腹パン系ダンジョン配信者   作:恋狸

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ギャグ配信者を卒業したい

「はい、即撃ィ! 即撃ィ! 即撃ィィィ!!!」

 

 ひらりひらりと蝶のように、襲いかかってくる魔物たちの攻撃を避ける──と同時に鮮やかな手並みで腹パンをかましていく。

 飛び散る肉片。汚れる手。穢れる俺の心。

 

 脳内で鳴り響くレベルアップのファンファーレすらも、今の俺にとっては天使のラッパではなく悪魔の嘲笑に聴こえる。

 

コメント

・ヌルゲーすぎてwww

・最初の啖呵は何処へ

・真面目なダンジョン探索かと思いきやギャグ

・ユニークスキルだと思うけど強すぎない?

・カウンター型のスキルか……威力バケモンだろw

 

 現在は4階層。

 階層が深くなるにつれ魔物の強さが上がっていくのは当たり前だが、《即撃》が強すぎてヌルゲーと化している。

 そもそも《即撃》の仕様が【攻撃力の◯倍のカウンターダメージを与える】ってもんだから、レベルアップしていけば当然強力になる。

 ……つまりは、しばらく先まで即撃無双が続くのである。

 

 いずれは攻撃力を下げるデバフ持ち魔物とか、物理攻撃大幅軽減とかの魔物が現れる以上、永遠に無双することは叶わない。

 というか一方的に無双し続ける配信なんて普通におもんないわ。

 

「俺が! やりたいのは! ワクワクする戦いなんだよ!! 《即撃》!」

 

 腹パンによって木っ端微塵になる犬型の魔物。

 

コメント

・言動と行動が一致してないぞ

・パッシブスキルで草

・なら魔物の攻撃受け止めればええやんw

 

 

 魔物の攻撃を受け止める…………?

 そうか! その方法があったか……!!

 

 今まで《即撃》に頼って来たから回避行動をするのが当たり前になっていた……! 《即撃》が効かない相手には別の手段取ってたしな……。

 ならば魔物の攻撃を自ら受け止めれば良い。なにせ世の中にはタンクという魔物の攻撃を受け止める役割があるのだ。

 4階層程度の魔物ならばダメージはそんなに食らわないし。

 

「さあ来い魔物よ! お前の攻撃を受け止めてやろう!」

 

コメント

・間に受けてて草

・何で自ら危ない橋渡るんだよw

・この男に石橋を叩く概念無し

・腹パンしたくないだけだろw

 

 丁度良く現れた犬型魔物……コボルト。

 二足歩行の獰猛な魔物で、手には斧を持っている。

 しかし、レベルが上がり《身体強化Ⅶ》を発動できるようになった俺ならば無傷で乗り切ることができる。

 

「グオオオオォォ!!」

 

 俺を見つけたコボルトが一直線に真っ直ぐ襲いかかる。

 牙を剥き出しにし、ヨダレを垂らしながら向かってくる魔物に恐れを抱かないかと言われればNO。

 だがしかし、ここで回避をすれば男が廃る。配信のために俺は……攻撃を受け止め────

 

 

 ──《危 険 を 察 知》

 

「あああァァァァァァ!!! 《即撃》ぃぃいい!!」

 

 腹 パ ン チ 。

 

 俺は爆散したコボルトを尻目に、血に染まった拳を見て静かに涙を流した。

 

コメント

・何しとんねんwww

・なんか今あり得ない動きで躱さなかった!?w

・ぐいーんって軟体動物みたいな動きしたな

・曲芸まで身に着けてるなんて流石はギャグ配信者やな!

・草

 

 

 ──忘れてた……!!

 これもまた厄介なパッシブスキルであり、《即撃》と非常にシナジーの合うスキル。

 

 

 《回避Ⅹ》の存在を。

 

────

《回避》……危険を察知し、自動的に回避行動を取る。スキルレベルが上がるにつれ、スキル発動率も上昇する。

────

 

 そしてレベルⅩの発動率は9()6()%()だ。

 くっそ過去の俺ェ……!! 自分の命を守るため&現状の自分に最適なスキルを取得していたことの弊害が出たか!

 いや弊害というか選択としては正しいはずなんだけどさ。

 

 どうしてこう裏目に出るんだ!

 強くてニューゲームは結構。でも、過去の自分の努力が足を引っ張るってそんなのアリですかぁ???

 

「……いや諦めるな。4()%()もチャンスはあるじゃないか」

 

 そう。《回避Ⅹ》の発動率は96%。

 すなわち4%は失敗(ファンブル)するということである。

 

 今までは自ら回避行動を取っていたために《回避Ⅹ》のスキルが発動しなかったが、これからは全て攻撃を受け止めるために動く。

 そうすればいずれは《回避Ⅹ》が失敗する。これに賭ける。

 

「みんな聞いてくれ。俺には《回避》ってスキルがあるんだ。これは危険を察知したら自動で回避しちまうスキルなんだが……確率で失敗することがある。つまりは攻撃を受け止めることができる可能性があるってことだ」

 

 俺は途轍もなく真剣な表情でカメラに向かう。

 そして、深呼吸をすると言い放つ。

 

「攻撃を受け止め、華麗な剣術を披露する。クソ長い耐久配信になるかもしれない。──それでも、付いてきてくれるか?」

 

コメント

・なんだろう……言ってることは真面目なのに馬鹿っぽく感じるのは私だけなのか

・明日が土曜日で良かったなァ!

・仕方ないから見てやるよ夢咲

 

「誰だ呼び捨てにしたヤツゥ!!」

 

コメント

・情緒

・草

・お前が言ったんだろwww

 

 そんなこんなで俺は、()()()()()のための耐久配信を開始した。

 

 

☆☆☆

 

「ああァァァ!! 《即撃》ィィ!」

 

コメント

・イナ◯ウアー腹パンチとは器用な真似を……

・毎回めっちゃ顔が嫌そうなのツボなんだけどwww

 

☆☆☆

 

「もう嫌ァァァ!!! 《即撃》ィィ!!」

 

 ちなみに技名を叫ぶのも仕様です。パッシブです。死ね。

 

コメント

・とんでもねぇ避け方したぞおい

・何回転してんだよw

 

☆☆☆

 

「ソクゲキ! ソクゲキ! ソクゲキ!」

 

コメント

・目が死んでらっしゃる

・こんな嫌そうに腹パンするやついねーよ

・魔物に腹パンするやつがそもそもいねーよw

 

☆☆☆

 

「《回避Ⅹ》の失敗確率っ? 4%ダヨ。《即撃》ィ!」

 

コメント

・コイツついに雑談しながらやりやがった

・成功確率96%の確定回避ってクソ高レベルのスキルじゃね……?

・マジでコイツ何者だよw

・実力は確かなのに腹パンのせいでギャグ臭が……

・だって今8階層だろ……?

 

☆☆☆

 

「いやだからキョーくんがリツコと付き合うのは無いと思うわ。だって幼なじみのルイくんはどした? ってなるやん。ポッと出のヒーローに取られるのってなんか釈然としねぇんだよなぁ。あっ、《即撃》」

 

コメント

・いやいやキョーくんはアホほどハイスペックなのにどこか抜けてるってのがいいじゃん

・正直幼なじみってだけでルイくんにあんま魅力ないからな

・ハァ?? ルイくんの胸に秘めた想いと葛藤で苦しむのが最高なんだが??

・幼なじみが舞台装置としてしか際立ってないんだよね

・お前今ダンジョン攻略中なんだよな……?

 

☆☆☆

 

 

 八 時 間 が 経 過 し た 。

 

 アレ? 4%ダヨネ?

 百回に四回は失敗するんでしょ?? かれこれ三百回は魔物と戦ってますケド? 体力的にも精神的にも結構限界なんですケド?

 

「ハァ……ハァ……」

 

 汗が滴る。頭が少しぼうっとする。

 レベルアップで体力全回復! なんて機能があれば良いんだが、そうは問屋が卸さない。

 HPも問題はないが、気力的なものが尽きそうだ。

 

 だけど俺にやめるつもりなんて毛頭ない。

 

コメント

・もう限界だろうし帰ろ??

・また後日やればええやんw

・どうしてそこまでやるん??

 

「──俺はギャグ配信者じゃねーし!!!!」

 

コメント

・いやそこかよw

・もう無理だよ

・人間ってファーストインプレッションが大事っていうし……うん、諦めよ?w

・それだけでここまで頑張ってるんかいw

 

 気がつけば同接は50万人を超えている。

 SNS上で拡散されたのだろうか。まあ、男でソロってだけで影響が出るのは当然だ。

 だけど驚きなのは、誰もが俺の試みを否定しないことだ。

 ……訂正する。一部アンチはいるものの、俺の想定以上に応援してくれる人がいた。

 やっぱり普通のダンジョン攻略が見たいやつもいんじゃん。

 

 まだ完全に腐っていない。

 ダンジョン配信はまだ舞えるんだよ……!!

 

 だからこそ証明してやる。

 諦めないことで生み出される結果ってやつをなぁ……!

 

 

「グバァァ!!」

 

 ──猪の頭を持つ魔物……オークが現れる。

 棍棒を持った強力な一撃が特徴の相手だ。

 どいつもこいつも低階層の魔物は一直線に攻撃をしてくる。

 

 まるで躱せと言っているようなほど愚直な攻撃だ。

 

 だからこそイメージしろ。あの棍棒を受け止める己の姿を。

 回避をしないイメージではない。受け止める己の防御姿勢を想像しろ……ッ!!

 

 剣を抜く。今までは剣を持っていても意味はなかった。

 結局回避して左手で腹パンをしていたから。

 

 相手は武器を持っている。

 だからこそ、剣で受け止める己を想像しやすい。

 

 

「グオオオオォォ!!」

「ハァァァアァ!!!」

 

 目を瞑らない。

 受け止めろ……受け止めろ……受け止めろッ!!!

 

 

 ──ガキンッ、と音がした。

 同時に剣に棍棒の重みと衝撃が伝わってくる。

 

 ──成功したっ!! 

 そして──俺は《剣術》と己の経験をもとに剣を振った。

 まるで撫でるように。

 

 

 傍目にはゆっくりとした動きにしか見えなかっただろう。

 だが剣を振り終えると、オークは瞬く間にバラバラになった。

 

コメント

・おおおおお!?!?!?

・マジか!! マジか!!

・ついにやったな!!

・剣おっそwwwwww って思った瞬間あり得んくらいバラバラになってたんだが????

・おまっ、本当に剣上手いんかい!w

・8888888

・88888888

・《アイリス》おめでとう

 

 

 そして俺はギャグ配信者を卒業──できなかった。

 

 

 

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