洞窟の中に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌にまとわりつき、外の湿った熱気とはまるで別世界のようだった。焚火を囲んで座る仲間たちの顔が、揺らめく炎に照らされている。
「ようやく一息つけそうね。」
リリシアが微笑みながら、焚火に新しい枝をくべた。その姿は柔らかな光に包まれ、まるで森の中で灯る小さな灯台のようだった。
だが、セラヌスは焚火の熱さが鬱陶しいかのように少し離れて腰を下ろし、槍を手にしながら無言で洞窟の外を睨んでいた。
「セラヌス、少しは休んだらどうだ?」
アストリスが冷静な声で促す。星を模した瞳がセラヌスを観察するように揺れている。
「気が抜けたら死ぬだけだ。」
短く答えると、再び洞窟の奥を見つめた。
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「また始まったか……。」
セラヌスの胸中には、仲間たちとの距離が埋まらないことへの苛立ちが渦巻いていた。彼女の周囲にある壁のような孤独感は、いつの間にか彼女自身が築き上げたものだった。
その時、アリセアが小さな声で問いかけた。
「セラヌス、何かあったの?」
「何もない。」
冷たく言い放つ。
だが、アリセアの目は彼女の背中をじっと見つめていた。その目に宿るのは恐れではなく、信頼だった。それがかえって彼女の胸に重くのしかかった。
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突如、洞窟の外から低い唸り声が聞こえた。
「来るぞ!」
セラヌスが槍を構え、即座に立ち上がった。その声で全員が緊張し、リリシアが焚火を消し、フローリアが夢幻の鏡を手にした。
霧の中から現れたのは、ねじれた形状をした咎狂だった。異形の体が洞窟の入り口を覆い、瘴気が漂っている。
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「全員、引くな!」
セラヌスが叫びながら咎狂に向かって突進した。槍の一撃が咎狂の肩に食い込み、黒い体液が飛び散る。だが、咎狂は怯むどころか勢いを増してきた。
「……俺がやるしかない。」
彼女は槍を地面に突き刺し、雷霆の裁きの準備を始めた。
雷が彼女の周囲に集まり、槍にまとわりつく。その力は圧倒的だったが、代償を伴うことを彼女は知っていた。
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「セラヌス、落ち着いて!」
リリシアの声が響いた。「あなたの力は私たちをも危険にさらすわ。」
「黙ってろ!」
荒々しい声で遮り、彼女は全力で槍を振り上げた。
放たれた雷が咎狂を貫き、その巨体を吹き飛ばした。だが、その一撃で洞窟全体が揺れ、瓦礫が仲間たちを覆いそうになった。
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「セラヌス、気をつけて!」
アリセアが咄嗟に右手を伸ばし、刻印の力で瓦礫を浄化した。
「お前まで……!」
セラヌスはその姿を見て歯を食いしばった。
咎狂はついに崩れ落ち、静寂が訪れた。しかし、セラヌスの中では激しい感情が渦巻いていた。
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「セラヌス……。」
アリセアが彼女の隣に座り、小さな声で呟いた。「あなたは私たちを守ろうとしてくれているんだよね。」
その言葉に、彼女の心が少し揺れた。
「守る……か。」
過去の記憶が蘇る。仲間を守るために力を使い、それでも彼女は彼らを失った。その時の後悔が、今でも胸を刺している。
「俺の力は破壊しか生まない。それでもお前たちは信じるのか?」
「セラヌスの力がなかったら、今ごろ私たちはここにいないよ。」
アリセアの言葉には一片の疑いもなかった。その無垢な声に、彼女は一瞬、胸を突かれる思いだった。
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「……期待するな。」
短く言い放つと、彼女は再び洞窟の外へ視線を向けた。だが、その瞳の奥には、少しだけ穏やかさが宿っていた。
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夜が深まり、咎狂の残骸から漂う瘴気が消えていく。仲間たちは再び焚火のそばに集まり、静かな眠りにつこうとしていた。
セラヌスは一人、洞窟の外に立ち、槍を握り締めていた。その荒々しい姿には、孤独だけでなく、仲間への微かな思いが滲んでいた。