霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第10話: 灰の守護者

灼けつくような砂の匂いが、風に乗って私の鼻を刺した。

 

遠くに揺れる陽炎の向こう、砂漠と森が交じり合う不自然な境界が広がっている。この異様な景色を前にして、私は右手の疼きに集中しないよう努めていた。刻印がじんわりと熱を帯び、その感覚が私を侵食しようとする。視界の端で、リリシアが砂地を歩きながら周囲を警戒していた。

 

「咎狂が潜んでいてもおかしくないわね。」

リリシアの声は穏やかだが、その瞳の奥には深い不安が宿っている。

 

「でも、それでも進むしかない。」

コンヴァリアが短く返事をする。その右腕は黒い模様に覆われ、蔦のように蠢いているのが見える。異形化が進んだその腕を見るたび、私はどうしても視線を逸らしてしまう。

 

 

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不意に、砂塵が舞い上がった。

 

「来る……!」

リリシアが呟いた瞬間、私は刻印の痛みを無視して身構えた。空気が異様に重くなり、耳の奥に響く低い唸り声が近づいてくる。

 

砂塵の中から現れたのは、背中に骨のような突起を持つ咎狂だった。その瞳は真紅に燃え、腐臭のような空気を引き連れている。まるで地獄から這い出てきたかのようなその姿に、体が自然とこわばる。

 

 

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「二体いる……。」

 

コンヴァリアが低く呟く。その声には冷静さがあったが、背筋を這う緊張は明らかだった。咎狂は不規則な動きで私たちを囲むように迫ってくる。

 

「分散して各個撃破するわよ!」

リリシアが指示を出し、私は刻印の力を解放して防御の壁を作り出した。だが、咎狂の猛攻は予想を超えていて、砂が舞い上がり視界を奪われる。

 

「アリセア、下がって!」

リリシアが叫び、咎狂の注意を引こうと前に出た。その背中には、私たちを守ろうとする決意が滲んでいる。

 

 

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突然、鋭い金属音が響き渡った。

 

咎狂が動きを止め、その体を何かが貫いた。砂塵の中から現れたのは、黒い外套を纏った少女だった。短く整えられた黒髪が風に揺れ、黄金の瞳が不気味に光っている。その華奢な体からは想像もつかないほどの圧倒的な力を感じた。

 

「……邪魔だな。」

少女は冷たく言い放ち、槍を引き抜いた。その槍には刻印が刻まれており、禍々しい光を放っている。

 

 

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「誰……?」

 

私はか細い声で問いかけた。彼女は私たちを一瞥すると、冷たく答えた。

「セラヌス。覚えなくていい。」

 

その声には感情の欠片も感じられなかった。だが、彼女が持つ力は圧倒的だった。セラヌスは咎狂のもう一体に視線を向け、無駄のない動きで槍を構えた。

 

 

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コンヴァリアはすぐに状況を把握し、セラヌスに合わせて動き始めた。

 

「左は任せたわ。」

その言葉とともに、彼女は咎狂の右側に回り込む。コンヴァリアの動きはしなやかで、柔軟性と適応力を感じさせた。彼女の攻撃が咎狂の隙を作り、セラヌスがその隙を見逃さず槍を叩き込む。

 

咎狂が断末魔を上げて地に崩れ落ちると、砂漠に静寂が戻った。

 

 

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「助かったわ。」

リリシアが慎重に声をかける。その表情には警戒心が浮かんでいる。

 

「感謝はいらない。」

セラヌスは冷たく吐き捨てる。「自分のために動いただけだ。」

 

その冷徹な言葉に、コンヴァリアが少し眉をひそめた。

「じゃあ、何が目的なの?」

 

セラヌスは少し間を置き、遠くを見つめて答えた。

「目的なんてない。ただ、この世界を生き延びるだけだ。」

 

 

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会話が途切れ、一瞬の緊張が場を支配した。

 

「ともかく、助けてくれてありがとう。」

私は小さく頭を下げた。セラヌスは何も言わず、槍を肩に担いで背を向けた。

 

「次に会う時も邪魔をしないでくれ。」

そう言い残し、彼女は砂漠の向こうへと去っていった。

 

 

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砂塵が静まり、私たちは再び旅路を進み始めた。

 

「……何者なのかしら、あの人。」

リリシアが呟く。その声には警戒とわずかな興味が混ざっている。

 

「危険な人ね。でも、確かな実力を持っている。」

コンヴァリアが冷静に評価した。その横顔には、柔軟に状況を見極める彼女らしさが滲んでいた。

 

 

---

 

セラヌスの残した足跡が、砂漠に薄く刻まれている。

 

私はその足跡を眺めながら、彼女との再会がどうなるのかを考えずにはいられなかった。

 

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