夜明けの光が木々の隙間から差し込み、小川の水面に小さな輝きを映していた。その静けさは、私の胸の中の不安をまるで嘲笑うかのようだった。
「私は、どこまで思い出せるんだろう……」
夢幻の鏡を握る手が震える。光を放つその表面に自分の顔が映り込むが、それはどこか遠い他人のようにも感じられる。
「フローリア、大丈夫?」
アリセアの声が背後から聞こえた。彼女の優しい響きに、私は一瞬だけ安堵を覚える。だが、その言葉にどう答えたらいいのか分からなかった。
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「大丈夫……たぶん。」
そう言いながら、鏡をそっと膝の上に置いた。嘘だということは自分でも分かっていた。
記憶の欠片が失われていく感覚は、夢の中で足元が崩れるようなものだった。何かを掴もうとするたび、それがさらさらと指の間からこぼれ落ちていく。
「フローリア、無理しないで。」
リリシアがそっと隣に座り、私の手を取った。その温もりは心地よかったが、それでも胸の中の空虚さを埋めることはできなかった。
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「無理をしているつもりはないの。でも……この鏡が私を必要としているの。」
そう言うと、リリシアは眉をひそめた。
「それは違うわ、フローリア。私たちがあなたを必要としているのよ。」
その言葉は温かく、どこか鋭かった。
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私は夢幻の鏡を再び握りしめ、表面に手をかざした。光が広がり、周囲の空気が一瞬冷たくなる。その瞬間、私の意識は鏡の中へ引き込まれた。
そこには、ぼんやりとした影が映し出されていた。それはかつての私だったのか、それとも私が忘れてしまった誰かだったのか。
「……フローリア。」
その声は私の名を呼びながら、遠ざかっていく。追いかけようとするが、足が動かない。
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「戻ってきて!」
誰かの声が聞こえ、意識が現実に引き戻された。目を開けると、アリセアが私の肩を揺さぶっていた。
「倒れるところだったよ!」
彼女の目には涙が浮かんでいた。それを見て、私はようやく自分がどれだけ危険なことをしていたかに気付いた。
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「ごめんなさい……。」
声が震え、涙がこぼれる。アリセアは何も言わず、私をそっと抱きしめた。その温もりに包まれながら、自分がどれだけ弱い存在かを痛感する。
「あなたは一人じゃないよ。」
彼女の言葉は単純だったが、私の心に深く響いた。
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「でも、私は……どこまで自分でいられるのか分からないの。」
私は呟いた。
「鏡を使うたびに、自分がどんどん遠くなる気がする。」
「それでも、私たちはあなたを信じているわ。」
リリシアが優しい声で言った。
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静かな空気の中、セラヌスが一言だけ呟いた。
「そんなに自分を責めるな。」
彼女の言葉は不器用だったが、なぜか温かかった。
「俺たちはお前がいなければここまで来られなかった。それが全てだろ。」
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仲間たちの言葉が、少しずつ胸の中の不安を和らげていく。だが、鏡を見つめるたびに、私はまだ何かを失う恐怖と戦っている。
「ありがとう……みんな。」
その言葉が、私の精一杯の感謝だった。
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小川のせせらぎが再び静寂を取り戻し、朝の光が少しずつ世界を明るくしていく。鏡の中に映る自分の顔は、少しだけ穏やかに見えた。
だが、その奥にはまだ、何かが蠢いているような気がした。