森の中に足を踏み入れた瞬間、肌に触れる空気が明らかに変わった。湿り気を帯びた冷たい風が私たちを包み込む。木々の枝葉が互いに絡まり合い、空を覆い隠しているせいで、昼間だというのにほとんど陽の光が差し込んでこない。視界は薄暗く、足元には枯葉と苔が敷き詰められていた。森独特の湿った木の匂いが漂い、鼻腔をくすぐる。
「ここは……他の場所とは違うわね。」
コンヴァリアが呟いた。彼女の緑色の瞳は鋭く、森全体を警戒するように見渡している。右腕に絡みついた蔦が微かに震え、周囲の空気を探るように動いていた。
「気味が悪い森だ。見ろよ、あの木……。」
セラヌスが低く呟き、槍を軽く肩に担ぎながら木々の幹を指さした。幹には、まるで無数の目が浮かび上がったような模様が刻まれている。それらは光を反射し、こちらを監視しているように見えた。
「咎だけじゃない……何か別の力を感じる。」
リリシアが眉をひそめながら静かに語る。その声には緊張感と警戒心が含まれている。彼女の杖の先が微かに光を放ち、森の暗闇をわずかに照らしていた。
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森の奥へ進むたびに、空気はますます重たくなり、冷たさが骨まで染み渡るようだった。耳を澄ませば、かすかな振動音が足元から伝わる。それはまるで何か巨大なものが、地面の下でうごめいているようだった。
「待って……。」
コンヴァリアが急に立ち止まり、蔦がぎゅっと収縮する。
「何かいるのか?」
セラヌスが槍を構えながら周囲を見回す。黄金色の瞳が鋭く光り、戦闘の準備が整っているのが分かる。
「来るわ。」
コンヴァリアが短く答えると、地面が大きく揺れた。遠くの木々が倒れる音が響き、重々しい足音が近づいてくる。
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茂みの向こうから現れたのは、異形の巨体だった。全身が黒曜石のように硬そうな岩で覆われ、ところどころに青白い光を放つ紋様が刻まれている。その姿は人間に似ているが、身の丈は15メートル以上。まるで神話の中に出てくる守護者のようだった。
「虚無の巨像……。」
フローリアが小さく呟く。その声には恐れが含まれていた。
巨像の目が青白く輝き、私たちを見下ろした。その視線は感情を伴わない冷たさを帯びており、次の瞬間、低く響く声が頭の中に直接響いてきた。
「咎霊器の影響を受けた者よ。この地に近づくな。」
その言葉が終わるや否や、巨像は両手を持ち上げた。掌には円形の模様が刻まれており、そこから眩しい光が迸る。
「避けて!」
リリシアが叫び、杖を掲げて光の壁を展開した。その盾が放たれた光を防いだものの、強烈な衝撃が周囲を吹き飛ばした。
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「俺が行く!」
セラヌスが巨像の足元に駆け寄り、槍を突き出した。その刃が岩の表面に触れると、雷のような閃光が走った。しかし、巨像の体にはほとんど傷がつかない。
「固すぎる……!」
セラヌスが歯を食いしばる。
「私が抑えるわ。」
コンヴァリアが左腕の蔦を伸ばし、巨像の足を絡め取った。その蔦は幾重にも巻き付いて締め付けたが、巨像はその場に止まることなく、一歩を踏み出しただけで蔦を引きちぎった。
「くっ……!」
コンヴァリアは後退し、右腕を押さえながら立ち上がる。その蔦が微かに暴走しかけているのが見えた。
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「私が支える!」
リリシアがもう一度光の盾を展開し、巨像の次の攻撃を受け止めた。しかし、巨像の力は圧倒的で、盾にはひびが広がる。
「これ以上持たない!」
リリシアの声が震える中、私は右手の刻印を見つめた。その脈動は激しく、体の内側から何かが押し出されるような感覚があった。
「アリセア、やめて……!」
リリシアの声が悲痛に響くが、私は霊契の印を解放し、紫の炎を放った。その炎が巨像の片腕を包み込み、岩の一部が崩れ落ちる。
「やれる……!」私は自分に言い聞かせながら力をさらに解放した。しかし、その代償として右腕が黒く変色し、体中を激しい痛みが駆け抜けた。
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私の攻撃が巨像を押し返している間に、セラヌスがもう一度槍を構えた。雷を纏った刃が巨像の胸部に突き刺さり、青白い光を発していた紋様が割れる。
巨像は崩れるようにその場に倒れた。地面が揺れ、静寂が戻ると、私たちはその場に立ち尽くした。
「倒した……のか?」
セラヌスが槍を下ろしながら呟く。
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虚無の巨像が消えた跡には咎霊器も見当たらなかった。ただ、その場所には異様な静けさだけが残されていた。