遺跡の奥へ進むたびに、空気が変わっていくのをアリセアは感じていた。湿った石壁から冷気が染み出し、微かな紫色の光が足元を不気味に照らしている。古びた階段を一歩踏み下ろすたびに、靴底からかすかな振動が伝わり、まるで遺跡そのものが生きているようだった。
「待って、ここを見て。」コンヴァリアが立ち止まり、壁に生えた苔の下から何かをそっと掘り出した。それは朽ちかけた木製の矢印で、何かの方向を示している。
「この矢印、かなり古いものね。でも方向が不自然……」彼女は矢印の先をたどりながら、床に刻まれた微かな爪痕を指差した。「咎狂が通った跡みたい。ここを頻繁に行き来しているのね。」
セラヌスが眉をひそめた。「つまり、この先に咎の巣がある可能性が高いってことか。」
コンヴァリアは頷きながらも慎重な表情を浮かべた。「ええ。ただ、何かおかしい……咎狂が通るだけなら、こんなに苔が密生するはずがない。ここには何か、咎以外の力が混ざっているわ。」
その場に静けさが訪れる。全員が息を飲み、遺跡の深部へと向けられた道を見つめた。
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「なら、この痕跡をどう解釈すべきか。」アストリスが、まるで講義をするかのように口を開いた。「咎狂は通常、本能に従って動く。それなのに、ここでは明らかに組織的な行動の痕跡がある。例えば、この矢印――遺跡の本来の通路に干渉する形で設置されている。つまり、誰かが意図的にこの場所を利用している。」
「誰か?」アリセアが疑問を投げかける。
「アルカディアだろう。」アストリスの冷静な声が空間に響く。「彼女が何を狙っているのかは分からないが、これだけ手の込んだ仕掛けを作るのは彼女以外考えられない。」
リリシアが慎重に口を挟む。「もしその推測が正しいなら、私たちは彼女の仕掛けた罠の中に足を踏み入れていることになるわね。」
アストリスは深く息を吸い込んだ。「その通りだ。でも、罠の中にこそ真実があることもある。進む以外の選択肢はない。」
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「ここ、何かある。」コンヴァリアがまた立ち止まり、床の一部を指差した。そこには、かすかに刻まれた古代文字と幾何学模様が浮かび上がっていた。
「この紋様、何かに似ている……」フローリアが思い出すように呟く。
「霊峰ルナーモで見たものに似ているわ。」リリシアが断言した。「神々の紋章、でもこれは――」彼女はその続きを言う前に目を伏せた。
「崩れている。」アリセアが小さな声で続ける。紋様の中央部分は、何か重いもので削り取られたように欠けていた。
「意図的に壊されているわね。」コンヴァリアが慎重に紋様の縁を触れながら言う。「これを壊したのは咎狂じゃない……人間の仕業よ。」
「アルカディアだな。」セラヌスが静かに付け加える。「この場所を封印し、何かを隠そうとしたか、あるいは逆に解放しようとしたかだ。」
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そのとき、不意に空間全体が揺れるような振動が走った。床下から低く鈍い音が響き、壁の刻印が紫色の光を強めた。
「みんな、下がって!」リリシアが叫ぶと同時に、アリセアの右手が激しい熱を帯びた。霊契の印が反応し、彼女の体内で何かが目覚めようとしている。
『来たれ……真実がここにある……』
再び聞こえる異界の囁き。アリセアは頭を抱えながら、辛うじてその声を振り払おうとする。
「アリセア!」フローリアが駆け寄り、彼女の肩を支える。「しっかりして!」
「私は大丈夫……でも、この場所……私たちを試している……」アリセアは震える声で言った。
その瞬間、遺跡の奥からゆっくりと歩み寄る影が現れた。それは黒いマントを翻し、冷ややかな笑みを浮かべたアルカディアだった。
「見つけたぞ、お前たち。」彼女の声は空間に響き渡るようだった。「ここに辿り着いた以上、お前たちも気づいたはずだ。咎は罪ではなく、力そのものだと。」
彼女の言葉に全員が言葉を失う中、アストリスが一歩前に出た。「何を企んでいる。」
アルカディアは肩をすくめ、「答えは簡単だ。この歪みの中心には、咎を浄化するための鍵が眠っている。そして、それを使うのは私だ。」
全員が身構える中、アルカディアは一瞬で背を向け、静かに去っていった。その背中には、計り知れない目的を秘めた確信が宿っているようだった。
「行こう。」アリセアが微かに震える声で言った。「彼女を止めなければ、全てが終わってしまう。」
仲間たちは頷き、再び遺跡の奥へと進む。その先に待つものが何であれ、彼らは共に立ち向かう覚悟を固めていた。