霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

28 / 81
第28話: 緑の檻(コンヴァリア視点)

夕陽が沈みかけ、森の中の遺跡跡に長い影を落としていた。倒れた柱や苔むした石像が静かに横たわり、そこに漂う空気には何か重いものが含まれているようだった。

 

私たちは疲れ切っていた。この日何度目かの咎狂との戦闘を終え、崩れた壁の陰で短い休息を取っていた。

 

「ここで少し休むわ。」

リリシアの柔らかい声が響く。彼女が用意した光の結界が、私たちを外界の危険から守ってくれている。その光の中で、私はそっと左腕を見た。

 

蔦がゆっくりと動いている。その動きは自分の意思で制御しているはずなのに、どこか不安定だった。

 

「暴走しないで……お願い。」

心の中で呟きながら、私はそっとその動きを抑えた。

 

 

---

 

「コンヴァリア、まだ大丈夫?」

アリセアが私に近づき、小さな声で尋ねた。彼女の瞳には心配の色が浮かんでいる。

 

「ええ、平気よ。」

そう答えたものの、その声には自信がなかった。

 

再生の蔦は便利な力だ。傷を癒し、仲間を守るための盾にもなる。だが、その力が暴走するとき、私は自分自身をコントロールできなくなる。

 

「もし暴走したら……私はどうなるの?」

 

頭の片隅に浮かぶその疑問が、心の奥を冷たく締め付けた。

 

 

---

 

休息の時間が終わりに近づいたころ、突然、遺跡の奥から異様な音が響いてきた。

 

「また来たみたいね。」

セラヌスが槍を構え、険しい表情で声を上げる。

 

遺跡の陰から現れたのは、ひときわ大きな咎狂だった。異形化が進んだその姿は、人間の面影を完全に失っている。体中から瘴気が立ち上り、その目は虚ろな光を放っていた。

 

 

---

 

「ここで止めるしかない!」

リリシアが光の結界を強化し、仲間たちに指示を飛ばす。

 

私は咄嗟に再生の蔦を展開し、咎狂の足元を絡め取った。だが、その力を解放する瞬間、左腕に鋭い痛みが走った。

 

「……っ!」

蔦が暴走を始めた。私の意思を無視して、まるで自らの欲望を解放するかのように広がり始めた。

 

 

---

 

「コンヴァリア、下がれ!」

セラヌスの叫びが響くが、私は動けなかった。蔦が私の体を縛り、逃げ道を塞いでしまったのだ。

 

咎狂が吠えながらこちらに向かって突進してくる。私は恐怖で硬直しながら、それでも蔦を抑え込もうと必死だった。

 

「誰か……助けて……!」

 

 

---

 

その瞬間、アリセアの声が響いた。

 

「私がやる!」

 

紫の炎が彼女の右手から放たれ、咎狂の進路を遮った。その炎は咎の瘴気を焼き払い、咎狂の動きを一瞬だけ止めた。

 

続いて、セラヌスが槍を振りかざし、雷の力を帯びた一撃を放つ。雷が咎狂の体に直撃し、その巨体を激しく揺るがした。

 

 

---

 

「コンヴァリア、大丈夫!?」

アリセアが私のもとに駆け寄り、蔦を抑え込もうとする。彼女の手から放たれる浄化の力が、暴走する蔦を少しずつ沈静化させていく。

 

「もう少し……!離れないで……!」

私の声に応えるように、彼女はさらに力を注ぎ込んだ。

 

 

---

 

やがて蔦の動きが静まり、私の左腕に戻っていった。その瞬間、私は地面に崩れ落ち、息を荒げながら涙をこぼしていた。

 

「ありがとう……ごめんなさい……。」

震える声で呟く私を、アリセアはそっと抱きしめた。その温かさが胸の奥に沁みた。

 

「コンヴァリア、あなたがいなかったら、私たちは危なかった。」

彼女の言葉には一片の疑いもなく、それがかえって私の心を締め付けた。

 

 

---

 

セラヌスが槍を肩に担ぎながら言った。

「お前の力が危険なのは分かってる。でも、それを使わなければ俺たちは生き残れない。」

 

その不器用な言葉に、私は少しだけ救われた気がした。

 

 

---

 

日が沈み、夜の静けさが遺跡を包み込む。私は自分の力に対する恐怖を再び感じながら、それでも仲間たちがそばにいることに救われていた。

 

「私は……もっと強くならなくちゃ。」

 

その決意を胸に、私は夜空に浮かぶ星を見上げた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。