森の中は、昼だというのに薄暗かった。木々の枝葉が空を覆い、陽光はまばらに地面へと降り注いでいる。その光景はどこか息苦しく、私の胸に漠然とした不安を抱かせた。足元の湿った土が重く感じられるのは、湿気のせいだけではないだろう。
「ここは、広場のような場所ですね。」
フローリアが言いながら、足を止めた。その視線の先には木々が途切れた空間が広がっていた。地面は苔に覆われ、遠くには崩れた石造りの柱が見える。かつてここが何らかの集落だったのだろうか。
「広場ならば咎狂も襲いやすいかもしれないな。」
セラヌスが槍を片手に警戒しながら呟く。彼女の金色の瞳が辺りを鋭く見回している。
リリシアが静かにうなずき、周囲を見渡した。「警戒を怠らないで。ここには咎の気配があるわ。」
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「大丈夫?」
コンヴァリアの顔には、疲れと不安がにじんでいた。彼女の右腕は異形化した蔦の模様に覆われ、それがじっと蠢くように見える。彼女がそれを隠そうとしているのは明らかだった。
「ええ、なんとか。」
彼女はかすれた声で答えたが、瞳の奥には揺れる恐怖があった。その恐怖は、私にも覚えがあるものだ。私自身も刻印を通じて異形化の兆候を抱えているから。
「もし何かあったら、私がいるから。」
私はできる限り柔らかい声で言った。それでも、彼女の緊張は解けない。蔦が少しずつ動き始めているのを、私の目は見逃さなかった。
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突然、遠くから不気味な唸り声が聞こえた。咎狂だ。瞬時に空気が張り詰める。
「来るぞ!」
セラヌスが叫び、槍を構える。その姿には迷いはないが、こちらを守るというより、ただ本能的に戦いに挑む獣のように見える。
咎狂が姿を現す。巨大な体躯、歪んだ四肢、牙のような爪。その全身から漂う咎の気配が、私たちを押し潰すようだ。
「私がやる!」
コンヴァリアが前に出た。彼女の右腕が異形化した蔦をさらに大きく広げ、地面から新たな蔦を生み出す。蔦は生き物のようにうごめき、咎狂に向かって伸びていく。
「コンヴァリア、待って!」
私は叫んだが、彼女は振り返らない。その蔦が咎狂を縛り付ける様子は、圧倒的な力強さを感じさせる一方で、彼女自身の制御を超えているようにも見えた。
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咎狂が吠え、蔦を引きちぎろうと暴れる。コンヴァリアの顔が苦痛に歪む。
「もうやめて!それ以上は危ない!」
リリシアが声を上げるが、コンヴァリアは聞こうとしない。蔦はさらに強く咎狂を締め付けるが、その力は次第に暴走し始めた。
「くそっ、抑えきれねえなら俺がやる!」
セラヌスが槍を構え、咎狂の頭部に向けて突進する。その一撃は鋭く、咎狂の動きを一瞬止めた。
「コンヴァリア、もう十分だ!」
私は駆け寄り、彼女の腕を掴んだ。その蔦は冷たく、硬い。彼女の体が震えているのが伝わる。
「ごめん……制御が……できなくて。」
彼女は泣きそうな声で言った。蔦が静かに収縮し、彼女の右腕に戻る。その場にへたり込む彼女を、私はそっと支えた。
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戦いが終わり、再び静寂が訪れる。広場には、咎狂の残骸と、破壊された地面だけが残っていた。
「無茶をするな。」
セラヌスが槍を肩にかけながら言う。その声はいつもより少しだけ優しかった。
「ごめんなさい……」
コンヴァリアはうつむきながら呟いた。その顔には深い後悔が刻まれている。
「でも、あなたのおかげで助かったわ。」
リリシアがそっと言い、彼女の肩に手を置いた。その優しい仕草が、コンヴァリアの硬直した体をわずかに和らげる。
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「コンヴァリア、大丈夫?」
私は彼女に声をかける。彼女の目にはまだ不安の色が残っているが、どこかに感謝の光も宿っているように見えた。
「……ありがとう。あなたがいなければ、私はどうなっていたか……。」
彼女の声は震えていたが、その言葉には確かな温かさがあった。
私は微笑んでうなずいた。彼女の恐怖も苦悩も、私には痛いほど分かる。それでも、彼女が前を向こうとしていることが、私を救ってくれるような気がした。