森の中の広場は静まり返り、木漏れ日の揺れる光が地面に複雑な模様を描いていた。空気には湿り気があり、少し立つだけで肌に汗がにじむ。この穏やかな静けさの裏に、私たちは確かに忍び寄る不穏な気配を感じていた。
「何かがおかしい……」
私は周囲を見回しながら呟いた。視界の端に揺れる影。まるで森そのものが息を潜め、私たちを監視しているかのようだった。
「リリシア、どうしたの?」
アリセアが首を傾げる。無邪気に見えるその表情の裏に隠された狂気を、私はもう何度も目にしていた。それでも、彼女はまだ守るべき存在だった。そう思うしかなかった。
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突然、空気が変わった。
「みんな、来るぞ!」
セラヌスが叫び、槍を構える。彼女の声は荒々しく、緊張が張り詰めたその場を切り裂くようだった。
影の中から咎狂が現れる。歪んだ体つき、ねじれた骨、そして咎に汚染された目――見ただけで背筋が凍る存在だった。
「下がって!」
私はとっさに聖光の盾を展開し、仲間たちを守ろうとした。しかし、次の瞬間、私の視線の先でアリセアが右手を握りしめ、霊契の印が紫の光を放つのを見た。
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「やめなさい!」
叫びは届かない。アリセアはすでに霊契の印を解放し、その力が暴走し始めていた。紫の炎が広がり、咎狂を飲み込む――だが、その炎は私たちにも牙をむき始めた。
「リリシア、動くな!」
セラヌスが私を引き戻そうとするが、私は聖光の盾をさらに広げ、アリセアに向かって進んだ。
「アリセア、戻って!」
彼女は目を見開き、私を見つめた。その瞳には恐怖と後悔が浮かんでいたが、力の暴走を止められない様子だった。
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「守るべき存在は……決して見捨てられない。」
私は心の中でそう繰り返しながら、聖光の盾を彼女に向けて展開した。炎が私の周りを焼きつくし、光と影が激しく揺れる。
「リリシア、無茶だ!」
セラヌスが怒鳴るが、私は振り返らない。今、この子を守らなければ、きっと後悔する――そんな確信があった。
紫の炎がようやく収まり始めた頃、私は膝をついて息を切らしていた。アリセアが崩れ落ちるのを見て、すぐに彼女のもとへ駆け寄る。
「大丈夫……私がいるわ。」
彼女の震える体を抱きしめながら、私はそう囁いた。その言葉が彼女に届いたのか、アリセアはわずかに頷き、力なく目を閉じた。
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仲間たちが駆け寄ってくる。コンヴァリアが蔦を使って周囲の傷を癒し、フローリアが静かに光を集める。セラヌスは槍を地面に突き立てるように支え、息を整えていた。
「リリシア……代償が大きすぎるぞ。」
セラヌスの声には、珍しく憂いが混じっていた。
「それでも、この子を守らなければならない。」
私は立ち上がり、仲間たちに向かって力強くそう告げた。
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その夜、私は一人で焚火のそばに座っていた。右目の視界がぼやける。輝紋の環を過剰に使用したせいだろう。しかし、そんなことは気にしない。
アリセアの寝顔を見つめながら、私は改めて決意した。
「この子を守る。それが私の使命。」
森の静寂の中で、燃え続ける焚火が私の誓いを照らしていた。