遺跡の地下室は、ひんやりとした空気が漂い、石の壁に染み付いた湿気の匂いが鼻を刺していた。私たちは静かに足音を忍ばせながら、崩れかけた階段を降りていた。薄暗い空間に差し込むのは、私たちが持つ灯りの光だけ。夢幻の鏡を抱えた私は、その重みと冷たさに、奇妙な安心感すら覚えていた。
「ここは……随分と古いわね。」リリシアが低い声で言い、灯りを壁に向けた。そこには古代の文字や模様が刻まれていた。私には何一つ理解できなかったが、その模様には妙に既視感があった。
「気をつけて。」セラヌスが鋭い声で言う。彼女はいつも周囲を警戒している。頼りになるけれど、どこか孤立しているようにも見えた。
地下室の奥へ進むと、大きな鏡が壁に埋め込まれているのが見えた。奇妙な形をしており、縁には蛇が絡み合った彫刻が施されている。私の心臓が一瞬止まりそうになった。目の前の鏡は、私が持つ夢幻の鏡と同じ模様を持っていたからだ。
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「これは……」私は思わず声を漏らした。
「どうしたの?」アリセアが私のそばに寄ってきた。その瞳は、いつも通り真剣で、少しだけ不安そうだった。
「この鏡……私の鏡と……似ている。」手に持った鏡が、奥の鏡と共鳴するように微かに震えた。
「フローリア、無理はしないで。」コンヴァリアが心配そうに言ったが、私は無視して鏡の前に立った。吸い込まれるような感覚に逆らえなかった。
「触らないほうがいい!」アストリスが制止の声を上げたが、もう遅かった。私は鏡の表面に手を触れてしまった。
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鏡がぼんやりと輝き始めた。光が私を包み込み、視界が白く染まる。次に目を開けたとき、そこには私が立っていた。ただ、もう一人の「私」は、どこか違っていた。
彼女の目は冷たく、唇には微笑みが浮かんでいたが、それは私を嘲笑うようなものだった。髪は同じ銀色で、瞳も同じ緑色。それでも、彼女の全身から放たれる雰囲気は、まるで別人だった。
「あなたは……誰?」私は声を震わせた。
「私? あなたよ。」彼女は不敵な笑みを浮かべた。「忘れたの? それとも、忘れたふりをしているの?」
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「どういう意味?」私は一歩後ずさりながら尋ねた。
「あなたが今まで見てきた夢、覚えている? そのすべてが失われていく感覚。私たちは同じ存在だった。でも、あなたが力を使うたびに、私はここに押し込められたのよ。」
「そんな……」私は首を振った。「私はそんなつもりじゃ……」
「でも、そうした。」もう一人の「私」が冷たく断言する。「あなたが仲間を守るために、記憶を差し出したとき、その代償は私が払ったのよ。」
私は言葉を失った。彼女の言葉は正しいのかもしれない。けれど、私は……私は何をすべきなのか分からなかった。
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「フローリア、大丈夫?」現実の世界からアリセアの声が聞こえた。遠くに感じられたが、彼女の声は不思議と私を落ち着かせる力を持っていた。
「……わからない。」私は小さな声で呟いた。
もう一人の「私」が冷ややかに笑った。「あなたはいつもそう。分からないと言いながら、誰かに頼るしかない。」
「それでいい。」今度はアリセアの声がはっきりと聞こえた。「フローリア、あなたが迷ってもいい。私たちはここにいるから。」
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その瞬間、鏡の中の「私」が揺らぎ始めた。冷たかった瞳が微かに悲しみを帯び、唇が何かを言おうと震えた。しかし、彼女は何も言わずに霧のように消えていった。
光が薄れていく中で、私は現実に引き戻された。周囲には仲間たちの顔があった。アリセアが私の手を握り、リリシアが心配そうに肩を叩いてくれていた。
「もう大丈夫よ。」リリシアの言葉に、私は小さく頷いた。
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その後、遺跡の外へ向かう道の中で、私は再び決意を新たにしていた。記憶がなくても、私にはできることがある。仲間のために進む。それが、今の私にできる唯一のことだったから。