洞窟内の空気は、湿り気を帯びながらも妙に冷たかった。壁面に埋め込まれた鏡のような表面が、私たちを監視するかのように光を反射している。足音が反響し、微かな音が重なり合い、まるで耳元で誰かが囁いているようだ。
「妙な気配がするな。」セラヌスが低く呟き、手元の刻印を確かめる。その声には冷徹さが滲んでいたが、周囲を伺うその目は鋭く警戒心に満ちている。
「気をつけて。鏡の中には、単なる反射ではない何かが潜んでいる。」リリシアが静かに告げる。彼女の声は穏やかで優しい響きを持ちながらも、その言葉には揺るぎない決意が込められていた。
私はふと立ち止まり、目の前の鏡を見つめた。その中に映る自分の姿――薄れる記憶の影が、まるで幽霊のように揺れている。「ここに来てよかったのかしら……。」心の中で呟くと、その声が鏡の中の私に届いたかのように、映像が歪んだ。
「フローリア、大丈夫?」アリセアがそっと肩に手を置いてきた。その温もりが、不思議と私を現実に引き戻す。
「ええ……大丈夫よ。」小さく微笑むことで、心の揺らぎを隠そうとした。だが、彼女の深紫色の瞳が私の不安を見透かしているのを感じる。
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先へ進むと、洞窟の中央に位置する大きな鏡が現れた。その表面は波紋のように揺れ、異界へと通じる入口であるかのような異様な雰囲気を放っている。
「これが……夢幻の鏡。」私は静かに言葉を漏らし、足を止めた。鏡の前に立つと、過去の記憶がまるで手招きするかのように頭に浮かんでくる。忘れたはずの光景、名前、声――すべてが手を伸ばせば届きそうな距離にある。
「気をつけろ。」セラヌスの鋭い声が響く。「鏡に引き込まれるな。それはお前自身を喰らうだけだ。」
「でも……私には確かめる必要がある。」私の言葉は、自分自身への宣言でもあった。両手を伸ばし、鏡の表面にそっと触れる。波紋が広がるように冷たい感覚が指先に伝わり、そして――。
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映像の中で、私はもう一人の自分と向き合っていた。彼女は私と同じ顔を持ちながらも、まるで異なる存在に見えた。彼女の目は冷たく、まるで私の全てを嘲笑しているかのようだった。
「記憶なんて、持っていても苦しいだけよ。」彼女が告げる。「全て忘れればいいのに。そうすれば、この咎も楽になる。」
「忘れる……?」その言葉に揺れ動きそうになる心を、私は必死で抑えた。「でも、記憶がなくなれば、私は私でなくなる。それだけは許せない……!」
鏡の中の彼女が薄く笑う。「ならばその執着の代償を払い続ければいいわ。けれど、その先に何があるというの?」
私は迷いを振り払うように拳を握りしめた。そしてその瞬間、決意が胸を貫く。「私が記憶を取り戻すのは、私自身のためじゃない。仲間のために、そして未来を切り拓くために……!」
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目が覚めたように意識が戻ると、私は鏡を握りしめていた。衝動に突き動かされるように、それを強く地面に叩きつける。鏡が砕け散る音が洞窟に響き渡った。
「フローリア……!」リリシアの声が届く。振り返ると、彼女の青い瞳が驚きと共に私を見つめていた。
「大丈夫。」私は静かに微笑み、砕け散った鏡の破片を指差した。「この破片に、咎の浄化に繋がる手がかりがあるわ。」
アストリスが破片を拾い上げ、慎重に眺める。「確かに……これは何かを示している。次の目的地の手がかりだ。」
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私たちは鏡の間を後にし、洞窟の外に向かった。胸の奥に、わずかながらも希望が灯るのを感じながら――。