霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第1章: 灰色の目覚め
第1話: 異世界の目覚め


灰色の世界が広がっていた。

目を開けると、視界一面を覆うのは無限に続く灰の砂。空も地面も、すべてが無機質な色彩に染まり、生気を失ったかのように静まり返っている。冷たい風が砂粒を運び、乾燥した感触が肌に突き刺さる。喉が焼けつくように渇き、唇に触れるのはざらついた砂の味だけ。私は、灰に埋もれるようにして横たわっていた。

 

「あれ、ここは……?」

 

掠れた声が口をついて出る。自分の声が、自分のものではないように聞こえた。ぼんやりとした頭で記憶を辿ろうとする。最後の記憶――それは、現代日本での日常だった。机に向かい、退屈な資料に目を通していた。いつも通りの、単調な日々。だが次の瞬間には、この異様な世界に放り出されていた。

 

右手に視線を落とすと、自分の体に異変を感じた。細く白い指先――それは見慣れない少女の手。慌てて体を確認すると、スレンダーな体躯、浅い胸元、そして柔らかな声。どこかで見たことのある「典型的な中世ファンタジーの少女像」が目の前にあった。だが、それは紛れもなく自分だった。

 

「なんだ、これ……?」

 

呟く声は震えていた。混乱の中、体を起こそうとするが、乾ききった喉が抗議するように痛み、力が入らない。視界の端で砂が揺れ、人影が近づいてくるのが見えた。

 

 

---

 

「動かないで、そのまま。」

 

静かな声が耳に届く。その声には冷静さと優しさが混じり合っていた。かすんだ視界の中、白いローブを纏った人影が私の傍らにしゃがみ込む。風に揺れる緑色の髪が、金色の瞳を引き立てている。

 

「大丈夫、安心して。」

 

彼女は腰から革袋を取り出し、静かに私に差し出した。袋からこぼれる水の匂いに、喉の渇きが一層強まる。震える手で革袋を受け取り、少量の水を口に含む。冷たい液体が喉を潤し、生きている実感を与えてくれる。

 

「ありがとう……」

掠れた声で礼を言うと、彼女は穏やかな笑顔を見せた。それは、すべてを包み込むような温かさを持った笑顔だった。

 

 

---

 

「無理をしないで。」

 

彼女はそっと私の肩に手を置いた。その手は暖かく、冷え切った体と心をほぐしてくれるようだった。彼女の存在が、この過酷な世界での唯一の救いのように思えた。

 

「ここは灰の砂漠。この世界の中でも特に厳しい場所よ。何も知らないままだと、すぐに命を落とす。」

 

彼女の言葉は淡々としていたが、その中に憐れみのような感情が滲んでいるのを感じた。

 

「あなたは……誰……?」

 

「私はリリシア。この世界を彷徨う魔女よ。」

 

その言葉は、静かな中にも確かな力を感じさせた。魔女――どこか幻想的で、異質な響きを持つその言葉に私は息を飲んだ。

 

「魔女……?」

掠れた声で問い返すと、彼女は微笑みを浮かべた。その微笑みには哀しみと覚悟が混じっていた。

 

「そう。この世界の歪みに抗う者のことよ。咎の力を使いながら、その力に蝕まれる運命を受け入れている者。私たちは、この世界で生きるために代償を払い続けているの。」

 

 

---

 

遠くで風が唸り声を上げた。

灰色の砂粒が舞い上がり、視界を遮る。リリシアが振り返り、険しい表情を浮かべる。その動きには緊張感が漂っていた。

 

「まずは、ここを離れましょう。」

リリシアはそう言うと、私をしっかりと支え起こした。その力強さに、かろうじて自分がここに存在している実感を得ることができた。

 

 

---

 

歩きながら、リリシアは静かに話し始めた。

 

「あなたは何も知らない。でも、この世界では命を繋ぐために必要なものをすぐに理解することになるわ。」

 

彼女の声には暗い影が混じっていた。砂漠を吹き抜ける冷たい風の音と混ざり、言葉の一つ一つが心に響いてくる。

 

「この砂漠では、水と食料が全て。生き延びるためには、それを奪うことも差し出すことも必要になる。」

リリシアが小さな革袋を握りしめるその仕草には、過去の辛い経験が垣間見えた。

 

 

---

 

私はまだ何も分かっていなかった。

この世界の掟も、彼女の言葉の重みも。ただ、生き延びることしか頭になかった。

 

風がまた唸り、灰が渦を巻く。遠くの地平線には、どこまでも続く灰の砂漠。その先に何が待っているのか、私には分からなかった。ただ、この奇妙で神秘的な女性に手を引かれ、前に進むしかなかった。

 

運命の影が、私を飲み込むように揺らめいていた。

 

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