仄かに淡いオレンジ色の光を放つ球体を手に取る。少しでも衝撃を加えると今にも割れてしまいそうな程に心許ない球体だ。

 

 前世でもなかなかお目にかかることができない魔道具。

 

 その名は──、

 

巧手(こうしゅ)の宝珠……またの名をスキルオーブ」

 

 血を一滴垂らした後宝珠を叩き割ればスキルを入手することができるという魔道具であり、その希少性から売れば数十億は下らないとされている超絶レアアイテムである。

 この世界でもSランク探索者が持ち帰ったため、見た目の情報は出回っているが、普段は一切お目にかかることのできない魔道具の類だ。

 俺でも初めて見た。まさか今世で自分が手にするとは思っていなかったけども……。

 

コメント

・うおおおおお!!

・すげえええええ!!

・売れば一瞬で金持ちw

・さすがに使わんよなwww

・なんのスキルが出るのかは運らしいし

・これ買うのに数十億ってマジ?ガチャ代高すぎ

・普通のソシャゲより害悪仕様なんだよなぁ

 

 せやな。

 前世だとスキルオーブの初めての使用者が入手したスキルは《算術》らしい。これは、計算がしやすくなるというちょっと便利そうなスキルだが……お忘れではないだろうか。

 スキルはダンジョン内でしか使うことができない。

 日常生活に便利そうなスキルを入手できたとしても、それを日常生活で活かせないのならただのゴミスキルだ。

 

 しかも手に入れたのが数学者とかならまた話は変わるが、ただの探索者が《算術》スキルを手に入れたとしても、帰り道に「あー、この素材だったら……しめて810万1145円くらいか」的な暗算で使用する機会しかない。

 あれ……ちょっと便利だな……。

 結構頭のいい人が入手すれば戦闘でも活かせそうなような気はするが、そうでなかったら宝の持ち腐れなので結局アカン。

 

 普通に考えて売って装備を整えるのが先決だろう。

 高すぎる。数十億は高すぎる。

 

「無難に売って装備を整える。んでもってちょっとお高めの配信機材とか周辺環境を良くする」

 

コメント

・それが安牌よね

・お、画質さらに良くなるのかな

・いやー、でも夢咲にしては堅実か

・さすがにどれだけバカでも売るわw

 

 ……ふぅ、と俺はため息を吐く。

 そして、わざわざカメラ目線で人差し指を左右に振って舌を鳴らした。

 

「ちっちっち、お前ら俺のことなーんも分かっちゃいねーよな。俺がそんなクソおもんねぇことすると思うか? 数十億? なんのスキルを手に入れるか分かんない? だから安牌で売る? ──ふざけんじゃねーよ。死ななけりゃエンタメって言ったばかりだろ。借金してもエンタメになんだよ、ギリギリ」

 

コメント

・ならねーよ

・ギリギリすぎるだろw

・借金するな夢咲

 

「たとえ話じゃボケ! ……まあ、うん、借金はエンタメじゃないわ。金は返そうな」

 

 急に素になっちまった。

 前世で友人に金貸してそのまま戻ってこなかったこともあるしな……友人間で金を貸す時は手切れ金だと思ってるわ……。

 まあ、今はそんなことどうでもよくてだな。

 

コメント

・まさか……やるのか!?

・うっそだろおい

・さすがの夢咲でも……なあ?

 

「──バカ野郎俺はやるぞ!!」

 

 俺はガッ! と指の皮を齧って血を放出する。

 塗りたくるようにスキルオーブに血を付着させると、俺は思い切り上に振り被る。

 

コメント

・うおおおお!?

・え、マジ!?w

・夢咲ならやってくれると思ったよw

・いっけええええ!!!

 

「食らえスキルオーブ! できればアクティブスキルで──よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁあああすッッ!!!」

 

 ──パリンッ!!!

 

 かなり重めの破砕音とともに、スキルオーブは粉々に砕け散った。……今になって指先がちょびっとだけ痛いぜ。齧る時に勢いあまりすぎたんだぜ。

 ユキヤから予備で貰ったポーションを開けて、指先にちょびっとだけ染み込ませる。……あら不思議! 一瞬で傷が消えるじゃありませんか!!

 

コメント

・割ったァァァ!!

・本当にやりやがったよ

・ジャパニーズブチコワシ腹パンニンジャ!Fooo!!!

・金よりエンタメ取るとか最高かよ

 

 エンタメが金になるんだから両取りだぞ。

 身も蓋もないけど、目先の金に囚われてると絶対に足元すくわれるからな。長期的な運用をできる自信が無いなら、纏まった大金は持つべきでないと俺は思う。前世の苦い経験からな……ッ!

 

「さてさて。何を手に入れたかな!!」

 

 俺は少しばかりの希望を胸にステータスを開く。

 

「──GYAAAAA!!!!」

「あ、すみません。邪魔ッス。《即撃》」

 

 その瞬間リポップして攻撃してきたストーンゴーレムを、一瞬にして腹パンの刑に処す。今じゃねぇんだよな……。

 

コメント

・ストーンゴーレムくんんん!!

・意気揚々と再登場して一瞬で消される石……

・もう扱いがゴブリンのソレなんよ

・タイミングが……

・もうちょっと早くリポップしてれば優しく腹パンしてもらえたかもしれないのに

 

 さて、邪魔者はいなくなったので確認してみよう。

 

 

──

夢咲氷織 Lv.67

 

HP 596/643

MP 37/249

 

【固有スキル】

《即撃Ⅵ》《神速Ⅱ》

 

【エクストラスキル】

《反撃の心得》《心眼》

 

【通常スキル】

《剣術Ⅶ》《水魔法Ⅲ》《身体強化Ⅷ》

《状態異常耐性Ⅰ》《思考加速Ⅳ》《危機感知Ⅹ》《回避Ⅹ》

《体術Ⅱ》

───

 

「ふむ。《心眼》らしい。強そうだな」

 

コメント

・どことなく嫌な予感がするな……

・神なのか心なのか真なのか分からんけど

・敢えての新と予想

 

「心だぞ。コメント欄で大喜利はさせん」

 

 そんなことを呟きつつ、俺は意を決してスキルの説明を表示させる。

 えいっ。

 

────

心眼……見たくないモノから目を背け続けている者に贈られるスキル。

 

・心の眼で敵を捉える。(1/10の確率で戦闘中目を開けることができない)

・心眼状態中、全能力が15%UP

・???(剣術スキルがⅩで解放)

────

 

 

「パッシブスキルじゃねぇかこんちくしょう!!!!」

 

 

 

☆☆☆

Side ???

 

「はっはっは!!! 何こいつ面白っ!!」

「はしたないですよ、ブリジット」

 

 画面の前で涙を浮かべながら大笑いをする金髪ツインテールの少女に、黒髪のロングの女性が苦言を呈した。

 ブリジットと呼ばれた少女はケッ! と吐き捨てる。

 

「うるせぇよショタコン。お前にはしたなさが理解できるなら、今すぐその性癖を便所にでも放り捨てて来ることだな」

「あらあら。私は手を出すタイプのショタコンではないので大丈夫ですよ。眺めて鑑賞しておきたい派閥ですとも」

「そっちのほうが変態っぽいんだよ。それに、お前の言う鑑賞は、小さなガラス張りのショーケースに入れて自由の効かない姿を見ることだろ……おい、聞きながら興奮すんなよ気持ちワリィ……」

 

 ブリジットは自分より年齢も身長も上の女性に向かってドン引きした表情を見せた。

 この世界の基準で言えば、どちらかという黒髪の女性のほうが「まあ、珍しくはないね」で処理される側の変態である。むしろ、男に興味ありませんという面のブリジットのほうが糾弾される。おかしい。

 

「いやはや、それにしても、あれだけ男性配信者に興味が無かったブリジットが……珍しいものですね」

「ダンジョン配信してる男どもは探索者じゃなくてただの腑抜けだろ。あんな奴らに興味も劣情も抱くわけねーだろ。……夢咲氷織は良いぞォ……コイツはダンジョンをよく理解している。危険も、苦しさも……ロマンもな」

 

 ニヤリと笑ったブリジットに、黒髪の女性は「ふーん」と気のない返事をした。

 相変わらずショタにしか興味がないのか、この変態は……と呆れつつ、ブリジットは彼女を小馬鹿にするように発言した。

 

「おっと、そういえば最近お気に入りのショタが真面目にダンジョン攻略し始めたんだってな。いや〜、残念だったな、はっはっは!!」

「……どうやら喧嘩がしたいようですね」

 

 ドデカイ()()()を取り出して臨戦態勢を取る黒髪の女性に、ブリジットは苦笑する。

 

「さすがにフランスのSランクと日本のSランクが喧嘩したら国際問題になりかねねぇだろ。ってか日本にはお前みたいな変態しかいねーの? あたし、日本がダンジョンそのものに見えてくるわ……」

「同志たちがいっぱいいる、とだけ言っておきます」

「こっわ……」

 

 ブリジットは身震いして、日本への偏見を更に強めた。

 実はお忍びでこっそり日本に行こうとしていたブリジットだったが、今のを聞いて少し予定をずらすことに決めたのだった。

 

 

 

 




これにて一章終了でございます。
最後に出てきた人たちは一体誰なんでしょうね。いや……本当に誰? とりあえず二章の布石とでも言っておきますか。

この後少し番外編をして、二章に入りたいと思います。
直近で別の原稿があるので毎日投稿途切れる時もあると思いますが頑張って投稿します。


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