深夜、遺跡の大広間は闇と静寂に包まれていた。しかし、その中に漂う空気は異様で、息苦しさすら覚える。壁に刻まれた古代の紋様がかすかに輝き、咎の力がこの場所に深く根付いていることを告げていた。
私たちは慎重に足を進めていた。リリシアが先頭に立ち、輝紋の環の光で周囲を照らしている。その後ろにはセラヌスが槍を構え、警戒を怠らない。私もまた、右手に刻まれた霊契の印が妙に熱を帯びているのを感じていた。
「ここ、本当に嫌な感じがするわね……」フローリアが低い声で呟く。その表情には不安が滲んでいる。
「咎狂が近いのかもしれない。」セラヌスが短く答えた。その声は冷静だが、どこか緊張を隠せていない。
私たちがさらに進むと、大広間の中央にぽっかりと空いた穴が見えた。その底は暗闇に飲み込まれており、見通すことができない。しかし、その奥から微かな呻き声が響いてきた。
「注意して。」リリシアが振り返り、私たちに静かに告げる。その声には慈しみと鋭い警戒が込められている。
突然、地面が揺れ、黒い影が穴から飛び出してきた。それは巨大な咎狂だった。歪んだ身体に無数の爪が生え、目のない顔から咎の瘴気が溢れ出している。
「来るぞ!」セラヌスが槍を構え、咎狂に向かって突進した。その動きは一瞬の隙もなく正確だったが、咎狂はその攻撃を受け流し、彼を吹き飛ばした。
「セラヌス!」リリシアが咄嗟に彼を守るため、光の結界を展開する。しかし、咎狂の力は圧倒的で、結界が軋む音が響く。
「このままじゃ持たない……!」コンヴァリアが再生の蔦を呼び出し、咎狂の動きを封じようとするが、それも簡単に引き千切られた。
私は震える右手を見つめた。霊契の印が熱を増し、脈動している。この力を使えば――でも、私はまた暴走するかもしれない。その恐怖が頭をよぎる。
「アリセア!」リリシアの声が私を現実に引き戻す。「あなたの力が必要なの。信じて!」
その言葉に背中を押されるように、私は右手を掲げた。刻印が強く輝き、紫色の炎が形を成す。霊契の力が私の身体を蝕むような感覚が走るが、それでも私は目の前の仲間たちを守るために進む。
「お願い……これ以上、誰も傷つけたくない!」私は全力で炎を放った。その炎は咎狂を包み込み、瞬く間に焼き尽くしていく。
だが、その瞬間、私の右腕が激しい痛みに襲われた。視界が歪み、膝が崩れる。異形化が進行しているのだと直感した。
「アリセア!」リリシアが駆け寄り、私を抱き留めた。その腕の中は暖かく、私の不安を少しだけ和らげてくれる。
「……ごめんなさい。私、また……」涙が頬を伝う。私は力を使うたびに、仲間たちに不安を与えてしまう。
「大丈夫よ。あなたは私たちのために戦ってくれた。それが何よりも大事なの。」リリシアの声には揺るぎない優しさがあった。
その時、空気が変わった。重く冷たい圧力が大広間を満たし、奥の暗闇から一人の人影が現れた。
「なるほど。やはりあなたたちは興味深い。」その声は低く、冷たい響きを持っていた。アルカディアだ。黒い装甲を纏い、その紫の瞳が私たちを見下ろしている。
「何を企んでいるの?」リリシアが立ち上がり、鋭い視線をアルカディアに向けた。
「咎の真実を手に入れることよ。そして、この世界の本当の姿を明らかにする。」アルカディアは冷ややかに笑い、手にした咎霊器を掲げた。
「そのために私たちを利用するつもり?」私は立ち上がり、彼女を睨んだ。
「利用?いいえ、あなたたちはただの道具よ。咎の循環を断ち切るためには、あなたたちのような存在が必要不可欠なの。」アルカディアの言葉は刺さるように冷たい。
「そんなこと、させない……!」私は一歩前に出ようとするが、体が言うことを聞かない。
「あなたの覚悟、見せてもらったわ。でも、それだけでは足りない。この世界を救うのは私よ。」アルカディアはそう言い残し、闇の中に消えた。
「アリセア、大丈夫?」リリシアがそっと私の肩に手を置いた。その手の温もりが、私を現実に引き戻す。
「……ごめん。でも、もっと強くならなきゃ。」私は決意を新たにし、霊契の力を制御することを心に誓った。
夜の闇はなお深く、私たちは次なる戦いへの準備を進めた。