霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第26話: 鏡の中の影(フローリア視点)

夜明けの光が木々の隙間から差し込み、小川の水面に小さな輝きを映していた。その静けさは、私の胸の中の不安をまるで嘲笑うかのようだった。

 

「私は、どこまで思い出せるんだろう……」

 

夢幻の鏡を握る手が震える。光を放つその表面に自分の顔が映り込むが、それはどこか遠い他人のようにも感じられる。

 

「フローリア、大丈夫?」

アリセアの声が背後から聞こえた。彼女の優しい響きに、私は一瞬だけ安堵を覚える。だが、その言葉にどう答えたらいいのか分からなかった。

 

 

---

 

「大丈夫……たぶん。」

そう言いながら、鏡をそっと膝の上に置いた。嘘だということは自分でも分かっていた。

 

記憶の欠片が失われていく感覚は、夢の中で足元が崩れるようなものだった。何かを掴もうとするたび、それがさらさらと指の間からこぼれ落ちていく。

 

「フローリア、無理しないで。」

リリシアがそっと隣に座り、私の手を取った。その温もりは心地よかったが、それでも胸の中の空虚さを埋めることはできなかった。

 

 

---

 

「無理をしているつもりはないの。でも……この鏡が私を必要としているの。」

そう言うと、リリシアは眉をひそめた。

 

「それは違うわ、フローリア。私たちがあなたを必要としているのよ。」

 

その言葉は温かく、どこか鋭かった。

 

 

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私は夢幻の鏡を再び握りしめ、表面に手をかざした。光が広がり、周囲の空気が一瞬冷たくなる。その瞬間、私の意識は鏡の中へ引き込まれた。

 

そこには、ぼんやりとした影が映し出されていた。それはかつての私だったのか、それとも私が忘れてしまった誰かだったのか。

 

「……フローリア。」

 

その声は私の名を呼びながら、遠ざかっていく。追いかけようとするが、足が動かない。

 

 

---

 

「戻ってきて!」

誰かの声が聞こえ、意識が現実に引き戻された。目を開けると、アリセアが私の肩を揺さぶっていた。

 

「倒れるところだったよ!」

彼女の目には涙が浮かんでいた。それを見て、私はようやく自分がどれだけ危険なことをしていたかに気付いた。

 

 

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「ごめんなさい……。」

声が震え、涙がこぼれる。アリセアは何も言わず、私をそっと抱きしめた。その温もりに包まれながら、自分がどれだけ弱い存在かを痛感する。

 

「あなたは一人じゃないよ。」

彼女の言葉は単純だったが、私の心に深く響いた。

 

 

---

 

「でも、私は……どこまで自分でいられるのか分からないの。」

私は呟いた。

 

「鏡を使うたびに、自分がどんどん遠くなる気がする。」

 

「それでも、私たちはあなたを信じているわ。」

リリシアが優しい声で言った。

 

 

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静かな空気の中、セラヌスが一言だけ呟いた。

「そんなに自分を責めるな。」

 

彼女の言葉は不器用だったが、なぜか温かかった。

 

「俺たちはお前がいなければここまで来られなかった。それが全てだろ。」

 

 

---

 

仲間たちの言葉が、少しずつ胸の中の不安を和らげていく。だが、鏡を見つめるたびに、私はまだ何かを失う恐怖と戦っている。

 

「ありがとう……みんな。」

 

その言葉が、私の精一杯の感謝だった。

 

 

---

 

小川のせせらぎが再び静寂を取り戻し、朝の光が少しずつ世界を明るくしていく。鏡の中に映る自分の顔は、少しだけ穏やかに見えた。

 

だが、その奥にはまだ、何かが蠢いているような気がした。

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