腹パン系ダンジョン配信者   作:恋狸

19 / 27
誤字報告でハンバーグをアンパンに直した9人のアニキたち……まだまだだぜ……(震え声)

↓こちらは本編です


夢咲氷織の自分探し

 俺に親はいない。

 いきなりゲロ重い話をして申し訳ないんだけど、別に慣れてるし今更感はあるので重く捉えてないで欲しい。

 ……誰に言い訳してたんだ、って話だけども。

 

「この世界でも俺は天涯孤独……だけど、今まで学校とかどうしてたんだろうな?」

 

 俺が一番危惧していることは、この世界で生まれ育った"俺"の知り合いが現れることである。

 めんどいから俺は前の世界のことを前世と評しているものの、実際のところ死んだ記憶は無いし、恐らく転移だと思う。

 もしくは──()()()()()

 

 この貞操逆転世界で生まれ育った夢咲氷織という存在と、男女比約1:1の世界で生まれ育った俺が入れ替わっている可能性。

 転移した時に家の中を捜索してみたが、学校の卒業アルバムだとかスマホの写真フォルダとか……主に"記録"を成すものすべてが一切合切消失していて見つからなかった。

 

 ……うーむ、何か作為的な意図がありそう。

 俺は神じゃねぇし考えても何も思いつきはしないけど、できるだけダンジョン以外の面倒事は避けて生きたいと思っている。

 生憎とダンジョン攻略に忙しい身だ。あまり脳のリソースを難しいこと考えて使いたくない。

 

「この世界の男性は主に家庭教師を雇っている……天涯孤独の身であっても、行政は男性を放っておかないはず」

 

 忘れがちだがここは男女比1:100。

 出生率も未だ減少中らしいし、男性が色んな意味で貴重なのは明白だ。

 月1で入ってくる男性補助金の額は、ダンジョン攻略をする上では心許ないものの、普通に生活をする分にはなんら支障が出ないほどにデカい。

 

 ……普通だったら男性の一人暮らしなんて許可が降りないはずなんだけどなぁ……。

 

「分からん……考えても分からん……」

 

 前世で俺のストーカーをしていたアイリスがこの世界に存在していることも含めて、色々と謎は多い。

 だったら俺の師匠がいてもおかしくは無いけど、生憎と筋骨隆々のガチムチマッチョの男性配信者なんて見てないし……。

 Sランクもみんな女性だ、って話だからな。

 

「いっちょ自分探しでもするか……」

 

 俺は生まれも育ちも東京出身。

 かつて俺が通っていた小学校などに行ってみれば何かヒントが眠っているかもしれない。

 

 そう思って俺は記憶を頼りに道を歩き始める。

 

「この公園で遊んだな〜。懐かしいぜ」

 

 ノスタルジックな情緒になりながらも道を歩き角を曲がる。

 そこに鎮座していたはずの小学校は──見る影もなく空き地になっていた。

 

「……何となくこうなる気はしてた」

 

 予想の範疇ではあった。

 ……入れ替わりの可能性と、もう一つあまり考えたくなかった可能性。

 

 それは──この世界では夢咲氷織という人物は存在しなかったのではないか、という推測。

 つまりは何らかの原因によって俺はこの世界に転移し、異物が入り込んだ辻褄を合わせるために最低限度の身分や場所を──神か世界そのものが整えたのではないか。

 

 それなら記録の類が消失していた辻褄が合う。

 

「まあ、逆にそっちの方がありがたいけどな」

 

 これで俺の知らない知り合いがポップしてくる可能性は減ったわけだ。これが正解かどうかは知らねーけど。

 ……前世の知り合いに会えない悲しさが無いかと言われればそんなことはないけど、この世界にはダンジョンがある。

 夢と希望が満ち溢れるダンジョンがある。

  

 ダンジョンさえあれば、俺のやるべきことは変わらない。

 

「うじうじ考えるのは俺らしくねぇ。ダンジョンに行こう」

 

 困った時にはダンジョンじゃッ!!

 

 

☆☆☆

 

「夢咲です。今日も元気に中層を攻略していこう」

 

コメント

・よっすよっす

・拳の調子はどう?平気?腹パンできる?

・なんかインタビューされてたけどアレってマジなやつ?

 

「インタビューを受けたのはマジ。でも変な推測的なのは憶測ってことを言っておくぜ。俺がいつでも腹パンのこと考えてると思ったら大間違いだぞ。特にリスナー」

 

コメント

・マスメディアくんさァ……マジかよ夢咲最低だな

・コイツいっつも捏造されてんな

・噂だけ一人歩きしてるけど、肝心の腹パンの認識だけは合ってるんだよな……

 

「俺の人柄をキメラにするのはやめろ」

  

 世間での俺の認識どないなってますのん? 

 この前地上波で俺の特集(無許可)がやってたの見たけど、大概根も葉もない噂をまとめたような感じだった。最早ツッコむ余力すら湧いてこないぜ!

 それを機に俺はテレビすら見るのをやめてしまったが、俺の配信を見にくれば全て解決することなので、新手の宣伝なんじゃねーかと思い始めている。

 

「やれやれ、有名人は辛いな」

 

コメント

・おう、黙って腹パンしとけ

・悪目立ちって知ってるぅ?

・お前じゃなくて腹パンが有名なんだよ

 

「分かってても言うなよそういうことォ! 毎回言ってるけどな! 腹パンじゃなくて俺を見ろ! ……かと言って剣を見ろって言ったら剣しか見ねぇし! アイム! 夢咲氷織!」

 

コメント

・ナイストゥーミーチュー

 

「やかましいわ!」

 

 クソ……ノリが良いのかおちょくってんのか微塵も分からないぜ……。でもこういうノリもちょっと良いなって思ってる俺も大概ヤバいかもしれねぇけどよぉ……!!

 調子に乗るから絶対言わんけど、イジラレながらリスナーとプロレス(レスバ)するのは全然嫌いじゃない。

 ある種それもエンタメだし、親しみやすい配信者と思われることに何のデメリットも無いからな。

 

「あー、それよりな。なんと俺、ついに装備を新調しました」

 

コメント

・マジじゃん

・右の拳しか見てなくて気づかんかった

・言われてみれば確かに

・あのそこら辺の適当服屋コーデから遂に……!

 

「今度は店員に選んでもらったから何も文句を言わせねーぞ」

 

 俺は自分の姿を見下ろす。

 獣系の魔物がドロップする上質な毛皮で作られたグレーのロングコートに、インナーは黒のタートルネック。

 パンツは深いネイビーのスリムフィット。動きやすさを重視して選んでもらった。

 靴はレザーのシューズで防水と耐衝撃に優れていて、簡単な罠であったらギリギリ耐えられるくらいの耐久性がある。

 

 しめて1145万円!! 高ぇ!!

 まあ、魔物のドロップ品を加工する技術は発達段階にあるし、実用性を追い求めて行けばこれくらいの値段に落ち着いたとも言える。

 ここでお洒落とか意識し出したら普通に億とか行くからな……。俺みたいな小市民にとっては1000万円のお買い物も肝が冷えるというのに……。

 

コメント

・おお、割とカッコいいじゃん

・いいんじゃない?

・防御力が上がって良かったね

 

「素直に褒められるとそれはそれで何か違うんだよな」

 

コメント

・なんだコイツ

・ワロタw

・最早欲しがってるじゃん

 

 違いますーーー。調子が出ないだけですーー。

 俺はドMでもドSでもない。ノーマルのNだ。

 周りにドMが多いせいで相対的にSに見える可能性は否定しきれないけど、俺の性癖に加虐趣味はありません。

 

「んでもって──じゃじゃーん。剣も新調しました」

 

 俺はシャランと剣を抜き放つ。

 特段装飾の類は一切ない実用性に優れたショートソードである。多分剣を変えたって言っても誰も気づかないほどに地味な剣だ。

 

コメント

・見ても分かんねぇ……

・本当に変えたの?w

・地味っすね……

 

「まあ、そう言うと思ったから説明します。……まずもってな? やったらめったら狭いとこが多いダンジョン内においてロングソードを選ぶヤツはバカとしか言いようがない。攻撃手段が別にあったりする場合は除くけど、ダンジョンで剣と言えばショートソード一択」

 

 洞窟型の階層でカンカン天井にぶつけて刃毀れしたくないだろ? 前世で俺はしっかりバカだったので何回もやった。

 剣を刃毀れさせるヤツはアホとかよく言うけど、俺はバカだったしアホだったよ。でも、そのお陰で今の俺がいる。

 

「んで、自動再生機能を有してる魔鉱石産の剣はマスト。まあ、基本的には魔鉱石と鉄を混ぜて作る廉価品がほとんどで、前の剣もその類だったんだけど……今回の剣は違います。──なんと! 純度100%魔鉱石で作られた剣!! 斬れ味も魔力の通りも何もかも違います!! そして、装飾に金をかけたら誰も買えなくなってしまうので、敢えてすべてをこそぎ落として作られた実用性フルマックスの剣!! 至極ッ! 俺好みッ!!」

 

コメント

・草

・テンション上がってるってのは伝わったw

・セールスかw

・でも……お高いんでしょう?

 

「はい。クソ高いです。8101万円です」

 

コメント

・たっか!?!?

・本当に高かった……

・誰も買わないジャ◯ネット夢咲……

 

 勿論俺の財布はすっからかんの素寒貧になった。

 当たり前だよなぁ? なんなら俺の収入を超過してるから分割払いなんだよなぁ!!

 

 歯止めが利かないとはまさにこのこと。

 契約書に名前を書いた時にはお手々死ぬほど震えたけど、装備で妥協し続ける人間は死を待つのみだからな。

 俺が防具を買わなかったのは単に金がなかっただけ。あるならそりゃ妥協せずに買うわ。命を守る生命線だし。

 

 同じように剣は探索者にとって商売道具。  

 稼ぎを意識するなら尚の事先行投資は必須。

 

 来月のクレカの明細書は速攻でゴミ箱に捨てるけどな!

 確定申告? 知るかボケ!! それは来年の俺に任せる!

 

「ということでね。早速試し切りをしたいんですよ」

 

 そんなことを言いながら、俺は転移ゲートで十階層に転移する。ここから自力で進まないといけないのが本当に不便である。

 

コメント

・お前に魔物が斬れるかな(物理的に)

・剣を使う=腹パンで仕留められないほどに強力な魔物だからな……

・試しパンチはいかがですか?

 

「まあ、とりあえず道中は無理だと思うからさっさと三十階層のフロアボスを目指すことにしよう。そこまで行けば転移ゲートが解放されるから楽だし」

 

コメント

・え、ここから二十階層も攻略すんの?

・泊まり確定か……

・コイツ、無防備な睡眠を攻略手段にしてやがる……

・多分本当に睡眠をありとあらゆる意味で効率良いと思ってそうw

・剣買う金で魔除けのテント買えよwww

 

「魔除けのテントってさ。魔物寄ってこないじゃん? 勿体なくね?」

 

コメント

・ねーよw

・安全を取れ安全を

・勿 体 な い

・エンタメに振り杉ィ!

 

 冗談だよ、冗談。

 ちゃんと一撃食らっても死なない階層で寝泊まりするから安心して欲しい。1%を引かない限りグッスリ寝れるんだから、リスナーもそこまで心配することないと思うんだけどな。

 

 ハイ……まあ、深層入ったらテント買います……。

 

「混沌のゴーレム倒したことでレベル爆増したし、余程のことが無いと傷負わんから平気」

 

コメント

・そういえばそっか

・かなり強かったし相当レベル高そう

・混沌のゴーレムくんが惜しいよ……

 

「なんかやけに人気だよなアイツ……」

  

 何だか憎めない仕草をしてたこともあって俺も嫌いではないんだけど、なんなら俺より人気じゃね? って疑問を抱くくらいには切り抜かれ率が高い混沌のゴーレムくんである。

 

 俺と一緒にマグマに沈む音MADとかあったしな。

 ゴーレムくんはしっかり指立てながら沈んでいくのに、なぜか俺だけマグマで溺れてるヤツな。ふざけんなよマジで。

 

「新たに手に入れたスキルの確認もしておきたいしな……」

 

 俺が手に入れたスキル《心眼》。

 当たり前のようにパッシブスキルである。

 

コメント

・パッシブスキルなのは叫びで分かったけど、結局どういうスキルなん?

・そういや詳細聞いてないままだったかw

・叫んで配信ぶつ切りにしてたからな……w

 

「1/10の確率で目が開けられなくなるんだってばよ。その間は全ての能力が15%UPらしいけど、デメリットが多すぎる……」

 

コメント

・また変なスキルをw

・ホンマに心の眼で草

・スキルに呪われすぎてて草

・夢咲が何したってんだよ!……腹パンか

・普段の行い(腹パン)のせいだね

 

 しかも厄介なことに、《心眼》は《反撃の心得》同様にエクストラスキルという括りに該当し、エクストラスキルはスキルレベルが存在しない。    

 つまりは、永劫にこのデメリットが付与されるということである。マジで俺が何をしたってんだよ。

 

「腹パンと《回避》とのシナジーは良いけど、視覚情報削られるだけでかなり酷いぞ……」

 

 腹パンが効かない相手と相対した時に、ご自慢の剣術が使いこなせなくなる可能性が高い。……いや、できるかできないかで言われれば()()()()()()()()()

 

 俺にはもう一つのスキルレベル十に到達したスキル《危機感知》がある。 

 まあこれは攻撃を正確に予見してくれるわけじゃなく、あくまでぼやっとした感覚的に危険が迫る時に教えてくれるだけなんだけど──攻撃のタイミングさえ分かれば俺の剣術は力を発揮してくれる。

 《抜剣》とかの技能はある種発動さえできれば自動攻撃だし。

 

 とはいえ視覚を閉じたまま戦闘ができるかは試してみないと分からない。

 

「よし……来いやゴミカスどもッ! ぶち殺したるわ!!」

 

 俺は意気揚々とダンジョンを駆け回り始めた。

 目指せ三十階層! 俺たちの戦いはこれからだぜ!

 

 

☆☆☆

 

「嘘やん」

 

コメント

・五十回戦っても発動しない模様

・確率に嫌われすぎてて草

・私知ってる。これ、発動して欲しくないタイミングで絶対発動するヤツだ

・確率に裏切られるのある意味配信者に向いてるんだよなw

 

 現在の階層は二十階層のフロアボスの扉の前。

 因縁の混沌のゴーレムくんと出会いを果たしたあの場所である。

 

 魔物とあまり出会わなかったのは運が良いのだけれど、《心眼》の検証がしたいのに一切発動しないのはどういうことですかね。

 ……フロアボスでデメリットスキルの検証とか嫌だぞ俺は!

 

 雑魚魔物で試したいのに……1/10とは何ぞや。

 

「まあ、これだけ戦っても発動しないならフロアボスでも発動しないだろ……」

 

 そう高を括って、俺は扉を開ける。

 目の前に現れるのは何度も見たストーンゴーレムくん──あっ。

 

「見えん」

 

コメント

・アッ……

・これは……

・タイミング悪すぎて草

・心眼来たァァァ!!

 

 ──パチリと強制的に瞼を閉ざされた。

 何も見えない。当然だ、目を開けることができないのだから。

 

 

 ──《心眼》が発動。

 このタイミングじゃなくても良いだろクソがッ!!

 

 

「GYAAA!!!!」

「うるせぇ! 黙ってろ!!」

「……GYA」

 

コメント

・本当に黙るなw

・ストーンゴーレムくん素直

・ゴーレム族ってなんでこんなにノリ良いんだ……W

・夢咲最低だぞ!

 

 当たり前だけどコメントが見えない。

 本当にこれで戦えるのか……? と不安に思いながらも集中を研ぎ澄ますと、不思議な感覚を覚えた。

 

 

「……ん? 分かるぞ……見えはしないけど……分かる」

 

 この部屋の構造。自分の感覚。

 そして魔物の敵意から、どこに何がいるのかを感覚的に理解することができた。

 

 こ、これは……うしろの天◯飯。右の手刀でオラを狙ってる的な感覚……。

 

コメント

・分かるのか夢咲!

・ゴーレムくんがいじけて地面にハの字を書いてる姿を!

・おっ、ゴーレムくんが我を取り戻したかのように動き出して……

・いけ!夢咲を倒せ!お前ならいける!

・頑張れゴーレムくん!!

 

 敵意が動き出した。距離は近い。

 直に詰めながら俺に拳を振るってくるだろう。

 

「GYAAA!!!」

「──ここだ」

 

 俺は敵意を読み取り、()()()()()使()()()()ストーンゴーレムの拳を避けた。

 そして、自動で発動するは必殺──

 

「──《即撃》ッ!!」

 

 ──ドガッッ!!

 

 硬い何かを穿つ感覚。

 破砕音が耳に届くと、同時に敵意は消え去り──俺の瞼がパチリと開かれた。

 

コメント

・ふざけんな夢咲!!

・ゴーレムくんを返せ!

・うわぁぁぁあ!!

・なんて酷い……

・夢咲のファン辞めます

 

「なんで??」

 

 そして俺はなぜか炎上した。

 

 




しばらくゴーレムは登場しません。
いよいよ二十階層を超える夢咲……そこで待ち受けるものとは!?

次回!
夢咲氷織!死す!

《心眼》を使ってどうしてもやりたいネタがあるんだよな……。

明日の投稿は別作業が忙しくて(たぶん)ないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。