霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第3話: 刻まれた運命

森と砂漠の境界は、不思議な静けさに包まれていた。

 

片側には広がる灰色の砂漠。空気は乾燥し、風が吹くたびに砂粒が肌を削るような感覚を残す。もう片側には、ねじれた木々が立ち並ぶ薄暗い森。葉の裏には黒い斑点が広がり、生命が何かに蝕まれているかのような不気味さを醸し出していた。

 

「ここが……砂漠と森の境界線?」

アリセアは足を止め、目の前の光景を呆然と見つめた。その視界には、砂と土の混じり合う不揃いな地面が広がっている。

 

「ええ。この辺りでは食料が手に入ることもあるわ。」

リリシアはそう言うと、背負っていた簡素な袋を下ろした。袋の中には数本の紐と小さなナイフ、そして擦り切れた布が見えた。

 

「手伝って。食料を探しましょう。」

そう言われたアリセアは戸惑いつつも頷いた。

 

 

---

 

森の中は湿った空気に満ちていた。

 

木々の間を歩くたびに、足元からかすかな腐葉土の匂いが立ち上る。リリシアは低木の葉を一つひとつ丁寧に探り、時折葉の裏を確認していた。

 

「これを見て。」

リリシアが指差したのは、低木に実った小さな赤い果実だった。まるで宝石のように輝いているが、その色合いはどこか不安を抱かせるものだった。

 

「食べられるの?」

アリセアが恐る恐る尋ねると、リリシアは果実を一粒摘み取り、口元に運ぶふりをして見せた。

 

「この果実は少し酸味があるけれど、毒はないわ。力をつけるには十分よ。」

彼女は摘み取った果実をアリセアの手に渡した。アリセアは恐る恐る果実を口に含む。酸っぱさが舌を刺激するが、次第に甘さが広がり、体が温まるような感覚がした。

 

 

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「食べられるものを見つけるのは、魔女の基本よ。」

 

リリシアが腰の袋から細いナイフを取り出し、樹皮を削り始める。木の内側から出てきたのは半透明の樹液だった。

 

「これも飲めるわ。水を確保できないときには貴重な代替品よ。」

彼女は布を取り出し、それに樹液をしみ込ませるとアリセアに差し出した。

 

アリセアはその動作を見ながら、自分の無力さを痛感した。何も知らずにこの世界に放り込まれ、ただ右手に刻まれた異様な刻印だけが彼女をこの場に繋ぎ止めている。

 

 

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「その手、見せて。」

 

リリシアが突然言った。アリセアは戸惑いながらも、右手を差し出した。その手には、「霊契の印」と呼ばれる刻印が深く刻まれている。黒い線が複雑な模様を描き、時折淡い光を放つ。

 

「これが……霊契の印?」

アリセアは自分の手を見つめながら呟いた。リリシアは指先でその模様に触れる。

 

「この刻印は他のものと違う。普通の刻印はここまで深く体に溶け込むことはないわ。それに、この光……何かを呼び起こそうとしている。」

リリシアの声には警戒心が滲んでいた。

 

「呼び起こす?」

アリセアは思わず聞き返す。その言葉が意味するものが恐ろしかったからだ。

 

 

---

 

その時、風がざわりと森を撫でた。

 

「ここには長くいられないわ。砂漠の方から何かが迫ってきている。」

リリシアが立ち上がり、袋を背負い直す。その表情には緊張が走っていた。

 

アリセアも慌てて立ち上がり、右手を握りしめる。刻印が再び微かに輝き、体の奥底で何かが蠢くのを感じた。その感覚は心地よいものではなく、むしろ冷たく、体を内側から侵食するようだった。

 

「リリシア、この刻印は何なの? 私に何をさせようとしているの?」

アリセアの声が震える。

 

「それはまだ分からない。でも一つだけ確かなのは、これがあなたにとって力でもあり、呪いでもあるということ。」

リリシアの声は静かだが、重かった。

 

 

---

 

森を抜ける道は、次第に薄暗くなっていく。

 

「さあ、行きましょう。」

リリシアはアリセアを促しながら、木々の間を進んだ。その背中はどこか頼もしく、同時にどこか遠い存在のようにも見えた。

 

アリセアは右手を握りしめたまま、彼女の後を追った。この手に刻まれたものが何を意味し、どんな運命をもたらすのか――それはまだ、彼女自身も知らない。

 

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