森の空気は湿り気を帯びて重たく、足元に広がる葉と土の感触がわずかに私を落ち着かせる。それでも、胸の奥には霧のような不安が広がっていた。この不安は一体どこから来るのだろう。答えを探そうとしても、頭の中は白く染まるばかりだ。
「……また、何かを忘れてしまった。」
その呟きが誰にも聞こえないように、小さく息を吐いた。記憶の断片が次第に削られていく感覚。どれだけ努力しても、何か大事なものが手のひらから滑り落ちるような無力感。それが今の私のすべてだった。
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「フローリア、大丈夫?」
リリシアの穏やかな声が響き、私の思考を断ち切った。振り返ると、彼女の柔らかな表情が目に入る。まるで霧の中に差し込む光のように優しい眼差しだった。
「ええ、大丈夫。ただの考え事よ。」
そう言いながらも、彼女の目が私の奥底を見透かしているように感じた。だが、私はその視線に気づかないふりをする。自分が弱さを抱えているなんて、彼女たちには知られたくない。
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アリセアが前方で立ち止まり、何かを感じ取るように深く息を吸い込んでいた。その右手には刻印が淡く光り、その輝きが森の薄暗がりを照らしていた。
「また疼いているの?」
私が問いかけると、アリセアは短く頷いた。彼女の目には迷いがなく、それが私には恐ろしくもあり、羨ましくもあった。どうして彼女はこんなにも純粋なままでいられるのだろう。その無垢さが私には危ういものに見えて仕方がなかった。
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「何かいる。」
コンヴァリアが低い声で囁き、視線を遠くに向ける。耳を澄ますと、森の奥から低いうなり声が響いてきた。それは間違いなく咎狂の気配だった。
「またか……!」セラヌスが苛立ったように槍を構え、前に進み出た。
「みんな、準備を。」リリシアが声を上げ、静かに咎霊器を構える。その光が森の闇を切り裂き、彼女の存在を一層際立たせる。
私は慌てて鏡を取り出し、光の反射で敵の位置を探ろうとした。その手が微かに震えていることに気づき、深呼吸で落ち着こうとする。
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咎狂が現れた。それはねじれた骨と不気味に膨らんだ肉を持つ異形で、その体からは黒い瘴気が漂っている。その姿を見ただけで背筋に寒気が走った。
「来いよ、化け物が!」セラヌスが槍を突き出し、挑発するように叫ぶ。その声が咎狂を刺激したのか、猛スピードで突進してきた。
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戦闘が始まった。セラヌスの槍が敵の動きを封じ、コンヴァリアの蔦がその足を絡め取る。リリシアの光の結界が仲間を守り、私は鏡の反射で敵の視界を混乱させようとした。
だが、アリセアの右手の光が異常に強まり始めた。その刻印が赤く脈動し、彼女の体全体を震わせる。
「アリセア、何をしているの!?」
リリシアが叫ぶが、アリセアは反応しない。霊契の印が暴走を始め、紫色の炎が咎狂を包み込んだ。だがその炎は次第に広がり、私たちにも危険を及ぼす勢いだった。
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「止めて!このままじゃ、あなたも……!」
リリシアがアリセアの肩を掴み、必死に呼びかける。その声が彼女に届いたのか、刻印の光が徐々に収まり始めた。
戦いが終わった時、アリセアは地面に崩れ落ちた。彼女の顔は蒼白で、その瞳はどこか虚ろだった。
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「無理をしすぎよ、アリセア。」
リリシアが彼女のそばに膝をつき、そっと肩に手を置いた。その姿は傷ついた子供を慰める母親そのものだった。私はその光景に言葉を失った。
アリセアの純粋さが、彼女自身を破壊するものになるのではないか。その予感が、私を一層不安にさせた。