乾いた風が、崩れかけた石畳を撫でる。遺跡の奥での探索を終え、セラヌスたちは出口へと向かっていた。
陽の光が遠くに見え始めると、セラヌスは槍を肩に担ぎながら、ふと足を止めた。ここを出れば、次はどこへ向かうのか。そんな考えが、頭の片隅をよぎる。
背後で、アリセアとリリシアが歩を進める音が聞こえた。
「セラヌス?」
リリシアが、いつもの穏やかな声で呼びかける。
セラヌスは短く息を吐き、足元の瓦礫を無造作に蹴った。
「……なあ、リリシア。お前は、魔女の未来ってもんを考えたことがあるか?」
「魔女の未来?」
リリシアが眉を寄せる。
「お前らは“咎霊器が生まれた理由”なんて高尚なことを考えてるがな、俺たち魔女にとっては、そんなもん、ただの“運命の残骸”みてえなもんなんだよ」
アリセアが目を見開く。
「……どういう意味?」
セラヌスは、ぼんやりと遺跡の天井を仰ぎながら言葉を紡いだ。
「俺がいた“セプタ・アエテルナの魔導兵器実験”――そこで何が起こったのか、話してやるよ」
アリセアとリリシアが無言で耳を傾ける。
遺跡の中、静寂が広がる。
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「魔女には、生きる道なんざねぇんだよ」
セラヌスは、かつての自分を思い出す。
セプタ・アエテルナ第七研究区――そこでは、魔女が「技術の道具」として扱われていた。
都市国家は咎霊器の力を制御し、より強力な兵器を生み出そうとしていた。だが、制御には膨大な魔力が必要だった。そして、その供給源として選ばれたのが「魔女」だった。
セラヌスもまた、その実験に参加していた。
仲間たちは、次々と異形化していった。
魔力の供給を強制され、肉体を蝕まれ、次第に人ではなくなっていく。
「大丈夫だ、これはただの一時的な異常だ」
「実験が終われば、治療できる」
そんな言葉を信じた者たちは、皆、変わり果てた姿で“処分”された。
技術派の科学者たちは、魔女をただの資源として見ていた。
「魔女が異形化するのは仕方のないことだ。だが、貴重なデータは残った」
冷たく言い放つ研究者たち。
――あの日、セラヌスは悟った。
技術派にとって、魔女はただの“燃料”だ。
だが、魔女が技術にすがらなければ、生きる道はない。
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「……でも、魔法派は違うんじゃない?」
リリシアが、少しの希望を込めて言った。
セラヌスは鼻で笑った。
「どっちも地獄なんだよ、リリシア」
魔法派――彼らは、魔女を“神の代行者”として祭り上げた。
だが、それは自由ではなく、支配だった。
魔女は「神託を受ける者」とされ、意思を持たぬ偶像となることを強いられた。
都市国家「セレスティア」では、魔女は都市を守るために生涯を捧げるべき存在として管理されている。
「技術派にとっては道具、魔法派にとっては偶像……どっちにしても、魔女はただの“駒”ってわけだ」
アリセアが静かに口を開く。
「……だから、あなたはどちらにも属さないの?」
セラヌスは、わずかに目を細めた。
「俺はただ……俺自身でいたいだけだ」
槍を握る手に、わずかな力がこもる。
かつて、仲間たちは皆、都市国家の“支配”に抗えず、道具として使い捨てられた。
セラヌスは誓った。
自分は、誰の支配も受けない。どんな犠牲を払おうとも。
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「……でも、それなら」
リリシアが優しく問いかける。
「あなたは、どうしてアリセアと一緒にいるの?」
セラヌスは、答えに詰まった。
なぜ、自分はこの旅に同行しているのか。
咎霊器を巡る争いには関わりたくないはずなのに、どうしてまだここにいるのか。
しばしの沈黙の後、彼は口を開いた。
「……さあな。ただ、お前らを見てると、昔の仲間を思い出すだけだ」
それは、半分本音で、半分誤魔化しだった。
リリシアは微笑んだ。
「きっと、それだけじゃないわ」
セラヌスは、それ以上何も言わなかった。
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やがて、遺跡の出口が見えてきた。
外の世界は、もう夕暮れに染まっている。
セラヌスは、最後にもう一度振り返った。
ここで死んでいった仲間たちが、彼を呼んでいる気がした。
「……魔女に未来なんてねぇよ」
小さく呟いたその言葉は、誰にも聞こえなかった。
しかし、その背中は、どこか孤独な影を帯びていた。